機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三章「船乗りの誇示」
第十五話 蜂起のステイト


 

 

 

底が抜けたように水がこぼれ出してゆく。

 

海と空を隔てていたはずの境界線は崩れ、人が営む空も水が侵してゆく。

 

すべてはソラリスの海に呑まれる。

 

海は広く、深く、暗い。

 

すべてか湿った音と共に海底に没する。

 

誰もが逃れられない母なる海の濁流に飲まれ、沈んでゆくのだ。

 

湿った声と、海の冷たさと共に。

 

その海から蘇った「ガンダム」

 

それは神か、それとも海深くに封印されていた悪魔か……。

 

 

 

 

 

 

 

 

上流、中流、下流ステイト。

 

ソラリスの海上に浮かぶ人工浮遊島の中でも、規模ごとにそれぞれのあだ名で呼ばれるステイトであるが、最大の規模を誇るステイトも存在する。

 

都市型の上流ステイト。

 

「メトロポリス・ステイト」。

 

人口はソラリスのステイト内でも最大の14万人が居住しており、上流ステイトでも珍しい高層ビルが建造されるほどの規模を誇るメトロポリスは、治安維持の警備隊であるステイト・セキュリティや、漁業組合を牛耳る本部にとっても重要な拠点でもある。

 

居住区も広大であり、都市部と隣接する市場では食料品の取引以外にもコロニーからもたらされる品々が目まぐるしい流れの中で取引されている。

 

まさに、惑星ソラリスの経済の中心都市と言えた。

 

 

《我々は、海で生きることができない》

 

 

メトロポリスに聳えるビル群。

 

その壁面に備え付けられた巨大なモニターには、ステイトの放送システムを掌握した反乱分子のリーダーが映し出されていた。

 

ステイト・セキュリティの管理本部があるメトロポリスであるが、今やこのステイトにセキュリティの隊員はいない。皆、突如として決起した反乱分子によってステイトの外へと追放されたのだ。

 

たしかにセキュリティは最新鋭のMDや武器を持ってはいたが、彼らにとって大規模な反乱は未経験の出来事であり、命令系統が混乱を見せた途端に組織は崩壊した。

 

統制された組織による一成蜂起。そして、セキュリティの戦意を削いだのは他でもない海中から空へと飛び上がった「ガンダム」の存在だった。

 

果敢にもガンダムに挑むMDも居たが、機体性能の何もかもが別格だった。ビームライフルによって武装を全て剥ぎ取られたセキュリティのMDになす術はなく、ソラリス最大のステイトはたった半日という速さで反乱分子に占拠されたのだ。

 

 

《我々はソラリスに住まう人々の声を代弁する者たちだ》

 

 

各ステイトを結ぶ衛星電波により展開される反乱分子による宣言放送であったが、ソラリスに滞在するセキュリティの誰もが楽観視していた。あるものはデタラメだと罵り、あるものは悪戯だと唾棄し、あるものは興味すら示さない。

 

だが、その事実を知る者達からすれば危機感を覚える他なかった。

 

 

《荒れ狂う海に落とされた我々の先人たちは、息すらもできない海に潜り、多大なる犠牲を払いながらも「ステイト」と言う海上での生活圏を築き上げた。我々が属する漁業組合もまた、先人たちが生み出した遺産であり、宝であり、継承されてきた営みである》

 

 

反乱分子の全員が、ソラリスの海で漁を行う漁業組合の人間だった。食料や貴重な資源ともなる海の恵みを収穫する彼らが反旗を掲げたのはある意味では必然であった。

 

 

 

《我々を過酷な海に突き落としたコロニーは愚かにもステイトと我々漁業組合を監視下に置いた。先人たちがソラリス独自の営みを邪魔しないことを、コロニーと約束したというのに、彼らはその約束を踏み躙り、我々の営みを私物化し続けてきた》

 

 

漁業組合の組合長が言う言葉がすべてだ。

 

ソラリス開拓期に発足された漁業組合であるが、150年あまりの時間中で大半がコロニーによる不当な扱いに晒されたものでしかない。だが、彼らの多くはコロニー側の理不尽に耐え続けてきた。

 

皆がソラリスという過酷な世界で生きることに必死だったこともある。それ以上に、漁という生き方を選んだ彼らにはコロニーの不当な扱いにも屈しない海の男という誇りがあったからだ。

 

だが、コロニー側の人間は超えてはならない一戦を越えたのだ。

 

 

《彼らの私利私欲のために多くの仲間が傷つき、命を落としたのだ。その命を無碍にしてまで我々はコロニーの支配に耐え忍ぶ道理などない!》

 

 

彼らは同族同士が商売仇であるが、見捨てるような真似は決してしない。

 

命がかかった場面では必ず協力し、困難を乗り越えてきた。怒りや腹に抱えるものはあれど、漁を営む彼らは見えない絆でたしかに結ばれていた。

 

そんな彼らの生き様と絆を、コロニーの人間は踏み躙ったのだ。それを飲み込んで耐え忍べば、先人たちが大切にしていた誇りが汚されてしまう。

 

故に彼らは立ち上がった。

 

組合長の背後で、ある機体がライトアップされる。そこに立つのはメトロポリスのセキュリティ隊員達を恐怖に震え上がらせた「ガンダム」であった。

 

 

《見よ!我々には守護神、ガンダムがある!海の神々を撃退し、人の生活圏を築く原動力ともなった伝説が朧げな幻から立ち上がって、我々の力となってくれるのだ!》

 

 

ソラリス開拓期、海獣たちが跋扈する世界で人の生活圏を切り開いたのは当時の先人達であるが、彼らから言い伝えられた物語があった。

 

破滅をもたらす海の魔物が現れたとき、人の希望の光を宿した「ガンダム」が魔物を討つ、と。

 

今のソラリスにとって、コロニーとステイト・セキュリティこそが、破滅をもたらす海の魔物に違いなかった。

 

 

《同志達よ!我らは戦わなければならない!コロニーによる圧政を退き、ステイト・セキュリティの横暴を打破し、ソラリスの海に生きる全ての人に与えられた恵みをもたらすのだ!》

 

コロニーにも、ステイト・セキュリティにも屈しない。我らは生活する世界を守り、そのために生きてゆく。

 

ソラリスに住む全ての人が享受できる権利を認めさせるために彼らは反乱を決意し、立ち上がったのだ。

 

 

《今ここに我々漁業組合は、名を新たに「M.A.R.I.O.N(マリオン)」と定め、組合領域を打ち立てることを宣言する!》

 

M.A.R.I.O.N(Migrate Adequate Right Ideal Own Navy)。漁業組合から完全なる反乱者として立ち上がった彼らは、移住者への適切な権利を認めさせる船団として、『組合領域』を宣言した。

 

ステイトに移住する全ての人は、ソラリスの海からもたらされる恵みの恩恵を受ける権利。

 

それを不当な理由で剥奪する権利はコロニーにも、ステイト・セキュリティにも存在せず、その剥奪行為や不正行為はソラリスの生活圏に住む人々の恵みを阻害する悪であるとし、マリオンは、ソラリスで生活する組合員とその家族にある権利を守るために、権利の剥奪や不正行為を行う相手を排除する必要がある。

 

 

《我々マリオンは、コロニーの不正な行為やセキュリティの横暴から人々を守り、ステイトに新たなる秩序と自治を設立するのだ!》

 

 

万雷の拍手と共に歓喜の声が上がった。虐げられ続けたソラリス移住者のほぼ全てが、漁業組合から発足されたマリオンという組織を迎え入れる。

 

その背に立つガンダムという機械の持つ可能性を旗印にして立ち上がる彼ら。

 

その映像を見つめるセキュリティやコロニーの人間たち。

 

 

 

惑星ソラリスの開拓から150年。

 

 

史上初の民間人による反乱劇が幕を上げた。

 

 

 

 

 

 

 

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