幻の流れ星   作:きなこモチ

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逃走

放課後、部室にて。

 

 

 

 

澪「――それは食べることができますか?」

 

 

 

悠「いいえ!」

 

 

 

唯「じゃあじゃあ、それはどれくらいの大きさですか!?」

 

 

 

悠「それは言えません!」

 

 

 

律「唯、そういう質問には答えらんないぞ!」

 

 

 

ガチャ

 

 

 

梓「こんにちは〜」

 

 

 

唯「あ!あずにゃん来て来て〜」

 

 

 

梓「何やってるんですか?」

 

 

 

唯「垂直なんとかクイズ!」

 

 

 

澪「水平思考クイズだ」

 

 

 

唯「あずにゃんもやろやろ〜!」

 

 

 

梓「...よく分からないですけど、後で参加しますね。

あ、悠さん!ちょっといいですか?」ヒソヒソ

 

 

 

悠「ん、どうした?」テクテク

 

 

 

梓「...唯先輩の誤解は解けたんですか?」ヒソヒソ

 

 

 

悠「うん。

ダメかなって思ってたけど信じてくれたよ」

 

 

 

梓「そうなんですか!良かったですね!」

 

 

 

悠 (...説得した時、唯ちゃん泣いちゃったんだよな。

誤解とはいえ、申し訳ないよ...)

 

 

 

悠「...」

 

 

 

 

ふと皆の方を見ると、唯ちゃんはこちらを見つめていた。

 

 

 

 

唯「ちょっとちょっと〜!何ヒソヒソしてるの〜!

早くしないと練習始めるよ!!」

 

 

 

律「そーだぞー!」

 

 

 

梓「...もう、しないくせに」ボソッ

 

 

 

律「あ!今何か言ったよな!!」

 

 

 

梓「いえ、何も!」

 

 

 

唯「だめだよあずにゃん。次言ったら5分後に始めちゃうからね!」

 

 

 

梓「しないくせに」ボソッ

 

 

 

唯「あ!あずにゃん言ったね!!20分後に始めるもん!」

 

 

 

澪「さりげなく時間増えてる」

 

 

 

梓「私はいいけど」ボソッ

 

 

 

唯「も〜、あずにゃ〜ん」

 

 

 

梓「分かりましたから、ぱぱっと練習始めますよ〜」

 

 

 

唯「え、ま、まだ20分もあるから!

ほら、座ろう?

 

 

 

 

まだゆっくりしてていいよ...

 

 

 

 

まだゆっくりしたいよ〜〜!!」

 

 

 

澪「普段に戻った」

 

 

 

梓「直角なんとかクイズ、明日しましょう?明日」

 

 

 

唯「え〜」

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

 

紬「遅くなってごめんなさい」

 

 

 

澪「タイミングいいなムギ!練習するとこだったんだ」

 

 

 

唯「澪ちゃんまで...」

 

 

 

紬「あ、あの、その前に」

 

 

 

澪「...どうしたんだ?」

 

 

 

紬「...大事な話があるの」

 

 

 

唯律澪梓「...!?」

 

 

 

悠「...」

 

 

 

 

紬ちゃんは言葉通り、何か言いたげな表情をしていて、部活をしに来たようには思えなかった。

 

 

 

 

〜〜~~~~

 

 

 

 

1時間後。

颯汰の部屋にて。

 

 

 

 

健「あの...。

二人の間に火をつけるようなこと言ってごめん」

 

 

 

颯悠「「許す!」」

 

 

 

健「え、いいの...?」

 

 

 

颯「うん、悠と喧嘩して思ってること全部言えたし、それに今...例の件は順調だし。

主犯だった子が謝ってくれてさ」

 

 

 

健「あ、そうなんだ!?」

 

 

 

颯「うん。でも紬には謝ったのかな?

謝ってくれたか今度聞いてみる。

 

...ま、健がやらかした、病院の行き道の盛大な人違いにはびっくりだけどな」

 

 

 

健「いや、あの人めちゃくちゃ悠に見えたんだよ。俺とすれ違ったの悠じゃなかったの?」

 

 

 

颯「違うだろ。悠は携帯盗ってないんだから」

 

 

 

悠「...病院?」

 

 

 

颯「...ほら、違うって。

健はすぐ適当なこと言うんだから」

 

 

 

悠「あ、この前眼科行って、知らないおばさんが『たけちゃ〜ん!』って誰か呼んでたんだけど、それの事?」

 

 

 

颯「...悠も乗らなくていいから」

 

 

 

 

悠は、空になったコップにお茶を注ぎながら話した。

 

 

 

 

悠「それで、遥は今後どうするって?」

 

 

 

 

颯「退学するらしい」

 

 

 

 

健「...本当に改心したんだな」

 

 

 

 

悠「他の奴は?

紬ちゃんをいじめてた遥以外の人は」

 

 

 

颯「遥には、紬に危害を与えないよう周りに伝えてくれ、って言っておいたけどな。

遥は頷いてたし、それは問題ないと思う」

 

 

 

 

悠「そっか。

遥の命令に忠実だっただけで、いじめてた奴の中でもやる気のなさそうなやつ、いたしな」

 

 

 

颯「そんな人いたの?どこ情報?」

 

 

 

悠「この前そんな感じのやつと会ったんだよ」

 

 

 

颯「...」

 

 

 

健「...それでもまだ気は抜けねぇな。特に颯汰の立場は」

 

 

 

颯「わ、分かってるよ...言われなくても」

 

 

 

 

 

 

悠「あ、そういえば颯汰、紬ちゃんが―――」

 

 

 

颯「?」

 

 

 

悠「あ、そうだ、言っちゃいけないんだった。

悪いけど本人から聞いてよ」

 

 

 

颯「...おいおい!もったいぶるなよ〜!」

 

 

 

悠「紬ちゃんが自分で言いたいって言ってた。

『緊張するけど、私から言いたい』って」ヒソヒソ

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

週末の昼。

ムギちゃんと街に出るべく、駅に向かっていた。

 

 

 

唯「ムギちゃんどこ行く〜??」

 

 

 

紬「唯ちゃんに任せる!」

 

 

 

唯「ダメだよ!

今日はムギちゃんの外出記念日なんだから、決める権利はムギちゃんにあるよ!」

 

 

 

紬「外出記念日?」

 

 

 

唯「怪我してて遊びに行けなかったでしょ?」

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

唯「だからムギちゃんが決めていいよ!」

 

 

 

紬「...ありがとう」

 

 

 

唯「どういたしましてっ」フンス

 

 

 

紬「じゃあ、この前テレビでやってた水族館に行きたいな〜!」

 

 

 

唯「あ、知ってる!最近リニューアルされたとこだよね!

行こ行こ〜!」

 

 

 

 

 

 

 

颯 (...まさか二人と遭遇するとは。どこ行くんだろう?

 

って、俺めちゃくちゃ不審者になってるな。

 

よし、これ吸って名前呼んでみよ)

 

 

 

 

スゥーーーッ

 

 

 

颯「ムギチャン!ユイチャン!」

 

 

 

唯紬「わっ!」

 

 

 

唯「颯汰君!誰かと思ったよ〜!

って、あれ?声変わりした?」

 

 

 

颯「ううん、これ!ヘリウムガスで声変えてみた!」

 

 

 

唯「そんなのできるんだ!私にもやらせて〜!

これ以上声高くなったら、超音波になっちゃうんじゃ...?」スゥーーッ

 

 

 

紬「それか低くなるんじゃない?」

 

 

 

颯「どっちもないない!」

 

 

 

 

その時

 

 

 

 

紬「...!!!」

 

 

 

 

突然、紬が目を見開いて何かを見ていた。

 

 

その視線の先には、見知らぬ大きな男が立っていた。

 

 

 

唯「変な声〜!!

 

 

 

...ムギちゃん??

 

 

 

ゔゔんっ...ど、どうしたの??」

 

 

 

 

紬「あ...あ...

 

 

 

あの人が...犯人...

 

 

 

全ての...元凶」

 

 

 

 

唯「...」

 

 

 

さっきまで楽しそうにしていた唯が、一瞬にして呆然と立ち尽くしていた。

 

 

 

颯「唯ちゃん」

 

 

 

唯「...」

 

 

 

颯「...唯っ!」

 

 

 

唯「は、はい!?」

 

 

 

颯「そこの駅、次の電車は何分に来るんだっけ」

 

 

 

唯「えっと、えっと...

 

 

...1分後。それ逃したら30分後」

 

 

 

 

颯「うん、ありがとう

 

 

よし...走ろう。

 

 

走れそう?」

 

 

 

紬「...だ、だい...じょう...ぶ」

 

 

 

 

紬と手を繋ぎ、一緒に走り出す。

 

 

 

 

ダッダッ

 

 

 

 

紬「...」バタッ!

 

 

 

 

唯「ムギちゃん!大丈夫!?」

 

 

 

 

走り出してから数メートルのところで、紬は転んでしまった。

 

 

 

 

颯「紬、無理言ってごめん...

唯ちゃん、先行ってて!」

 

 

 

唯「で、でも!」

 

 

 

颯「お願い」

 

 

 

唯「...うん」

 

 

 

 

大きな男は、すぐそこまで来ていた。

 

 

 

 

颯 (あの人...凶器か何か持ってる...?

やば...)

 

 

 

颯「歩けそう?」

 

 

 

紬「う、うう...うう..ん」

 

 

 

颯「そっか。

じゃあ背中に乗って」

 

 

 

紬「...」

 

 

 

颯「しっかり掴むんだよ!」

 

 

 

 

紬「...」コクリ

 

 

 

 

紬を僕の背中に乗せ、駅に向かって走り出す。

 

 

すると今、電車は駅に到着したようだ。

 

 

 

 

颯「...」ダッダッ

 

 

 

 

颯 (ん〜...これは間に合いそうにないな)

 

 

 

 

だけど、諦めないで目的の駅に向かってひたすら走る。

 

 

 

 

颯「はぁ...はぁ...はぁ...」ダッダッ

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

紬は僕の背中で上下に揺られ、僕の顔の横でただただ呼吸を繰り返している。

 

 

僕の首に回している紬の両腕に、少し力が入ったのを感じた。

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

颯「...よし、もう大丈夫だよ」

 

 

 

 

紬「はぁっ..はぁっ..はぁっ...」

 

 

 

 

駅のホームに着き、端っこの影になっているところに僕らは座った。

 

次の電車は10分後に来るらしく、大きな男とそれほど距離を離せていない。

 

 

 

 

颯「ちょっと待ってて」

 

 

 

財布から百円玉を取り出して自販機へ向かい、急いで水を買った。

 

 

 

 

ビチャビチャ

 

 

 

 

颯「よし...このハンカチくわえてみて。

水でちょっと濡らしたけど、まだ使ってないやつだから」

 

 

 

紬「はぁっ..はぅん..はぁっ..」コクリ

 

 

 

 

颯 (...マジか)

 

 

 

 

再び大きな男の姿が見えた。

 

まだ僕らの存在には気づいていないが、いずれ気づくだろう。

 

 

だけど、僕はもうこれ以上移動するつもりはない。

 

 

 

 

颯「...ゆっくり息を吐いて。ゆっくり...」

 

 

 

紬「はぁっ..はぁぁ..はっ..はぁぁ」

 

 

 

 

僕は紬を落ち着かせたくて、優しく抱きしめた。

 

 

 

 

颯「ゆっくり...時間をかけて...」

 

 

 

紬「はぁ..はぁ..はぁ...」

 

 

 

 

大きな男は、少し離れたところからゆっくりとこちらへ歩いてきている。

 

どうやら僕らの存在に気づいたみたいだ。

 

 

 

 

颯「そう...ゆっくり...」

 

 

 

紬「はぁ...はぁ...はぁ...」

 

 

 

 

今、あの男と目が合っている。

 

 

紬が男の存在に気づかないよう、男に背を向けるように紬を座らせているが...

 

 

 

 

颯 (...くそ)

 

 

 

 

男は数メートルまで来ると、その場に立ち止まった。

 

そして、男はようやく口を開いた。

 

 

 

 

「久しぶりだな。

それと、初めまして...か」

 

 

 

 

颯「...吐いて...ゆっくり」

 

 

 

 

「実は、初めましてのお前に用があるんだ。

 

 

 

 

その女を俺らから遠ざけたのはお前だろ。

 

 

 

 

俺にとってお前がどんなに邪魔な存在だったか教えてやるよ。

 

 

 

お前らの学校に、その女にまとわりつくやつが何人か居たはずだ。

 

 

 

全員、俺が指示してたやつだ。

 

 

 

...本当、何にもつかえねぇやつらだよ。

 

 

 

 

俺の手で直接、お仕置きするほうが手っ取り早い」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

颯「ちょっと楽になってきた?」

 

 

 

紬「う...うん」

 

 

 

颯「よかった」

 

 

 

 

「...ま、これから死ぬって人達に、本気になって話しても何も残らないからな。

 

 

 

無視するのも無理ない―――」

 

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

はぁ、ここまでか。

 

 

紬を切りつけようとするなら、俺が咄嗟に前に出るしか...

 

 

 

下手をすれば死ぬよな。

 

 

 

 

友達も、紬も、家族も、この街の景色も、すべての記憶は消え、暗闇の世界に連れてかれるのかな...

 

 

そんなことを想像し、自分の鼓動を脳内に響き渡らせてしまった。

 

 

 

 

 

ダッダッ

 

 

 

 

冷静な行動で紬に落ち着いてもらえたとはいえ、この男の対処ができてなかったら冷静なんて無意味だよな。

 

 

 

 

紬「そうた...くん?」

 

 

 

 

紬が振り向かないようにしている僕の腕が震え出した。

 

 

 

 

颯「本当にごめん...」

 

 

 

 

涙で視界が滲み始めたその時。

 

 

 

 

「そこの君!!手を挙げなさい!!」

 

 

 

 

颯「!!」

 

 

 

紬「...」

 

 

 

「...くそっ。

まぁいい。

何もかもその女のせいだってこと、よく覚えておけ。

 

コイツの場違いクソ親父が余計なこと言わなかったらこんな事にならなかったんだ!」

 

 

 

颯「...」

 

 

 

「今すぐそれを離しなさい!」

 

 

 

 

「...」

 

 

 

 

「はぁ、馬鹿馬鹿しい。

言われなくても離すよ」

 

 

 

 

「自分のやってること分かってますね?」

 

 

 

 

「...。

 

 

...お前、名前は知らねぇけど顔は覚えたからな」

 

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

男は警察官の指示を聞き、どこかへと連行されていった。

 

 

 

 

颯 (やっと開放される...)

 

 

 

 

紬「颯汰君...ほんとに...ありがとう」

 

 

 

 

颯「...」ニコッ

 

 

 

 

 

紬の安心した声を聞いて、張り詰めた糸が切れるのを実感した。

 

 

 

その後、唯ちゃんと合流して分かったことだが、警察官が駆けつけてくれたのは偶然ではなく、唯ちゃんが通報してくれたからだ。

 

 

助かったよ、唯ちゃん。

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