機動戦士ガンダム 青のプロヴィンギア   作:紅乃 晴@小説アカ

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第七話 青の世界

 

 

 

MDの限界深度4000M。その距離を一息で駆け上がるガンダムの性能は、今まで乗っていたMDとは比べ物にならないほど圧倒的だった。

 

浮上する勢いに任せて海面から飛び上がる。MDのように酸素を推進剤とした推力ではなく、ガンダムのバックパックからは虹色の燐光を放たれていた。

 

凄まじい速さで海面から脱した際に、ステイトの蹂躙に目を向けていたレビアタンがこちらを捕捉した。その瞬間、咆哮を上げて殺意の全てをガンダムへと差し向けてきた。

 

凄まじい水飛沫と海中に沈み込む音を立てながら、再び海へと潜ったガンダムを追ってくるレビアタンは、地上では考えられないほどの速度で触手を振るい襲いかかってきた。

 

 

「前からくる!!ぶつかる!?」

 

 

空気の泡を切り裂く勢いで放たれたレビアタンの一撃に直撃を覚悟したが、押し込んだレバーに反応してガンダムは素早くその一打を躱してみせた。

 

 

「避けた?」

 

 

早すぎて自分でも何が起こっているのか把握できなかった。

 

二撃、三撃。

 

振われる鞭を相手に、ガンダムは虹色の燐光を放ちながら化け物が振るう攻撃を躱してくれる。

 

体が想像以上に軽い。まるで機体の手足が自分の手足のようになったと思えるくらい、ガンダムの反応速度は早かった。

 

当たらない攻撃に苛立つかのようにレビアタンは触手攻撃に加えてハサミも振り下ろしてくるが、その動きもまるでスローモーションのように見えた。

 

 

「化け物の動きが遅くなっている?違う…俺の方が…ガンダムの方が早く動けているんだ!!」

 

 

全天周型モニターはまるで海の中にある剥き出しの球体で、自分が何かに乗っているなんていう感覚が希薄になってゆくような気がした。

 

その差はあれど、コクピットのモジュールレイアウトはMDと大差はない。レバーの操作感や、トリガーの配置、フットペダル、その全てがダイレクトにガンダムへ挙動を伝えてくれる。

 

だが、このままレビアタンの攻撃を避けていても状況は進展しない。操作パネルに表示されるウェポンリスト。その中にある「ビーム・ライフル」に視線を走らせた。

 

さっきはドームから脱出するために使用したが、その威力を何かに向かって放つ。名の通り、ビームを放つ攻撃なのだろうがその性能は未知数だ。

 

だが、目の前で咆哮を上げる化け物は迷わせてくれる時間なんて与えてくれない。覚悟を決めて、標準装備で手に備わるビーム・ライフルの銃口をレビアタンに構えた。

 

 

「当たったら大変なことになるかもしれない。だけど、お前を止めれるなら!いけぇえー!!」

 

 

トリガーを引く。直後、信じられない極光がライフルから放たれ、迫り来るレビアタンのハサミに命中する。MDの武器ではどうしようもなかったレビアタンの硬い甲殻は、まるで粘土細工に穴を開けるようにひしゃげ、青い血を撒き散らして爆散した。

 

 

「す、水中で何が起こっているんだ!?」

 

 

海底で何かが光ったと同時に、凄まじい爆音と水柱が立ち上がる。

 

衝撃であたりに海水が散らばると同時に、レビアタンの硬い甲殻と思われる破片が、波打ち際で海の様子を見守るMDの装甲へ音を立ててぶつかった。

 

 

「わからない!!シー・スペースは磁気の嵐だ!肉眼で見える距離じゃないと…!」

 

 

刹那、泡立った海面から何かが飛び上がった。それを追うようにレビアタンも浮上する。浮かび上がったと同時に咆哮を空へと吐く化け物は怒り狂っていると誰もが思った。しかし、状況は違っていた。レビアタンはたまらず海面に浮上したのだ。ハサミの大部分が無くなった腕を振り回しながら重低音の悲鳴を轟かせのたうつ。

 

誰もが言葉を失った。

 

真上からビームの雨を降らせるのは、突如として現れたガンダムだった。手の施しようがなかった化け物は、光の雨に体を貫かれて悲鳴を上げて身を縮こまさせている。あまりにも圧倒的で、あまりにも一方的な戦いだ。

 

 

「この機体、MDの動力と全く違う!ステイトの様子は!?」

 

 

全天周位型モニターでステイトの様子を見る。

 

それはひどい光景だった。

 

レビアタンが上陸した場所は何もかもが破壊の限りを尽くされており、あたりには必死に防衛しようとした漁業組合とリーグ率いるセキュリティ側のMDの残骸が散らばっている。

 

 

「酷い…!港町がやられているじゃないか!!」

 

 

機体をぐるりと反転して、シー・スペースへと潜る。

 

海の中では痛手を負ったレビアタンが海底に向かって逃げようとしており、その身勝手な化け物の姿を見て、言いようのない怒りのような感情が湧き上がった。

 

 

「お前!海の化け物だと言うなら!!船でも襲っていろよ!!」

 

 

ビーム・ライフルで逃げるレビアタンの背面を数発貫く。逃して回復されれば、次はもっと大きな被害をもたらすだろう。ここで仕留めなければならない。

 

決して、逃がさない。

 

そんな思いが、ガンダムのレバーを強く握りしめさせていた。

 

 

「海の化け物!ステイトを襲った報いはここで受けさせる!!」

 

 

ドンっと再び水柱が起こる。港川まで来て、ことの顛末を見守ろとしていたアニスとその父親は、目の前な現れた謎の人型機械を前にただ言葉を失っていた。

 

 

「お父さん、知ってるの?」

 

 

海洋学者である父にそう問いかけるが、父は何も言わないまま口元を抑え、思考を巡らせている。

 

あの機体、あの色、そしてあの強さ。

 

ソラリスの文献を紐解く中で必ずと言っていい共通点。ソラリスの海に人類が船を漕ぎ出した時、その近くには常に白い巨人が船を漕ぐ人々を守っているのだと。

 

 

「まさか…いや…あるいは…」

 

 

そんなもの、お伽噺のようなもので、なんら証拠はないといつもの自分なら切り捨てるが、それでもあの機体の姿は目に焼き付いてしまっていた。

 

再び、戦いの場は海中へと移る。

 

レビアタンは逃げることをやめた。これ以上逃げても、自分の命は残りわずかだと悟ったからだろうか。ステイトを守り、海中に入った他のMDたちが見守る中、ガンダムはバックパックに備わるビームサーベルを引き抜いた。

 

最後の抵抗で襲いかかってきた触手をビームサーベルで薙ぎ払ってゆく。

 

 

 

「あのMDの武器は、レーザーじゃないのか!?」

 

「違う、ビーエムの使うヒートナイフじゃない!あれはビームで出来た刃だ!!」

 

 

セキュリティの若手の有志で構成された隊を率いるリークは、その戦いを固唾を呑んで見守っていた。

 

ビームサーベルで最後の鋏を切り落としたガンダムは、そのまま頭部があるまで浮上し、サーベルを構えた。

 

 

「化け物は海の中に帰れぇーーっ!!」

 

 

一閃。レビアタンの頭部を縦に切り裂いた一撃は、致命傷となった。

 

青い血液を撒き散らしながら、巨体さを誇った体はシンと静まり返り、神話で囁かれた海の怪物レビアタンは、海中に浮かぶ化け物の残骸と成り下がったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

ステイトに上がると、荒廃した港町はお祭り騒ぎだった。水揚げ場では死亡したレビアタンが生き残ったMDによって引き上げられており、その道の専門家たちが調査を行いつつ、血抜きや〆の作業へと入っていく。

 

食料や物資に困窮するのがステイトの常。使えるものはなんでも利用する。まったくもってたくましい人達だ。

 

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

 

ガンダムから降りると、体は信じられないほど気怠げで、すぐにでもその場に横になって眠ってしまいたい気分だった。頭がぼやけて、クラクラしている。

 

倒したのか、あの海の化け物を。

 

水揚げされた巨大なレビアタンの死骸を見つめながらぼんやりと思う。あまりにも現実離れをしていて、実感が湧かない。

 

真上に鎮座する〝ガンダム〟を見上げる。

 

この機体がなければ、このステイトはレビアタンに破壊の限りを尽くされていたはずだった。

 

メタルを持つ自分がコクピットから離れると、すぐに電源が落ち動かなくなってしまったので、どうしようもないからガンダムの足元に座って、レビアタンの水揚げ作業に入る漁業組合の人々を眺めていた。

 

 

「化け物を討ち取る守護神…あるいは破滅をもたらす悪魔か…」

 

 

ふと、そんな言葉をかけられた。振り返ると、若いセキュリティの隊員たちを連れたリークが、座り込んでいるこちらに近づいてきていた。

 

 

「少年、どこからそんな機体を見つけてきたんだ?」

 

「それはこのメタルに聞いてくれ」

 

 

単刀直入な質問に、ポケットに入れていたメタルを見せる。リークも受け取っていろいろ確認したが、どう見てもただのメタルプレートでしかない。

 

 

「それが示したのか?」

 

 

その問いかけに頷いて答えた。メタルの示したナビに従って降下したら、このガンダムが眠るバルーンを見つけたのだから。

 

どのMDにも見られない形状をするガンダムを見上げたまま、リークはめんどくさそうに「まったく、セキュリティの奴らがこれを見たらなんて言うなら…」と呟いた。

 

港口の入り口から、幼馴染のアニスと父親が入ってくるのが見えた。

 

手を振っている彼らを見つけて、立ち上がるとリークは今度こそはと問いかける。

 

 

「待ってくれ。結局、俺はまだ少年の名前聞けていなかったな」

 

 

そう言ってこちらの言葉を待つリーク。

 

振り返って、湿った海風を体に受けるまま答えた。

 

 

「シャア」

 

 

自分につけられた名。

 

 

「俺の名前は、シャア・レインだ」

 

 

祖父は目印だと言ったが、何のことかはわからない。だが、それこそが自分に与えられた名前だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「プロヴィンギア」

 

プロヴィンギア船団の旗艦であり、惑星ソラリスの衛星軌道に位置する。

 

このコロニーは空気製造や工作機器の製造を担っており、その規模も最大であった。ソラリス開拓後はコロニー内での畜産も始まり、ソラリスへの食糧供給はすべてプロヴィンギアが担っている。

 

そのため、コロニー政府はソラリス政府も兼任している。

 

 

「間違いないのだな?」

 

 

コロニー内の行政府で、初老の男は報告にきた部下に改めて問いかけた。

 

 

「ええ、反応は確実に捉えました」

 

 

手に持っている端末を見る。そこには確かにソラリスの地表で計測されたデータが記載されていた。

 

この波長は間違いがない。

 

長らく探し求めた「方舟」の鍵となるものと同じ波長だ。

 

彼方にこそ栄えあり。その信念と思想を体現する道標を見つけ、初老の男はほくそ笑む。

 

 

「我が望みを叶える道筋が、こうも突然に現れるとはな」

 

「ステンシー卿」

 

 

プロヴィンギアの管理当主である男、ベンジャミン・ステンシーは、自分を呼びかけてきた少女の方へ視線を向けた。

 

その少女は黄金色の髪を下ろしていて、顔は目元から頭と半分を隠すマスクで覆われていた。

 

 

「きたな、任務は既にロザエ・ブラッディに伝えた通りだ」

 

 

ベンジャミンの言葉通り、マスクを被った少女は部下であり、自分を幼い頃から支えてくれた女性、ロザエから伝えられた命令を復唱する。

 

 

「彼女から細かな内容は拝聴しております」

 

「では準備が整い次第、諸君らはソラリスのメガロ・ステイトへ向けて出発しろ。目的はあくまで〝ガンダム〟だ」

 

「はっ、了解致しました。ステンシー卿。コロニーの名誉と尊厳に賭けて」

 

 

敬礼を打って踵を返した少女はそのままコロニー当主の屋敷を後にした。

 

1人になったベンジャミンは、部下から受け取った波長データを眺めながら、出て行ったマスクの少女の哀れさに顔をしかめた。

 

 

「…マスクを被り、娘という己を閉ざすか。〝アルテイシア〟よ」

 

 

 

 

 

 

機動戦士ガンダム

青のプロヴィンギア

 

 

第一章「青の世界」完

 

 

 

 

 

 

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