機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第九話 海上の逃避行

 

 

メガロ・ステイトでの巨大海棲生物の襲来事件は、漁業組合による規制線設置と、ステイト・セキュリティによる情報統制によって収束しつつあった。

 

巨大海棲生物、個体識別名「レビアタン」は観測史上最も巨大な甲殻類の一種であることが判明し、死骸と化したソレは多くの海洋学者たちの関心を集めることになる。

 

研究者いわく。

 

レビアタンが有する甲殻は、水圧に強く粘り強い鉱石由来の性質を持っており、それはソラリスの深い海底から採取できる「ソラリスタイト」と同じ成分で構成されていることがわかった。

 

これにより、レビアタンは海底に生息する深海生物だということが判明したが、その巨大な生物がなぜ浮上し、メガロ・ステイトを襲撃したのか?その理由は研究者の中でもさまざまな意見が飛び交っているが、そのどれもが推察の域を脱していない。

 

ただ、唯一。

 

ソラリスにて生成される最高硬度の材質と同じ性質を持つレビアタンの甲殻を貫く威力を持った〝ガンダム〟。

 

レビアタンが蹂躙する都市に突如として現れたその機体の謎はステイト・セキュリティによる情報統制によって閉ざされていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステイト・ステップの乗り心地はどうだい?」

 

 

ステイト・セキュリティが独自で保有する貨物やMD(モビルダイバー)の運搬用船であるステイト・ステップ。

 

それに乗船するリークは、年中降るソラリスの雨から貨物を保護するために作られたシートによって覆い隠された「ガンダム」に通信を繋いだ。

 

 

「わからないに決まってるだろ?ずっとガンダムのコクピットにいるんだから」

 

 

コクピットの中にいるシャアは、リークの言葉に不服そうに答えた。メガロ・ステイトの騒動のせいで、祖父の葬儀どころの話ではなくなったのだ。略式葬儀という名の形で海へ海葬された祖父の扱いに不満を抱くのは当然だった。

 

さっさとガンダムや、祖父をソラリスの海に埋納したステイトから離れて、仲間たちが待つサウス・マーケット・ステイトに戻りたかった。

 

だが、そこにもリークことステイト・セキュリティの若手隊員たちから待ったをかけられたのだ。

 

 

「すまないな、シャア。君とガンダムのことは貨物物資として登録されているんだ」

 

 

ガンダムと共に保護され上に、貨物としてセキュリティに載せられている。この船に乗るのは横暴なセキュリティか、それに捕まった哀れな住人くらいしかいない。自分が乗るとは想像もしていなかったシャアは不機嫌さを隠すことなく外にいるリークに答えた。

 

 

「人間も値が付けば商品になるということは承知してるよ」

 

「待て、奴隷制はプロヴィンギア法案で禁止されているはずだぞ」

 

 

驚いた様子のリークであるが、ステイトではそんなこと日常茶飯事だ。漁業組合の中でも借金や生活苦で首が回らなくなった人間を捕まえて漁業の手伝いをさせて使い潰すような船もあると聞く。

 

幸い、ホエール・サブマリン号を仕切るカーディスの下ではホワイトな運営がされているため奴隷船員など居なかったが、市場や船の乗り場では何人もの奴隷たちを見てきている。

 

法律で禁止されているというのはコロニーに住まう人々の言い分で、ステイトには独自の価値観と倫理観がある。事実は異なっているとしか言いようがなかった。

 

 

「何事にも抜け道があるっていうわけだよ。俺たちが不正規にステイトを出港したことと同じように」

 

 

そういうと、リークは返す言葉が見つからないのか少し唸って黙ってしまった。かと言って彼に黙られると色々と面倒になりそうなので、「言い過ぎたよ」と謝罪はしておいた。

 

 

「ガンダムはアイドリングをかけているのか?」

 

「わからないんだ。俺が乗ったらこうなってしまうんだ」

 

 

メガロ・ステイトの深海で見つけたこの機体であるが、何もかもがわからないことだらけだ。その動力源すら謎で、推進剤の補充方法もわからないというのに、エネルギー切れなどのエラーは一切表示されていない。

 

強いて言うなら、機体よりもパイロットのほうが先に干上がってしまう。それほどまでに補給や整備が不必要な機体だった。

 

 

「わからないことだらけだな、その機体は」

 

 

シートの端から見える二つ目とV字アンテナを施されたガンダムの顔を見上げたまま、リークはメガロ・ステイトを出発する前のことを思い返した。

 

 

 

 

 

 

「お疲れだったな、隊長」

 

「あんな怪物を相手にして生き残るなんて、さすがは隊長だ!」

 

 

青いレビアタンの血液はすっかり酸化して青黒い液体と化していた。機体にべったりと張り付いた液体を避けるように愛機から降りたリークは、仲間や同じ考えを持つ若手のセキュリティ隊員に囲まれる。

 

 

「リーク!」

 

 

MDの格納庫に一際大きな怒声が響き渡った。さっきまでリークを取り囲んでいた隊員たちが訓練されたかのように一才に道を開けると、そこには額に青筋を浮かべたメカニックの女性が仁王立ちで立っていた。

 

 

「リーク・デッカード!!」

 

 

ズンズン、という効果音が聞こえてきそうな………まさに鬼の形相でリークのフルネームを言いながら向かってくる技師、「ハリー・レイフィールド」。

 

今までリークを取り囲んでいた若手隊員たちは蜘蛛の子を散らすような勢いで近づいてくるハリーとその標的であるリークから離れてゆく。

 

 

「アンタ、MDのヒートソードを根本から折った上に機体をボロボロにしたですってぇ!?」

 

「ま、待ってくれ!落ち着いてくれ、ハリー!」

 

「落ち着いてるし、待ってもいるわよ!!どう言うことか説明しなさい!!」

 

 

胸ぐらを掴む勢い、というより掴んだまま怒り心頭なハリーにリークは必死に弁明した。

 

そもそもの話、あんな巨大な海棲生物を撃退するためにセキュリティのMDは開発されていないのだから、ヒートサーベル一本と機体各所の傷や凹み程度で済んだことを褒めて欲しいくらいだった。

 

 

「あの巨体を相手に全損で済まなかっただけ許してくれよ」

 

「全損!?そんなことになってたらアンタは今ここにいないでしょうが!!ヒートソードは基本的に斬り付けや振り払いに使う武器で、突き刺すことは考慮されてないの!突き刺した上に振り回されたらそりゃ折れるし、アンタのMDも吹っ飛ぶの!わかる!?」

 

 

取り繕った弁明を真っ向から破り捨てて、声を荒げるハリーにリークはタジタジであった。ここにあの少年がいたら絶対に後で小言を言われるに決まってある。

 

だらだらと汗を流すリークに、ハリーは怒りで上がった息を整えてから打って変わるように静かな声で言葉を放つ。

 

 

「………私が怒ってるのは、機体を粗末に扱ったことじゃなくて、アンタが何ふり構わずに機体を振り回したことよ」

 

 

MDは替えが効く。壊れても整備をすれば使えるようになる。しかしパイロットや、自分たちをみちびくリーダーは替が効かない。

 

仕方がないと言って機体を壊せば、次に訪れるのは抗えない劣勢と死だ。その自覚がないリークにハリーは言葉を強めたのだ。

 

意図を察したリークはハリーに掴まれていた襟首から解放されると頭を下げて謝った。

 

 

「ああ………ごめん」

 

「うむ、わかればよろしい」

 

 

納得したハリーと、それにたじろぐ隊長を見ていた唯一の人物。リークの副官でもある男は愉快なものをみたと言わんばかりに笑っている。

 

 

「相変わらずハリー技師の説教は怖いねぇ」

 

 

リーク・ベッカード率いるMD部隊の副隊長、「アイザック・ドナヒュ」のつぶやくにハリーはめくじらを立てて反論した。

 

 

「アイク、私は別に怖くないわよ」

 

 

愛称であるアイクと呼ばれた彼は「どうだか」と肩をすくめる。前に耐水圧の規定値を突破し潜ってしまったボロ機体を前に、パイロットを工具片手に追い回していた姿は記憶に新しい。

 

閑話休題。

 

ゴホンと咳払いしたリークは、ハリーに預けた本題へと入った。

 

 

「ハリー技師、例の機体は?」

 

「ああ、アレ。ガンダムっていう奴」

 

「ガンダム…それが名称なのか?」

 

 

アイクの言葉に、ハリーは端末を片手に資料を読み漁ってゆく。

 

 

「愛称なのか名称なのか。なにせ型式番号のデータすら無いんだもの」

 

「無い?」

 

「製造元を示す表示物まで細かく廃されてるわ。これを作った奴、相当な職人気質ね」

 

 

 

少なくとも、ビーエム系統の機体ならばコクピットの内部に機体情報が印字されているはずだが、それも無い上にパーツ一個一個に記載されているデータシートも全て排除されていた。

 

リークやアイクから見て、機体の形はコロニーが使うMS、REV(レヴ)シリーズか、それに分類される系統だろかと思ったが、ハリーの答えはそれでもなかった。

 

 

「あーその線も薄いわ。コロニー側のレヴなんてソラリスのシー・スペースなんかに入ればすぐにボン!だもの」

 

「まぁ宇宙とシー・スペースは理屈も何もかもが違うからな」

 

 

ソラリスのシー・スペースは複雑な海流と深刻な電波障害が発生する魔の海だ。しかも特殊水素に対するコーティングがされていない宇宙用MSが海に落ちた場合、適切な清掃を行わなければ二、三日で腐敗が始まるのだとか。

 

 

「けど、ガンダムは海にも潜れていたぞ」

 

「それがあの機体の手がかりだと私は踏んでる。………たぶん、アレは開拓期に使われていた機体よ」

 

 

ハリーの言葉に、リークもアイクも驚きを隠せなかった。ソラリスの開拓期など、今から150年も前の話になる。

 

 

そんな骨董品が?と首を傾げるアイクに、ハリーは甘いと指を立てて言い切る。

 

 

「開拓期の機体は侮り難しよ、アイク。ビーエムも、モデルチェンジやマイナーチェンジは繰り返されてきたけど、コクピットレイアウトって開拓期のソレと全然変わってないのよ?」

 

 

今や漁業組合やステイト・セキュリティにも支給されるMDは、形こそ海中作業を行う作業機ではあるが、そのコクピットレイアウトや操縦方法については全機がほぼ同じになるようにセッティングされている。

 

そのレイアウト構造は開拓期に使われていた機体を忠実に再現し、後世に伝えているのだとか。

 

 

「それだけ開拓期に使われた機体が優秀だったことね」

 

「そうは言ってもだが………」

 

 

どこか納得できないアイクの様子に、ハリーは「そもそも発想からして今と昔は異なるのよ」と付け加えた。

 

 

「MDは戦争用の兵器じゃ無い。あくまでシー・スペースに特化した作業用のマシーンなんだからね。しっかりなさい」

 

「じゃあ、あのガンダムっていう機体は………もとは戦争用に作られた兵器ってわけか?」

 

「どちらかというと、開拓期に移住者を襲っていた海棲生物に対する切り札ね。開拓期にソラリスとコロニーで戦争してたってなら話はわかるけどさ」

 

 

そんな情報なソラリスとプロヴィンギアの歴史書物にも乗っていないし、もっといえばソラリスに降りた人々も、元はコロニーに住まう住人だったのだ。

 

 

「開拓期から今まで、ソラリスは自分たちのことを守るだけで精一杯だったのよ。宇宙から支配しようとするコロニーのインポストの連中のわがままなんて相手にしてる暇もなかったし、今もそんな余裕もない」

 

「世知辛い世の中だねぇ、嫌になる」

 

 

うんざりした様子で言ったリークに、ハリーはニヤリと頬を釣り上げた。

 

 

「だから、アンタが変えるんでしょう?セキュリティを中身から」

 

 

その心意気に自分やアイクは付いてきたのだ。格納庫内で作業に当たるスタッフや、若手のセキュリティ隊員たちもだ。

 

その言葉にリークは当然だと頷く。

 

 

「コロニーがソラリスの海を支配するなんて間違ってる。海で漁をして強く生きる人々を俺たちは守らなきゃならないんだ」

 

「だね」

 

 

セキュリティの往年の人間たちがやる漁業組合やステイトの住人を虐げるような真似は間違っている。本来のセキュリティの役割はレビアタンのような巨大な海棲生物からステイトを守ることや、ステイトに住む人々の平和を維持することだ。

 

150年で溜まった内部の膿を吐き出さなければならない。だからこそ、リークは内部からその形を変えるために行動を起こしたのだ。

 

 

「ところでリーク。ガンダムはどうするんだ?」

 

「ひとまず、このステイトからは運び出す」

 

 

即答な答えに、ハリーとアイクは思わず互いの顔を見合わせた。

 

 

「本気?」

 

「俺たちは命令違反もしている。メガロ・ステイトから逃げ出した往年の連中がこの機体と、あの少年を見たらどうする?」

 

「あー、想像はしたくないわね」

 

 

だろう?とうんざりした様子のリークは、すでにガンダムを操ることができたシャアと方針を話し合っていた。セキュリティの悪人がガンダムに気付けば周りの人にも被害が及ぶとも。

 

ガンダムから降りた彼は、今頃祖父の残した遺品からガンダムに関する書物を漁っているところだろう。

 

 

「とにもかくにも、シャアはサウス・マーケット・ステイトに戻らなければならない。ほとぼりが冷めるまでなんとかするさ」

 

 

サウス・マーケット・ステイトはセキュリティよりも漁業組合のほうが規模が大きい。しばらくはガンダムを漁業組合側で隠してもらい、そこから今後の対策を練ろうかとリークは考えていた。

 

だが、事態はそれほどの刻を待ってはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

 

コロニープロヴィンギアから射出された降下ポッドは予定通りソラリスの大気に適切な角度で侵入を果たしていた。摩擦熱が生じる層を突破し、ポッドを操縦する隊員から通信が響いた。

 

 

《外部熱、規定値に到達。オンラインモードに移行》

 

「アルテイシア様、我々は今ガンダムが確認されたメガロ・ステイトから上空25000メートルより落下しています」

 

 

ドゥン・ポーのコクピットから見える映像通り、ソラリスの広大な海を上空から見下ろしたアルテイシアはすぐに言葉を発した。

 

 

「ガンダムの波長は?」

 

《検索中………見つけました。メガロ・ステイトから南下。サウス・マーケット・ステイトの領海線近くです》

 

「ステイト・ステップにガンダムを乗せているのか?まったく、あの機体の価値も知らないアウトポストのクズどもめ」

 

 

反応を感知した隊員がそんなことを口にする。アルテイシアはマスクの下にある陰鬱な気持ちをため息と共に吐き出しながら注意をした。

 

 

「アルテイシア隊。相手はガンダム………アウトポストだからといって見下ろすとこちらがやられることになります。それを忘れないでください」

 

「………了解です」

 

 

不満そうにも返事をする隊員。その様子を眺めながらアルテイシアの側近であり侍女であるロザエはニヤリと口に弧を描く。

 

 

(さて、仮面を被った小娘の実力。お手並み拝見といきましょうか)

 

《高度15000。フライテール分離。大気圏突入ポッドは自立操縦モードに》

 

 

役目を終えたポッドはドゥン・ポーや物資を分離した後、最寄りのステイトにある降下ポイントへと帰還する手筈となっている。

 

ガコン、と半球体状のポッド側面が蕾が花開くかのように三方向に開くと側面がそのまま分離した。

 

ポッドに接続されていたフライテールと呼ばれる大気圏内飛行ユニットは、分離後にドゥン・ポーを乗せたまま海面に向かって滑空を始める。

 

 

「フライテール分離。数値正常。各機、自由落下の後、高度10000で編隊を組め。アルテイシア様」

 

「任せます、ロザエ。我々は真っ直ぐにステイト・ステップで運ばれるガンダムを抑えます」

 

 

目標高度に達したと同時にスラスターに火を入れたフライテールは、ビームライフルなどを武装したドゥン・ポーを乗せて飛行を開始。

 

目標は悠々と海上を航行するセキュリティのステイト・ステップ。

 

そこに乗せられているガンダムだ。

 

 

 

 

 

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