2回の表、青道高校は四番の選手のツーベースヒットでチャンスを作る。続くバッターがきっちりと送り、1アウトランナー3塁のチャンスで六番ピッチャーの片岡監督に回ってくる。
『青道高校、このチャンスの場面で六番ピッチャーの片岡に打順が回ってきました。試合を優位に進める為にもここは何とか1点欲しい場面ですね。』
『打席の片岡君は、ピッチャーであるため打順は六番に座っていますがバッティングの方もクリーンアップに負けないくらいいいですからね。ここは安易に攻めると怖い場面ですよ。ただ、横浜翔西のエース左腕の川崎君も技巧派らしく今大会を通じてピンチの場面でも丁寧に低めをつくピッチングでなかなか打つのは難しいと思います。』
犠牲フライでも1点の場面しかもバッターはエースの片岡鉄心、この試合、初めてのチャンスということもあり青道側のアルプススタンドの応援もより大きく盛り上がっている。
対する横浜翔西の守りはまだ序盤ということもあり極端な前進守備は敷かず、最悪1点を与えても後続の打者を丁寧に打ち取ろうという考えがみて取れる。
その初球、この大会通じて丁寧に低めをついてコントロールよく投げていた横浜翔西のエース左腕がこの試合初めてのコントロールミス。甘く入ったスライダーをバッター片岡は見逃さなかった。
『このピンチの場面で横浜翔西エース川崎、相手エース片岡へ第1球投げました。』
ガッキィーン
完璧に捕らえた当たりはレフトスタンド中段へ飛び込むツーランホームランとなった。
『打った瞬間、打った瞬間ホームランと分かる凄まじい打球がレフトスタンド中段に飛び込みました!!』
『いやー凄い当たりでしたね。初球の甘く入ったスライダーを完璧に捕らえる素晴らしいスイングでした。ピッチング同様凄まじい集中力でしたね。』
初回の三者三振に動揺したのか甘くなった初球を打たれてしまった横浜翔西のエース川崎。
しかし、さすがベスト4に残る高校のエース後続はしっかりと打ち取りこの回を2失点で凌いだ。
「お父さん、相手のピッチャーの人凄いホームランだったね!」
「そうだな。打たれた瞬間マジかと思ったからな。エースの川崎を別に擁護するわけじゃないんだけど、この夏お父さんのいた高校は、初回に点を取れなかったことがなかったんだよ。まして諸星も含めて三者三振なんて練習試合でもなかったからな。そのあたりで今日の試合は何か違うって川崎自身思っちゃたんだろうな。改めて見直すと、ランナーが3塁に進んだ場面で声掛けてやればよかったって思うよ。」
「ふーんそうなんだ。ピッチャーって難しいね。」
「お父さんはバッターしかしてこなかったから深くはわからないけどピッチャーは大変で難しいんだ。」
そんな話をお父さんから聞きながら思った。
当時を知るお父さんの解説を聞きながらこの試合を観ている僕はこの世界の高校野球ファンからしたら凄く羨ましい存在だなと。
試合は2回裏、横浜翔西の攻撃ここで打席に入るのは僕のお父さん橘英樹。お父さんが打席に入るとスタンドから割れんばかりの歓声と女性の黄色い声援が聞こえてくる。
『さぁ2回裏、横浜翔西の攻撃。ここで横浜翔西の絶対的四番サード橘が打席に入ります。この歓声をお聞き下さい。甘いマスクと端正なルックスさらに横浜翔西の四番としての実力、甲子園のアイドル橘英樹に凄まじい声援が送られています。エース片岡、このバッターに対してどんなピッチングを見せるのか!』
『初回を三者三振で抑えた片岡君ですが、このバッターの橘君は横浜翔西の打線の中でも最も警戒が必要ですからね。この甘いマスク騙されてはいけません。目にも止まらぬスイングスピードそしてパワー高校ナンバー1バッターと言っても過言じゃないでしょう。この第一打席非常に注目です。』
っ!?なんだこの声援お父さん試合の前に俺は大したことない的なこと言ってたけど解説の人べた褒めじゃん!
それに何《甲子園のアイドル》って!?
確かにそんじょそこらの芸能人よりイケメンだけど。
僕、そんな人の息子になってたのかよ。
野球やり初めたら野球とはまた別のプレッシャーがあるんじゃないのか...。
とりあえず気を取り直して試合に集中しよう。
お父さんが、打席に立つとピッチャーの片岡監督のギアが一段上がった気がした。
その初球、初回よりもスピード・球威の上がったストレートがアウトローへと突き刺さる。
『青道のエース片岡、サインが決まり第1球を投げた。凄まじいストレートがアウトローいっぱいに決まりストライク!そして、球速はなんと152km/h!!自己最速をここでマークしました!』
『解説の古田さんこの初球の入りどう見ますか?』
『そうですね。ストレートのスピード、球威そしてコースともに今大会で一番じゃないでしょうか?この橘君を迎えてギアが一段上がりましたね。』
解説の人が言うように初回よりも投球のレベルが上がった。
続く第2球はインハイへのストレート。
こちらも152km/hを計測したがわずかに外れてボール。
第3球目は初球と同じアウトローへストレート。
これに反応したお父さんは、逆方向ライトへ強烈な打球を放つがわずかにそれてファール。
スタンドはどよめいたが、青道バッテリーはこれで追い込んで1ボール2ストライク。
ここで第4球目、青道バッテリーは勝負球としてインローへのカーブを選択。
初回、三番の諸星が手が出なかった球だ。
独特の軌道のカーブは初見では打てないと判断した。
『1ボール2ストライクと追い込んだ青道バッテリー。勝負球に何を選択するのか。サインが決まり第4球投げました!』
投げた瞬間、諸星の時以上の切れが出たカーブ。
右バッターの死角から急に現れ大抵のバッターは避けてしまうほど切れのいいカーブ。
仮にスイングをかけたとしても普通なら打てないそんなレベルのカーブだった。
お父さんがスイングをかけた瞬間、青道バッテリーは勝ちを確信した。
だがその予想は裏切られた。
キィーーーン
どんな凄い高校生のバッターでも、すでに手元にあるはずのボール。
ミットにあると思ったボールがなかった。
キャッチャーは信じられなかった。
目に見えないほどのスイングで放たれた打球は音が遅れて聞こえてきたかのようなそんな打球。
気がつけばレフトの選手のグラブの中に納まっていたのだ。
『凄まじいライナー性の打球がレフトを襲いましたがレフト正面でした!橘が倒れて1アウト。』
『あのカーブをあそこまで捕らえるとは、流石、橘君ですね。ただ運悪くレフトの正面でしたね。ですが、正面とはいえあの打球の速度を考えるとレフトもナイスキャッチでした。青道バッテリーとしては助かったでしょう。』
相手の四番を、打ち取る為に最高のボールを投げたにも関わらず打ち返されてしまった。
結果はアウトではあったが、キャッチャー以上にピッチャーは動揺していた。
続く五番の野田が打席に入る。
この野田も諸星や橘と比較しても遜色ないバッターだ。
ただ、青道バッテリーは、その前の橘の打席を引きずったままプレーに入ってしまい甘く入ったストレートを捕らえれてしまった。
『まだ怖いバッターは続きます。五番ショート野田が打席に入ります。青道バッテリーサインが決まり第1球投げた。』
カキィーーン
『横浜翔西五番の野田1球で仕留めました!打った打球はセンターバックスクリーンに飛び込むソロホームン!!これで1対2。』
『野田の素晴らしいバッティングでしたね。』
『そうですね。点を取られたあとの攻撃でしたからねすぐに1点返せたのは大きいですよ。ただ、ここまでの投球を見ている感じからすると野田君への初球の入りが甘かったと思います。それがこのホームランにつながってしまいましたね。』
ホームランで1点返され目が覚めたのか後続はしっかりと抑えた青道高校。
3回は、お互い三者凡退に終わり青道高校が1点リードしたまま試合が進む。
そして、4回お互いクリーンアップから始まるこの回にまた試合が動くことになるのだった。