機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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大変お待たせしました。


第二十二話 災厄

 

 

 

メトロポリス・ステイトの主要湾「ハーバンズム」で事態は最悪の方向に進んでいた。

 

マリオンとステイト・セキュリティのMDが入り乱れる湾口部の海域に浮上した化け物、リヴァイアサンは青い血を垂れ流しながらも多くの居住者が住まうメトロポリス・ステイトの内陸地へと一直線に進み始めたのだ。

 

状況はマリオン側とセキュリティ側の睨み合いの状況であり、混戦状態の二つの勢力は巨大な体躯から生み出されるエネルギーに抗えずにリヴァイアサンが陸地エリアへと侵攻することを食い止めることすら叶わなかった。

 

 

「動ける者は戦闘を中断!あの化け物が見えているならさっさと止めるんだ!」

 

 

膠着する現場に怒号を轟かせたのはシピロン・スパロウ号のロレーニ艦長だ。彼の号令のもと、近くにいたマリオン側のMDたちは戦闘を中断して持てる武装の火力を直進するリヴァイアサンへと打ち込んでゆくが、そのどれもが致命打に至ることはなく、悠然と進む巨大な海蛇はびくともしなかった。

 

 

「通常のMDでは無理だ!下がっていろ!ガンダムで仕留める!」

 

 

無駄だと分かっていても爆雷槍や、短距離ロケットを打ち込むマリオンのMDの真上を虹色の燐光を発したシャアの駆るガンダムが水中を切り裂いて進んでゆく。携行したビームライフルから放たれた閃光は強固なリヴァイアサンの外郭を貫き、青い血を辺りに撒き散らした。

 

高熱で貫かれた海蛇は悲鳴のような咆哮をあげると進路を真下に向ける。

 

 

「ちぃ、総員退避!やつがステイト下部に侵入するぞ!!」

 

「シャア!?追うのか!?」

 

「当然だ!ガンダムの性能なら追いつける!人類の遺産であるステイトを破壊させるわけにはいかない!!」

 

 

追従しようとしているリークのMD。だが、虹色の燐光を放ちながら潜航したリヴァイアサンを追うガンダムについて行くことができない。ガンダムの潜航速度が既存のMDが許容できる速度を超えているのだ。このままついていけばリークの乗る最新型のMDでもバラバラになってしまう。

 

ここまでか。コクピットモニターに表示されるアラートを横目にリークはシャアに追従するのを断念して機体にブレーキをかけた。そのすぐ横を、アルテイシアが操るREV、ドゥン・ポーが追い抜いた。

 

 

「無茶だ!機体がバラバラになるぞ!」

 

 

コロニーで開発された次世代型とはいえ、ソラリスの水圧は想像を絶する。コクピットにはすでにアラームの嵐で機体も過度な水圧と急速潜航の影響で軋み、モニターにもノイズが走っていた。それでも、アルテイシアは潜航速度を緩める気は無かった。

 

 

「見失うわけにはいかない……!わたしには、あのガンダムを捕まえる義務と責任がある……!」

 

先の戦闘でも自分は醜態を晒してばかりだ。こんなことじゃガンダムを捕らえるなんて不可能だと自分でもわかっている。

 

ここで前で瞬く虹色の光を追えなければ、自分がこのような顔を隠すマスクをしている意味も無くなってしまう。そんな強迫観念がアルテイシアの恐怖心をねじ伏せる歪な原動力となっていた。

 

それでも、ガンダムの燐光はどんどんと海の底へと沈んでゆく。光が遠ざかってゆき、目の前には真っ暗な深海が広がる。光すら届かず、逃れられない闇が横たわる世界。

 

喉が乾く。呼吸が浅い。息が詰まりそうだ。

 

 

「ガンダムが!!このままじゃお父様の願いを叶えられない……!!どうすればいいの!?」

 

 

「……アル……テイ……アルテイシア、聞こえて?」

 

 

真っ暗な深海の光景に心が呑まれかけた時、海面にいるロザエの機体から強力なレーザー通信が耳元に届いた。アルテイシアは何とか深く息を吸い込み、息も絶え絶えに声が聞こえたロザエの通信にすがりつく。

 

 

「ロザエ!わたし……わたしは……一人で……ガンダムを見失った……!暗い海で……!」

 

「落ち着いて、アルテイシア。このステイトの下部は防衛用システムがあります。それごと巨大生物とガンダムを拿捕できればあるいは……」

 

 

ロザエから送られてきたデータを震える指先で開く。たしかにそこには彼女のいう通り、ステイトの防衛用システムの項目があった。ステイト底部に位置するユニットのコア部を破壊すれば始動防衛システムが作動し、それを利用すればガンダムを巨大生物ごと捕らえられることができる。

 

 

「……わかりました、ロザエ。やってみせます……私はアルテイシアの名を持ったパイロットです!」

 

 

真っ暗な暗闇の中で一つの光を得たようにアルテイシアはロザエから受け取った海域データを元に進路を変え、進み始める。

 

ガンダムを鹵獲することへの執着と、深海に潜り過ぎたために起こる精神障害を抱えた彼女は気づきもしなかった。ロザエから送られてきたデータが杜撰に改竄されたデータであると言うことを。

 

 

「ふふふ、せいぜい私たちのために頑張りなさいな。仮面を被ることしかできない小娘さん?アッハッハっ!」

 

 

深海にさらに潜ったことで通信が途絶えた。ロザエは海面近くを漂いながら海の底へと向かってゆくアルテイシアの滑稽さに笑いが止まらなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、レヴィアタンを追い詰めるガンダムは化け物の向かう先を見て驚愕の表情を浮かべていた。一気に深度3000M近くまで潜航したレヴィアタンの前には、この巨大なメガロポリス・ステイトを支えるバランサーがあったのだ。ステイトはいわば浮遊島。底部がO.M.Sで保護されてるとはいえ、その基部を支えるのは最も最深部にあるバランサーユニットだ。そこが分離される、もしくは破壊された場合、ステイトのバランス制御ユニットが崩壊してしまう危険がある。

 

故に、ステイト近域での漁業行為ならびに戦闘行為はタブーとされていた。さきほどのマリオンとセキュリティの戦闘も深度限界が設けられており、ステイト基部のバランサーに被害を出すことは禁じられているのだ。

 

 

「ステイトは浮島なんだぞ!!そんなものを下からひっくり返せば、ステイトに住む人々が!!」

 

 

この深度は危険域だ。こんな場所でガンダムのビームを撃てば、ステイトを支えるバランサーに傷がつく。

 

 

「ここでは、ビームを使ってはならない!だから!」

 

 

ビームライフルを腰に喧嘩したガンダムはビームサーベルを展開。二つの腕に二つのビームサーベル。水中でも一切熱量を失わずに当たりの水を沸騰させるほどの出力を誇るビームサーベルを、シャアはバランサー部に向かおうとするリヴァイアサンの体躯へ突き立てた。青い血が瞬時に蒸発し、突き刺した部分の肉が一気に焼け焦げてゆく。化け物の断末魔が深海に響き渡った。

 

 

「止まれ、化け物ぉぉ!」

 

 

ガンダムの脅威的な出力に任せて二刀のビームサーベルを左右に切り開いてゆき、シャアの雄叫びと虹色の光が共に溢れ、ガンダムの出力を上げた。肥大化したビームの刃は巨大なリヴァイアサンの肉体を輪切りにして、大海蛇を二分割する。断面から青い血を溢れさせた海の化け物は今度こそ、その瞳から光を失った。

 

 

「こいつでトドメ……何!?」

 

 

ダメ押しの一撃にと、沈黙したリヴァイアサンの頭部にビームサーベルを突き立てたシャアは、コクピットのアラームの響く方向へ視線を向け、目を剥く。

 

そこには海中用のバズーカを構えたアルテイシアのドゥン・ポーが浮かんでいたのだ。

 

 

「……ッ!ガンダム!」

 

 

突如として放たれるバズーカ。シャアは死に絶えたリヴァイアサンからビームサーベルを引き抜き、降り注ぐバズーカの弾頭を切り裂いた。すぐそこにはステイトのバランサーがある。アルテイシアが仕掛けてきたタイミングといい、シャアにとっては危険極まりない行為だった。

 

 

「コイツ!自分が何をやっているのか、わかっているのか!?」

 

 

アルテイシアが狙っているのは、まさにそのバランサーだった。ロザエが改竄したデータには、そのバランサーユニットが防衛システムの起動ユニットだと記されていたのだ。外的な衝撃によって機能するシステムであるということも。

 

 

「ドゥン・ポーの性能なら……私なら……アルテイシアという名があるなら……見えた!防衛システムの起動ユニット!」

 

 

バズーカの銃口をバランサーユニットに向けて放つアルテイシアの蛮行に、シャアは声を荒げてフットペダルを押し込んだ。虹色の燐光を発したガンダムは血迷ったようにバズーカを放とうとするドゥン・ポーに迫る。

 

 

「ステイト・セキュリティに化け物……お前たちはそこまでして、このステイトを破壊したいのか!!」

 

 

緑光の眼を閃かせながら迫るガンダムに、アルテイシアの脳裏に同じように迫られてガンダムに海へ叩きつけられた光景がよぎった。押しとどめていた恐怖心とパニックが彼女の体の自由を奪い、口からはただ悲鳴をあげることしかできなかった。

 

 

「うわぁああ!!……ガンダムゥ!!」

 

 

機体を押さえようとした瞬間、ガンダムのメインセンサーのすぐ横をバズーカの弾頭が横切った。シャアが振り返ったと同時、その弾頭はバランサーユニットの中心部に直撃。水泡と共に中の炸薬が起動し、バランサーユニットは閃光に包まれた。

 

歪な音が辺りに響き渡る。バランサーユニットから張り巡らされていた制御用ワイヤーが軋み、次々と引きちぎれてゆく。直径20メートル程度の巨大なワイヤーが、バランスを崩して引きちぎれて行く。

 

 

「な、何だ!?お前!!何をした!!」

 

 

アルテイシアのドゥン・ポーに接触回線でシャアが怒鳴り散らすが返事は返ってこなかった。その言葉の最中もステイトの崩壊が凄まじい速さで進んでいった。バランサーユニットを失った底部は大きく傾き出し、その歪みは約一世紀近くもステイトを支え続けたシステムにも及んだ。

 

 

「ステイトのO.M.Sが解除されたのか!?分離も始まってる……!」

 

 

異変はすぐに会場に浮かぶ居住区でも起こった。これまで平面を保っていた巨大な地上部は大きく反り上がり、高層建造物が立ち並ぶエリアは耐え切れず倒壊し始めていく。その建物には多くの市民が取り残されたままだ。

 

 

「何だ!?ステイトが崩壊していく!?何だ!?何が起こったんだ!?」

 

「艦長!ステイトの底部から異常な観測値が……!このままだとメトロポリスの都市部が沈みます!」

 

 

シピロン・スパロウの乗組員はオペレーターの悲鳴のような声を聞きながら目の前で起こる惨劇を目にすることしかできなかった。ガラガラと音を立てて居住区が崩れ落ちてゆく、反り上がった地表面は耐えきれずに裂け、ひと繋ぎであった地上エリアは分割されてゆく。末端部は裂けたと同時に海中に沈み、瓦礫は湾口部にいたマリオンとセキュリティの船を差別なく押し潰して共に海の底へと導いていった。

 

 

「なんてことを……」

 

 

浮上してコクピットから出たリークも、その惨状を前に言葉を失っていた。数十万人が避難している居住区が瞬く間のうちに瓦礫となってゆく様を、その場にいる誰もがただ見つめることができない。

 

海中でバラバラになったステイトの底部を見ていたシャアのいるコクピットに、絹を裂さくような絶叫が響いた。それは、接触回線で繋がったままのアルテイシアの機体からだった。

 

 

「そ、そんな……あれはステイトの防衛システムのはずで……!そんな酷いことなんて起こるはずがないのに……!」

 

深海の中、響き渡るアルテイシアの悲鳴。シャアはその無知さに憎悪の目を向けたまま、ドゥン・ポーを離して一人海面へと登ってゆく。

 

倒壊し、崩壊してゆくステイト。ソラリスで築かれてきた最大のステイトの崩壊。その光景を見て、ロザエは抑えきれない高揚感と愉悦感を口から吐き出した。

 

 

「ふふふ……ははは……あーっはっはっはっは!!あの小娘、本気でやりやがったよ!!ざまぁみろ、ステイトに縋りつくゴミども!」

 

 

ロザエの怨念がこもった笑い声が静かな海に木霊する。ロザエの目論見通り、バランサーユニットを破壊されたステイトはその大部分を崩壊させ、ソラリスの海に散らせた。

 

メガロポリス・ステイトの崩壊。

 

ソラリスでの歴史上、最も悲惨な人災であるその事故による犠牲者は、今もなお、完全には把握されていない。

 

 

 

 

 

第三章「船乗りの誇示」完。

 

 

 

 

 

 

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