幻の流れ星   作:きなこモチ

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文化祭 2

颯「...」

 

 

 

パフォーマンス中の今も緊張が続いているため、練習の時より体力の消耗が早い。

 

 

走り込んでおいてよかった。

 

 

 

 

颯 (俺。今こそリラックスするんだ)

 

 

 

 

颯 (...いや、自分に言い聞かせないほうがリラックスできるかも?)

 

 

 

 

リラックスするために、僕が取った行動は...。

 

 

 

 

颯 (紬達、どこにいるのかなぁ?...あ、しまったぁ~~!)

 

 

 

 

紬達がどこで見てくれているのか探していた。

 

そんな余計な事をしたせいで、振り付けを間違えてしまった。

 

 

 

 

彼女達の姿を見つけることが出来たら、少しはリラックスできると思うんだけどな。

 

 

 

 

気にしないで振り付けの事だけ考えていよう。

 

 

 

それと...。

 

 

 

 

 

 

 

 

最後のやつ、成功するかな―――。

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

梓「おお~すごいなぁ」

 

 

 

梓 (颯汰先輩、ダンス苦手だって言ってたけど、そんな風に見えない)

 

 

 

 

ダンスは終わりを迎えようとしている。

 

 

2つ右隣に座っているムギ先輩を見ると、手拍子しながら目を輝かせていた。

 

 

 

 

唯「すごく練習したんだろうなぁ」

 

 

 

 

 

「「「おおおお~~~!?」」」

 

 

 

颯汰先輩を口々に褒める先輩達を見つめていたら、周りの人達が突然声をあげ始めた。

 

 

 

 

 

澪「え?何が起きるの!?」

 

 

 

颯汰先輩を見てみると、さっきよりも真剣な表情になっている。

 

 

 

 

その時、颯汰先輩達は一斉に華麗なバク転を披露した。

 

 

 

 

 

 

「「「おーーーーー!!!!」」」

 

 

 

 

 

 

歓声があがると共に音楽は終わり、ダンスは終了した。

 

 

 

 

唯「えっ!?すごいね!!今のバク転どうやったんだろ??」

 

 

 

 

澪「いつの間にあんな練習してたんだ!?」

 

 

 

 

梓「カッコよかったですね...!特に最後の!」

 

 

 

 

律「ああ!すごかったな!!」

 

 

 

 

健「バク転......俺にも教えてくれぇ」

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

 

ムギ先輩はダンスが終わると、心を奪われた様子で、拍手をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

だが...。

 

 

 

 

次の律先輩の一言で、私達の間だけにイヤな空気が流れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

律「...ちょっと待って。何か颯汰の様子がおかしくないか?」

 

 

 

 

 

 

 

健唯澪紬梓「「「...え?」」」

 

 

 

 

 

 

 

慌ててステージを見ると、すでに颯汰君の姿は無い。

 

 

 

颯汰君は私達の方に向かってるだろうから、来るのを待つことにした。

 

 

 

健「俺ちょっと颯汰の様子見てくるわ」

 

 

 

律「うん...」

 

 

 

そう言い、健君は人混みをかき分けながら、ステージにつながる出入口に向かって走ってく。

 

 

 

紬「...」

 

 

 

唯「颯汰君...何もないといいけど...」

 

 

 

 

 

少しすると、講堂の端から健君と颯汰君が歩いて来た。

 

 

 

 

颯「...」スタスタ

 

 

 

 

律「颯汰!...ここから見てて、颯汰の様子が変だなって思ったんだけど...どうかしたの...?」

 

 

 

 

颯「律...すごい観察力だな」

 

 

 

律「...え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

颯「...腕折れたかもしれない」

 

 

 

 

健唯澪梓「「「え...!?!?」」」

 

 

 

 

 

澪「救急車呼んだ方がいいんじゃないか...?」

 

 

 

颯「ううん、呼ばなくていい...よ」

 

 

 

梓「腕見せてもらってもいいですか?」

 

 

 

颯「うん...あ"っ!!!」ズキン

 

 

 

梓「あ!動かさなくて大丈夫です!!」

 

 

 

梓「あ...ココがちょっと...」

 

 

 

 

折れてるなら痛いはずなのに、颯汰は平静を装っている...なんで?

 

 

 

 

律「痛い...よな?」

 

 

 

颯「めちゃくちゃ痛い」

 

 

 

紬「病院行こう...?あ、その前に先生に言わなくちゃ」

 

 

 

健「うん。颯汰連れて、近くにいる先生に報告してくる」

 

 

 

健「皆はこれから演奏あるんだし、ココにいてて」

 

 

 

唯「うん...」

 

 

 

 

律「...」

 

 

 

颯「...いぃぃ...!」

 

 

 

 

私達に背を向け、うつむく颯汰の顔を見てみた。歯を食いしばっている。

 

 

 

 

健「それじゃあまた後で。颯汰、行くぞ」スタスタ

 

 

 

 

唯「大丈夫かな...」

 

 

 

 

梓「...」

 

 

 

 

周りはとても賑やかなのに、私達の間には沈黙が流れている。

 

 

 

 

 

澪「颯汰のこと気になるけど...私達もそろそろだし、今は準備しよう」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

 

颯汰君がこの講堂からいなくなってからしばらく経ち、ついに軽音部の披露する時間が来た。

 

 

 

ステージに立っている今も、不安な気持ちでいっぱいだ。それは皆も同じだと思う。

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

律「ムギ、笑顔」

 

 

 

紬「...うん」ニコ

 

 

 

暗い顔になってるということ、律ちゃんに教えてもらった。自分でも気付かなかった。

 

 

 

こんな表情、幕があがっても出してしまわないように気を付けなきゃ。

 

 

 

 

澪「皆、準備は出来たよな?」

 

 

 

律「うん」

 

 

 

澪「...幕、上げてください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

紬「あっ、ちょっと待って!」

 

 

 

澪「どうしたムギ...?」

 

 

 

紬「急にごめんね」

 

 

 

唯「...?」

 

 

 

 

 

 

 

紬「私がボーカルする曲を披露する直前、少し話す時間貰ってもいいかな...?」

 

 

 

唯「...うん、いいよ!」

 

 

 

 

紬「ありがとう」

 

 

 

 

 

本当は、話をする予定など全くなかった。

 

 

 

だけど、言わなければいけないことが今、できたから。

 

 

 

内容なんて全く考えてなかったけど。

 

 

 

もちろん、あの人には声は届かない...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

でも、きっと想いは届くはず...

 

 

 

 

 

 

 

ゆっくりと幕が上がり始める。

 

 

 

 

唯「皆さんこんにちは~、放課後ティータイムです!」

 

 

 

幕が完全に上がりきると、唯ちゃんは手元のマイクを持って喋り始めた。

 

 

 

本当、唯ちゃんのMCは安心して聞いていられる。

 

 

 

 

紬 (...健君、あそこにいる...って私、こんな時に何してるの...)

 

 

 

 

唯「――それでは聴いてください、ふわふわ時間!」

 

 

 

唯ちゃんのギターで演奏が始まる。

そして、他のパートがそれに続いて次々と演奏し始めた。

 

 

そして私も、練習通りキーボードを弾き始めた。

 

 

 

 

紬 (颯汰君...)

 

 

 

 

~~~~

 

 

 

 

健「颯汰、大丈夫かなぁ」

 

 

 

悠「ま、大丈夫だろ」

 

 

 

健「...あいつ、絶対無理したよな」

 

 

 

悠「颯汰は、チャンスだと思ったら全力でぶち当たろうとするからなぁ」

 

 

 

悠「...あいつの良いところなんだけどな」

 

 

 

健「そうなんだ」

 

 

 

健 (さすが悠...!幼馴染なだけあって颯汰のことよく知ってるな)

 

 

 

 

悠「でも今回のは、ぶち当たった結果が怪我だもんな...。無理はするなって言ったのに」

 

 

 

 

 

健「...紬ちゃん、颯汰には絶対聴いてほしかっただろうな」

 

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

紬「...」

 

 

 

私がボーカルするのは3曲目。

 

 

 

今は、2曲目。もうすぐ終わる。

 

 

 

...というより、いつの間にか終わりそうになってた、と言った方がいいかも。

 

 

 

なぜなら颯...ううん、皆に向けて言うセリフの事で頭がいっぱいになっているから。

 

 

 

もちろんキーボードも一生懸命練習したから目立ったミスはしてないけど。

 

 

 

 

ジャジャーン!!

 

 

 

唯「...聴いてくれてありがと~!!」

 

 

 

 

唯ちゃんのその言葉と同時に歓声が上がる。

 

 

 

 

唯「次は3曲目ですが――」

 

 

 

紬「...」

 

 

 

私は軽く深呼吸をした。

 

 

 

 

唯「ムギちゃん、任せたよ...!」ヒソヒソ

 

 

 

紬「...うん」

 

 

 

 

 

 

唯「...その前に、琴吹紬ちゃんのMCです!」

 

 

 

 

そう言い、唯ちゃんは私のキーボードの前にマイクをセットした。

 

 

 

 

 

 

紬「えっと...皆さんこんにちは~。キーボード担当の琴吹紬です」

 

 

 

 

 

紬「...この場を借りて、皆さんにひとつ、質問をしたいと思います」

 

 

 

 

 

 

 

紬「皆さんは『ありがとう』という感謝の気持ち、どんな相手に伝えますか?」

 

 

 

 

 

 

紬「私は、何かを手伝ってくれた相手、プレゼントをくれた相手、それに――」

 

 

 

 

 

 

 

紬「...どんな時も一緒にいてくれる相手に。」

 

 

 

 

 

 

紬「...でも『ありがとう』の言葉だけじゃ、感謝の気持ちを伝えきれない時があります」

 

 

 

 

 

 

 

 

紬「そんな時は...音楽で伝えてみましょう...!」

 

 

 

 

 

 

 

紬「私は、言葉で伝えるより音楽で伝えた方が相手に気持ちが伝わりやすいと思うのです」

 

 

 

 

 

 

 

紬「今、こうして皆さんが私達の演奏を聴いてくださって、本当に感謝しています」

 

 

 

 

 

 

 

紬「そんな感謝の気持ちを次の曲に込めて歌います」

 

 

 

 

 

 

 

 

紬「...それでは聴いてください、『ぴゅあぴゅあはーと』!」

 

 

 

 

 

 

 

律「ワンツースリーフォー!」

 

 

 

 

律ちゃんがドラムスティックでカウントをとる。

 

 

それを頼りに、各パートも演奏を始めた。

 

 

 

 

 

紬「頭の中想いでいっぱい」

 

 

 

 

よし、出だしはバッチリ!

 

 

 

 

紬「あふれそうなの ちょっと心配」

 

 

 

 

ピアノもうまく弾けてる。

 

 

 

 

 

紬「とりあえずヘッドホンでふさごう」

 

 

 

 

 

澪「Don't stop the music!」

 

 

 

 

 

 

 

澪ちゃんのコーラスが、私の背中を押してくれているような気がした。

 

 

 

 

 

 

 

ボーカルは緊張するし、キーボードを弾きながらで少し難しいけど...

 

 

 

 

 

今までにない感情を抱かせてくれる。

 

 

 

 

 

紬「欲しいものは欲しいって言うの」

 

 

 

 

 

 

紬「したいことはしたいって言うの」

 

 

 

 

 

いつのまにか、聴きに来てくれている皆ではなくて、颯汰君に向けて歌っている気になっていた。

 

 

 

 

 

 

紬「だけど言えない言葉もあるの」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

悠「それにしても可愛いよね、紬ちゃん」

 

 

 

健「...」

 

 

 

悠「...健?」

 

 

 

健「...ああ、そうだね」

 

 

 

悠「健...お前まさか、紬ちゃんの事好き?」ヒソヒソ

 

 

 

健「え?...あ、ううん。好きじゃないけど...?」

 

 

 

悠「...まあ、一生懸命な子って好印象だよな」

 

 

 

健「...」

 

 

 

 

悠の言うとおり、俺は紬ちゃんが―――。

 

 

 

 

 

 

 

でも、友達の彼女に手を出しちゃいけない。

 

 

 

そんな自分の考えが、紬ちゃんに対する想いを無関心で踏みとどまろうとする。

 

 

 

 

 

 

健「...それにしても上手いなぁ。歌もキーボードも」

 

 

 

 

 

夢中になっていたら、曲は終わりを迎えていた。

 

 

 

 

健「...あ、颯汰に見せるために写真だけでも撮っておくか。動画だと、今からは中途半端だしな」

 

 

 

 

 

~~~~~~~~

 

 

 

 

悠健「「お疲れ様~!!」」

 

 

 

4曲全ての演奏が終わった。

5人は舞台から降り、僕達のもとに来た。

 

 

 

悠「いや~すごくよかったよ!」

 

 

 

唯「ほんと~?ありがとう~!」

 

 

 

律「それにしてもムギ、キーボードはもちろん、ボーカル上手すぎだろー!」

 

 

 

紬「ありがとう~!でもすごく緊張したわ~」

 

 

 

健「...」

 

 

 

 

紬ちゃんの目を見ると、少し潤んでいた。

 

 

 

 

梓「私、ムギ先輩の歌声聴くの初めてで、『上手だな~』って、聴きながら演奏してました!」

 

 

 

 

澪「私もムギの鼻歌なら聴いたことあったけど、ちゃんと歌ってるのは初めて聴いたよ!」

 

 

 

 

唯「新鮮だったね~」

 

 

 

 

 

 

そんな会話を交えながら、僕達は機材を片付ける作業に入った。

 

 

 

 

 

~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

放課後、部室にて。

 

 

 

唯「はぁ~!やっと部室に戻ってこれた~」

 

 

 

 

紬「でも、ごめんね。急にボーカルするなんてワガママ言って...」

 

 

 

唯「謝ることじゃないよ!...ムギちゃん、これからもやってみない?」

 

 

 

紬「ううん。やっぱり、ボーカルは唯ちゃんと澪ちゃんがいいな~」

 

 

 

唯「...やった!」ヨシッ!

 

 

 

律「やりたいなら聞くなよ...」

 

 

 

唯「違うよ!褒められたから喜んでるんだよ!」

 

 

 

律「そういうことか」

 

 

 

 

 

律「...でもさ~、感謝の気持ちを伝えるんなら、MCもボーカルする曲も、4曲目の『U&I』のほうが良かったんじゃないか?」

 

 

 

唯「あ、それ私も思った~」

 

 

 

 

紬「それは...颯汰君には『ぴゅあぴゅあはーと』の歌詞の気持ちを伝えたかったからなの!」

 

 

 

 

律「颯汰に対する想いをメインに...でも、皆にも感謝の気持ちを伝えたかったってこと?」

 

 

 

紬「うん」

 

 

 

 

 

律「...そういうことだったのか...彼氏のいるムギがうらやましいーーー!!」

 

 

 

 

唯「ムギちゃん欲張りさんだね~」

 

 

 

 

梓「...でも、颯汰先輩が途中で抜けて、ムギ先輩の歌聴けませんでしたけど...それでいいんですか?」

 

 

 

紬「...えっ?」

 

 

 

梓「リベンジしないんですか...?」

 

 

 

 

 

紬「...まあ、でも――」

 

澪「日を改めて、颯汰に演奏を聴かせるのがいいんじゃないか?」

 

 

 

 

律「あ、それいいなー!」

 

 

 

梓「じゃあ、いつ頃にするのか考えときましょう?練習したほうが良いでしょうし」

 

 

 

 

梓「...私が失敗して台無しにしてしまうとか...そんなの嫌ですよ?」

 

 

 

 

 

律「梓、何言ってるんだ?練習するのはムギだけだぞ?」

 

 

 

 

 

唯梓澪「「...え?」」

 

 

 

 

梓「...あっ、そ、そうでしたね!」

 

 

 

 

律「うん!」

 

 

 

 

紬「...???」

 

 

 

律「ムギっ!」

 

 

 

紬「はいっ!?」

 

 

 

 

律「空き時間の時に、この部室に颯汰を連れて、演奏を聴かせてあげて...!」

 

 

 

 

 

 

紬「律ちゃん...みんな、ありがとう~!やってみる!」

 

 

 

 

再び、感謝の気持ちを込めた歌を贈ることになった。

 

 

 

 

でも今度は、気持ちを伝える人も、受け取る人も一人だけ。

 

 

 

 

人数は今日よりも遥かに少ないのに、きっと今日よりも緊張するだろう。

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