幻の流れ星   作:きなこモチ

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夏休み

颯 (今日のバイト長かったな...)

 

 

 

 

夏休みに入ってから一週間が経った。

 

 

 

夏休みの課題はバイト終わりにやると決め、バイトが無い「数少ない休日」に遊びにいこうと思った。

 

 

 

自分で決めた予定ではあるが、ちょっとハードで耐えられるか不安だ。

 

 

 

紬は夏休みの間も部活があるため、数回しか一緒に遊べないだろう。

 

 

 

 

 

そんな時、僕は紬のことでひとつ悩みがあった。

 

 

 

 

颯 (家に帰っても、課題しかすること無いからなぁ~。どうしよう)

 

 

 

 

時刻は20時を回った。

 

時間を潰すため、バイト先の近くにあるコンビニのイートインでカップ麺を食べていた。

 

 

 

颯 (なんでおにぎり買ったんだろ、晩ご飯あるのに。とりあえず家に帰ってから考えるか)

 

 

 

律「おにぎりの『買ってくれ』ってささやく声が聞こえたから?」

 

 

 

颯「ん?...律か。てか心の声読み取るな!」

 

 

 

律「何やってんのここで?」

 

 

 

颯「...律こそ何でここに?」

 

 

 

律「私は『あれ、颯汰?ひとりで何してるのかな~?』って思って来ただけ!」

 

 

 

颯「そうか」

 

 

 

律「んで、どうしたの?悩み事?」

 

 

 

颯「うん、ちょっと紬のあの事で。」

 

 

 

律「あ~。私も本当に誰がやってるのかまだわかんないの...」

 

 

 

律「見つけたらやる事は簡単なんだけどな~」

 

 

 

颯「...何するの?」

 

 

 

律「ムギの事いじめるのをやめるように言う。やめなかったら先生に報告して、懲戒処分とか何とかしてもらう」

 

 

 

颯「まあ、そうするしかないか」

 

 

 

 

颯「...いや、先生に言うのはやめといた方がいいんじゃないか...?」

 

 

 

律「なんで?」

 

 

 

颯「いじめの場面を見た人がいるかアンケートとったりして、犯人たちにも情報回ったら―――」

 

 

 

颯「『紬が先生に相談した』って思われて、いじめ悪化するかもしれないじゃん...」

 

 

 

律「それは考え過ぎなんじゃないか...?」

 

 

 

颯「犯人が分からないから、慎重にしないとどうなるかわからないし...」

 

 

 

律「...」

 

 

 

颯「...俺、一度尾行して紬の様子見てみる」

 

 

 

律「わかった。私も参加する」

 

 

 

律「夏休みの間に一日だけ登校日あるじゃん?その日にしてみない?」

 

 

 

颯「うん、やってみよう」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

あれから数日が経ち、今日は登校日。

 

 

ある程度課題を終わらせ、バイトも頑張りながら夏休みを満喫している途中だ。

 

 

今日は課題提出のためにあるようなものだ。絶対休みでいいと思う。

 

 

だが、この日を利用して。

 

 

 

紬「颯汰君、帰ろう?」

 

 

 

颯「あ、ごめん~。まだ課題終わってなくてさ~。終わりそうにない...」

 

 

 

紬「あ、そうなんだ」

 

 

 

紬は苦笑いした。

 

 

 

颯「悪い、先帰ってて!ごめん!」

 

 

 

 

颯 (ごめんね、紬...)

 

 

 

 

紬「うん!課題頑張ってね?...じゃあ、ばいばい!」

 

 

 

颯「ばいばい!」

 

 

 

そう言い、紬は教室を出た。

教室に残っているのはすでに数人だけだった。

 

 

 

颯「...律、バレないよう気をつけて様子見しよう」ヒソヒソ

 

 

 

律「うん」ヒソヒソ

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

数分後...

一人で帰り道を歩く紬のあとを追っていた。

 

 

 

律「...う~ん、怪しい人影は無いな」

 

 

 

颯「とりあえず今日はね」

 

 

 

その時、後ろから誰かが話しかけてきた。

 

 

 

「何してんの?コソコソ歩いて」

 

 

 

律「うっ!...ビックリした」

 

 

 

颯「えっと~~...」

 

 

 

 

やべぇ、誰か知らねぇ!

 

 

 

律「あ、颯汰は知らなかったね。この子は成瀬(なるせ) (はる)ちゃん!」

 

 

 

律「あの時に言った、いじめを目撃した子!」

 

 

 

颯「あー!よろしく~!」

 

 

 

遥「よろしくっ!」

 

 

 

律「あ、そうだ。犯人の顔まだ覚えてる?」

 

 

 

遥「う~ん、あんまり覚えてない...現場は見たんだけどね」

 

 

 

律「そうなんだ。...じゃあ現――」

 

 

 

「遥~!先生が遥のこと探してたよ~」

 

 

 

遥「ほんと~?じゃあ、今から戻る~!」

 

 

 

遥「ごめん、りっちゃんと颯汰君!私学校に戻らなきゃいけないみたい。バイバイ!」

 

 

 

律「うん、教えてくれてありがと!」

 

 

 

颯「...」

 

 

 

僕はその時、あることを疑い始めた。

 

 

 

 

 

 

颯「...いじめ、本当に起きてるのかな」

 

 

 

律「...急にどうした?起きてるだろ。目撃者がいるんだし」

 

 

 

颯「でも、俺は目撃したわけじゃないし、成瀬さんが目撃したっていうのも嘘かもしれないよ。律も見たわけじゃないだろ?」

 

 

 

律「...そうだけど」

 

 

 

 

情報があまりにも入ってこないため、そもそも紬がいじめられているのかどうかを疑うようになっていた。

 

 

 

もし起きているなら、胸を痛めるに違いないので「彼女がいじめられている」という現実を受け入れづらくなるだろう。

 

 

 

だからといって紬のことを引いたり、疎外したりすることは絶対にあり得ない。紬じゃなくても。

 

 

 

 

好きな人が傷付いていたら守る。

それしかない。

 

 

 

 

だが、紬の方から相談してほしいと思った。

僕の方から聞き出すような形にはしたくなかった。

 

 

 

 

僕は今まで、色んな場面で紬を頼ってきた。

 

 

 

だから、たまには紬に頼られたくて。

相談してほしくて。

 

 

 

紬に相談されるまで待つことにした。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

数日過ぎてようやく時間が取れた。

今日は本当に暑いので、紬と屋内プールに来ていた。

 

 

 

水着に着替えると、プールの水に足を浸けた。

 

 

 

颯「はっ!冷てぇ!」

 

 

 

紬「きゃははっ!」

 

 

 

颯「プールに遊びに来たの、小学生の時以来かも!」

 

 

 

紬「私も!でも、ちょっと恥ずかしい」

 

 

 

 

 

颯「あのスライダー滑りたい!ちょっと上行ってくる!」

 

 

 

紬「あ、私も~!」

 

 

 

颯 (家族で遊びに来た時を思い出すなぁ~)

 

 

 

そんなことを考えながら、早歩きでスライダーの階段へと向かっていた。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

 

 

 

 

僕の見ている景色が一瞬で天井へと移り変わった。

 

 

その瞬間、お尻に衝撃を覚えた。

だが数秒後には、恥ずかしさが痛みを超えていた。

 

 

 

颯 (周り見たくねぇ...)

 

 

 

紬「颯汰君!!...大丈夫?頭打たなくてまだよかったけど」

 

 

 

颯「うん、大丈夫...はははっ!ちょっとはしゃぎ過ぎた!」

 

 

 

 

自分の転げる姿を想像すると笑えてきた。

紬は真顔で僕の顔を覗き込んで心配してくれた。

 

 

そして、白くて可愛い手を差し伸べてくれた。

 

 

 

 

颯「あ、ありがと。よいしょ!」

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

 

颯「―――こういう階段って滑りそうになるから怖いよね」

 

 

 

 

紬「濡れてるからね~、気を付けてね」

 

 

 

 

颯「...あれ?」

 

 

 

 

階段を上りきると、そこには悠がいた。

 

 

 

悠「...お~、颯汰!紬ちゃんまで!?奇遇だな~」

 

 

 

颯「あれ、悠一人?」

 

 

 

悠「ううん、下で友達がまだ昼飯食べてるから、スライダーで暇潰し中」

 

 

 

颯「そうなんだ」

 

 

 

悠「じゃあ、お先~」シュルルル...

 

 

 

颯 (そうか、悠は俺が滑るところ見てなかったんだな。悠は皆に言いふらすからなぁ~、良かった~)

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

時間を確認するとすでに13時を回っていた。

 

 

 

紬「あっ」グ~

 

 

 

颯「...昼ごはん食べよか」

 

 

 

お腹が空いたので、売店で僕は焼きそば、紬はたこ焼きを買い、プールサイドの飲食スペースで食べることにした。

 

 

 

颯「...焼きそばうまっ!」

 

 

 

紬「まあ美味しそう!いただきます!」

 

 

 

颯「熱いよ、気をつけて」

 

 

 

その言葉もきかず、紬は一口でたこ焼きを頬張った。

 

 

 

紬「...わっ!あつ~い!!お水お水!」ホクホク

 

 

 

紬は急いでコップの水を飲み干した。

 

 

 

颯「はははっ!」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

颯「ただいま」

 

 

 

紬「おじゃましま~す」

 

 

 

この後は夜店に行く予定だが、まだ昼なので一旦それぞれの家に帰ろうと思った。

 

 

だが紬に「颯汰君の家に行ってみたい」と言われたので、僕の家で過ごすことにした。

 

 

 

ピッ

 

 

 

颯「冷房つけるね。俺の部屋色々散らかってるけど気にしないで」

 

 

 

紬「うん!...すご~い!男の子って感じの部屋ね!」

 

 

 

颯「そうか?」

 

 

 

なんか紬に申し訳なくなってきた。

今さら自分の部屋が地味だったことに気付いた。

 

 

 

ベッドの近くに座っている紬は僕に背を向け、膝を崩して窓の外を眺めていた。

 

 

 

 

 

颯「紬~」

 

 

 

紬「...うん?」

 

 

 

颯「どうしたの、たそがれちゃって。最近何か悩んでるの?」

 

 

 

僕はこの言い方で聞いてみた。

すると紬はこちらの方を見た。

 

 

 

 

 

 

 

紬「ううん」ニコ

 

 

 

 

 

 

 

颯「...そう」

 

 

 

 

悩み事は無いみたいだ。

やっぱ、いじめは起きてないのかな。

 

 

 

もし起きているのなら、どうすることもできない自分が憎い。

 

 

 

そんな僕がいま、紬にできること――――。

 

 

 

今日みたいにいっぱい遊んで、一瞬だけでも嫌な事を忘れさせてあげる。

 

 

 

紬の心の拠り所となる。

 

 

 

それくらいだった。

 

 

 

颯「ちょっとお茶入れてくる」

 

 

 

紬「本当?ありがとう」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

ガチャ

 

 

 

颯「紬~、お茶いれてき――」

 

 

 

部屋に戻ってきた時には、紬はベッドにもたれていた。

 

 

 

颯 (もしかして...?)

 

 

 

回り込んで見てみると、紬はあどけない表情で眠っていた。

 

 

 

颯 (いっぱい遊んだもんね...)

 

 

 

颯 (...あ)

 

 

 

紬はクーラーの風が直接当たる所に座って寝ていた。

これでは風邪を引いてしまうので布団をかけてあげた。

 

 

 

颯 (そうだ、夏休みの課題しなきゃ)

 

 

 

紬の小さな寝息が聞こえる。

だが、この空間には僕しかいないように感じた。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

 

颯 (やっと現代文終わった~)

 

 

 

あくびをしながら伸びをしていると、ドアが開いた。

 

 

 

ガチャ

 

 

 

「颯汰~、晩ごはん食べ――」

 

 

 

母親が目を丸くして固まっていた。

 

 

 

紬「う~ん...」

 

 

 

紬は目を覚まし、母親の存在に気付くと急いで髪を整えた。

 

 

 

 

紬「...あっ!おじゃましてます!」

 

 

 

母「えっと、紬ちゃんだよね!颯汰から聞いてる!」

 

 

 

母「すごく可愛い子じゃない~!颯汰には勿体ないわね」

 

 

 

颯「母さん余計なこと言わないで」

 

 

 

紬は苦笑いしていた。

 

 

 

母「そうだ紬ちゃん。晩ごはん食べてかない?」

 

 

 

颯「いいって、大丈夫だって

ね、紬。いらないよね?」

 

 

 

紬「...じゃあ、お言葉に甘えて」

 

 

 

 

颯「...まじか」

 

 

 

母「もうすぐ出来上がるから待っててね」

 

 

 

母親は妙にご機嫌だった。

 

 

 

 

 

しばらくすると、一階から母親の「できたよ」と呼ぶ声が聞こえた。

 

 

 

颯「行こうか」

 

 

 

紬「うん!」

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

食卓にはご飯や味噌汁の他に、冷しゃぶサラダ、焼き鮭が並べられている。

 

 

 

紬「いただきま~す!」

 

 

 

颯「いただきます」

 

 

 

母「召し上がれ~」

 

 

 

 

久しぶりに食事が楽しいと感じた。

 

 

両親は僕が産まれた直後に離婚し、今まで母と二人で暮らしてきた。

 

三食はいつも母と二人で寂しく食べているので、今日は何だか新鮮な気分だった。

 

 

 

 

紬「う~ん!!とても美味しいです!」

 

 

 

母 「そう?良かった!」

 

 

 

母 (本当美味しそうに食べてくれて嬉しいわ~)

 

 

 

母「そういえば、紬ちゃんってどの辺りに住んでるの?」

 

 

 

紬「○△です」

 

 

 

母「そうなんだ!?じゃあ結構近いね」

 

 

 

紬「はい!なので颯汰君とよく下校します」

 

 

 

 

晩ご飯を食べ終えてからも紬は母親としばらくおしゃべりして、知らないうちに親しくなっていた。

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

颯「じゃあそろそろ行ってくる」

 

 

 

母「いってらっしゃい、邪魔しちゃってごめんね」

 

 

 

紬「ごちそうさまでした。とても美味しかったです!」

 

 

 

そう言い、深くお辞儀した。

 

 

 

 

〜〜〜〜〜

 

 

 

 

颯 (やっぱこの時間は人が多いな。これじゃあ紬が来ててもわかんないな)

 

 

 

 

 

紬に「ごめん。先に行ってて」と言われ、会場の入口付近で紬が来るのを待っていた。

 

 

しばらくすると、浴衣姿の紬が何故か会場内からやってきた。

 

 

 

 

紬「...」ツンツン

 

 

 

颯「あれ?もう来てたんだ」

 

 

 

紬「うん。誰を待ってるの...?」

 

 

 

颯「揚げ足を取るな!!」

 

 

 

紬「あははっ!」

 

 

 

紬「...ごめんね。着替えに帰ってたんだけど、そんなに時間かからなかったから先に着いちゃった」

 

 

 

紬「これ、颯汰君の。」

 

 

 

颯「お、綿菓子じゃん!俺の大好きなやつ!」

 

 

 

颯「くれるの?」

 

 

 

紬「うん!」

 

 

 

颯「わぁ~ありがとう!」

 

 

 

夜店で晩ご飯を買う予定だったが、紬と家で食べてきたので、買うのはやめておくことにした。

 

 

 

紬「見て、金魚~!すごくかわいいね」

 

 

 

紬はそう言うと、しゃがんで金魚を見つめていた。

 

 

 

颯「やってみる?」

 

 

 

紬「うん!」

 

 

 

紬は店の人にお金を渡しポイを受けとると、

どの子にしようか考えていた。

 

 

 

 

 

紬「あ、破れちゃった...」

 

 

 

颯「こうやってポイを少し斜めにすると破れにくくなるよ。ほら」

 

 

 

紬「ほんとだ、すごい。

...もう一回やってみる」

 

 

 

颯紬「斜めにして...すくう...」

 

 

 

紬「...やった~!すくえた!」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

その頃、健は珍しいことに律と電話でおしゃべりしていた。

 

 

 

健「―――そしたら颯汰のやつ転んだらしくてさ~」

 

 

 

律 "まじかよ!...その瞬間見たの?"

 

 

 

健「ううん、悠から聞いた」

 

 

 

律 "楽しくなってきてドジ踏むところ、颯汰らしいな。ほんと、ケガしなくてよかったよ"

 

 

 

健「...そんなおっちょこちょいな面もある颯汰が面白くて好きなんだけどね」

 

 

 

律 "ムギもそんなトコに惹かれたのかな~!"

 

 

 

 

 

健「あっ...」

 

 

 

 

律 "...ん?どうしたの?"

 

 

 

健 「...紬ちゃんのことで聞きたい事があるんだけど...」

 

 

 

律 "うん"

 

 

 

 

 

健「...紬ちゃんは颯汰の彼女...だよな?」

 

 

 

律 "う、うん...?急にどうした?"

 

 

 

健「夏休みに入る2日前の学校帰りにコンビニ寄ったんだ。」

 

 

 

健「買い終わって外に出たら、偶然紬ちゃんと会って。」

 

 

 

健「そしたら、お話したいことがあるって言われてさ...」

 

 

 

颯「どんな内容かなって思って聞いてみたらさ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健「――――――――――...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

律 "それって...マズくないか?"

 

 

 

健「マズいよな...」

 

 

 

律 "その事を颯汰が知ったら、健かムギに対してめちゃくちゃ怒ると思うよ..."

 

 

 

健「でも、それを断るのも勇気いるよ...断ったら紬ちゃんにも悪いもん」

 

 

 

律 "...まあ、そうだな。

とりあえず、颯汰には気付かれないようにしないとな"

 

 

 

健「う、うん」

 

 

 

律 "じゃ、切るよ~バイバイ"

 

 

 

健「うん、バイバイ~」

 

 

 

プツー

 

 

 

健 (颯汰、紬ちゃん。ごめんな...)

 

 

 

 

今、俺には二つの選択肢が迫っていた。

 

 

それは、一方選べば颯汰を傷つけ、もう片方を選べば紬ちゃんを傷つける内容だった。

 

 

 

 

 

紬ちゃん...何で俺なんだ...。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

紬「楽しかったね~」

 

 

 

颯「...うん」

 

 

 

時刻は午後9時30分。

僕の家の前で腰を下ろしていた。

 

 

 

紬「...ねっ、楽しかったね」

 

 

 

僕にもう一度言ったのかと思いきや、穏やかな声で金魚に話しかけていた。

 

 

 

紬「...この子の名前、何にしようかな~?」

 

 

 

紬「あ、この名前良いかも!『ソウタ』!」

 

 

 

颯「俺じゃねえか」

 

 

 

 

颯 (いま、『颯汰』って...)

 

 

 

 

颯「あ、頬に何かついてるよ」

 

 

 

紬「ほんと!?」

 

 

 

颯「さっき食べたりんご飴かな?」

 

 

 

紬「あ...私おしぼり持ってきてないかも」

 

 

 

颯「俺、多分持ってるからちょっと待って」

 

 

 

紬「本当?ありがとう~」

 

 

 

そう言い、紬は右手を出しておしぼりを受け取る準備をした。

 

 

 

だが僕はそれを無視して、紬の頬に付いている飴を拭いてあげた。

 

 

 

 

紬「あ、ありがとう」

 

 

 

 

颯 (...ほっぺ、ぷにぷにしてる)

 

 

 

 

 

 

紬「そうだ、手持ち花火しない?実は持ってきてたの」

 

 

 

颯「お、まじで?やろやろ」

 

 

 

 

紬は線香花火を手に取り、火をつけた。

すると小声で何やら呟きはじめた。

 

 

 

 

紬「がんばれっ、がんばれっ」

 

 

 

颯「何だそれっ!?」

 

 

 

紬「こうやって応援するとね、線香花火の火玉が少しの間だけど持ちこたえるの」

 

 

 

颯「そうなの?じゃあ」

 

 

 

颯「...がんばれ、がんばれっ」

 

 

 

ジュッ

 

 

 

颯「...落ちるのはや!」

 

 

 

紬「私も颯汰君のと同時に落ちちゃった...」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

颯「...」

 

 

 

紬「...」

 

 

 

線香花火を遊び終え、僕は後片付けをしていた。

 

 

辺りは静かで、夜の空気がおいしく感じられる。

 

 

 

紬「ねぇ、颯汰君」

 

 

 

颯「...なに?」

 

 

 

 

 

 

 

紬「『大切な人』って何だと思う?」

 

 

 

颯「...う~ん」

 

 

 

僕はすぐに「紬だ」と答えたかった。

だが、彼女が聞いているのはそういう事ではないだろう。

 

 

 

 

颯「...どんな時もそばにいてくれる、かけがえのない人...かな」

 

 

 

颯「気付いたら横にいた、みたいな??」

 

 

 

 

 

ありきたりな事を言った気がした。

でも本当に感謝していて、一言では伝えきれない。

 

紬にこの気持ちが伝わればいいな。

 

 

 

 

 

だけど、その言葉に矛盾する気持ちが心のどこかにあった。

 

確かに紬は、いつでも僕のそばにいてくれる。

 

 

 

 

 

 

なのに僕は、紬が遠い存在のように感じていた。

 

 

 

 

 

颯「...なぁ、紬!」

 

 

 

紬「?」

 

 

 

いきなり強い口調で呼んだからか、紬はキョトンとしていた。

 

 

 

 

颯「いきなり消え去ったりするのはやめてくれよ...?」

 

 

 

紬「...どうしたの?」

 

 

 

颯「...」

 

 

 

紬「急に消えたりできないよ、お化けじゃないもん」

 

 

 

紬「...ねっ」

 

 

 

紬は左手を出して、人間として実在していることを証明してくれた。

 

 

 

 

 

 

颯「えっ、どうしたのこの傷!?」

 

 

 

紬「これはこの前転んで擦り剥いちゃった」

 

 

 

 

 

颯「...紬も気をつけないとな」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

母「紬ちゃんもう帰ったの?」

 

 

 

颯「うん」

 

 

 

母「一緒におしゃべりして思ったんだけどさ」

 

 

 

颯「?」

 

 

 

母「結構なお嬢様なんだね...!」

 

 

 

颯「そうらしいよ。詳しくは知らないけど」

 

 

 

母「だよね!親が別荘持ってる高校生とか初めて聞いた」

 

 

 

颯「え、別荘持ってるの!?」

 

 

 

母「持ってるんだって。颯汰も初耳なの?」

 

 

 

颯「それは知らなかった...」

 

 

 

 

 

 

 

 

母「...颯汰にしかわからない魅力があるんだろうなぁ~。その反応なら、お金目当てじゃなさそうだし」

 

 

 

颯「当たり前だろ!」

 

 

 

母「初対面の母さんでも、礼儀正しいってことは分かったもん」

 

 

 

颯「...」

 

 

 

 

 

 

 

 

母「...幸せにしなさいね。」

 

 

 

 

颯「...ちょっと早くないか?その言い方」

 

 

 

母「そんなことないでしょ」

 

 

 

颯「もう結婚するみたいになってんじゃん」

 

 

 

母「おっ、するの!?」

 

 

 

颯「いや、まだできないから」

 

 

 

母「...()()?じゃあ――」

 

 

 

颯「し、しないから!!」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

悠 "まだ終わってなかったのかよ。そんなのさっさと終わらせろよ~"

 

 

 

颯「『明日やろう、明日やろう』って思ってたら、もうこんな日になってたの」

 

 

 

悠 "俺なんて、夏休み始まって1週間で終わらせたからな?面倒くさいから"

 

 

 

颯「自慢か~?」

 

 

 

悠 "自慢にならねぇだろ..."

 

 

 

颯 「...腕疲れた~、眠い」

 

 

 

 

紬とのおでかけから何日か経ち、今日は家で一日中夏休みの課題をしている。

 

 

 

明後日で夏休みが終わることに今さら気づいた。

 

 

バイトを入れすぎてしまい、途中で止めていた夏休みの宿題をするのを忘れていた。

 

なので、明日と明後日で宿題を終わらすことにした。

 

 

 

でも一人でやるのは寂しいので、今は悠と電話しながら宿題している。

 

 

悠は、暇だからゲームをしているらしく、快諾してくれた。

 

 

 

 

 

悠 "いや~学校行くの久しぶりだから、ちょっと緊張するな"

 

 

 

颯「長期休暇明けあるあるだな」

 

 

 

悠 "そういえば、おとといも今朝も、颯汰の彼女さんが制服姿で歩いてるの見たよ。何やら急いでる様子だった"

 

 

 

颯「今朝も?あ~部活だろうな。結構ハードらしい」

 

 

 

悠 "夏休み終わったらすぐ文化祭だしな。夏休み最後まで頑張ってるんだな、軽音部さん"

 

 

 

颯「...今の俺と一緒だな~」

 

 

 

悠 "『頑張る』の意味が違うけどな。颯汰は自業自得"

 

 

 

 

 

悠 "...とにかく、早く終わらせろ"

 

 

 

颯「分かった。誘った側だからごめんだけど、今からガチ集中するから電話切るね」

 

 

 

悠 "おう。頑張れよ~、バイバイ"

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

キーンコーン

 

 

 

颯「さっ、帰ろう。

あ~今日全然眠くなかったなぁ」

 

 

 

とうとう夏休みが明けてしまった。

昨日は始業式で、また今日から普通の授業が始まった。

 

 

なんだかんだたくさん遊べたので満足しているけど。

 

 

 

放課後の教室にて。

 

 

 

颯「も~、暑いってぇ」

 

 

 

紬「ジメジメしてるよね」

 

 

 

暑すぎて僕はワイシャツの襟元をパタパタ扇いでいた。

 

 

だが紬はそんな事もせず、涼しそうな顔をしていた。

 

 

 

まさかと思ったので聞いてみた。

 

 

 

 

颯「...ねぇ」

 

 

 

紬「うん?」

 

 

 

颯「...涼しい?」

 

 

 

紬「えっ??暑いよ!」

 

 

 

 

 

颯「...ですよね」

 

 

 

 

~~~

 

 

 

 

颯「暑いのは夏休みの間だけにしとけよな~」

 

 

 

颯「学校始まっても暑いと授業に集中できねぇ~」

 

 

 

紬「まあまあまあ」

 

 

 

紬は僕の不平を苦笑いで対応した。

 

 

 

紬「でももう9月だし、そろそろ涼しくなるんじゃない?」

 

 

 

健「というか、颯汰は授業中寝るでしょ」

 

 

 

颯「寝るけど...」

 

 

 

健「てか、もうすぐ文化祭じゃん。夏休み終わってからの方が楽しいこと盛りだくさんだと思うけど。学校行事以外で考えても」

 

 

 

 

颯「あ...そうだよなっ!!!」

 

 

 

 

健 (急に元気...)

 

 

 

颯「そういえば今年の文化祭、紬がメインボーカルの曲も披露するんだよね?」

 

 

 

紬「う、うん」

 

 

 

颯「俺、文化祭は全然乗り気じゃなかったけど、今年から紬達の演奏が聴けると思うと楽しみでしょうがないよ!」

 

 

 

颯「俺にとって、文化祭イコール軽音部さんのライブだから」

 

 

 

健「...お、おう」

 

 

 

颯「紬!」

 

 

 

紬「は、はいっ!?」

 

 

 

颯「準備とかで手伝えることがあったら協力するから、そこんとこよろしく頼むよ!...ちょっとトイレ行ってくる!」スタスタ

 

 

 

紬「う、うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

健「...あんなこと言ってるぞ。すげぇ張りきってるな」

 

 

 

紬「私...何だか緊張してきた。さっきまで全然だったのに」

 

 

 

 

~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

颯「そういえば放課後ティータイムのボーカルって誰?」

 

 

 

颯 (悪いけど、軽音部さんが練習してる風景あまり見ないから知らなかった)

 

 

 

紬「いつもは唯ちゃんと澪ちゃんがやってるの」

 

 

 

颯「じゃあ今年の文化祭で紬がボーカルを務める曲も、本来ならその2人のどちらかだよね?」

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

颯「...あっ、ごめん。紬がボーカルなのが嫌だから聞いたんじゃないよ!?...ただ、なんとなく気になって」

 

 

 

 

颯「...理由あるのかなって」

 

 

 

紬「...」

 

 

 

颯「もちろん嬉しいよ!!」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紬「実はね、お願いしたの。『やっていいかな?』って」

 

 

 

颯「...なんで?」

 

 

 

僕が理由を聞くと、紬は急に笑顔になった。

 

 

 

颯「オイッ!笑顔でごまかそうとするな~!」

 

 

 

 

紬「急にやってみたくなったから... かな?」

 

 

 

颯「なんで疑問形なんだ...」

 

 

 

少し前の紬は、ボーカルはちょっと恥ずかしいし、キーボードで精一杯だからできないと言っていた。

 

 

自分が普段やっていないことを急にやりたくなるのは分かる。

 

 

だが僕は、紬が2人に「ボーカルをやってみたい」とお願いしたのには何らかの理由があるのだと考えた。

 

 

 

 

紬「...」ニコニコ

 

 

 

颯「...」

 

 

 

その時僕は、紬が何かを察して欲しいという顔をしているように思えた。

 

 

 

 

 

 

颯 (...分かった。楽しみにしてるよ)

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