ネーナ・トリニティに憑依したけど死にゲーでは? 作:砂岩改(やや復活)
「ネーナ、話してくれないか」
ラグランジュ5に向かう道中、刹那は早速本題を持ちかけてきた。オーライザーには沙慈も同行しており、二人はアインのコックピットでジュースを飲んでいたネーナの返事を待つ。
「どれから聞きたい?」
「アニュー・リターナーは何かに支配されていた。それを知っていたな、対策までして」
「そうね。当然の疑問よね」
ここまで巻き込んでいるのだ、どうせ死ぬかもしれないし話しても良いかもしれない。
「私はね。未来が見えるのよ」
「え?」
「…」
突拍子もない言葉に思わず言葉を漏らす沙慈だが刹那はただ沈黙を貫く。
「正確には限りなく実現する可能性の高い未来と言うべきかしら。だから私はメメントモリもブレイクピラーも起きうることは知っていた。けどそれを変えるのは私一人の力では無理、私は神じゃない」
自分でも何を話しているのかと思えてくるが話は止まらない。
「でもその未来だと私は刹那と仲間じゃなかったし、アニューも死んでた。歯車は狂い始めた」
「ネーナ自身はどうなんだ?」
「私はラグランジュ5で死ぬわ。親の仇としてルイス・ハレヴィに殺される」
「「っ!?」」
ここまで必死に生き残るために立ち回ってきた。その為の準備は惜しまなかった。だけどネーナとして6年近く生きていると違う考えが頭にチラつく。
ルイスや沙慈にとってネーナ・トリニティが仇であるのは変わらない、二人が前に進む為にも自分は死ぬべきなのではないかと思ってしまう。
「まぁ、それも…」
「駄目だ」
そんな思いがつい口から漏れそうになった時、刹那の言葉に遮られる。
「ネーナ、生きろ。お前も世界に必要な人間だ」
「……」
意識せず、涙が瞳から静かに溢れる。自分でもなぜ泣いているのか分からなかった。
自縄自縛の人生を歩んできたネーナにとって誰かに感謝されることや、存在を肯定してくれたのは兄たちを失って初めてだった気がする。
「私たちは戦ってこの先に無様に死ぬ為に生きてきた。そして私は死ぬことさえできなかった不良品。そんな私に生きろと?」
「そうだ。人間として生きろ」
刹那の真っ直ぐな言葉に我慢できなくなったネーナは通信を切る。
「刹那」
「沙慈・クロスロード」
「僕はまだ許せない。ルイスの事、彼女があんなことをしなければルイスはこんな戦場に出ていかなかった」
沙慈も言葉に出来ない感情が胸中を動き回り、言葉を失う。
「でも1つだけ言える。ルイスは彼女を殺しちゃいけない。銃やモビルスーツで解決しちゃいけないんだ」
「そうだな」
ーー
「ネーナ・トリニティが散布していた索敵システムが敵艦隊を捉えました」
その頃、プトレマイオスⅡではどんな状況でも対応できるようにそこら中に撒いていた索敵システムを介してアロウズ艦隊を捕捉していた。
「これは敵艦隊から大型モビルアーマーを含む2機のモビルスーツがラグランジュ5に向けて進行するのを確認しました」
「モビルアーマーもいるとなると刹那たちが不利ね。でも動ける機体が」
ネーナがツヴァイを持ってきた時に使ったリィアンならまだ間に合うかもしれない。だがセラヴィーもアリオスもケルディムも先の戦闘で大きく損傷している。
刹那たちを信じるしかないのかとスメラギが逡巡していた時、彼女の元に通信が入るのだった。
ーー
「なんで私じゃなくてあの小娘なのよ!」
もう一人のネーナ・トリニティはアロウズの艦隊でリヴァイブ達と共に留守番を言われお菓子を食べながら文句を垂れていた。
「私が直々に殺してあげるのに出来損ないの私を!」
「ハレヴィ准尉にお前の機体を見せるわけにはいかないだろう」
「だからアニューを持ってかれた戦いも留守番だったわけ!?」
ルイスの狂人的なメンタリティーはネーナに対する復讐心から来るものだ。リボンズの洗脳と投薬によりそれは一層増幅されとても制御できるものではない。
本当ならネーナ自身、ルイスと会わせるべきではなかったが彼女の身勝手により接触してしまった。
結果的に大丈夫ではあったが流石に機体は晒せない、下手すればアロウズ艦隊の中でレグナントが大暴れする可能性だってあるのだ。
(興味本位とはいえ流石にやりすぎですよ。リボンズ…)
流石にリヴァイブもリボンズの浅慮さには愚痴を漏らしたくなるが、別に彼はそんなことをどうでも良いと思っているだけかもしれない。
ネーナが殺されようがルイスが殺されようが、アロウズ艦隊に甚大な被害が及ぼうが些事と言う事なのだろう。
「気を回すこちらの身になって欲しいものですね」
ため息をついたリヴァイブは、リボンズからネーナを帰投させろと言う通信を受けるのだった。
ーー
ラグランジュ5、建設中のコロニーエクリプス。その一角に小型挺を乗っ取られた王留美と紅龍は助けが来るのをそこで待っていた。
「大方、リボンズの手の者でしょうけど。ここまで誘い込んで何をしようと」
「お嬢様」
「ネーナ・トリニティ。いったいどこにいたの!」
苛立ちを抑えられない留美は部屋に現れたネーナを怒鳴るが、彼女はどこ吹く風とも言わんばかりに聞き流す。
「まぁまぁ、頼もしい援軍を連れてきたんですよ」
グラハムがここに来るのは予想できる、だからこそ刹那には外で待機してもらっているのだ。
部屋の外から見えるダブルオーの姿を見て留美は安堵するがネーナを睨み付けながら話を続ける。
「貴方がもっとしっかりしていればこのようなことにはならなかったのよ。まぁいいわ、早く彼を連れてきて。私はヴェーダの位置を知らせなきゃならないの」
「そんな紙切れがですか?」
「なにするのよ!」
ネーナは留美に近づきヴェーダの位置を記した紙を見る。本当ならイノベイターに潜入したときに手に入れたかったが、サーシェスに邪魔されてこれだけは手に入れられなかった。やっと目的の物が手に入った。
「ところでお嬢様。こんなことはご存じですか?」
「?」
「アンタが裏切り者だって皆、知ってるのよ!」
留美に銃口を向けた瞬間、警戒していた紅龍が射線に入ってくる。
「紅龍!…なぜ裏切ったの!」
「元々裏切ってたのはお嬢様でしょ?ソレスタルビーイングとイノベイターの両方を相手取って世界を手にした気でいた?」
正直な話、彼女が何を目的に動き回っていたのか分からない。5年間、彼女と共にしたがそれが解決されることはなかった。
「留美…」
「お兄様!」
言葉を紡ぎながらも引き金を引く指は止めない。紅龍は留美を逃がそうとドアの近くまで行くが開かない。当然だ、扉はこちらの操作で全部ロックしてある。
「私が生き残るため…そして私欲で刹那たちを裏切ったこと…」
紅龍の頭を撃ち抜き絶命させると、嫌がる留美から引き離しヘルメットに銃口を突きつける。
殺したい程、憎んでいる訳じゃない。正直、こんなことをしている自分に対して反吐が出そうな気分だ。
刹那たちといた時と温度差が激しくて風邪をひきそうなぐらい。
「まって…」
「謝らない、後悔しない……これが私の選択」
留美のメットが真っ赤に染まり、生体反応が消えたのを確認すると大きくため息をつく。
「ネーナ」
「なに?」
「無理をするな」
「…うるさい」
刹那の言葉に目をそらすと黙る。
「後はサーシェスのみ」
だがその前に乗り越えなきゃならん試練がある。
ネーナがアインのコックピットに乗り込んだ時には既にグラハムのスサノオが現れ決闘を申し込んでいるところであった。
「もはや愛を超え、憎しみを超越し、宿命となった!」
オープン回線から聞こえる声に少し感動しながらも大きく息を吸って呼吸を整える。
ここまで手を尽くしてきた、ルイスに殺されるのも悪くないと心のどこかでは思っている。
(だけど…)
「私は生きたい!」
生への渇望、今、自分は心の底から生きたいと願っている。
「っ!?」
コックピットに鳴り響く警告音、アニュー戦で曲がるビームは見ている。狂ったように放たれるビームを避けながらコロニーの影を使い逃げる。
「お前だったのか!パパとママを殺した奴!」
「ちゃんと教えて貰ったのね!」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すぅ!」
流石に小回りが利かないと分かったのかレグナントは変形してこちらに襲いかかる。
「装甲分厚すぎでしょ!」
「ネーナ!」
「貴方はそっちに集中してなさい!」
グラハムはかなりの凄腕だ。こちらを構ってなんていられない。今自分に出来るのは時間稼ぎだけだ。レグナントのフィールドはセラヴィーのハイパーバーストでも突破は無理だった。前回はセラヴィーとアインの2機で突破したが、それは今回は不可能だ。
「このぉ!」
二門のGNランチャーとGNブラスターの攻撃がレグナントに直撃するがフィールドに防がれ、構わず迫ってくる。
本来ならドライのステルスフィールドで撹乱し奇襲攻撃で敵を損傷させ撤退に追い込むか、逃げ続けるかの選択肢が取れたのにドライが盗まれておじゃんだ。
「やっぱりトランザムを使わないと…っ!?」
「ハレヴィ准尉!」
すると遅れてやってきたアンドレイのアヘッドがコロニーの影から現れサーベルで斬りかかってくる。
後半のアンドレイの存在感薄すぎてここにも来てたの完全に忘れてた。
「しまっ、忘れてた!」
咄嗟にフィールドで防ぐが足を止められた、アンドレイを蹴り飛ばすと後ろからレグナントに殴り飛ばされる。
「ぐうぅ!」
飛ばされながらフィールドを展開しビームを防ぐが完全に戦況を持っていかれた。アインの推力を全開にして曲がるビームを避けるがアンドレイの体当たりをまともに食らってしまいコロニーの外壁に激突してしまう。
「う…うぅ……がは!」
激しい衝撃にやられ、一瞬呼吸を忘れるがすぐに立て直して体勢を整える。
「ファング!」
「それはヤバい!」
先程の衝撃で視界が安定してないと言うのにファングがキツすぎる。
「し、死ぬ!」
迫るファングを感知し死を覚悟する。