機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第三話 故郷への航路

 

 

ステイトからステイトへの移動は、緻密に張り巡らされた航路と船が一般的だ。なにせソラリスの天候は曇りか雨が大半。悪天候の中で、飛行船を飛ばすには人もコインもかかる。それに全てのステイトが飛行船の受け入れができるよう作られているわけでもない。

 

しかし例外はある。

 

ステイト・セキュリティのように専用の飛行船で行き来することも手段の一つであるが、それを使って移動するのは憎たらしいセキュリティや、彼らに不運にも捕まった民間人くらいだ。

 

後者だと、その扱いは全くもって酷いものとなるらしい。

 

規模が大きな上流ステイトには運航路が集まり、今向かおうとしている下流ステイトへ向かう船はかなり数が限られてくる。

 

それこそ、幾つもの中流ステイトを経由し、船を乗り換えなければならないほど。乗り換えにはコインが掛かるし、時間もかかる。下流ステイトにたどり着くまで一週間や二週間掛かるなんてザラだ。

 

乗り場の出入り口に備わる無人の改札口。

 

自分の身分などが登録され、ついでに共通電子クレジット機能も備わったカードをかざすと、乗船前に船に乗るためのコインが膨大なネットワークの片隅にある個人口座から引き落とされる。

 

この世界は全て電子ネットワークで管理されている。個人が物体的に持つ資産は存在しない。ステイトの住居も、潜水艦やMDといった乗り物も、そして資産も全て「プロヴィンギア」というコロニーから貸し出されている。

 

ソラリスに住む誰もが、与えられたものに対価を支払って生きている。その方が管理がしやすいからだ。

 

 

コロニーという世界の中心が。

 

 

定期船という片道二時間ほどの船の座席に腰を下ろした。

 

昨日の漁で膨大な利益を上げるはずだったホエール・サブマリン号の仕事は当面なしとなった。五日間以上の長期航行で船のあちこちにガタが来ていたようで、セキュリティの中抜きを免れた売り上げの大半が船の修繕に回されることになったからだ。

 

おかげで、命を張ったMD乗りや船内の乗組員たちへの追加報酬はなし。

 

定期給金も普段より幾分か少なかったが、それでも従業員の生活を保証することに舵を取ったカーディス艦長や漁夫長の判断は英断だったと思える。

 

そのこともあって、生家への仕送り金額がいつもと変わらないという旨を連絡したところ、「その必要はもうなくなった」と昔からお世話になっていた幼馴染の父親から告げられた。

 

仕送り金を送る必要があった要介護者の祖父が、先日息を引き取ったとそのままの言葉で聞いた。

 

唯一の肉親であった祖父の死だが、その言葉を聞いてみた自分は思いの外冷静だった。

 

加齢とともに訪れた知的障害の影響で施設に入れられた祖父の体みるみると骨と皮だけになっていく様子を見ていたからだろうか?

 

このサウス・マーケット・ステイトに来て一年経つが、たったそれだけの期間で昔からよく自分の面倒を見てくれていた祖父は息を引き取ったのだ。

 

祖父の施設金を稼ぐために出稼ぎに出た自分に代わって、幼馴染の両親たちが祖父の容態などを確認してくれていた。近々、小さな葬儀をしてから海葬する。その日程を聞き、帰って来れるなら顔を見に来てやってほしいと伝えられ、連絡を終えた。

 

さて。

 

祖父の葬儀に出ようにも、生家があるのは田舎の下流ステイトだ。日数はそう掛からない距離ではあるが、その定期船に乗るための金も無い。

 

 

(早かったな…)

 

 

一年程度しか持たなかったから、祖父の遺産をやりくりすれば出稼ぎなんてしなくても済んだのかもしれない。

 

もっとそばにいて、中流ステイトなんかに行かなければ優しかった祖父の死に目にも会えたのかもしれない。

 

連絡を終えて、自室に戻ってからベッド上に横になってようやくそんな考えが頭をよぎってきた。

 

祖父の死顔も見れないまま、永遠の別れをするのか。

 

無かった実感が後になってやってきて、この生活が一気に無意味なものに感じられてしまった。

 

 

 

 

 

 

眠れなかった顔に水を吹っかけて無理やり起こした翌朝。いつも通り出勤しIDカードをスキャンしようとしたところで、横合いからイーサンが遮ってきた。

 

 

「聞いたぜ?おじいさんが亡くなったってな」

 

 

なぜ知ってる?そんな顔をすると、イーサンは事情を話してくれた。あの後、幼馴染の両親が仕事先であるカーディス艦長の元へも連絡を入れていたらしい。

 

 

「お前、仕事なんかしてる場合じゃ無いだろう?」

 

「放っておいてくれよ」

 

 

そんなことを言うイーサンを避けてIDを通そうとすると、今度はその手を取って阻止してきた。本格的な阻止に乗り出してきたイーサンを睨みつける。

 

 

「知ってるだろ、ステイトに帰る定期船に乗るコインも無いんだ。だから俺はここにいる」

 

「そりゃあ知ってるさ。だから止めたんだろ?」

 

 

イーサンは後ろを見ろと目で合図する。振り返ると、そこにはホエール・サブマリン号の乗組員や、漁夫長、そして艦長であるカーディスもいた。

 

物言いたげな全員の視線を受けていると、カーディスが前に出てきてIDカードにデータを送ってくれた。

 

 

「バカにするなよ?身内の祖父が亡くなったんだ。それを無視して仕事をしろというほど俺たちは落ちぶれちゃいない」

 

 

データを見ると、生家のあるステイトへの定期船費が往復分振り込まれていた。先日の理不尽なセキュリティの中抜きを目撃している。僅かに残った貴重なコインを受け取るわけには…。

 

返そうした手を、カーディスはそっと遮った。

 

 

「唯一、お前の肉親なんだ。ちゃんと別れを告げて見送ってやれ。艦長命令だ、いいな?」

 

 

にこやかにそう言ってくれるカーディス艦長。他の乗組員も笑っていて、軽く肩を叩かれる。

 

ああ、なんて…。

 

人の優しさと温もりがそこにあった。受け渡された温かみに満ちたコインが入るIDカードを胸に、ただ感謝で胸がいっぱいで涙を流すしかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「メガロ・ステイト」。

 

下流の居住ステイトであるそれは、ソラリスではじめて建造、運営された最古のステイトだった。

 

だが、最古のステイトとは名前ばかりで、あちこちに老朽化の影響が出ているし、初期型のステイトのため総面積も他のステイトと比べると随分と小さい。

 

漁業組合の港もあるが、ステイト居住者に必要な最低限の漁獲量しか揚げられないため、ほかの物資はコロニーや近隣のステイトに頼っているのが実情だった。

 

1年ぶりに帰ってきた。

 

ステイト唯一の定期船の乗り場から出ると、入り口のロータリーにはすでに一台の水素車が待ってくれていた。

 

 

「間に合ったな」

 

 

幼馴染の父がそう言ってくれた。片手に収まる荷物をトランクに詰めて後部座席に乗り込むと、一年前よりも大人びた幼馴染「アニス・ブルーム」が乗っていた。

 

 

「大丈夫?無理してない?」

 

 

心配性なのは幼い頃から変わってないな、と笑うとアニスは不満げに顔を顰めた。

 

 

「そう言ってやるな、こいつは昨日からずっと思い詰めた顔をしていたのさ」

 

 

父の言葉に、そんなことない!とそっぽを向くアニスを見て心がほぐれた気がした。定期船乗り場を結ぶ橋を通過したあたりで、アニスの父は意を決したように言う。

 

 

「実は、施設から連絡があってな。退去者の荷物をさっさと引き上げてくれだと。全く、無遠慮な奴らだ」

 

「仕方ないですよ、向こうも仕事です」

 

「そう言う言い方、私は好きじゃ無いな」

 

 

アニスの好き嫌い関係なく、そう言ったものだと割り切らないと向こうも心が持たないものだ。そういうと、彼女はつまらなさそうに頬杖をついて外へと視線を向けた。

 

空は相変わらず曇り空で、今にも雨が降ってきそうだった。

 

 

 

 

 

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