〜〜〜〜〜〜〜〜〜
皆、元気してるかな...
あれから3年生に進級、そして高校を卒業した。
それから更に2年が経ち、会社に就職した僕は地元を離れた。
そして、新しい環境に慣れてきたところだった。
"就職"
そのような言葉を聞くたび、僕は"大人"というものを連想し、社会に出ていかなきゃいけない、ということに恐怖を感じていた。
何とか就職できたのは良いが、周りにいる方は皆、先輩ばかり。
そんな環境で上手くやっていけるのか。それに、失礼のないようにしないと...
そう悩んでいる時だった。
頼りない僕のことを、会社の先輩方は飲み会に誘ってくださるようになった。
分からないことも、1から丁寧に教えてくださる。
仕事が楽しいと感じる時があるなんて想像してなかった。
『よ〜し、頑張るぞ〜』
そう意気込み、僕は心を入れ替えたんだ。
颯「―――え、それ本気で言ってます!?」
「颯汰君のはイマイチだったから、次までに考えておいてよ〜」
颯「...結構良い反応だったんだけどな〜」
「じゃあまた明日!」
颯「はい!失礼します!」
そして今日も、会社の人達と飲みに行っていた。
僕は最近20歳になり、少しずつだけどお酒を飲むようになった。
颯 (...あ、高校の時の友達と飲みに行きたいなぁ)
―――数十分前―――
「〜〜颯汰さんは、彼女とかいるの??」
颯「...えっ?」
「この前まで高校生だったんですよこの子!羨ましいですよね〜」
「みんな通る道だよ。どちらかというと君もそっち側じゃないか!」
「...そんな風に見えていたら嬉しいですけど。
...そんなことより、颯汰さん!高校時代に好きな子くらいは いたでしょ!」
颯 (高校時代...
そうか、もう過去の話なのか...)
颯「まあ一応...います」
「いるよねやっぱり!」
「颯汰さんイケメンだからね〜。俺もそう思う」
―――――――――――
年の近い先輩にそんなことを聞かれた僕は、ふと高校時代を思い出した。
今度誘ってみよう。
皆は時間、いつ空いてるのかなぁ。
〜〜〜〜〜〜〜
颯 (やっとたたみ終わった...)
別の日の夕方。
僕は、乾いた洗濯物をたたみ終えると台所に立った。
颯 (さあ、何作ろうかな)
実は、料理も始めた。
親元を離れて過ごしていくなら料理はできたほうがいいと思い、それに新しい事に挑戦したくて、思いついたのが料理だった。
はじめは、何をすればいいか全然分からなくて、なんとなくで作っていたが、やっているうちに楽しいと感じ、いろいろ覚えてきた。
冷蔵庫から、買ってきた材料を取り出す。
颯 (...ん?)
ふと、冷蔵庫の横のカレンダーを見た。
すると、3週間後に連休があることに気がついた。
颯 (...チャンスはこの連休しかないな、後で誘ってみよう)
〜〜〜〜
颯 (あ〜、ゆっくりできる〜)
皿洗いを終えると、ソファーで横になった。
一人分ではあるが、さっきから家事が続き、だんだん疲れてくる。
給料が発生してもいいくらいだと思う。
こんなにも面倒な家事を、毎日してくれた親には感謝している。
ある事を思い出した僕は、ソファーで横になったまま、テーブルの上のスマホを手に取った。
颯 (よし、お次は唯ちゃん...出てくれるかな)
プルルル...ガチャ
唯 "...もしもし?"
颯「もしもし、覚えてる?颯汰だよ」
唯 "あ〜〜!!颯汰く〜ん!!久しぶりだね〜!"
颯「急に電話してごめんね」
唯 "ううん、私も久しぶりに話したかったしー!"
唯 "...あ、そうだ!私の家に行かないー?"
颯 (あら!!唯ちゃんの方から誘ってくれるとは!)
颯 (...てか『行かない?』ってどういう事だろう...?『来ない?』の間違いかな)
颯「唯は今どこに住んでるの?」
唯 "今は寮に住んでてね、実家に帰ってないんだ〜"
颯「なるほど」
唯 "今度連休があるでしょ〜?丁度その日に帰ろうと思っててね"
颯「そうなんだ、ちょうどよかった!」
颯「急に、高校の時の友達に会いたくなってさ。何人かに連絡したんだけど、皆忙しいみたいで。健も連絡ついたけど無理だった」
唯 "私も〜。澪ちゃんや律ちゃんと電話したけど、予定入ってるって〜"
唯 "...悠君もダメだった?"
颯「悠には、まだ電話してないよ」
唯 "じゃあ聞いてみて、大丈夫なら悠君も一緒に会お!人数多い方が楽しいもんね!"
颯「そうだな!」
唯 "じゃあ、また連絡するね"
颯「ああ!よろしく〜」
颯 (楽しみ...!)
〜〜〜〜〜〜
あれから3週間が経ち、連休の2日目に入った。
スマホを見ると、画面端に午後1時と表示されていた。
颯 (気持ちいい...)
今の季節は冬。
風は吹いているが、今は雲ひとつ無く、日の光で暖かく感じるほどだ。
颯 (なんか...緊張するな...)
僕は唯の実家に向かうべく、駅で電車が来るのを待っているところだ。
いくら仲良かった友達でも、久しぶりに会うとなると、緊張してしまう僕。
やっぱり皆、大人っぽくなってるのかな。
3週間前、唯との電話の後、僕は悠にも電話をかけた。
連絡は取れて、『一応遊べる』と言っていた。
だが昼間は用事があるらしく、夜からしか会えないらしい。
僕はそんな悠が、少し羨ましく感じた。
颯 (悠も忙しいんだね...)
スマホをいじりながら何かを感じた僕は、顔を上げると電車が来たことに気づいた。
颯 (はぁ〜〜...眠っ)
〜〜〜〜
「ドアが閉まります、ご注意ください」
ピンポーンピンポーン
「ん.....あっ!!!」ダダッ
プシュー
颯 (あっぶねぇー...)
電車でウトウトしていた僕。
危うく寝過ごすところだった。
颯「...あれ!?」
急いで駅に降りると、目の前に唯が立っていた。
唯「颯汰君もこの電車に乗ってたんだ!」
颯「うん!危なかった〜」
そう言い、二人は歩きだした。
いや〜、乗り過ごさなくてよかった〜。
目を覚ますのあと3秒遅ければ、変な感じで再会するところだったよ。
颯「あ、そういえばね。
悠は今日会えるみたいだけど、夜からしか会えないらしいよ」
唯「じゃあ、私と入れ替えになっちゃうんだ」
颯「どういうこと?」
唯「先約があってね、今日夕方から行かなきゃいけないところがあるの」
颯「なるほど!」
唯「ごめんね...」
颯「ううん!気にしなくていいよ」
すると、唯が何かを思い出したかのように立ち止まる。
唯「...あ、そういえば!
どこでもムギちゃん実家に置いきたんだった!」
颯「???」
唯「ムギちゃんからもらった熊のぬいぐるみだよ!」
颯「誕生日プレゼント?」
唯「うん!元気にしてるかなぁ」
〜〜〜〜
ガチャ
唯「...ただいま〜」
颯「おじゃましま〜す」
唯「颯汰君はこの家何度か来たことあるよね?」
颯「うん」
唯「あ~、懐かしい匂い〜」
ここに来るまで、周りの建物や景色が少し変わっていたが、唯の家は全く変わってなくて何だかホッとした。
2階へ行き、唯の部屋に入った。
颯 (『ゆいのへや』...そういえばこんなの掛けてたな)
唯「...おお!結構きれいなままだ!」
颯「お父さんお母さん、こまめに掃除してくれてるんだね」
唯「そうみたい!...あっ」
颯「...?」
唯「あった〜!!」
唯「これのことだよ!『どこでもムギちゃん』!」
唯「だけど、結構ホコリ被ってる...」
颯「それか〜、どこでもムギちゃんって」
颯 (紬要素はどこに...)
颯 (でも結構可愛いな、どこでもムギちゃん)
唯「へ...へ...へぇーっくし!」
颯「...あ〜あ〜、どこでもムギちゃん、くしゃみかけられて可哀想に...」
唯「大丈夫だよ〜。今きれいにするからね」
颯 (俺も欲しくなってきちゃった...紬はどこで買ったんだろう)
気になってずっと見つめていると、唯が口を開いた。
唯「...どうしたの?」
颯「いや、違うよ?別に欲しいわけじゃないよ!」
唯「...欲しいの...?」
颯「い、いらないよ!」
唯「だって、私まだ何も言ってないよ...」
颯 (欲しい!...けど、唯が紬から貰った大切な宝物だから。そんなこと言えない...)
唯「私、このぬいぐるみと会話してると落ち着くんだ〜」
颯「...」
唯「返事は返ってこないけど...」
唯「これを見ると、プレゼントしてくれた時のムギちゃんの笑顔を思い出すんだ〜」
颯「...」
唯「大事にしなきゃって思えるの」
唯「だから...こればかりは、あげられない...」
颯「...」
本当にいらないなら「だから!いらないって言ってるじゃん!」くらい言い返してもおかしくない。
だが僕は当然、そんなことを言えるはずもなく黙ってしまった。
唯「ごめんね...」
颯「...」
唯「...?」
颯「...そんな事言われたら、余計に欲しくなってきたじゃないか」
唯「...?」
颯「ちょっと今から探しに行くから、それに付き合ってくれないか!?」
唯「おお!」
颯「カフェでも寄ってさ!
夕方までには見つけられると思うから!!」
唯「うんうん!お買い物しよ〜!」
〜〜〜〜〜〜〜
40分後。
ショッピングモールに着き、車を駐車場に停めた。
車を降りた唯は、伸びをしていた。
唯「気づいたら寝ちゃってた」
唯は移動中、はじめは喋っていたが、どこかの信号待ちの時から喋らなくなり、気になって助手席を見るとスヤスヤ寝ていたのだ。
安心して寝られる運転ができて良かった。
唯「...颯汰君は、この人形の売ってる場所はここだって知ってたの?」
颯「いや、どこで買ったか分からないけど、紬がよく来てた店だし、ここで買ったのかなーって」
唯「そうなんだ!あるといいね」
店の中に入り、下りエスカレーターに乗ろうとしたときだった。
突然、唯は顔を真っ青にして焦りはじめた。
唯「...あ」
颯 「...?」
唯「ど、ど、どうしよう...」
颯「ど、ど、どうした?」
唯「...財布、寮に置いてきちゃった」
颯「え!!まじか...この後夕方から必要?」
唯「うん...」
颯「だよね...」
唯「...颯汰君ちょっと待ってて!取りに行ってくる!!」
そう言うと、唯は走り出そうとした。
当然僕は唯の腕を掴み、引き止めた。
颯「だめ!取りに帰ったら約束までに間に合わないよ!
それに、今免許証持ってないでしょ?」
唯「...」
颯「...とりあえず行こう?
俺がどうにかするから」
〜〜〜〜〜
エスカレーターで下の階に着いた。
颯「それじゃあ、どうやって電車乗ってきたの?もしかして...」
唯「ううん、定期券があるから...」
颯「そっか」
颯汰君はエスカレーター横のフロアガイドの前で立ち止まると、どこかを指さした。
でもその場所は、明らかにぬいぐるみは売ってないであろう店だった。
颯「ここに行こう」
唯「...?」
颯汰君の行きたいところが、いまいち分からなかった。
財布が無くて少し落ち着かないが、とにかく今は颯汰君についていく。
颯「唯が今使ってる財布ってどう?」
唯「財布?」
颯「もうすぐ買いかえようかなーって考えてたりする?」
唯「そうだね、今の財布は高校の時から使ってるから、そろそろ買いたいなって思ってるよ」
颯「じゃあちょうど良かった」
唯「えっ」
颯「この辺りで、良さそうなの探そう」
唯「え...ほんと...?いいの?」
颯「もちろん!」
唯「ありがとう〜。今度お返しするね」
颯「うん!」
〜〜〜〜〜
数十分後...
唯「これがいい!」
颯「お、それにするのか!可愛いね〜!」
唯「でしょ〜」
可愛い財布がたくさんあって、選ぶのに時間かかると思っていたが、意外と早く決まって良かった。
「ありがとうございました〜」
颯「ちょっと待ってて」
颯汰君はお会計を済ませると、今買った財布を取り出し、私に背を向けて何かをしている。
唯「...颯汰君?」
颯「......はい!これで完璧!!」
唯「...?」
颯「...さて、本題に戻るぞ〜」
よく分からないままその財布を受け取る。
そして、財布の中身を確認してみた。
唯「...!!!」
すると私は、ある異変に気づいた。
唯「颯汰君!さすがにこれは受け取れないよ!!」
なんと、財布には5万円が入っていた。
颯「俺としては、受け取ってほしいな」
唯「そんな...悪いよ!こんな大金貰うなんて」
颯「でも、この後の約束の場所は実家の周辺なんでしょ?」
唯「うん」
颯「じゃあ寮まで取りに帰ったら、余裕で間に合わないよ!」
颯「お金がないと不便でしょ?」
唯「...でも」
颯「...」
唯「颯汰君は大丈夫なの...?」
颯「...何が?」
唯「受けちゃうダメージの方は」
颯「う〜ん......意外と痛い」
唯「じゃあダメじゃん!」
颯「でもね...」
颯「手元からお金が離れちゃうこと自体は痛いけど」
颯「そのお金の向かった先が、唯の所だと思うと全然。大したことないよ」
颯「なんか、『大丈夫だろ』って思える」
唯「...本当に?」
颯「本当だよ。
...も〜!唯らしくないじゃん!あの頃の唯なら喜んでくれてたよ〜」
唯 (...あの頃の私も、同じ反応すると思う)
颯「んーじゃあ!次会ったとき奢ってよ何か!」
唯「...うん、そうするよ」
颯「頼んだよ!」
唯「こんなはずじゃなかったのに...ありがとう」
その後さらに、とあるコーヒーチェーン店に寄り、ドリンクさえも奢ってくれた。
私の心の中にある感謝の気持ちは、申し訳ない気持ちに完全に潰されていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜
颯「ここでいい?」
唯「うん!助かった。ありがとう」
颯「時間ある時にまた会おうね」
唯「うん...あと―――」
颯「?」
唯「ぬいぐるみ一緒に探せなくてごめんね」
私がそう言うと、颯汰君は笑っていた。
颯「ううん、別に気にすることじゃないよ。楽しかったし」
唯「...」
颯「それじゃあ僕は今から、またあの店に戻って探ってきます!」
唯「うん、じゃあね!」
颯「ばいば〜い!」
バタン
唯「...」
時刻は午後6時を回ろうとしていた。
約束の時間にギリギリ間に合った。
颯汰君は私に手を振ると、車をすぐに走らせていった。
寂しい気持ちを少し残しつつ、私はここに来る友達を待つことにした。