セレディの意識はマトリックスの深層を彷徨っていた。
もちろん自発的にだ。
セレディのペルソナであるメタリックなドラゴンは現在大詰めを迎えている盟友エリオハンの蘇生プロジェクトの調整作業に追われているのだ。
「理論上はこれで問題はないはず、か」
システムメッセージのポップアップ:ヴァストグリーン様が面会依頼をされいます。
リジェクト。
「ボストン大学のザビアー博士からの閲覧要請か。これは必要ないはずだけど。まあ、機密レベルとして問題ないか。」
システムメッセージ:一層目のセキュリティか突破されましまた。対応指示をしますか?
リジェクト。
「ザビアー博士はダウンロードプログラムにも大分手を入れてるな。野心的なのは結構だが。」
システムメッセージ:侵入者か巣穴へと侵入しました。対応しますか?
リジェクト。
驚異的な集中力でブロジェクトの対応を進めるセレディ。
今の彼にとってセキュリティ対応はノイズに過ぎない。
「なんだこのジャンクコードは。確認をしないと」
コードを確認しようとした瞬間突然現実に意識が引き戻される。
ダンプショップにより頭がくらつく。
そこは古代ローマの円形劇場を模した部屋だ。
所狭しと電子機器が並びその中央には磨き上げた黒曜石のような暗銀色の鱗を持ったドラゴンがトロードに繋がれている。いや、繋がれていた。
一体何か起きたのかと混乱していると頭の中に声が響く。
「久しいな、ウインドマスター。」
そこでセレディは自身の巣穴である開発室の中にいる緑の巨体、ヴァストグリーンの存在に気がつく。
「ヴァストグリーン? 一体どうしてここに? そもそもどうやって?」
混乱するセレディ。
ここは彼の本拠地の深央だ。安々と侵入を許すような場所ではない。
「お主の眷属に取次を頼んだが断られたのでな、無理矢理入らせてもらった。」
ARに表示されているセキュリティレポートを目にしヴァストグリーンの行動を完全に見落としていた事に気が付き少し困った顔をするセレディ。
「あー。集中して作業をしていたから、すまない。」
「構わんよ。なかなか良い経験をした。」
そこでヴァストグリーンがここに居る意味を理解し、部下のバイタルを確認する。
死者はいないらしい。
「手加減をしてくれたようだね。ありがたい。」
穏やかな笑みを浮かべるヴァストグリーン。
そこにドラゴンの支配を声高に叫んでいた暴竜の雰囲気はない。
「そう言えば、ここにはどんな要件で来たんだい?」
「うむ。DIVEと言う連中は知っていると思うが、そいつらの情報が欲しい。」
唖然とするセレディ。
「それって通信でも良いよね。押し入るほどの話?」
「メールとやらは送ったぞ。返信が無いと言う話をドールメイカーにしたら訪問す
るのが速いだろうと言われてな」
ドールメイカーの悪意を感じるセレディ。
「なら、仕方ないね。メール済まなかったね。とりあえず資料は揃えるけど何でまたDIVEを?」
「最近ファースカラーの残滓と出会ってな。そいつらが竜を狩るものの召喚準備を進めていると聞いた。」
大きく頷くセレディ。
「じゃあ、その召喚に間に合うように時間がないと。」
得たりとヴァストグリーン。
「うむ。眷属を増やされる前に一騎打ちで蹴りを付けたいと考えておる。」
首を傾げるセレディ。
「召喚を防ぐのではなく?」
「ああ、前回の大災厄には現れなかったのでな。一度戦いのだ。」
セレディは疲れた笑みを浮かべ告げる。
「とりあえず、彼らの拠点と中核人物をまとめましたので見てください。くれぐれもあれに囚われない様に注意してください。汚染されたあなたと戦うとか悪夢ですので。」
ヴァストグリーンはからりと笑う。
「相変わらずウインドマスターは心配性よな。まあ、楽しみに待っているが良いわ。」
「はあ。まあ、お気をつけて。仮にもあれら竜を狩ると名付けられた存在です。ご油断なさらぬように。」
その言葉にヴァストグリーンは大きく笑いセレディに背を向けた。
「うむ。では、またな。」
立ち去る背中を見た上でセレディは慌ててヴァストグリーンを要警戒来訪者に登録した。
今後同じようなトラブルが起きないように。
セレディはこの突然の訪問により謎のジャンクコードの確認を忘れることになる。
それはまた違う物語の欠片となるだろう。
ヴァストグリーンは意気揚々とドラゴンの宿敵たる竜を狩るものを求めて旅にでるのであった。
エリオハン
世界で唯一データジャックをインストールされたドラゴン。
クラッシュ2.0に巻き込まれ脳死し現在はeゴーストとなっている。
ザビアー博士
アンネ・ザビアー博士。ボストン大学でこのプロジェクトに従事している研究者。
偽名でより有名なハンドルはパックス。
DIVE
ドラゴンの情報をマトリックス上で交換しているドラゴンオタクの組織。
中にはアンチドラゴンセクトもあると言われている。
ドールメイカー
グレートドラゴン、ゴーストウォーカーのこと。
デンバーを支配しているグレートドラゴンでダンケルザーンの生まれ変わりとも兄弟ともいわれている。
ファースカラー
故人である元UCAS大統領のグレートドラゴン、ダンケルザーンのこと。
ファースカラーの残滓
死んだダンケルザーンのアストラル体由来の自由精霊レテのこと。
現在はマナスパイクを粉砕したりと地球のメタプレーンの境界線を守護している(はず)。