翌日、学校では集会が開かれた。
ほとんどの人が驚いた様子で、中には涙を流す生徒の姿もあった。
颯「...」
僕はその時もボーっと、時間が過ぎるのを待っているようだった。
他人事のように。
集会が終わり、教室に戻ろうとすると、誰かが僕の元へと歩いてきた。
梓「颯汰さん」
颯「...?」
梓「大丈夫...ですか...?」
颯「梓ちゃん...ありがとうね...大丈夫だよ」
梓ちゃんだった。
梓ちゃんは昨日の夜に、律から紬のことを電話で聞いたらしい。
あまり軽音部に顔出していなかった僕でも、梓ちゃんは紬と同い年かと思うくらい仲良くて、お互いに信頼している印象が強かった。
辛いはずなのに、自分自身以上に心配して声をかけてくれるなんて、本当に優しい子だなぁ。
そう感じていた―――――
〜〜〜〜〜〜〜〜〜
律「ここか...」
あれから何時間か過ぎ、時刻は午後6時を回っていた。
僕の母親の運転で会館に到着した。
車を降りると、皆は重い足取りで歩く。
梓「...」
自動ドアの前まで来た時、僕の少し右後方を歩いている梓が突然すすり泣き始めた。
梓「...帰りたい」
律「どうしたの...」
梓「ムギ先輩に会いたくない」
颯「...」
梓は自分の頬に伝う涙を拭うと、話を続けた。
梓「私、連絡取れなくなる少し前に、ムギ先輩と遊びに行ったんです」
澪「...えっ」
梓「すると、学校にいる時のムギ先輩とは全然違いました」
梓「...」
梓「...正直、学校の日に見せるムギ先輩の笑顔、好きじゃなかった」
梓「勝手な妄想だけど...何だか、自分を偽っているようで...」
颯「...」
梓「だから、ムギ先輩の本性が知りたくて。遊びに誘ってみようと思っていたら、先にムギ先輩に誘われた」
梓「二人きりの時のムギ先輩は、とてもはしゃいでて、ワガママな一面もあった」
澪「...」
梓「その時の笑顔が忘れられなくて...
忘れたくなくて...」
梓「素敵な笑顔のまま、ムギ先輩を心に留めておきたいです...」
律「...うん」
唯「私も...」
4人は梓の言葉に共感していた。
どうやら紬は、一人ひとりに「一緒に遊ぼう」と、遊ぶ約束をしたらしい。
以前、唯は「ムギちゃんに、二人で遊ぼうって誘われた!」と僕に言ってきた。
その時に、熊のぬいぐるみを貰ったんだとか。
軽音部のメンバー5人で遊びに行くのではなく、一人ずつ、二人きりで遊びに行ったのには、紬なりの理由があったんだろうなぁ。
その理由が、ひとつだけ思い浮かんだ。
いや、これ以外思い浮かばなかった。
その内容は、さっき梓が言ってた「紬を誘った理由」と同じだろう...
ただ、紬の場合は...
最後になることを覚悟して―――。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
時刻は午後8時、式はもうすぐ終わろうとしていた。
梓ちゃんは、紬と会うのはやめておくと言っていたが、僕はもちろん会うつもりだ。
会ったほうがいい気がするが、無理するなら会わないほうがいい。
紬もいい気分はしないから。
颯「...」
颯 (...梓ちゃんがそんなこと言うから、俺まで心配になってきたじゃないか)
そんなことを考えていると、その時はやって来た。
紬のもとへ―――
颯 「...」
颯 (...昨日ぶりだね)
何だろう。
僕に見せていた時とは違う、優しい顔つきだった。
それでいて、僕の事を忘れているような表情だった。
ちょっと寂しいけど...
最後に顔を見れて満足しているよ。
あと...不安だと思うけど...。
これから先のことなんて、心配しなくていいよ。
離れ離れなんて、永遠じゃないもん。
寂しくなったらいつでも、僕が会いにいくから。
颯 (...それじゃあね)
〜〜〜〜〜〜〜〜
健「――あ、そういえば颯汰にあのこと言ってなかったな」
颯「?」
健「期末テストの点数の勝負仕掛けたの、実は紬ちゃんだよ」
颯「...そうなの?」
健「颯汰の成績がヤバいってことを言ったら、紬ちゃんが提案してくれたんだ。『これなら勉強頑張ってくれるかな』ってね」
颯 (...そんなこと考えてくれてたんだ)
颯「...でも、そこにお金賭けるのを提案したのはオマエだろ?」
健「うん!ははははっ!」
颯「はははじゃねーよ...」
颯「...つーか紬のヤツも、くだらねェこと思いつくんだな」スタスタ
健「ん...?」
悠「どこ行くの...?」
そう言うと颯汰は、紬ちゃんの元へ向かった。
それっきりで、なかなかこっちに戻ってこない。
悠「何やってんだろうな...見守るか」
健 (...ん...?)
颯汰は、紬ちゃんの真横で、床に膝をつけて立ち、机に突っ伏すようにして紬ちゃんの顔をしばらく見つめていた。
悠「...」
健「...」
健 (なんか...話しかけてるみたい...)
2分ほど経つと、颯汰は戻ってきた。
健「...何しに行ったの?」
颯「...『おしゃべりしたい〜』ってさ」
悠「...」
颯「...おーい何泣いてんだよー悠ー」
悠「泣いてないから!こんなの、泣いてるうちに入らない」
颯「はぁ〜?」
悠「ただ...」
悠「...お似合いだなーって」
颯「何だよそれ!」
悠にそんなこと言われ、少しドキッとしてしまった。
健「...紬ちゃんも喜んでるかなぁ」