朝、教室にて。
昨日から、通学途中で会う紬ちゃんと一緒に登校している。
健「...颯汰今日も休みなのか?」
紬「休みだと思う」
健「...え?あいつ、紬ちゃんの家から通ってるんじゃないのか?」
紬「そうなんだけど、呼んでも部屋から出てこなくて『ごめん、先に行ってて』とだけ言われて」
健「そっか...
他人の家に引きこもるヤツとか聞いたことねぇな」
(ってか、颯汰専用の部屋とかあるのか!?)
キーンコーンカーンコーン
ガラガラ...
担任「...はい、おはようございます」
「「おはようございます」」
担任「えー、早速連絡です」
健「...」
紬「...」
担任「田村颯汰さんですが、別のクラスの子とトラブルがあり、昨日から一週間、停学処分を受けています」
「「「えっ!?」」」
紬 (停学...!?)
健 (あいつ、なにやって―――
...もしかして)
〜〜〜〜〜〜
律「な、梓聞いた?」
梓「悠先輩...停学になっちゃったんですよね。
唯先輩から聞きました。何があったんですかね」
律「...え?悠なの?
私、颯汰が停学んなったって聞いたんだけど」
梓「え!?もしかして...」
律「...喧嘩したのか?」
〜〜〜〜〜〜
とある平日、午前10時。
颯「―――『なので、これからは友達との接し方を考え直し、気を付けていきます』っと」カキカキ
原稿用紙の全てのマス目を文字で埋めると、シャーペンを机に叩きつけるように置いた。
颯「っあぁーーっ!!」
颯 (何で俺が停学になんなきゃいけねぇんだよ。どう考えてもアイツだけでいいだろうが)
カタン
叩きつけたシャーペンは転がり、やがて床に落ちた。
颯 (...まあいいや、学校サボれるし。寝にいくか)
そう言って、落ちたシャーペンを拾い机の上に置くと、何も持たずに家の外へ出た。
ガチャッ
颯 (雨降ってんのか。
傘は...いいや)
――――――――
「よしっ!できた〜!」
(今日は、大好きなパパの誕生日...!!)
(パパの好きなもの作りたかったけど、知らないし...代わりに、うさぎちゃん作った!)
(紙粘土で作ったし、店にあるようなものじゃないけど)
(うひひひっ!
喜んでくれるかなぁ〜!?)
「...ねぇパパ!」
「...なに」
「お誕生日おめでとう!!
これ作った!あげる!!」
「ちょっとあっち行ってくれ、今仕事してるんだ。
明日締め切りの書類まだまだ残ってるから邪魔しないでくれ。
取引先と契約を交わすめちゃくちゃ大事な書類もあるから」
「ねえー可愛いでしょー?
色も塗ったよ!」
「...」チッ
「ねぇーパパー!嬉しくないのー?」ガタガタ
机を揺らしたその時。
「『パパおめでとう』って!!聞ーいーてーるー??」ガタガタ
パタン!
「...!?」
ジャーー
「あああああっっっ!!!!!」
「あっ...」
「何やってんだよゴラ!!!
どうしてくれんだよ!!これ!!」
「...う...うっ...」
パパの飲んでいた缶コーヒーが倒れ、こぼれた液体は机や床、大切な書類を汚した。
「今すぐ出ていけ!!」
「...い、嫌...ごめんなさい...」
グイッ
「ねぇやめて!!離して!!服破れる!!」
「うるさい!!口答えするな!!」
バシッ
「いたっ!!!」
―――――――――
遥「...!!!」
「...どうした急に?!」
遥「今見てた夢がさ――
...いや、なんでもない」
「え、気になるんだけど。
てか何、背中なんか押さえて。痛いの?」
遥「別に」
「...なんだ」
遥「...」
遥 (はぁ...。
何なの、今更...)
〜〜〜~~~
シャー
悠「...どうかな?」
梓「おおー似合ってますね!!」
放課後。
悠さんと買い物に来た。
学校が終わって正門を出た時に、私服の格好で待っていた悠さんが誘ってくださった。
悠「ちょ、ちょっと派手じゃないか...?」
梓「派手ですか?悠さんにぴったりだと思いますよ!」
悠「ありがと!」
梓「...でも悠さん、停学中なのに一緒にお買い物してて大丈夫なんですか?」
悠「なんで?」
梓「もしバレたら、停学延長とかになるんじゃ...?」
悠「ないない!先生達は放課後もやる事いっぱいあるんだからそんな暇ないよ。
でも、さわ子先生は神出鬼没だから気をつけなきゃね」
梓「さわ子先生...」
試着室から出た悠さんは靴を履くと、神妙な表情になった。
悠「でも、俺...本当に紬ちゃんの携帯なんか取ってないし、壊してもないんだよ」
梓「...だったらいいんですけど」
悠「本当にやってないんだ!!信じ―――」
梓「冗談ですよ」ニコッ
悠「...」
梓「もし悠さんのこと信じてなかったら、お買い物なんて来ないです」
悠「ありがとう...」
梓「それに、颯汰さんも停学だって聞いたんですけど、何か...?」
悠「...知らねぇ。
あいつが一方的に攻撃してきたのに、先生がどっちも悪いとか言い出してさ。
あいつはなんで俺にキレてんのか何も言わねぇし」
梓「...でも、唯先輩の誤解は解いてあげてくださいね」
悠「...」
梓「唯先輩は悠さんの事、健さんから聞いたらしいんですけど...
その時、ショックだったみたいで泣いてましたよ、唯先輩」
悠「...分かった。
教えてくれてありがとう」
梓「はい」
悠「...」
悠 (せっかく梓ちゃんと買い物来てるのに、空気悪くしちゃダメじゃないか。
でも、皆には後でちゃんと説明するから。
唯ちゃんにも...。
皆、信じてくれてるんだから...)
悠「...いけない」サッ
悠さんはその場でしゃがみ込み、頭を抱えてため息をついたが、すぐに立ち上がった。
悠「よし!この服精算するね」
梓「あ、ありがとうございます!」
(...店員さんじゃないけど、つい反応しちゃった)
悠「じゃあレジに―――」
「...あいつガチでキモすぎる」
「誰?琴吹?」
「違う、そいつは前から。
田村颯汰ってやつ」
悠「...」
「あ〜!!あいつね!最近よく見る。
そいつ、この前話しかけてきた」
「なんて?」
「化学の時間そいつ席隣でさ、
『け、消しゴム、か、借りてもい、い、い良いいですか?』って俺に言ってきた」
「「ははははは!!」」
「「『けけけ、消しゴム、かかか、借りても、いいい、良いですか?』」」
「「ははははは!!!」」
悠「...ちょっと似てんじゃん」ボソ
梓「...何がですか?」
悠「ううん、何でもない」
「話しかけんのに勇気いるんだったら話しかけてくんなよな!」
「いやそれな!」
「彼女できたからか知らねえけど、仲間入りしたみたいに気安く入ってくるし!」ハハハ
「分かる!
せっかく楽しく喋ってんのに、無理やり入ってきて空気気まずくするしさ〜。どうしてくれんだよ〜って」
「ガチでそれ」
悠「...」
梓「列、なかなか進みませんね...。
...あ、悠さんそろそろですよ!」
「...しかもあいつ、今停学中らしいな」
「まじ?おもろすぎ。
あいつ停学中って情報、誰得だよっつー話。そのまま一生帰ってくんな」
悠「梓ちゃん、これ」
梓「...1万円?ゆ、悠さん!
どこ行くんですか?順番後回しになっちゃいま―――」
悠「ごめん、それで会計済ませておいて」
梓「は、はぁ.....?」
悠さんがレジの列を抜け、列の後方へと向かった。
〜〜〜〜〜〜
スタスタ
「...あれ?悠じゃん」
「悠、いたんだ。
お前そういや今日学校来た?」
悠「いや、俺今停学中」
「え、悠もなの?」
悠「...え?俺以外にいんの?」
「...いや、知らね」
悠「知らないか...
まあ俺がこっち来たの、そいつのことなんだけどな」
「「...えっ?」」
悠「俺、実はさっきからこの列の前にいてさ」
「え...」
悠「...さっきからぐじぐじぐじぐじ
「...え?」
悠「いや、『え?』じゃなくて」
「どこが悪口なの?本当のこと言ってあげてんの。むしろ優しさ――」
悠「優しさでも何でもいいからさ、とにかくそいつについて語んないでくれ、今は」
「...?」
悠「いろいろ思い出して、またそいつを殴りたくなるかもしれないからさ」
「また...?
ってことは、すでに一発やっちゃったんすか???」
悠「お前のせいだよ」
「ほら、あなたのせいですよー!
田村さん、聞いてる〜??」
悠「そいつじゃねぇよ、お前だよ」
「...あ?」
悠「そいつと喋ったことねぇやつが。
そいつのこと...
颯汰のこと知らないで、誰かに命令されるままに颯汰のこと馬鹿にしやがって」
「...は?」
悠「そいつに文句があるんだったら、俺を殴れよ」
「...きっしょ」
梓「...ゆ、悠さん!ちょっと!!
何があったんですか...」ヒソヒソ
悠「あ、会計済ませてくれてありがとう。
ごめんね、任せちゃって」スタスタ
梓「...い、いえ!!
...」チラッ
「...何?」
梓「あ、いえ、何も...すみません!」スタスタ
「...ったく。
お前は何でずっと黙ってんだよ」
「...ああ、すまん」
〜〜〜~~~
ザーザー
颯「...」zzz
紬「...あれ?颯汰君!?何やってるの!?」
颯「...?
あれ...紬...?」
いつの間にか眠っていた。
目を覚ますと、傘を持った紬が横にいた。
そして、僕の上で傘を広げてくれている。
紬「こんな所で寝てると風邪引いちゃうわ!!全身ビショビショじゃない!」
颯「...う、うん。ありがとう。
紬一人なの?」
紬「うん。
颯汰君に会いたくなって、こっそり来ちゃった
ここにいるんじゃないかな〜って」
颯「...よく分かったね」
その時...
「...」
紬「...きゃあっ!!」ビシャ
颯「どうした!?紬――
...っ!?」
紬の悲鳴が聞こえたときには、紬の頭に泥が被っていた。
紬の背後には、遥が立っていた。
颯「何すんだよ!!!」
遥「見りゃ分かんじゃん」
颯「お前...」
遥「君って噂通り馬鹿なんだ〜。そんな格好で説得力ないよ」
颯「...お前許さないからな」
遥「許さない??
許さないも何も、そんな上から目線で来られるようなこと、私何かした??」
颯「紬を自殺に追い込みやがって...」ボソ
遥「え?それって私悪いの?
その人が選んだ道じゃない?」
颯「...」
こいつ...
こんなこと言う奴だったのか。
人間じゃねぇ...
びしょ濡れになった紬と僕を、いかにも馬鹿にするような声で話続けた。
遥「...もういいや。面倒くさいからあんた達、後で〇〇駅前に来て」スタスタ
すると、奴はどこかへと歩き始めた。
颯「...同じ目に遭わせてやる」
紬「...」
もう、退学になったっていい。
こんなやつに悩まされて、野放しにできるやつがどこにいるんだよ...
なんで罪のない人が、痛い思いをしなきゃいけないんだよ...
今までずっと、俺らを狂わせた元凶とやっと出くわせて嬉しいよ。
されたままで終わってたまるか。
颯「...ころ――」
拳を強く握り、奴の所へ行こうとしたその時。
紬「...だめ...颯汰君」ガシッ
颯「...」
紬「やだよ、絶対にダメだよ...?」
紬は泥だらけの両手で僕の腕を掴んだ。
颯「なんでだよ!!
俺...あんな奴らに、あんな奴らのためにずっと苦しんで、もう...うんざりなんだよ!」
紬「...でも、暴力は絶対にしないでほしいの」
颯「...」
僕は強く言い返してるのに、紬は常に優しい口調だった。
紬「こう思ってるのには理由があるの」
颯「...何だよ、理由って」
紬「実は、まだ言ってなかった事なんだけど...
...私、颯汰君の思いやってくれるところが好きなの」
紬「放課後、一緒に教室残って学級旗作ってくれた時とか、一緒にお財布探してくれた時とか。
テスト勉強、一緒に教え合ったりもしたよね」
紬「...それから私も颯汰君を見習って、小さな事から思いやりの心で乗り越えてきた事がたくさんあった」
颯「...」
紬「相手を思いやると、相手も思いやってくれるって...
私、颯汰君に教えてもらったの」
紬「...痛い思いをした事もあったけど...
あの時...死ななくて...ほんとうに良かったって...思ってるの」
颯「...」
紬「痛い思いをする人がいるのに、解決する なんて...思わないでほしいの」
紬「これでもあの子の所に行って、叩くというのなら...
私の事を叩いてっ!!
お願いだからっ!
ねぇっ!お願い...」
紬は声を震わし、泣きながらも最後まで話してくれた。
颯「...あいつの言う通り、俺ってほんっとうに馬鹿なんだなぁ」
紬「...」
颯「紬に そんな事言われた今も、あいつを殴ってやりたい。
実際に紬を傷つけてきた人達なんだから、同じことをやり返したら、皆して俺が悪いなんて言わないでくれよ?
って、今も思ってる」
紬「...」
颯「でも、それじゃダメだよね」
殴り殺して復讐するなら、俺はもちろん退学。
退学で済むならまだマシな話、俺は確実に犯罪者となる。
僕のお母さん、悠や健、軽音部のメンバー、先生達がそれを知ったら――。
紬も俺が犯罪者になることなんて望んでないし、本当の意味で解決したと言えるのだろうか。
こちらから働きかけなきゃいけないなんて、ホントに面倒くせぇ...
でも、こちらから丁寧に接すれば奴らにも紬をいじめた理由を教えてくれるんじゃないか...?
颯「俺、挑戦してみるよ。
正直めちゃくちゃ怖いけど...
ちゃんと、話で解決してくる」
紬「颯汰君...
...うん!」