機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第六話 目覚めしガンダム

 

 

 

「エネルギーライン、チェック。フィードバック制御、チェック。APP起動、チェック。制御モジュールブロック、オンライン。システムオールグリーン」

 

 

アニスの父親は、海洋生物の科学者である。

 

研究の一環でソラリスの海に潜ることがある彼のラボには、海中探査用のMDが備えられていた。

 

MDは名の通り人型の海中作業機であるが、ソラリスの巨大海棲生物との遭遇に備えて最低限の自衛手段も搭載されている。たとえば腰部に備わるグレネードランチャーや、背部の連装ロケット砲、脚部にはヒートナイフなどが標準装備されている。

 

あくまで、巨大海棲生物相手に使う自衛手段なので威力も低い上に、相手が巨大すぎた場合は牽制程度にしかならないが、無いよりはマシと言った具合だった。

 

 

「よし、行けるな」

 

 

常備されているバイタル・スーツ(海中作業用スーツ)を身につけ、MDの起動シークエンスを完了する。四角に覆われたコクピットに備わるモニターからは、アニスも、その父親もハンガーの管理室からこちらを心配そうに眺めているのが見えた。

 

 

「それはあくまで実験機だ。基本性能は他のMDと大差はないが耐久深度は4000Mだから、それ以上深くは絶対潜らないようにしてくれ」

 

「気をつけて…絶対に、死んじゃだめなんだからね!」

 

「わかってる。行ってくるよ」

 

 

通信越しに聞こえる二人の声に返事をしながら、MDを発進ハッチがある場所へと向かわせてゆく。たしかに、この機体は海中探索の実験機。機体のあちこちはツギハギの装甲で、動きもどこか頼りなさを感じるが、動かせられないわけではない。

 

 

「ハッチ開くぞ!うわっ!?」

 

 

ハッチ解放のレバーを引いたと同時に、再び激しい揺れがステイト中に響いた。揺れのせいでハンガーの建て付けがズレたのか、開いていたハッチが途中で止まる。

 

仕方ないのでMDの腕で無理やりこじ開けると、眼前には上陸を果たしたレビアタンと、その体躯に立ち向かう漁業組合のMDたちの戦いが繰り広げられていた。

 

 

「もうあんなところに!」

 

 

脚部に備わるスラスターベーンを解放し、地表を滑るように移動する。ステイトにある街並みは酷い有様で、レビアタンが一挙一動するたびに建屋が宙を舞っているのが見てた。

 

漁業組合のMDたちも決死の攻撃を仕掛けているが、距離を取って放つ槍やロケット砲、低出力のスプレーガン程度ではどうにもなっていなかった。

 

 

「引きつけろ!正面からじゃ無理だ!」

 

「なんて硬い甲殻持ってやがる!?」

 

 

範囲限定の通信回線から声が聞こえ始めたタイミングで、目の前に鞭のようなレビアタンの触手が現れた。右へ避ける。ひらりと躱した一打は、堅牢な道路をたやすく叩き割った。排水用のパイプが破裂し、道路の残骸から水が吹き上がる。

 

あんなもの食らえばMDはひとたまりもない。

 

 

「裏側からは無理だ!甲殻の隙間も槍は通らない!」

 

「スプレーガンも効かないぞ!」

 

「触手やハサミに攻撃しても無駄だ!掻い潜って本体に傷を負わせて弱らせないと!」

 

 

脚部に備わるヒートナイフを引き抜き、迫り来る触手を切り裂く。負荷は大きいが、熱溶断は出来た。相手の硬度はそれほど高くはない。

 

追撃の触手を避けて、振り下ろされたハサミからも距離をとる。触手一本程度切ったところで状況は好転しなかった。

 

 

「あの中を掻い潜るのか!?」

 

「このMDの機動力じゃ無理だ!粉微塵に…」

 

 

通信の最中、誰かのMDが触手の直撃を受けた。通信はくぐもった声と共に途絶え、紙細工のように細切れになったMDが街並みの上を通り過ぎ、あたりに散らばって爆散したのが見えた。

 

 

「アレクセイのMDがやられた!」

 

「ちくしょう!これで三機目だ!」

 

 

こいつは本当に生き物なのか!?そんな悪態を吐く暇もなく、迫り来る攻撃とハサミによる鉄槌を避ける。懐に潜り込もうとしたのがバレたのか、レビアタンの攻撃はより激しさを増していた。

 

そんな中、横合いからレビアタンの頭部にあたる場所にロケット砲が叩き込まれる。

 

 

《漁業組合のMDたち!さっさと退去をするんだ!》

 

 

レビアタンを相手取るこちらとは別方向。数機の編隊を組んで現れたのはステイト・セキュリティの最新鋭MDだ。隊長であるリーク・ベッカード機が放ったロケット砲に続いて、他のMDもロケット砲を放つ。

 

頭部への砲撃は流石に鬱陶しいのか、レビアタンは重低音の唸り声をあげて身じろぐ。

 

 

「セキュリティのMDか!?」

 

《こちらはステイト・セキュリティのリーク・ベッカードだ!ここから先は我々が対処する!あなた方は避難を!》

 

 

漁業組合のMDを庇うように展開するリークのMD部隊であるが、漁業組合のMD乗りたちは関係なく、怯んだレビアタンに向かって攻撃を続行した。

 

 

「ふざけんな!だらしないセキュリティなんかに俺たちのステイトを任せられるか!」

 

「そっちこそ、俺たちの漁の邪魔をするんじゃあねぇ!」

 

 

セキュリティから理不尽な中抜きを受け続けてきた漁業組合のMD乗りたちが、そんな言葉を信用するわけがなかった。

 

きっと助けた後に巨額の救助金を請求するに決まっている、という考えが先に走っていて、リークや他のセキュリティたちの言葉を聞かないまま、レビアタンに立ち向かっていってしまう。

 

だが、漁業組合のMDの中でただ一人、リークと面識があった。

 

 

「リーク!聞こえるな!?」

 

 

通信に応じた声と映像を見て、リークは驚きの声をあげる。

 

 

「君は、あの時の少年か!」

 

「あのデカブツは真正面の腹が弱点だ!そこを攻撃するには触手をどうにかしないと!」

 

「わかった!援護をしてくれ!」

 

 

機動力はこちらの方が上だ。ヒートナイフよりも大ぶりなヒートソードを構え、そう言ったリークは、他のセキュリティのMDが率いてレビアタンへ突っ込んでゆく。

 

 

「漁業組合のみんな!聞いたな!?あのセキュリティのパイロットは信用できる!援護するんだ!」

 

 

触手に阻まれて右往左往していた漁業組合のMDの前に出て、決死の攻撃をかけるリークたちを援護するように叫んだ。

 

ロケット砲やグレネードを吐き出しながら注意を逸らす動きを見て、あぐねいていた漁業組合のMDたちもなし崩し的にリークたちを援護する側へと回った。

 

 

「ええい!セキュリティの手伝いをするなんてな!!」

 

「漁業組合の恥だぜ!まったく!」

 

「無駄口を叩いてないで援護しろ!」

 

 

バカスカと撃ち込まれる弾頭に苛立ったレビアタンの隙。それを見逃さなかったリークは触手の合間を縫って、一番柔らかい甲殻へヒートソードを突き刺した。

 

地の底から響き渡るような絶叫。青い血液が吹き出し、リークのMDを染め上げてゆく。

 

突き立てられた激痛にレビアタンが身を捩った。リークが突き立てていたソードは深く食い込んでおり、振り回された衝撃と甲殻に挟まれたテコの原理であっさりと折れてしまった。

 

折れたヒートソードの柄を持ったまま吹き飛ばされたリークのMDはぐるぐると前転して、瓦礫と化したステイトの住居に叩きつけられる。

 

 

「リーク!」

 

「ちぃ!この化け物め!!」

 

 

ノイズが走るモニターを見ながらリークがうめいた。倒れ伏したMD目掛けて、激情に駆られたレビアタンが鈍重なハサミを振り上げる。

 

リークが吹き飛ばされた瞬間に、もう体は動き出していた。

 

 

「少年!?」

 

「そこだ!当たれぇ!!」

 

 

狙いは低くなったレビアタンの顔。

真っ赤に彩られた人の目と同じ器官。

 

リークのMDの前に出て投擲したヒートナイフは、ハサミの脇を通り過ぎて、飛び出しているレビアタンの目を根本から切り飛ばした。

 

再び、重低音の悲鳴があたりに響き渡る。

 

腹を突き刺された痛みよりも酷い激痛が、レビアタンの神経を駆け巡り、触手やハサミをばたつかせている様は、まさにのたうち回るといった表現がぴったりな有り様だった。

 

 

「よし、動きが鈍った!このまま腹の柔らかい部分を」

 

 

その瞬間、凄まじい衝撃が身体を襲った。のたうち回っていたレビアタンの触手が機体に直撃したのだ。

 

ふわりとした浮遊感を味わい、海面に叩きつけられる。その衝撃で記憶が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ゴボッ。

 

かすかに音が聞こえた。

 

目を覚ますと、見えたのは水の中にある小さな空気の泡だった。手足がぶらりと垂れさがり、体が重力に惹かれている。

 

 

「つぅっ……ふ、吹き飛ばされたのか……!?海?浮上しないと……!」

 

 

すぐに自分が海の中に落ちたと言うことを理解した。どれだけ眠っていたのか?コクピットは真っ赤な非常灯で照らされていて、コンソールやモニターもノイズだらけだった。辛うじて見えたエネルギーラインも、残量は僅か。

 

絶望的な状況の中、追い討ちのようにエラーコードにも目を走らせてから、うめき声を上げた。

 

 

「メインノズルがやられているのか?し、沈んでいく……!」

 

 

海中でのMDの推進力は酸素を利用している。その推進力はタンクに貯水された海水から得られるのだが、タンクを含めノズルも吹き飛ばされた衝撃でスクラップと化しているようだった。

 

レバーやフットペダルを操作しても出力が上がる気配はない。機体はどんどん深海へと沈んでゆく。

 

 

「だめだ、このままじゃ俺は……」

 

 

金属が軋む音が響き始めた。

 

限界水深まで到着しているのか?

 

機体のあちこちから聞こえるその音は、死神の足音のようにどんどんと迫ってくる。機体各所に備わるセンサーも次々と死んでゆき、海中を写すモニターもノイズが酷くなっていった。

 

 

「じいちゃん……親父さん……アニス……みんな、ごめん……」

 

 

こうなってはどうしようもない、そう自分に言い聞かせて死を覚悟としようとした時、バイタル・スーツの内側から温もりを感じた。

 

二重のチャックを開いて中に手を突っ込んで温もりの正体を手で掴んだ。

 

 

「メタルが……これは?」

 

 

引っ張り出したのは、祖父の部屋で見つけたメタルプレートだった。なんら機械的な装置でもないはずのプレートは確かに温もりを発している。

 

これはなんだ?正体を確かめるようにプレートを撫でると、エラーばかり起こしてきたモニターに海中の進行路が出現した。

 

 

「ステイトの真下に向かえと言うのか?」

 

 

幸いにも、進行方向は下だ。このまま潜れば機体は圧壊するだろうが、何もしなくても死ぬなら、僅かにできた〝可能性〟にすがって死にたい。死を間際にして、自然とそう思えた。

 

メタルが示した道を進む。機体の歪みは限界ギリギリだ。ハッチも歪んで水漏れを起こし始めたところで、ノイズだらけのモニターは海中に沈む何かを捉えた。

 

 

「なんだ、あのドーム……」

 

 

真っ白な円状のドーム。いや、球体がそこにはあった。MDの限界深度付近。モニターにも映る進路は確かにその球体を指していた。

 

さらに近づくと、人一人が入れそうな入り口が球体の表面に備わっているのが見えた。

 

 

「あの入り口に入れって言うのか……一か八か」

 

 

バイタル・スーツと座席を固定するロックを外して、機体をドームの入り口へと接舷する。まるでMDが掴まれるように備えられた手すりに捕まって、入口とコクピットを限りなく近づけた。

 

空気圧によるトンネルは作れるが、展開した瞬間に水圧に負けて潰されることは間違いない。

 

コクピットの歪む音が大きくなる。この機体の限界も近い。

 

ヘルメットのバイザーを下げて深く息を整える。乗り移れるチャンスは一度。向こうの扉が開く可能性はわからない。

 

しかし、ここにいれば確実に死ぬ。

 

躊躇いは……なかった。

 

 

(届け!!)

 

 

MDのコクピットが開いて、空気圧のトンネルが形成されたと同時に、コクピットから飛び出した。

 

ソラリスの海水に晒されながら飛び込む。閉ざされていた扉が開かなければ……!!

 

すると、飛び出した人を感知したのか、球体の表面に備わる扉は素早く開いた。海水と共に吸い込まれると、間髪入らずに扉が閉まる。

 

 

「はぁ…!はぁ…!はぁ…!」

 

 

間一髪だった。バイタル・スーツのバイザーにアラームメッセージが投影されている。耐久深度500Mのスーツで深海に飛び出したのだ。スーツの負荷は計り知れない。

 

 

「助かったけど……ここは、なんだ?」

 

 

狭い通路だ。横にならないと入れないような中にいる。まるで棺桶のようだ。そんなことを考えていたら通路を満たしていた海水が凄まじい速さで排出されていく。

 

 

「水が抜け…うわぁっ!?」

 

 

水が抜け切った瞬間、もたれかかっていた床に大穴が空いた。受け身も取らずに頭から真っ逆さまに落ち、すぐに体が打ち付けられる。

 

異物を吐き出した扉はすぐに閉まった。どうやら二重扉だったようで、第一隔壁が開いた後、取り込んだ海水を排出し、第二隔壁が開く仕組みになっていたようだ。

 

痛みに身体をさすりながら起き上がる。ふと気がついた、自分が座っているのはコクピットのようなシートだ。

 

暗闇の中、手を伸ばすとMDと同じように操縦桿があった。

 

メタルが熱い。思わずバイタル・スーツの中にしまっていたメタルを取り出す。すると、上の方で赤い光の線が走った。

 

 

(レイハントンコード、承認)

 

 

電子音声が産声を上げる。

 

機体に電力が入り、エンジンのスターターが起動した。

 

 

「これ……は……」

 

 

戸惑うことしかできない。目の前にあるコンソールは機体の情報すべてを表示していた。

 

機体の名前に目を向ける。

 

そこにはこう書かれていた。

 

 

〝ガンダム〟と。

 

 

 

 

 

 

 

「くそぉ!この化け物、腹に一撃入ってるのに、ピンピンしてるぞ!!」

 

 

リーグ率いるセキュリティのMDも、漁業組合のMDも、暴れ回るレビアタンを前に、もうなす術が無かった。さっきまでの蹂躙がお遊びだと思えるくらい、レビアタンの攻撃は苛烈さを増している。

 

少し隊列から離れたMDが、下から振り上げられた触手に吹き飛ばされ、機体はあっという間に粉々になった。

 

 

「ハイデンのMDもやられた!?」

 

 

漁業組合のMDもあと三機だ。セキュリティ側も少なくない損傷を出している上に、虎の子の新型MDでもレビアタンの鞭やハサミの応酬に耐え切ることができなかった。

 

 

「隊長!これ以上はステイトも機体も!」

 

「撤退はしない!撤退をしたらここから逃げた奴らと我々は一緒になってしまう!それだけはダメだ!この化け物を追い払うまでは…!」

 

 

撤退を具申する部下に叱咤の声で返すリーク。ここで退くわけにはいかない。ここで退いてしまえば、何もせずに権力を貪る愚かな父と同じようになってしまう気がした。

 

だが、目の前の海の化け物に勝てるイメージがまったく湧かない。考えているうちにも、こちらはどんどん不利になってゆく。

 

真っ赤な片目をたぎらせて咆哮をあげるレビアタンに、メガロ・ステイトの人々は絶望を感じ取っていた。

 

その時だった。

 

荒れ狂う海の中らから、神々とした光の柱が立ち上る。

 

 

「なんだ!?新手か!?」

 

 

放たれた光は空へと上がってゆき、分厚い雲の向こう側で小さく光って消えた。

 

 

「ちがう、反応がある。あれはMDなのか?」

 

 

リーク達のMDが空を見上げる。レビアタンも背後に現れたプレッシャーを感じ取り振り返った。

 

そこには、ビームライフルとシールドを構えた一機のMS、ガンダムが浮かんでいたのだ。

 

 

「あの機体のシルエットは…」

 

 

遠い昔、リークは両親からこんな話を聞かされていた。

 

ソラリスの海から来る魔物。人々は魔物が過ぎ去るまでただ耐え、恐れ、震えるしか無かった。

 

そんな魔物を相手取って戦い、勝利した白き巨人がいた、と。守護神か、あるいは魔物と同じ悪魔なのか。その答えを両親は教えてくれなかった。

 

驚愕するリークはまだ知らない。

 

その伝説の機体に乗る少年の名前すら。

 

 

「この機体が…どんな理由であそこにあって…どんな物かなんて知らないけれど。今は、今は…!!」

 

 

コクピットからの声に呼応するように、黄色い二つの目が凛と輝き、ビームライフルを向けてガンダムはそびえるレビアタンへと飛翔する。

 

 

「ステイトを守るために、俺に力を貸してくれ!ガンダム!!」

 

 

 

 

 

 

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