機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第十一話 無自覚の殺意

 

 

 

稲妻が眼前で迸った。

 

ビームの刀刃を目の前に、シャアの〝思考〟はガンダムへと伝達されて、振りかざされた光の一閃に自分の刃を重ね合わせる。

 

アルテイシアのビームサーベルと、それを受けたガンダムのビームサーベルは激しいプラズマ光を発し、そのエネルギーのぶつかり合いは空間を湾曲させるような力場を生み出した。

 

こと、ビームサーベルと言っても、ガンダムとドゥン・ポーの持つサーベルの出力源は純粋なプラズマ波ではなく、ミノフスキー粒子の縮退作用をあらかじめ設定された「枠組み」内に放出したエネルギー刃だ。

 

ビームライフルの出力源も同じ原理が応用されているので、ビーム同士の干渉が生じた場合、立方格子状の不可視のフィールドが形成される。

 

ビーム同士の干渉波が更なるプラズマ波を発生させ、それぞれのコクピットに乗り込む二人のヘルメットのバイザーを白く染め上げた。

 

 

「シャア、乗せられるな!相手の動きに誘われている!」

 

 

数度目の斬り合いを退けるガンダムを見上げながら、リークは通信機越しにいいように乗せられているシャアへ言葉を投げた。

 

 

「分かっている!ええい、下から好き勝手に…」

 

 

気が逸れた!感じ取った直感に従ってアルテイシアは離れた機体を翻し、フリルのような脚部に備わる幾つものスラスターを全開にしてフライテールから飛ぶ。

 

海中での運用を約束されていない今のドゥン・ポーでソラリスの海に落ちてしまえばひとたまりもないが、それでもアルテイシアはシャアの裏を掻くことを選んだ。

 

 

「捉えました!」

 

 

後頭部から迫る一撃ならいくら反応速度が良かろうと防げはしない。そう確信して振り下ろしたビームサーベルだったが、その一閃はまるで背後に目がついてるかのような反応を見せたシャアの〝直感〟によって阻まれる。

 

 

「シールドで防がれた!?なに!?」

 

 

Iフィールドが形成されるガンダムのシールドに阻まれた瞬間、ガンダムの脚部がドゥン・ポーの胴体を捕らえた。

 

 

「きゃああーーっ!?」

 

 

横腹から回し蹴りを受けた形となったアルテイシアはコクピットの中で衝撃をもろに受けてしまい、そのままソラリスの空へと放り出される。

 

 

「ガンダムは人を殺すために蘇ったわけじゃないんだ!!」

 

「アルテイシア様!この……ガンダムめ!!」

 

 

吹き飛ばされたアルテイシアを援護する形で前に出た他の敵。放たれるビームの弾丸をシールドから発生するIフィールドで防ぎながら、シャアはフットペダルを強く踏み込む。

 

虹色の燐光を発したガンダムは、二つのカメラアイを煌めかせながらビームを放つ敵のドゥン・ポーへ一気に距離を詰めた。

 

 

 

「ガンダムで人殺しをするなぁー!!」

 

 

振り下ろした一閃でドゥン・ポーのビームライフルを切り落とし、返す刀でライフルを握っていた腕を切り落とす。あまりにも早い動きに、横合いから見ていたロザエは思わず息を呑んだ。

 

 

「あの反応速度……なんなの……!?」

 

 

あれがMSだとしても、あんな素早い動きなどすれば「PCPU」が負荷で耐えきれないはずだ。

 

サイコミュ・セントラル・プロセッシング・ユニット(Psycommu Central Processing Unit)は、文字通り人の思考などの脳波信号をデータとして受け取り、MSに反映させるシステムではあるが、人の脳波信号よりも機械は確実に劣る。

 

PCPUが人の脳波信号よりも通信速度を遅らせている理由がまさにこれだ。人の思考力に機械がついてこれない。

 

コロニー最新鋭機でいるはずのドゥン・ポーだって、その論理の範疇から脱することができていないというのに、目の前のガンダムはその処理速度が段違いで早い。

 

まるで人の思考力とMSの手足が神経細胞でつながっているのではないかと錯覚するほどに。

 

 

「アルテイシア様!」

 

「ロザエ!ええい、ガンダム……!」

 

 

ロザエの援護を受けて姿勢を立て直したアルテイシアは、スラスターで対空し位置を合わせたフライテールに着艦する。

 

ほんの少しの戦闘時間で3機の内一機がビームライフルと片腕を失った。それはコロニー側の人間からすれば想定外の損害だった。

 

ガンダムという「顔」はコロニー内で周知の事実ではあったが、「ガンダム」そのものは未知の存在。

 

 

(あの反応速度……純粋な操縦技術ではない……さらに高速度な脳波コントロール……?)

 

「ええい、これだからガンダムは!!」

 

 

ロザエの推察をよそに、アルテイシアは再びシャアへ攻撃を仕掛けた。シャアが操るガンダムは、ステイト・ステップやホエール・サブマリンの近くに着弾するビームをシールドで防ぎながら戦闘を繰り広げてゆく。

 

 

《シャア!そのMDは一体なんだ!?》

 

「艦長!みんなは逃げろ!!こいつら、普通じゃない!リーク!あいつらはセキュリティの人間じゃないのか?!」

 

「ステイト・セキュリティはあくまでソラリスに対する末端の警備部門だ!コロニー側にどついう意図があるのか……」

 

 

ホエール・サブマリン号に避難するように伝え、リークに相手の正体を問いただすシャアの目の前をビームが横切った。

 

 

「見境なしなのか!コイツらは!!」

 

 

ロザエを先頭に片腕を失ったドゥン・ポーがビームサーベルを振りかざしてくる。

 

燐光を発してサーベルを避けたガンダムを追い払って、ロザエは眼下にいる二つの艦船を睨みつけた。

 

 

「ステイト・ステップか、あの潜水艦を人質にするんだよ!」

 

「ロザエ!無関係なステイトの人を巻き込むわけには……」

 

「ドゥン・ポーを与えられてなにを言っているのですか!この期に及んで!!」

 

 

人質を取ろうとすることに難色を示すアルテイシア。その下ではカーディスがシャアの言葉に従って急速先行の指示を乗組員に発した。

 

 

「ホエール・サブマリンは急速潜航!シャアの邪魔はするな!」

 

 

浮上用の酸素を排出して海へと潜ろうとするサブマリン号を見たロザエは傍にいたアルテイシアの機体を押しのけてビームライフルを構える。

 

 

「逃がさない!」

 

 

まばゆい光を発して伸びた一撃は、まさに潜航を始めようとしていたサブマリン号に直撃する。爆発と黒煙を上げた潜水艦は酸素の泡を吐き出しながら海面に浮かび上がった。

 

 

「う、右舷に着弾!浸水してます!」

 

「ええい、修理したばかりだというのに!乗られた!?」

 

 

響き渡る金属の鈍い音と衝撃に、カーディスは潜水艦の真上に敵のMSが乗ったことを察した。

 

黒煙をあげるサブマリン号はもう海の中に逃れることはできない。ロザエのやったことではあるが、とアルテイシアは納得はできないものの、そのチャンスを生かすために思考を切り替えた。

 

 

《聞きなさい!ガンダムのパイロット!こちらはコロニー、プロヴィンギアのアルテイシアである!》

 

 

広範囲の音声通信に、シャアの操るガンダムは動きを止める。

 

 

「アルテイシア……!?」

 

《この船は人質に取った!こちらの目的は、そのガンダムの無条件引き渡しです!応じれば我々は引き上げ、船員などには一切の危害を加えません!》

 

 

高らかに言うアルテイシアのドゥン・ポーを見上げながらすぐ隣に浮かぶステイト・ステップに乗るリークは、パイロットである彼女に通信を向けた。

 

 

《こちらはステイト・セキュリティのリーク……》

 

 

その刹那、ステイト・ステップの真上をビームが横切る。思わず頭を守って屈んだリークが前を向くと、そこにはアルテイシアのドゥン・ポーが船に銃口を向けていた。

 

 

《これは交渉ではありません!プロヴィンギアのアルテイシアによる命令なのです!》

 

 

余地はない。

 

その強硬な姿勢にリークは歯を食いしばった。

 

ステイト・セキュリティは確かにコロニー側からすればソラリスの警備部門でしかないだろうが、コロニーもコロニーで、やってることが無茶苦茶だ。

 

そのアルテイシアの気概をコクピットで眺めるロザエは、侍女として長年見てきた「アルテイシアの」という少女の思い切りの良さに感心したような息を漏らした。

 

 

「随分と強気に出るじゃないか、あの小娘は」

 

《選びなさい!潜水艦とステイト・ステップの人命か、ガンダムを引き渡すことを!》

 

 

聞こえない侮蔑にも似たロザエの言葉も知らずに、アルテイシアは空に浮かぶガンダムに最後通告を発した。ここでガンダムを渡さなければ潜水艦は沈めて、ステイト・ステップを壊して、必ずガンダムを仕留める。

 

それが愛する父の望みで、命令なのだから。

 

アルテイシアの言葉に、シャアはすぐにコクピットの中から答えた。

 

 

《わ……わかった!わかった!!ガンダムは引き渡す!!》

 

 

ビームライフルを腰に懸架して降参の意を知らせるために両手を上げたガンダムが虹色の光を僅かにスラスターから発しながら、ゆっくりと空から降りてくる。

 

それを見てアルテイシアは小さく息をついた。これで潜水艦や船に乗る人たちの命を奪わなくて済むと、安心したのだ。

 

 

《それでよろしい、ガンダムさえ渡していただければ…》

 

 

降りてきていたガンダムを映していたモニターの中央に、突如としてアラートが現れた。

 

 

《真下からのロックアラート!?》

 

 

全天周囲型のコクピットの下を覗き込むと、そこにはホエール・サブマリン号に備わるロケット砲がこちらに狙いを定めているのが見えた。

 

 

「この図体のでかい機械人形が!照明弾で追っ払ってやる!!」

 

 

ロケット砲を操作するイーサンとレオニールは、ドゥン・ポーは上に乗った忌々しいMSを追い払おうと躍起になっていた。

 

危険な漁をする以上、潜水艦にな最低限の防衛手段が備わっている。

 

光に敏感な魚を追い払うために照明弾積んでいたサブマリン号は、船の上に乗るドゥン・ポーにその一撃を撃ち込もうと狙いを定めていたのだ。

 

 

《ロケット砲で、私の機体を狙うと言うの!?》

 

 

ロックオンアラートと、向けられたロケット砲の矛先に驚愕と恐怖を抱いたアルテイシアは自衛する本能に従うまま、操縦桿のトリガーを引いた。

 

彼女の思考をPCPUを通して読み取ったドゥン・ポーは、銃口を真下に向けてビームを放った。

 

極光はゼロ距離からホエール・サブマリン号の中枢部を貫き、光はソラリスの海の減衰率によってか細くなって消える。

 

淡く光った海面。次の瞬間には、中枢部のオーバーロードが生じたホエール・サブマリン号が白波の水柱を上げて粉々に爆散していた。

 

 

「ビ、ビームが……出た……」

 

 

呆気なく。

 

ソラリスの海水を電力に変換するユニットが吹き飛んだ連鎖反応で跡形もなく粉々になったホエール・サブマリン号は、水柱が収まる頃には海中に没してゆく。

 

ガンダムのコクピットから一部始終を見ていたシャアは、何が起こったのか理解できなかった。

 

 

 

 

 

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