ある日の放課後。
教室にて、紬を含む何人かのクラスメートと一緒に文化祭の準備をしていた。
「あ、黒の絵の具使いきったからちょっと借りてくる」
「先生~、今から用事あるんで帰りま~す」
担任「は~い!お疲れさん、気をつけて帰ってね」
「颯汰と紬ちゃんバイバイ~」
颯「バイバイ!」
紬「バイバイ~!」
颯「...」
紬「...」
ついに、教室には僕と紬と先生の三人しかいなくなってしまった。
担任の先生に付き合ってるって悟られそうだな。別に問題ないけど。
颯「...紬の塗ってるところ、もうちょっとで塗り終わりそうですね」
担任「そうだな。じゃあそれ塗り終わったら、こっち手伝ってくれない?」
颯「おっけ~です」
紬「...」
黙々と色を塗っていた紬が、急に声を出した。
紬「あっ!」
颯「...どした?」
紬「ここって、塗ってはいけないとこだよね...?」
颯「うん、確か白だと思う」
紬「...どうしよう、間違えて塗っちゃった」
紬「...ごめんなさい」
颯「ううん、大丈夫だよ。ほら、こうすれば...」
紬「...」
担任「...そうやって消せるんだ、すごいな」
紬は少し落ち込んでいた。色の塗り間違えくらいは何とかなるのに。
颯 (紬の両手真っ黒...てか、制服もちょっと絵の具の汚れが...)
真剣に作業に取り組んでるのが伝わった。
...こうやって、学校で共同作業するのも楽しいな。
~~~~~~~~~~
あれからも黙々と作業を続けた。
準備が結構進んだので、今日は早めに切り上げた。
紬に「手を洗いたいから先に行ってて」と言われ、先に部室に来ていた。
部室。
ガチャ
颯「失礼しま~す」
澪「?...颯汰か。どうしたんだ?」
颯「文化祭の準備で疲れたからちょっと休憩しに来た」
澪「今日はバイト休みなのか?」
颯「うん」
颯「文化祭まであと1週間だけど、澪達のクラスは準備進んでるの?」
澪「うん、結構進んでるよ。だから今日は早めに切り上げたんだ」
颯「そうなんだ...出し物は?」
澪「...」
颯「...?」
澪「...お化け屋敷」
颯「別にテンション下がることじゃないだろ~!作る側なんだから」
澪「そうだけど...」
澪「颯汰とムギのクラスは何するの?」
颯「俺らは脱出ゲーム」
颯「あと、俺は有志でダンスもやるから見に来てね」
澪「そうなんだ!?皆にも言っておくよ!」
颯「うん、よろしく」
ジャーー
澪「...って、さっきから何してるんだ?
そこの水道、普段誰も使わないけど」
颯「ブレザーについた絵の具落としてる」
澪「部室に来る途中に水道あっただろ...何でそこなんだ!?」
ガチャ
唯律紬梓「やっほ~(こんにちは~)」
律「おっ、颯汰と澪いたんだな」
律「というか、珍しいコンビだな!二人きりで何してたのかな~澪ちゅわ~ん!」
澪「何もしてないっ!」
紬「...」
紬の表情を見ると、ほんの少しだけ悲しそうだった。だが、すぐに立て直した。
紬「...そ、そうだよ澪ちゃん!内容によっては怒っちゃうからね!」
澪「ムギ、律の冗談を本気にするな...本当に何もないから」
澪「...そんなことより練習するぞ~」
皆は練習の準備に取りかかり、紬は軽く咳払いをして喉の調子を整えていた。
颯「あっ、そっか。じゃあ俺は帰るね」
律「え、帰るの?」
颯「うん、だって今聴いちゃったらダメじゃん」
律「そっか、じゃあバイバイ」
颯「楽しみにしてるからね!バイバ~イ」
唯紬澪梓「バイバイ(さようなら)!」
ガチャ
澪「...そういえばムギ」
紬「?」
澪「颯汰が有志でダンスするらしいよ。知ってた?」
紬「えっ」
唯「そうなんだ~見に行こ~!」
律「颯汰ってダンス出来るんだ!」
梓「本番見逃さないようにしないとですね!」
紬 (知らなかった!...私も本番に向けて頑張らなきゃ)
紬 (もっと颯汰君に――――!)
~~~~~~~~~~
颯「はぁ...はぁ...疲れた...」
はっきり言うと、ダンスは苦手だ。
文化祭の有志でダンスをすることになったのは、悠に「一緒にやろう」と誘われ、何となく入ったのが理由だ。
でも、やるからには本気でやろうと思う。
1年の時の文化祭は、あまり楽しくなかった。
だから、こうやってダンスをすると思い出が作れるんじゃないかと思い、入ったのだ。
それに今より、紬にカッコいいと思われたいしな~。
時刻は午後9時を回った。
家から少し離れた河川敷でダンスの練習をしている。
本格的に運動するのは久しぶりだから、すぐに息切れしてしまう。
颯 (走り込みから頑張ろうかな...今後のためにも)
そう思いつつも、先に振り付けを覚えてしまいたいので、ダンスの練習を続けることにした。
颯 (1、2、3、4、5、6...)
キキキッ...
梓「...」
梓 (あれ、颯汰さん?)
梓「...こんばんはっ」
颯「うお...!っと、梓ちゃんか」
梓「こんなところで練習してたんですね」
覚えるのに夢中になっていて、梓がいることに気付いてなかった。
梓に踊ってるところを見られて、正直恥ずかしかった。
本番ではたくさんの人に見られるのに大丈夫かよ!っていう話だけど。
梓「颯汰さんって、ダンス習ってたんですか?」
颯「ううん。習ったことないし、なんなら苦手だよ」
梓「そうだったんですね、すみません。ダンスを披露するって聞いて、上手だと勝手に思い込んでました」
颯「ま、本番までには絶対に上手くなるから!」
颯「...てか梓ちゃんこそ、こんな時間に自転車乗って何してるの?」
梓「欲しいものがあったので、コンビニまで...」
颯「そっか...でも気をつけてね」
颯「梓ちゃんのような可愛い猫が夜にウロウロするのは危ないよ...」
梓「ですよね、すみません...」
颯「...」
颯 (スルーしないで...)
梓「あの、颯汰さん...」
颯「...?」
梓「私、猫じゃないです」
颯「いや知っとるわ!!何だその微妙なツッコミは!」
梓「...」ニコッ
颯「そういや、梓ちゃんのクラスは何やるの?」
梓「私のクラスはメイド喫茶です」
梓「颯汰先輩のダンス、先輩方と見に行きますので頑張って下さいね!それじゃあ失礼します」
颯「うん!バイバイ」
颯 (...さて、梓ちゃんと久しぶりにお喋りできたことだし、俺も帰ろう)
~~~~~~〜〜〜〜〜
颯(ついに、この日が来たか...)
颯「おはよー...」
健「おはよ!...って、元気無いじゃん。どうした?」
颯「緊張してるんだよ~...失敗したらどうしようって考えちゃう」
健「一生懸命練習したんだろ?楽しみなよ」
颯「うぅ...」
河川敷で練習してた日から1週間が経ち、今日は文化祭。
練習してきたこの期間、体の色んなところが筋肉痛になったが、そんなの気にしている場合じゃない。
颯「ちょっとそのプログラム表見せて~」
健「はいよ」
颯 (どれどれ...軽音部の演奏�は最後で、ダンスはその3つ前か...)
颯「おっけーありがと」
健「そろそろ開店の時間だし、俺はすぐに店番だから回ってきなよ」
颯「そっか、じゃあ行ってくる」
颯 (とは言うものの、特にすることは無い...かな)
友1,2「「颯汰!一緒に回ろうぜ~」」
2人のクラスメートが誘ってくれた。
颯「お、いいよ~」
友1「颯汰はどっか回りたいトコある?」
颯「う~んとね...あ、お化け屋敷かな」
友1「おっけい!行こう~」
~~~~~~~~~~~~~
颯 (この中にいるのかな、澪達)
澪達のクラスのお化け屋敷に少しの列ができていた。
颯「...あれ?律じゃん」
律「そうなんだよ~、始まってすぐの時間帯の受付任されてさ~」
律「澪も今店番してるよ」
颯「...じゃあ今、この中に?」
律「うん」
颯「そうか。怖がりな澪が驚かす役とか面白そうだな」
すると、お化け屋敷から出てきた生徒達の会話が聞こえてきた。
「ここのお化け屋敷、入った時怖そうだったけど、怖くなかったね」
「うん。そんなにビックリする場面が無かったな」
颯 (口に出さなくていいだろ!!)
~~~~
颯 (...暗いな)
カランコロン
颯「うぇっ!?」
颯 (え!?結構怖いじゃないか!)
友2「...颯汰も他人の事言えねぇじゃねーか!」
颯「怖くないよ、ちょっとビックリしただけ」
友1,2「「...」」
道を探りながら歩いているその時だった。
「そ...う...た...」
颯「なになになに!?!?」
僕はそう言いながら、そのお化けの顔を見つめた。
お化けの正体は澪だった。
颯「何だ澪かぁ~~、危なかった。ビックリして顔叩いちゃうところだったよ」
颯「...お化け屋敷はね、驚かすタイミングが命なんだよ!」
澪「...」
澪は、お化けの化粧をしていて表情がわかりづらかったが、難しいそうな顔をしていることが分かった。
颯「澪の驚かすタイミングが遅れちゃったから、俺は驚かなかったの。だから~~」
友1 (何のレクチャーだよ...客の中でお前が一番驚いた人だから、絶対。)
〜〜〜
健「それでは、頑張って下さい~!」
健 (あと10分くらいで交代できる...)
健「次のかた~...!」
目の前には紬ちゃんが立っていた。
健「...紬ちゃん、そろそろ店番だっけ?」
紬「ううん、まだだよ」
健「だよね...?遊ぶの?」
紬「うん」
健「いやいや、脱出方法知ってるから面白くないでしょ!喫茶店とかなら分かるけど」
紬「...そっか」
健 (いや~天然で可愛いかよぉ)
「健君~、そろそろ交代だよ~」
健「了解!」
健「俺今から適当に回ってくるから、講堂で会おう!紬ちゃん!」スタスタ
紬「うん!」
そう言い、健君は階段へと向かっていった。
紬 (...そうだ、部室で練習しておこう。失敗できないから...)
~~~~~
紬 (こんなに緊張しててちゃんと歌えるかしら...)
部室に行く前に、緊張を和らげるためにトイレに来ていた。
すると、誰かが入ってきた。
遥「...あ」
紬「あ、遥ちゃん」
遥「何してるの?こんなとこで」
紬「私、この後の軽音部の演奏でボーカルをするの。『どうしてもやりたい』ってお願いしたから」
紬「でも緊張しちゃって。静かな場所に来ようと思って」
遥「だったらこの時間、練習したほうがいいんじゃないの?」
紬「う、うん。そうよね...」
~~~~~~~
悠「よし、完璧だな」
颯「うん」
悠「颯汰ありがとうな。有志のダンス、一人じゃ心細いから誘ったんだ」
颯「ううん、俺こそお礼を言いたいよ」
颯 (...カッコいいところを見せる時が来た!)
悠「でも、あんまり無理するなよ?」
颯「...うん」
お化け屋敷で遊んでから1時間ほど経った。
今、僕と悠は、人がいない階段の踊り場でダンスのおさらいをしていた。
悠「よし、そろそろ戻るか」
颯「そうだな」
悠「...ちょっと喉乾いてきたな」
颯「ちょうどよかった、喫茶店行こうぜ」
悠「うん」
~~~
梓のクラスの喫茶店に着いた。
颯 (梓ちゃんは確かこのクラスだったよな?)
「いらっしゃいませ~2名様ですか?」
颯「はい」
「金券貰いま~す」
教室内を見渡しても梓の姿はなかった。
颯 「...部室で練習してるっぽいね」
悠「多分ね。唯達も、うちの教室にいなかったし」
颯「あ、そうだ。俺、講堂に行く前に部室行ってくる」
悠「なんで?時間大丈夫か?」
颯「う〜ん...多分大丈夫」
~~~~~~~~~~
ジャジャーン!!
律「うん、完璧だな」
澪「...そろそろ移動するか」
唯 「機材運ばなきゃだね...この量は2往復かなぁ」
あと10分くらいでダンスが始まる。
軽音部員は部室に集まり、始まるギリギリまで音合わせをしていた。
颯汰君達は今頃、講堂で待機しているのかな。
梓「さあ急いで運びますよ。よいしょっ」
紬「よいしょっと」
紬 (この機材、ちょっと重たいな)
ガチャ
健「失礼しま~す」
律「...ん、どうしたの?」
健「機材運びを手伝おうと思いまして~」
律「マジで?ありがとうー!」
律「あ、じゃあ、ムギが持ってるの重いやつだから手伝ってあげてー」
健「承知しました!」
紬「あら、手伝ってくれるの?ありがとう~!」
健紬「「せーのっ!」」
~~~~~~~
紬「健君、ありがとうね。もうちょっとだからね」
健「全然大丈夫だよ~」
健 (ドキドキする...)
廊下を歩いていると、前方から颯汰が駆けつけてきた。
颯「お、運んでる!」
律「え?颯汰!?もう始まるんじゃないの?」
颯「大丈夫だよ!機材運ぶの手伝いに来た!」
律「なんで?」
颯「だってこの量じゃ、運んでる最中にダンス始まっちゃうでしょ!」
律「手伝ってくれるのはありがたいけど、颯汰が間に合わなくなるぞ...」
~~~~~~~
健「皆~!ここだよ。ちょっと後ろ気味だけど許して!」
講堂の袖に機材を運び終え、僕が取っておいた席に皆を連れてきた。
律「開けておいてくれたんだ、ありがとう~」
唯「颯汰君よく間に合ったね」
澪「多分、衣装も着替えなくちゃいけないのに」
その瞬間、ブザーと共に講堂内の照明が消え、ステージの幕があがった。
梓「あ、始まりますよ!」ヒソヒソ
舞台の照明がつくと共に、音楽が流れ始める。
律「颯汰はどこだ~?」
澪「あ、いた!あそこ!」
唯「あ、ほんとだ~!あの服似合ってるね!」
律「...あ、そういえば、颯汰の私服姿まだ見たことないな。あんな感じなのかなぁ?」
澪「だとすれば、すごくオシャレだな。ちょっと派手だけど」
澪「...なあムギ、颯汰の私服ってあんな感じなのか?」
紬「...」
目線からして、紬は颯汰だけを見つめているような気がする。
澪 (...ムギのこんな真剣な表情見たの初めてかも)