「おい、起きろ」
高峰泰人が彼女ーー白木鈴香にそう言ったのは、入学から一週間たったある日の事だった。
彼女は入学したその日に、可愛いとすぐに噂が広がり他の学年の人たちがたくさん教室に見にきていた。それも仕方がない事だった。日本人にしては珍しい薄い水色のような銀髪のストレートヘアーは人の目を集めて、肌荒れの知らない真っ白な肌や、整った顔立ちに絵に描いたような美しさを持っていた。
それで噂が出来ない方が逆におかしいと思う。入学してからテストがあったが、かなりの高成績らしい。噂によると運動も得意らしい。
さらに、謙虚でお淑やかで大人しい性格ときたら欠点の付け所がない。そうして彼女は、クラスの学級委員に推薦された。
一方俺は、身長が高いと言う事以外を除けば、何の変哲もない一般の生徒だった。そのため、男子からの推薦で面倒ごとの多い学級委員を押し付けられた。仕事はホームルームなどの準備や教室の施錠だった。一部の男子からは、『羨ましい』などと言われたが、
「だったら学級委員をしろ」
と言うと、周りは静かになる。しかし、学級委員の仕事は実際施錠くらいなもので、俺がする仕事はそれ以外なく、案外良かったなんて思ったりした。
『鈴香さんが見当たらないから、今日は施錠お願いね。』
その日の放課後、帰ろうと思っていた矢先に担任にそう言われた。しかし、今日は図書室に用事があったので、まだ人がたくさんいる教室の鍵を閉めずに図書室に向かった。
一時間くらい経った頃だろうか、そろそろ教室の鍵を閉めるかと思って、図書室を出た。流石に残ってる人はいないだろうと考えながら廊下を歩いていると、まだ教室に一人の影が見えた。窓から校舎を眺めているのだろうと思って
「施錠してもいい?」
そう言っても返事がないので、その生徒の近くに行くとその生徒は、眠っていた。しかも、学校を騒がす美少女の白木鈴香だった。
「あの、白木さん、そろそろ施錠したいので起きてもらってもいい?」
そう言っても全く起きる気配もない。よく見ると、くぅくぅと小さな寝息をたてる彼女は、高校生には見えず幼い子供のようだった。思わず見惚れてしまうくらいに可愛らしい寝顔だった。
しかし、ずっと眺めているのは失礼だし、流石にそろそろ帰りたいので少し強めに
「おい、起きろ」
少し体を揺らしながらそう言うと、彼女は長い睫毛と髪を揺らしながら重たい瞼をゆっくりと開いた。まだ意識が覚醒してないのかキョトンとしている。しばらくすると、意識が覚醒し自分の状況を理解し始めたのか、少し頬が赤らんだ。
『どうして高峰さんがここに?』
彼女の口から最初に出てきた言葉はそれだった。
「担任から、白木さんが見当たらなかったから代わりに施錠をして欲しいって頼まれた」
『あぁ……それで』
彼女も理解したのか相槌を打ってくれた。しかし俺には聞きたいことがあった。
「白木さんは、なんで教室に残ってるの?」
『放課後の教室の机は、落ち着くんです。だからこうして寝ているんです。』
そう言うと彼女はまた寝ようとしていたが、すぐに顔を上げて、俺にこう言った。
『もう施錠するんでしたね。それとら先ほどは見苦しい顔を見せてしまってごめんなさい』
俺は何の事を言っているのか分からなかった。寝ている顔は幼くて可愛らしく、見苦しい顔なんて一片も見ていないからだ。むしろ見惚れてしまっていたくらいだ。
「もしかして、寝顔のことを言っているのか?」
『はい……』
こんなに整った顔をしているから寝顔が変なはずないのに、寝ている時の顔は自分では見えないから不安なのかな、なんて考えていると、
『寝ている顔は、自分では分からないので他の人に見られると少し不安です』
やっぱりと思って、俺はつい笑ってしまった。
『人の寝顔を勝手に見た挙句、笑いましたね?』
少し誤解を生まれそうだったので
「別に可笑しかったから笑ったわけじゃないし、そこで寝てたのは鈴香だし」
『うぅ……』
「可愛らしい寝顔だったと思う。」
そう言うと彼女の頬は、すでに真っ赤だった。
色々な人からアプローチなどを受けているのに、意外と慣れてないのかな。と言う考えと同時につい名前を呼び捨てしまった。という僅かな焦りが生まれた。
「その、悪い
名前、急に呼び捨てしてしまった。」
そう謝るとすぐに
『それくらい構いませんよ。むしろ私はもっと名前で呼ばれたいです。皆さんなぜか、名前ではなくて苗字を呼ばれるので、名前で呼ばれるのは嬉しいです。』
彼女が名前であまり呼ばれないのは少し疑問に思ったが、多分恐れ多くて苗字でしか呼ばないんだろうと自分の中で納得した。
『なので、これからは名前で呼んでくださいね』
「分かったよ
じゃあ鈴香も高峰じゃなくて泰人って呼んでくれ」
『わ、わかりました。』
なんて、会話をしていると時刻は6時を過ぎていたので
「そろそろ帰るか」
『そうですね』
そう切り出すと、彼女ももうこんな時間といった顔はをして、机の上に出していた荷物をまとめ、教室全体の施錠を行った。
『今日の事は秘密ですよ』
「おう」
たしかにこんな事を他の生徒に知られたら、俺の身が危ないので元より話すつもりはなかったけれど。
「じゃあまた明日」
彼女にそう言うと、
『はい、また明日!』
廊下側の窓からくる風で靡く彼女の髪と彼女のニコッとした満面の笑みは、見事にマッチして、泰人の脳裏にしっかりと焼きついた。
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