機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第二十話 神話の戦い(1)

 

 

 

その怪物は恐ろしい。

 

その背は並んだ鱗は、一つ一つひしめき、風もその間を通らない。

 

その口からは稲妻を放ち、さらには歯が燃え出し、火花を散らす。

 

その鼻からは煙が上がり、口から滴り落ちる唾は燃え盛る業火となり海を焼く。

 

その存在の前に恐れが踊る。肉は巨岩のように硬く、その心臓は黄金の如き輝きをもって、臼の下石のように堅い。

 

かの怪物が海から起きあがる。

 

力ある者もおじけづき、とまどう。剣で襲っても効きめがなく、槍も投げ槍も矢じりも効果がない。

 

それは深みを釜のように沸き立たせ、海を香油をかき混ぜる。

 

それが通ったあと、海は輝き光の尾は地平まで届く。

 

怪物はすべて高いものを見おろす。

 

さぁ、起き上がった怪物を刮目せよ。

 

その名はリバイアサン。

 

それは、すべての誇り高い海の王であった。

 

 

(旧約聖書・ヨブ記41章)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ソラリスの深海から姿を現した巨大な海棲生物、リバイアサン。その巨体は甲殻と鋏、触手を持った化け物レビアタンとは全く異なる種の怪物であり、渦巻くように波間をゆく胴はまるで巨大な海蛇を思わせる姿であった。

 

 

「何だってこんな時に!!」

 

 

マリオンのMD乗りが思わず叫んだ。メガロ・ステイトを襲ったレビアタンを撃退したばかりだというのに、今度は神話に出てきても不思議じゃない巨大海蛇を相手にするなど考えもしなかった。

 

その怪物は青い目を色鮮やかに輝かせながら海を行き、真っ直ぐにマリオンの漁船が集結している場所を目指しているように思えた。

 

 

「こ、こっちにくるぞ!!」

 

 

マリオンの御饌各員がロケット砲や照明弾、巨大なバリスタ砲などで応戦するが、どんな攻撃であろうとリバイアサンはことごとく跳ね除けてゆき、開いた口からプラズマ光を迸らせ、その一閃を漁船団へと吐き出したのだ。

 

 

「ば、化け物!!うわぁあああ!?」

 

 

三隻の船がプラズマの光に呑まれた瞬間、船は静かに燃え上がった。光に包まれた船員らは強力なプラズマの光の前になす術もなく炭化し、絶命したのだ。

 

 

「魚雷も爆雷槍も歯が立たない!!」

 

 

泣き言のような言葉が通信網を辿り、やがてマリオンの司令本部へと通達されるがもはや一組織では対応できない規模の破壊行為がリバイアサンによってもたらされていた。

 

メトロポリス・ステイトの主要湾の中で暴れ回るリバイアサンが吐き出すプラズマの稲妻に焼かれた船は、その被害を増やすばかりで前線のマリオンとステイト・セキュリティは戦闘どころか壊滅状態となっていた。

 

 

《マリオンの奴らも、セキュリティの奴らも無茶苦茶だ!!》

 

 

海中でも海面でも猛威を振るうリバイアサンに堪らず海面に浮上したシピロン・スパロウ号。距離が近くなったレーザー通信から、船員の悲鳴のような雑音と共に艦長の怒号のような声が響き渡ってくる。

 

海中でうねりを上げながら暴れ回るリバイアサンを、シャアはガンダムのコクピットから見た。同時に激昂する化け物も青く光る眼差しで海中にいるガンダムを捉えた。

 

モニターがプラズマの光に照らされた。

 

とっさの反応で身をよじったシャアの乗るガンダムの左肩すれすれにリバイアサンが放ったプラズマの一閃が掠めたのだ。

 

それを合図にするように、マリオンやセキュリティの船舶、MDを獲物にしていたリバイアサンは青い瞳を赤く変色させ、身を翻してガンダムへと向かってくる。

 

ガンダムを目にした途端、文字通り目の色を変えて獲物をただ唯一の物に切り替えた化け物相手に、シャアもフットペダルを踏み込み虹色の燐光を発してガンダムは戦闘機動へと突入する。

 

 

「シャア!おい!聞こえてるか!」

 

 

リバイアサンに狙われ始めたガンダムめがけてレーザー通信を試みるリークだが、シャアはそれどころじゃなかった。この化け物、巨大に似合わない速さを有していて、ガンダムの誇る最高出力にも難なくついてくる。コクピットの中で、一瞬で戦闘機動に至った加速度に歯を食いしばるシャアの視界には、リバイアサンは赤い目を迸らせながらプラズマ光を口に蓄えさせているのが見えていた。

 

 

(対応しきれない……!やられる!?)

 

 

そんなネガティブな思考が頭をよぎった瞬間、リバイアサンの長く伸びる胴に水泡と衝撃、そして爆薬の赤い光が放たれた。モニターの端には、ガンダムを追い立てるリバイアサン目掛けてロケット砲を構えるリークのMDの姿がある。

 

邪魔をされた化け物は狙いをガンダムからリークへと変え、プラズマ光が溢れた口から光の束を吐き出した。あの攻撃はMDよりも堅牢な潜水艦すら貫くものだ。いくらセキュリティの最新鋭MDと言っても、飲み込まれれば無事では済まない。

 

それに、さっきまでリバイアサンに追い立てられていたガンダムでは、プラズマとMDの間に入るには〝距離〟が遠すぎた。

 

 

「リーク!ちぃ!!」

 

 

光の束を前に成す術もないリークのMDを目にしたシャアは、スロットルを引いた。間に合わないのはわかっていた。だが、それでもシャアの中に、光に飲まれそうになっているリークを見捨てるという選択肢は存在しなかった。

 

スロットルを引き、フットペダルをベタ踏みしたシャアは奇妙な感覚に襲われる。海が揺蕩う光景。銀に輝く宇宙の中にある水面。それが荒れ狂い、波間の間に光が見えるような……そんなビジョンが見えたのだ。

 

〝あぁ、刻が見える〟

 

遠くで、女の声が聞こえた。

 

 

 

「すまない、助かった!だが、まずいぞこれは!!」

 

 

ハッとリークの声でシャアの意識は現実に引き戻された。ガンダムの手を取るリークのMD。モニターの端ではプラズマの束が収束し、一筋の光になったのが見えた。

 

間に合わないのはずの距離にいたリークのMDをシャアのガンダムは〝助け出していた〟のだ。今の一瞬、シャアには何が起こったのか理解できなかった。あの水面のビジョンと女の声だけはハッキリと覚えているのに、どうやって〝間に合わせたのか〟が理解できなかった。

 

その困惑はリバイアサンの咆哮によって飛散する。反射でリークのMDの手を離したシャアは、化け物の体躯を振るう鞭のような一撃をギリギリの間合いで躱す。ビームライフルで応戦するが、リバイアサンの体の大部分を覆う装甲のような表皮には傷一つ付いていなかった。

 

 

「シャア!またあんな化け物相手に!?」

 

「ガンダムはそういう時のために作られた機体なんだろ!!」

 

 

離れたリークの声に、シャアはそう切り返す。これほどの圧倒的なパワーを有する機体が、ほかのMDのような漁に使われるために開発された訳ではないことくらいシャアにも理解できた。

 

ソラリスのMDや、コロニーのMSよりも優れる機動性と高出力の武器、ビームすら弾き返すシールド。それを使ってあの化け物を倒せと誰かが語りかけてくるようにシャアには感じられた。

 

 

「ちぃ、あんな化け物が出てくるなんて想定外もいいところだ!」

 

 

殺戮の嵐とか化すリバイアサンを睨みつけながら、リークの後を追ってきたロザエは吐き捨てる。マリオンのMDは練度は高いが性能差でこちらが勝っている。このままいけば問題なく組織を蹴散らして、ガンダムを捕縛できると予想を立てていた彼女からすれば、リバイアサンの出現は事態を悪い方へ向かわせる危険性があったのだ。

 

 

「アルテイシア様!はやく離脱を!」

 

 

呆然とガンダムと戦いを繰り広げる化け物や姿を見つめているアルテイシアのドゥン・ポーに接触回線を使ってロザエはそう声を上げた。

 

 

「あんな化け物相手に……いくらガンダムでも無茶ですよ!!」

 

 

一部始終を見ていたアルテイシアは、圧倒的な生物優位を体現するリバイアサンを目にして完全に気後れしてきた。襲われたMDは簡単に砕け散り、船はプラズマの光に焼かれて沈んでゆく。

 

あんな化け物と戦おうなんて正気じゃない。化け物との戦いで父が望む〝ガンダム〟を失わせるわけにはいかなかった。

 

 

「化け物にお父様が望む物を壊されては!その前にガンダムは……」

 

 

ロザエの静止を振り切り、ドゥン・ポーのバックパックから酸素を吹き出してガンダムの元へと向かおうとするアルテイシア。そのモニターの右側から突如として黒い影が映り込んだ。

 

 

「アルテイシア!!」

 

「きゃあああー!?」

 

 

リバイアサンの尾の先端が、激戦の間合いに入ろうとするアルテイシアの機体を捉えたのだ。尾の先が掠めただけでコロニー最新鋭のドゥン・ポーの装甲はひしゃげて弾き飛ばされてゆく、

 

 

「ええい、役立たずの小娘が!」

 

 

吹き飛んできたアルテイシアの機体を受け止めながら悪態をつくロザエ。その視線の先では、ビームライフルを連射するガンダムと、プラズマ光を吐き出すレビアタンの姿があった。

 

 

《シャア!このままじゃマリオンもセキュリティもやられる!》

 

 

シピロン・スパロウを旗印に撤退を余儀なくされるマリオンのMD。セキュリティの統率も崩壊している状況で暴れ回るリバイアサンがシャアの眼前にいるのだ。

 

 

「漁業組合も、ステイト・セキュリティもごちゃごちゃと!!」

 

 

ビームを弾く強度を誇るリバイアサンの表皮に、ビームよりも効率よくダメージを与えるのは物理的なロケット弾だった。リークが放ったロケット攻撃に苛立つ化け物の間合いに入ったシャアは、ビームサーベルを引き抜いて巨大な体に一撃を振るう。サーベルの刃は僅かにだがリバイアサンの体に傷を作った。攻撃は通じる。距離をとったシャアはその確信を胸に、リークのMDと肩を並べた。

 

 

「共同戦線だ!やれるな?シャア!」

 

「やってみせるさ!蘇ったガンダムの力は伊達じゃない!!」

 

 

お返しだと言わんばかりのプラズマの束を回避するシャアは撤退をするシピロンのロレーニ艦長へ通信を繋げた。

 

 

「ロレーニ艦長!マリオンのMDは湾外に退避を!あいつの目的をこちらに逸らす!」

 

《できるのか!?シャア!》

 

「当たらなければどうという事はない!!」

 

 

相手が使うのは高出力のプラズマ砲だ。攻撃方法が物理的な体当たりじみた攻撃と、プラズマ砲に限定されるため、躱し続ければどうということはない。あとはパイロットの精神力がついて来れるのかが問題ではあったが。

 

 

「巨大な海蛇めぇー!!」

 

 

ガンダムに意識を向けている隙に、リークはリバイアサンの真下に潜り込み、ヒートソードを突き刺す形で構えて突撃した。腹の下ならば強度は劣るだろうと予測を立てたリークの期待をへし折るように、突き立てたヒートソードの刀身は化け物の身を貫く前に折れてしまった。

 

 

「シャア!こいつはMDの武器ではどうにもならない!」

 

 

半ばから折れたヒートソードを待ったまま距離を取るリークのMD。その真上を虹色の燐光を発して追い抜いたシャアは、リークの同じく化け物の腹下を狙ってビームライフルを構えた。

 

 

「化け物と戦う、こういう時のための〝ガンダム〟なんだろう!!」

 

 

トリガーを引くと同時に放たれる高出力のビームはソラリスの海流をも貫いてリバイアサンの腹下に到達する。海中でも高温に達するビームの束は、今度は弾かれることなくリバイアサンの腹部を食い破って見せた。

 

青い血が煙のように海中に広がり、リバイアサンの悲鳴が水の中に反響する。

 

 

「攻撃が通った!!」

 

 

ようやく攻撃が通じた。その光景を見ていたリークのMDの通信機に、かすかにだが外部から繋がる声が発せられた。

 

 

《……隊……あの……攻撃……!!》

 

「アイク!?が近くにいるのか!」

 

 

リークが周囲に目を向けると、メトロポリスへの上陸作戦を展開していたはずの部下がこちらに向かってくる姿が見えた。副隊長であるアイク・ドナヒュが怒り狂ったようにガンダムを追い回すリバイアサンを見て驚愕する。

 

「隊長!!何なんですか、あのデカブツは!!」

 

「説明は後だ!今はアイツの傷跡目掛けて攻撃を集中させろ!」

 

「マリオンの連中はどうするんです!?」

 

「馬鹿野郎!今はステイトの安全確保が先なのが見てわからんか!!」

 

 

構わずにアイクに檄を飛ばしたリークに従い、8機のMDが一切に攻撃部隊へと加わる。

 

 

「各機!あのデカブツの傷目掛けて攻撃開始だ!」

 

 

シャアのガンダムが傷を負わせた箇所目掛けてロケット攻撃が開始される。その中で、プラズマの束を吐き出すレビアタンと、ビームライフルを放つガンダムの戦いは苛烈さを増させてゆくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

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