幻の流れ星   作:きなこモチ

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準備

颯「ありがとうございました〜」

 

 

 

颯 (...はぁ)

 

 

 

 

緊急でシフトに入ってから1時間ほどが経ったが、思ったより忙しくなかった。

 

 

その暇な時間がより一層、僕に不安という感情をもたらした。

 

 

 

 

颯 (でも、健が頑張ってくれてるから...)

 

 

 

 

めちゃくちゃ携帯の通知を確認したいが、携帯は今ポケットには無く、更衣室に置いてきている。

 

 

頼むから、着信履歴が残っていてくれ。

 

 

 

 

颯「...はぁ」

 

 

 

律「どうしたんだ?そんな浮かない顔して」

 

 

 

颯「え?

あっ、すみません!

 

 

...あ、律...」

 

 

 

 

不意にタメ口で返事をしてしまったことを咄嗟に謝った。

 

しかし我に返って顔をあげると、目の前にいたのは律だった。

 

 

 

 

律「私に敬語使うなんて、どうした!?」

 

 

 

颯「いや、一瞬お客さんかなって...」

 

 

 

律「私も客だ!」

 

 

 

 

僕の言葉にツッコミを入れた律だが、いつもと違う僕の反応を見ると、なぜか買い物カゴに手を入れた。

 

 

 

 

律「...これ、ラッピングして!」

 

 

 

颯「?」

 

 

 

 

訳も分からず包装紙を取り出す。

 

 

 

 

律「あ、そっか。まだ右腕完治してないんだよな。よくそれでレジ打ち出来るな!」

 

 

 

颯「う、うん」

 

 

 

律「やっぱり私がラッピングするから、ちょっと包装紙ちょうだい」

 

 

 

颯「...はい」

 

 

 

 

律は僕に見えないよう、買い物カゴの中から何かを取り出し、それを綺麗に包装していた。

 

 

 

 

颯「...律ってそういうの得意なんだね。速い」

 

 

 

律「ああ。颯汰とは積んできたキャリアが違うからな!

部活で言えば私が先輩、颯汰は後輩。

欲しいジュースがあれば颯汰の奢り、私はタダで飲めるってわ〜け!」

 

 

 

颯「...何を言ってるのか分からないけど、ちゃんと精算してから帰ってね」

 

 

 

律「分かるだろっ!」

 

 

 

 

そう言いながら、律は財布からお金を出した。

 

 

 

 

律「はいはい、私はただの同級生ですよ〜だ」

 

 

 

颯「...はい。ありがとうございました〜」

 

 

 

律「あ、颯汰」

 

 

 

颯「ん?」

 

 

 

律「代金と一緒に、これも受け取ってくれ」

 

 

 

颯「...え?」

 

 

 

 

律は代金と一緒に、さっきラッピングした商品も僕に渡してくれた。

 

 

 

 

颯「何で...?」

 

 

 

律「私、()()()()()()でさ。

颯汰にあげるよ」

 

 

 

颯「...あ〜」

 

 

 

 

僕は律のその一言で理由が分かった。

 

 

 

 

律「...あ、中身は当日まで開けないほうがいいよ」

 

 

 

颯「うん。

ありがとう、サンタさん」

 

 

 

 

僕が感謝の気持ちを伝えると、律は手を上げて反応し、すぐに店を出ていった。

 

 

 

 

颯「...」

 

 

 

「...颯汰さんごめんね。

腕怪我してたの忘れてて、呼び出しちゃって」

 

 

 

颯「いえ、大丈夫ですよ!

お気になさらないでください」

 

 

 

「そろそろ休憩行ってらっしゃい」

 

 

 

颯「ありがとうございます!行ってきます」

 

 

 

颯 (このプレゼント失くしちゃいけないし、更衣室に置いておくか)

 

 

 

 

律からのプレゼントを握りながら、更衣室に向かった。

 

 

 

 

颯「...?」

 

 

 

 

更衣室の方から何か音楽が聞こえる。

 

 

 

 

颯「...あ」

 

 

 

 

急いで更衣室に入った。

すると、音楽の正体がはっきりと分かった。

 

 

 

 

颯 (電話だ...!電話が鳴ってるっ!!!)

 

 

 

 

僕はすぐにロッカーの扉を開け、カバンの中の携帯を確認した。

 

 

 

 

 

 

電話の主は...

 

 

 

 

 

 

 

颯「...『健』!!!」

 

 

 

 

颯「もしもし、健!?

どうだ!?見つかったのか!?」

 

 

 

 

 

健 "颯汰!!

今すぐ□△病院に向かってくれ!!"

 

 

 

 

 

 

颯「...えっ」

 

 

 

 

 

 

健 "さっき...紬ちゃんが事故に遭って病院に搬送されてたらしい..."

 

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

 

どういうことだ...?

 

 

 

 

 

とりあえず紬は無事だったんだよな?

 

 

 

 

 

だから...無事だよな...?

 

 

 

 

 

健 "おーい!颯汰!?は、早く向かうんだぞ!"

 

 

 

 

健は今にも泣きそうな声で喋っている。

 

 

 

 

 

颯「たける...!ど、ど、どうすればいいかな...!?」

 

 

 

健 "だから!!

□△病院に行くんだよ!"

 

 

 

颯「□△病院...わ、分かった!

今すぐ行く!!」

 

 

 

健 "言っておくけど、俺らがさっき会ったとこの病院じゃないぞ!間違えるなよ!"

 

 

 

颯「ああ!地図見ながら行くから大丈夫!」

 

 

 

健 "おう"

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

 

健から電話で伝えられたことは、今の紬は以前よりもずっと危険な状況にあるということだ。

 

 

 

安否の確認が取れたと思った矢先、さらなる恐怖が待っていたなんて。

 

 

 

 

 

ロッカーの扉を強く閉め、更衣室の外へ飛び出した。

 

 

 

 

颯 (あ、出るとき先輩にひと声かけなきゃだよな...)

 

 

 

 

 

ちゃんと理由を言って、ダメだったら無理やり抜け出そう。

 

 

 

 

 

颯「...すみません!!」

 

 

 

 

「あら、もう休憩終わり?」

 

 

 

 

颯「いえ、違うんです!」

 

 

 

 

「...?」

 

 

 

 

颯「今すぐ病院に行かせてください!」

 

 

 

 

「どこか具合悪いの...?」

 

 

 

 

颯「今、僕の家族が事故で倒れたんです!!」

 

 

 

 

「...そ、そうなの!?」

 

 

 

 

颯「だから、病院に行かせてください!!」

 

 

 

 

「うん、今すぐ行きなさい!

暗いから気を付けてね!」

 

 

 

 

颯「ありがとうございます!」

 

 

 

 

 

会話を終えると、僕はすぐにスーパーの外へと走り出した。

 

 

 

僕の急ぐ気持ちが伝わったのか、先輩がすぐに許可してくださって、本当に感謝の気持ちでいっぱいだ。

 

 

 

 

 

颯「えっと...○✕病院はどこだ...?」

 

 

 

 

ポチポチ

 

 

 

 

 

今倒れている人は、僕が大好きで――

 

 

 

 

 

 

颯「あった...

...結構遠いなぁ」

 

 

 

 

 

 

喧嘩をして疎遠になってたけど...

僕にとって、かけがえのない人。

 

 

 

 

 

颯「はぁ...はぁ...」

 

 

 

 

 

心で そう感じていても、『大切な人』と口に出すのは照れくさくて、先輩には つい『家族』だと言ってしまった。

 

 

 

 

 

でもそれが、いつかは...。

 

 

 

 

 

走りながらそんなことを願っている僕がいた。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「...」

 

 

 

 

そっと目が覚めた。

 

 

いつから、このベッドで眠っていたのだろう、全く覚えていない。

 

 

 

 

(ここは...病院...?)

 

 

 

 

周りにおいてあるものを見ると、ここがすぐに病院だとわかったが、なぜ病院にいるのか思い出さないと。

 

 

 

 

「...痛...い」

 

 

 

 

体を起こそうとすると、頭と体の所々が酷く痛み、起き上がるのが難しい。

 

 

 

 

「...あ」

 

 

 

 

痛みに耐えていると、記憶が少しずつよみがえってきた。

 

 

 

 

(そういえば、自分から―――)

 

 

 

 

「...?」

 

 

 

 

起き上がるのを諦め、しばらく天井を見つめながら記憶を辿っていると、複数の走る足音が聞こえてきた。

 

 

 

 

「...!」

 

 

 

 

その足音は次第に大きくなり、自分の部屋の前で止まると、部屋の扉が勢いよく開かれた。

 

 

 

 

律「ムギっ!!大丈夫か!?」

 

 

 

唯「ムギちゃん!!」

 

 

 

梓「ムギ先輩!」

 

 

 

澪「ムギ!!」

 

 

 

 

紬「みんな...」

 

 

 

 

律「ムギが事故に遭ったってさわちゃんから聞いたんだ!」

 

 

 

 

梓「頭に包帯...大丈夫なんですか!?」

 

 

 

 

澪「体は大丈夫なのか!?」

 

 

 

 

紬「ちょっとだけ、痛いかな」

 

 

 

 

律「...」

 

 

 

 

紬「...うっ...!!」ズキン

 

 

 

 

律「おい!

...嘘つかなくていいんだぞ?」

 

 

 

 

紬「...うん」

 

 

 

 

律「結構やばい感じなのか...?」

 

 

 

 

紬「...うん。

今は歩けそうにないから、移動するときは看護師さんに手伝ってもらうと思う」

 

 

 

 

律「...そうか」

 

 

 

 

紬「みんな...迷惑かけて、本当にごめんなさい」

 

 

 

 

律「...」

 

 

 

 

紬「私、みんなにずっと連絡してなくて、心配かけて...」

 

 

 

 

唯「だ、大丈夫だよ!!

ムギちゃんに会えなくてちょっと寂しかったけど、今こうやって久しぶりに会えて安心してるんだ!」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

唯「揃ったら皆で遊びに行こうって話してた事は、当分の間お預けだけど...」

 

 

 

 

唯「...でも、時間が経てば治るものだって信じてるから、私達のことは気にしなくていいよ!」

 

 

 

 

 

紬「ゆ、唯ちゃん...」

 

 

 

 

 

律「...なぁ、ムギ」ヒソヒソ

 

 

 

 

紬「?」

 

 

 

 

律「教えて...くれないか?」

 

 

 

 

紬「うん...?」

 

 

 

 

 

律「その...ムギを...

 

 

 

いじ―――」

 

 

 

 

 

 

ガラガラ...バタン!!

 

 

 

 

 

再び扉が勢いよく開いた。

そこには、健君が汗を流しながら立っていた。

 

 

 

 

唯「...健君!」

 

 

 

 

 

健「紬ちゃん!大丈夫か?!」

 

 

 

 

紬「うん、何とか。

ありがとう」

 

 

 

 

健「そうか、とりあえず良かった...」

 

 

 

 

健「...」ゴソゴソ

 

 

 

 

 

健君はポケットの中から何かを取り出した。

 

 

 

 

 

健「なあ、紬ちゃん」

 

 

 

 

 

紬「はい...?」

 

 

 

 

 

健「これって、紬ちゃんの携帯だよな?」

 

 

 

 

紬「...そ、そうね...?」

 

 

 

 

律「確かに見たことあるな」

 

 

 

 

澪「えっ、なんでこんな事に...?」

 

 

 

 

 

健君が私に見せたものは、紛れもなく私の携帯だった。

 

 

だけど、ボロボロに壊れて私のもとに返ってくるとは思わなかった。

 

 

 

 

 

梓「ムギ先輩...今までずっと携帯持ってない状態だったんですか?」

 

 

 

 

紬「...うん」

 

 

 

 

律「そうなの...?」

 

 

 

 

梓「それじゃあ、連絡できなかったのはムギ先輩のせいじゃありませんよ!」

 

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

健「...あ、それとさ」

 

 

 

 

紬「...?」

 

 

 

 

健「さっき、悠に会ったんだけどさ...」

 

 

 

 

 

 

健「俺とすれ違った後に悠がこれを落としてたんだよ...」

 

 

 

 

 

――――――十数分前――――――

 

 

 

 

 

健 (はぁ...はあ...

...あ、あれか。□△病院)

 

 

 

 

 

その時

 

 

 

 

タッタッタッ

 

 

 

 

 

こちらに向かって走ってくる人の影が近づいてきた。

 

 

 

 

健 (ん?あれは...?)

 

 

 

 

 

人の影の正体は、悠だった。

 

 

 

 

 

健「悠!!お前も紬ちゃんに会ってきたのか?」

 

 

 

 

悠「...」

 

 

 

 

健「...あれ?」

 

 

 

 

そう言っても、悠は何も言わず笑顔で通り過ぎていった。

 

 

 

 

健 (...あいつ、イヤホンで音楽でも聴いてるのか?)

 

 

 

 

タッタッタッ

 

 

 

 

健「...はぁ」

 

 

 

 

 

走っていく悠の後ろ姿を見続けていると、悠の手から何かが落ちるのが見えた。

 

 

 

 

 

健「...お、おい!!悠!!

何か落としたぞーー!!

悠ーー!!」

 

 

 

 

 

健 (もう、イヤホンしてんじゃねーよ...)

 

 

 

 

 

俺は仕方なく、悠が落とした物を拾いに行った。

 

 

 

 

健 (あいつ、何落としたんだ...えっと...)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健「...何これ」

 

 

 

 

 

―――――――――――

 

 

 

 

 

唯「え...悠君...」

 

 

 

 

律「ムギ...そうなのか?

ゆ、悠が犯人だってことは、無いよな...?」

 

 

 

 

紬「スマホを壊したのは、悠君かどうかは私も知らないの。

別の子にはスマホを取られたけど...」

 

 

 

 

律「取ったのは誰だ?」

 

 

 

 

 

 

紬「...遥ちゃん」

 

 

 

 

 

律「...」

 

 

 

 

 

澪「遥ちゃん...?って、

律がよく言ってる子じゃないか?」

 

 

 

 

 

律「...学校でムギと喋ってる様子は無かったんだけどなぁ。

もしかして、遥ちゃんがムギを傷付けてるやつらの主犯...なのか?」

 

 

 

 

紬「...」コクリ

 

 

 

 

律「...そっか。

ムギ、教えてくれてありがとう」

 

 

 

 

 

澪「それにしても、ムギが無事で良かった...」

 

 

 

 

 

唯「ムギちゃん。元気になったら、また一緒に遊ぼうね。絶対だよ?」

 

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

 

律「部活だけでも来れそうになったら、いつでも顔を出してな」

 

 

 

 

紬「うん、ありがとう」

 

 

 

 

律「...時間も結構遅いし、そろそろ帰るか」

 

 

 

健「そうだな。

 

 

...あ、紬ちゃん」ヒソヒソ

 

 

 

 

紬「...?」

 

 

 

 

健「実は今、颯汰がこっちに向かってきてるんだ」

 

 

 

 

紬「...ほ、ほんと...!?」

 

 

 

 

健「うん、多分もう少しで着く。

だから、言いたい事はしっかり言うんだぞ?」

 

 

 

 

紬「...う、うん」

 

 

 

 

健君の言葉を耳にした瞬間、胸の鼓動が強くなったのが自分でも分かった。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

颯「はぁ...はぁ...」

 

 

 

 

急いで階段を駆け上がる。

 

エレベーターが来るまで待ってられないし、階段のほうが早い気がした。

 

 

 

 

颯 (今度こそ、いるよな)

 

 

 

 

実はここに来る前、間違えて別の病院に行ってしまい、到着時間が予定より遅くなった。

 

 

 

 

走って移動したいが、病院内では走ってはいけないし、さっきまでずっと走っていたため、息が上がって全然走れない。

 

 

 

 

 

颯 (この部屋か...)

 

 

 

 

 

やっと紬の病室に着いた。

やけに緊張し、扉を開けるのをためらってしまう。

 

 

 

 

次の瞬間...

 

 

 

 

 

ドスン!!

 

 

 

 

 

颯 (え...!?)

 

 

 

 

 

部屋の中から、何か鈍い音が聞こえてきた。

 

 

 

 

 

ガラガラ

 

 

 

 

 

颯「紬!!

...!?」

 

 

 

 

 

 

紬「...そ...そうたくん...」

 

 

 

 

 

 

紬はなぜか床で倒れ、涙を流していた。

 

 

 

 

 

颯「だ、だ、大丈夫か!?」

 

 

 

 

 

紬「ごめんなさい!!ほんとにごめんなさい!!ごめんなさい!!」

 

 

 

 

 

颯「ど、どうしたんだ!?なんでベッドから落ちてるんだ?」

 

 

 

 

 

紬「だって、颯汰君が来てくれるから...」

 

 

 

 

 

颯「え...迎えようとしてくれたの?」

 

 

 

 

紬「うん...」

 

 

 

 

 

別に気を遣わなくていいのに。

 

 

 

 

 

颯「ありがとう」

 

 

 

 

 

部屋の隅には車椅子が置かれていた。

 

 

紬は僕がここに来るって聞いて、病院の外で待ちたかったらしい。

 

 

体が痛くて起きあがれないまま、僕の足音を聞いた途端、無理やり車椅子に移ろうとしてベッドから落ちるなんて。

 

 

 

この前まで、紬に腹を立てていたのが嘘のように可愛く思えた。

 

 

 

 

どうにかして、ベッドまで戻ってもらうか。

 

 

 

 

 

颯「...あ、そっか」

 

 

 

 

紬「...?」

 

 

 

 

颯「俺、腕怪我してるんだった」

 

 

 

 

 

紬の怪我ばかりが気になって、自分も怪我人であることをすっかり忘れていた。

 

 

このまま何も出来ないとなると、看護師さんを呼んだほうがいい気もする。

 

 

どうしたものか...

 

 

 

 

 

颯「あ、そうだ。

両手は怪我してるの?」

 

 

 

 

紬「ううん、大丈夫」

 

 

 

 

颯「じゃあ、俺の背中で両腕を組んでて。

こう...抱きつく感じでさ」

 

 

 

 

紬「...こう?」

 

 

 

 

颯「うん。

...じゃあ、立つよ」

 

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

 

 

 

紬「ううっ...!!」ズキン

 

 

 

 

颯「あっ、ご、ごめん!!痛かった?」

 

 

 

 

紬「う、ううん!大丈夫、ありがとう...」

 

 

 

 

颯「...じゃあ、もう一回いくよ。

せーのっ」

 

 

 

 

紬「...う」

 

 

 

 

颯「...よし、もう大丈夫だね」

 

 

 

 

紬「うん、ありがとう。

でも、ごめんね。颯汰君も怪我してるのに」

 

 

 

 

颯「うん...」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

紬はベッドで座ると、ゆっくりと体を横にした。

 

 

 

 

それから少しの沈黙が流れた。

 

 

だが僕はそんな空気が気まずいとは思わず、

布団の隙間から出ている紬の左手と手を繋いでいた。

 

 

紬から聞かなきゃいけない事が沢山あるが、会いたかった紬を目の前にした僕は、少しでも心を落ち着かせたくて。

 

 

 

 

そんな沈黙を終わらせたのは、紬のほうからだった。

 

 

 

 

 

 

紬「颯汰君」

 

 

 

 

 

颯「...?」

 

 

 

 

 

紬「ごめんなさい」

 

 

 

 

 

颯「え...?」

 

 

 

 

 

紬「事故に遭って」

 

 

 

 

 

颯「...え、いや、別に謝ることじゃないよ。

紬は信号守ってたんだろ?

でももう、起きてしまった事は仕方ないし、これから―――」

 

 

 

 

 

 

紬「ううん、自分から飛び出してしまったの」

 

 

 

 

 

 

颯「...え」

 

 

 

 

 

 

どういう事だよ...自分からって...

 

 

 

もしかして、そういうつもりでいたのか?

 

 

 

なんで...?

 

 

 

 

 

颯「な、なんでそんな事するんだよ...?」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

颯「紬...」

 

 

 

 

 

紬「...私、分からなくって」

 

 

 

 

 

颯「...?」

 

 

 

 

 

紬「どうすればいいか...」

 

 

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

 

紬「私がこのまま生きてたら、颯汰君が危ない目に遭うかもしれないの...」

 

 

 

 

 

颯「え...?」

 

 

 

 

 

紬「私がしてることを颯汰君に言ったら、何するかわからないよ、って言われて...」

 

 

 

 

 

 

颯「...誰に言われた?」

 

 

 

 

紬「...遥ちゃん」

 

 

 

 

颯「...そうか」

 

 

 

 

遥っていう人、律の友達じゃないのか?

紬と喋ってるの一度も見たことないな。

 

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

 

 

 

あっ――――。

 

 

 

 

 

颯「なぁ、紬」

 

 

 

 

紬「...?」

 

 

 

 

颯「ひとつ、お願いがあるんだ」

 

 

 

 

紬「お願い...?」

 

 

 

 

颯「そう。

ここを退院したらさ...」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

 

 

颯「少しの間だけ、一緒に暮らしてくれないか?」

 

 

 

 

 

 

紬「えっ...!?」

 

 

 

 

 

 

颯「あ、ごめん。変な意味じゃないんだ」

 

 

 

 

紬「う、うん?」

 

 

 

 

颯「俺ちょっと心配なんだ。

これから少しの間、車椅子で生活することになるだろ?」

 

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

 

颯「それで紬一人だとなると、ちょっと困ることも出てくると思うし」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

颯「それに...

 

 

 

 

もうこれ以上、こんな目に遭いたくない」

 

 

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

颯「...どうかな?」

 

 

 

 

紬「う〜ん...

まあ、家にはお母さんとお父さんがいてくれているから」

 

 

 

 

颯「...あ、そっか」

 

 

 

 

 

紬「...でも」

 

 

 

 

 

颯「?」

 

 

 

 

 

 

紬「できれば私も、そうしたい」

 

 

 

 

 

颯「...ほんとに?」

 

 

 

 

 

紬「...」コクリ

 

 

 

 

 

颯「じゃあさ、今日帰ったらお母さんにお願いしとくから、紬のご両親にも別の日にお願いさせてね?」

 

 

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

 

 

実は、紬と一緒に過ごすというのは澪の提案だ。

 

 

 

紬が学校に来れるようになった時、少しでも心の支えになってあげてと、僕に教えてくれた。

 

 

 

もし僕が紬の家に行くとなると、僕のお母さんが家で一人になる。

 

それが少し心配だが、ずっとじゃないし...。

 

 

 

紬「颯汰君」

 

 

 

 

颯「うん?」

 

 

 

 

紬「これ、颯汰君へのプレゼントなの」

 

 

 

 

颯「俺に?...これは、手紙?」

 

 

 

 

紬「うん。実は私の携帯がこんな事になってて」

 

 

 

 

颯「...えっ!?ボロボロじゃないか!?どうしたの?

これも遥ってやつにされたの?」

 

 

 

 

紬「...多分」

 

 

 

 

 

颯「...。」

 

 

 

 

 

クソ...

 

 

 

 

 

あいつのしわざか...

 

 

 

 

 

あいつに紬との連絡手段を奪われたんだな。

 

 

 

 

 

覚えていろよ。

 

 

 

 

 

 

紬「今まで皆と連絡できなくて。

その代わりに手紙を送ろうと思ってたんだ」

 

 

 

 

颯「...なるほど」

 

 

 

 

紬「だから、書いてる内容はもう過ぎた事なんだけどね」

 

 

 

 

 

颯「そうだったんだ...ごめんね。

なんか俺、勘違いしてた」

 

 

 

 

紬「ううん。

私こそ心配かけてごめんね」

 

 

 

 

颯「...あ、あとさ、紬最近学校来れてなかったじゃん?

その間の勉強の事なんだけど、遅れを取ってるからって成績の事は心配しなくていいよ」

 

 

 

 

紬「...どうして?」

 

 

 

 

颯「先生に言ってあるんだ。

その授業の範囲で分からないトコは俺が教えてあげるから」

 

 

 

 

紬「...ごめんね」

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