機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二章「海の世界で」
第八話 宇宙から来るアルテイシア


 

 

ポタリ。

 

無重力が支配する宇宙では、ありえないはずなのに。

 

水が滴るような音が聞こえたような気がした。

 

 

 

 

 

 

密閉型の宇宙コロニー、プロヴィンギア。

 

宇宙世紀末期に建造されたこのコロニーは、人類未到の世界である「太陽系外宇宙」を目指す目的を与えられて産み落とされた。

 

プロヴィンギア船団。いくつもの密閉型コロニー郡で形成され、ソーラーセイルによる推進機構を有した船団。

 

星系間を移動するために創設された最初の探査船団は、人類が開発した「ガンダム」を旗印に太陽系の外へと足を進めた。

 

だが船団が太陽系を脱出した直後に事件は起こった。

 

謎の宇宙嵐がプロヴィンギア船団を襲ったのだ。その被害は甚大で、多くの密閉型コロニーが、それに住まう人々ごと犠牲となった。

 

地球圏との交信手段も奪われ、ソーラーセイル推進機も壊滅的なダメージを負った船団は、旗艦コロニーでなるプロヴィンギアを残して全滅。

 

それでも僅かに生き残った人々を抱えて宇宙を漂うプロヴィンギアは、奇跡にも等しい惑星を発見した。

 

大気があり惑星表面の95%が海水で覆われた星、ソラリス。

 

プロヴィンギアはソラリスを第二の居住惑星と定め、その星へと根を下ろし、生活圏を築き上げていった。

 

それから、150年あまり。

 

プロヴィンギアとソラリス。その二つをめぐる物語は、大きく動き始めようとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「アルテイシア様」

 

 

扉をノックする音と共に聞こえた侍女、「ロザエ・ブラッディ」の声に目元を隠すマスクを身につけ、頭部を覆うヘルメットのような装飾品を被る。

 

少女、「アルテイシア」は自室を後にしながら待ち侘びていたロザエに応じた。

 

 

「ええ、わかっていますよロザエ。今の私がなぜこのマスクを身につけているのかという理由くらい」

 

 

伸びる髪を無重力に靡かせながら進むアルテイシアは、迎えにきた侍女の言い分をわかっているかのように答えた。

 

アルテイシアが顔を隠すマスクを身につけているのは、彼女の父であり、コロニープロヴィンギアを治める当主でもある「ベンジャミン・ステンシー」から与えられた使命を果たす為であった。

 

 

「ベンジャミン・ステンシー卿が求められるものは、かつて我々が保有していた一機のMS、ガンダムです」

 

 

惑星ソラリスの浮遊都市のひとつである「メガロ・ステイト」を襲った巨大な海棲生物。その悲劇の最中に確認された「ガンダム」が放った波長を、コロニープロヴィンギアは捕捉していた。

 

それは探して求めていた物で間違いなく、プロヴィンギアの当主が何代にも渡って探し求めてきた失われた遺産でもある。

 

 

「そのガンダムはステンシー家の未来に栄光と称賛をもたらすと言い伝えられてきました。あの青いソラリスのどこかに隠されているとも」

 

 

なにせ100年も前の話だ。それが眉唾物の作り話であると誰もが笑っていたが、ステンシー家はその遺産をずっと追い求めてきた。

 

そのガンダムが現れた以上、何としてもガンダムを手に入れなければならない。

 

 

「故に、我々には最新鋭のMSが与えられ、ソラリスに降りて………」

 

「分かっています、ロザエ・ブラッディ」

 

 

コロニーの中核部に位置するステンシー邸宅から直通でつながるエレベーターへと乗り込んだアルテイシアは、共にソラリスへと降りる役を担うロザエを見つめた。

 

 

「ステンシー卿の悲願のためにも、私は誰も負けるわけにはいかない。誰にも……たとえそれが、ガンダムであったとしても」

 

「それでこそ、マスクを被りしアルテイシア様ですよ」

 

 

褒め言葉にはしては色気がないですね、とアルテイシアがロザエに言う頃には、エレベーターはプラットホームを経由して目的の資源工廠へと到着していた。

 

ヒラヒラした服は無重力の中では破廉恥で不自由なので、アルテイシアもロザエもノーマルスーツをすでに着用している。

 

飛んで二人が入る工廠内部は、ソラリスの漁業組合に供給されるMD(モビルダイバー)や、コロニー修繕用のプチモビ、MS(モビルスーツ)が所狭しと並んでいて、通路から向かって右側に飛んでゆくと、待機していたプロヴィンギアの技師がアルテイシアたちに手を挙げて合図を送った。

 

 

「お待ちしていましたよ」

 

 

無重力の中で着地するアルテイシアたちを支える技師、「ラーディア・フラナガン」は自信有りげに二人を出迎える。

 

こちらですと案内された先は、プロヴィンギアでも貴重な資源を使って作成されるMS用の専用工廠だ。

 

ラーディアがかざしたIDからパスワードを読み取って開いた扉の先にあるものを見上げ、アルテイシアは感慨深そうに声を漏らす。

 

 

「この機体が………」

 

「ええ。これこそが我がプロヴィンギアが開発した最新鋭MS、ドゥン・ポーです」

 

 

REV-81 ドゥン・ポー。

 

外宇宙用に開発された「REV(レヴ)シリーズ」の最新モデルで、旧式となった79型のロンデリアと比べるとマッシブなプロポーションのように思える。

 

ラーディアが取り仕切るフラナガン工廠が作り上げた新作は、機体各所にスラスターノズルが配置されており、見た目によらず高機動戦闘を可能にしている上に、換装すればソラリスの海中にも対応できる汎用性が持たされていた。

 

さすがは次期主力のMS、とアルテイシアは感心する。戦争なんてしないプロヴィンギアとソラリスでは完全に宝の持ち腐れだが、ソラリスで採取できる鉱石から何が作れるかの研究は必要だ。

 

故に、長い時間をかけて完成度の高い新型MSを製造できるし、それに乗り込むこともできる。

 

 

「アルテイシア様の要望通り、貴方の機体の頭部は変更してあります」

 

 

技師が案内した3機のドゥン・ポーの頭部は、ロザエや他隊員が乗る機体はモノアイであるが、アルテイシアが乗る専用機はV字型のアンテナと二つのカメラアイが備わっている。

 

いわゆるガンダム顔。実はこの形の頭部は珍しい物ではなく、旧式の機体の中にも何機かは特殊製造されたガンダム顔の機体もある。

 

プロヴィンギアにとって神格化されたガンダムの顔は験担ぎのような意味合いを持っていた。いかにもな外観を見て、アルテイシアは満足そうに頷く。

 

 

「二つの目、そしてV字型のアンテナ。相手がガンダムならば、私自身もガンダムに乗りこなさなければならない」

 

「ええ、アルテイシア様。貴女もまたガンダムに選ばれしパイロットなのです」

 

 

技師の隣にいたロザエがすかさずアルテイシアの言葉に同意する。

 

相手がガンダムならこちらもガンダムでなければ役不足というものだろう。父であるベンジャミンの言葉を思い返して、アルテイシアは自己暗示をするように繰り返し口ずさむ。

 

 

「ガンダムに乗ってるのだから、私がガンダムに負ける通りなど有りはしません」

 

 

ガンダム顔をしたドゥン・ポーを見上げた彼女は踵を返すように無重力の中へと飛び上がると、用意された大気圏降下用ポッドの元へと向かった。

 

 

「班長、積み込み作業はいかがか」

 

「ええ、すでに降下に必要なものはすべて」

 

「よし、アルテイシア隊は出発準備を進めてください」

 

 

部隊の指揮もベンジャミンの許可でアルテイシアが執ることになっている。

 

まったく、厄介なことに巻き込まれたものだと侍女のロザエは忙しく確認作業をしているアルテイシアを眺めながらふん、と鼻を鳴らした。

 

 

「あんなマスクを付けないと戦えないとはねぇ」

 

「口が過ぎるぞ」

 

「はっ、申し訳ございません」

 

 

他の隊員がつぶやく言葉をやんわりと諌める。アルテイシア隊といったら体裁はいいだろうが、用はガンダムが見つかったんだからソラリスに探しにいってこいと集められた集団に過ぎない。

 

マスクを付けた少女隊長も、MSの操縦センスは認めるが部隊を束ねる者の器ではないということを、ロザエはよくわかっていた。

 

彼女のことはまだ言葉が拙いころから侍女として面倒を見ている。歳を追うごとに亡くなったベンジャミン当主の奥方に似ていくことも知っているし、ベンジャミンがそれを嫌って彼女にマスクを付けさせているという情けない事情も。

 

 

「あの小娘がマスクをつけて、ガンダム顔の機体に乗った程度で戦士になれるものか」

 

「ドゥン・ポーの性能は約束できます」

 

 

ロザエの言い分を聞いたラーディアは反発するように訴えたが、彼女は意地悪い笑みを浮かべて技師である彼をなじった。

 

 

「カタログスペックで全てを語れるなら、パイロットもメカニックもいらないものさ。それを十全に扱ってこそ、プロってものだろう」

 

 

まもなくして、全てのドゥン・ポーとソラリス大気内で行う作戦に必要な物資が積み込まれた降下ポッドは、コロニープロヴィンギアのカタパルトへと乗せられてゆく。

 

 

《大気圏突入ポッド、射出準備完了!》

 

 

卵の上半分を切り取ったような形状をする降下ポッドにドゥン・ポーごと乗り込むアルテイシアは、眼下にある青い星ソラリスをじっと見つめた。

 

 

「いきますよ、アルテイシア様」

 

「ええ、よしなに」

 

《ポッド射出!》

 

 

ロザエの声に応じると、空気と電磁カタパルトの放電音が空気の振動で震えて、降下ポッドは凄まじいGをまとって宇宙へと投げ出された。

 

自動姿勢制御で最適な突入経路へ侵入してゆくポッドの中で、アルテイシアはマスクを脱いだ。青い目に写るソラリスの大海原を見据えたまま、彼女は顔を顰めた。

 

無重力から重力に惹かれていく感覚は嫌い。

 

自由だった命が、海の魔物に睨みつけられるような感覚だから。

 

 

 

 

 

 

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