機甲少女の想いは一途   作:hekusokazura

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 広く長い廊下を走る、武装した一団。

 揃いのヘルメットに防弾ベスト、腕には青いバンダナを縛った一団。ある者は脚に、ある者は腕に酷い傷を受け、廊下に血の足跡を残しながら走り続けている。

 そんな彼らの行く手を、1機の多脚式歩行戦車が立ち塞がった。多脚式歩行戦車に備え付けられた機関砲が火を噴き、炎を纏った鉄の塊が兵士たちの体を次々となぎ倒していく。兵士たちは方々に散りながら手にした自動小銃で反撃。一人は自動小銃の銃身に備えられた擲弾発射器をぶっ放し、擲弾を正面から受けた多脚式歩行戦車は大爆発を起こして機能を停止した。

 

「くそっ。また3人やられた」

「武装ロボットがうようよいやがる。敵の警備システムはダウンしてあるはずじゃなかったのか」

「ここでうだうだ言っても仕方ないだろ。我々は進むしかないんだ」

 

 さらに人数を減らした一団はそれでも走り続け、ついにあるドアの前へと辿り着いた。

 ドアの前にある表札。

 

  [ 7th CAGE ]

 

「本当に、ここに奴が居るのか?」

「事前情報ではな」

 館内セキュリティのダウンでロック機能を失っているスライド式のドアを開け、中へと踏み込むんだ。

 

 パン!

 

 彼らが部屋の中に踏み込んだ瞬間、銃声。

 最初に部屋の中に突入した兵士の胸に、焼き付くような痛みが走る。

「痛ぇ! ちくしょう!」

 しかし放たれた銃弾は兵士が着用した防弾ベストを貫くことなく、着用者の肋骨の1本を折っただけに留まった。

 その兵士は胸の激痛に耐えながら、素早く自動小銃を構え、短く引き金を引く。

 パン、パンと、セミオートの自動小銃からは2発の銃弾が続けて放たれた。

 

「ひぅ!」

 

 短くかつ歪んだ悲鳴。

 ドサっと、人が倒れる音。

 

 

「おい、大丈夫か」

「息ができねぇ…」

 武装した一団は胸を撃たれた兵士に手を貸しながら、彼が撃った2発の銃弾によって額から上を粉々に砕かれて床に倒れている者の側へと駆け寄る。倒れた者の右手には握られたままの拳銃。絶命しているのは明らかだが、念のため拳銃を蹴って、遠くに飛ばした。

 床に扇状の血痕を広げ、頭部の半分を失った死体。その顔に生前の面影など見る影もないが、胸の膨らみから絶命している者は女性らしいことが分かる。

 

 死体を囲んだ兵士の一人が言う。

「おい。こいつで間違いないのか?」

「ああ」

「だが、確か奴は当時14歳だったはずじゃ…」

「ああ。赤木女史の情報では、奴は今5歳児のような外見をしているらしい」

 この一団では一番の年配者に当たるその兵士はそう言いながら、女性の死体に抱き着いている男の子の側に膝を折った。

 

 男の子は、突然倒れて動かなくなってしまった女性を不思議そうに眺めている。

 自分を抱いてくれていた女性の顔だったものを、不思議そうに小さな手でペタペタと触れている。

 

 兵士は、腰に付けたポーチから小指サイズの機器を取り出すと、その先端を男の子の瞳に向ける。先端からは微細な赤外線が照射され、男の子の瞳の虹彩を読み取る。機器の側面にある小さな画面に解析されたデータが表示された。

「間違いない。第3の少年だ」

 その兵士は立ち上がり、周囲の兵士たちに目配せをした。

 

 この場には彼らしかいない。

 男の子は、彼らの言葉を、まともに理解していない。

 

 それでも彼らは体を寄せ合い、隠し事でもするかのように声を押し殺して話し始める。

 

 年配の兵士が口火を切った。

「ゼーレのパイロットについてはその場で射殺。第2の少女、第3の少年については拘束するよう指示が出ている」

「ああ」

 彼以外の全員が、声を揃えて返事をした。

 

「ここに集った我々には、皆、共通点がある」

「ああ」

 皆が、声を揃えて返事をする。

 

「皆、ニア・サードインパクトとサードインパクトで、大切な人を、故郷を失っている」

「ああ」

 皆が、声を揃えて返事をする。

 

「第3の少年。碇シンジ。彼こそ、ニア・サードインパクトの元凶だ」

「ああ」

 皆が、声を揃えて返事をする。

 

「皆、異論はないな?」

「ああ」

 全員の意見が、一致する。

 

 

 女性の死体を取り囲む兵士たち。

 そのうちの一人が、腰のホルスターから拳銃を抜いた。

 

 拳銃のスライドを引き、安全装置を外し、引き金に人差し指を掛ける。

 

 彼が握る拳銃の銃口は、女性の死体の上でうつ伏せになっている、男の子の後頭部に向けられた。

 

 

 本部突入前にマッチ棒で作ったくじ引きの結果によって、大任を任されることになった若い兵士。

「不思議だ。子供を背中から撃つというのに、何も感じない」

 人を殺めたことなど一度もないその手は、震えることなくまっすぐに拳銃を男の子の後頭部へと向けている。

「その拳銃を握っているのは、あの日より地上から消えた数十億もの人々の手だ。お前は彼らに己の手を貸しているに過ぎん」

 若い兵士は深く頷いた。

「ああ。そうだな。その通りだ」

 

 

 男の子は動かなくなった女性の頬を、不思議そうにペタペタと触っている。

 鼻の上から半分が無くなった女性の頬を、不思議そうにペタペタと触っている。

 

 

 

 

 今日はあの「おっきな人」がいないから。

 

 このお姉さんがずっと面倒を看てくれていた。

 

 ご飯を運んでくれて。

 

 絵本を読んでくれて。

 

 自分が「この世界」で目覚めてから。

 

 あの「おっきな人」の次に、一番長い時間を過ごしたお姉さん。

 

 とっても優しいお姉さん。

 

 なぜかあの「おっきな人」の前だと、変な顔になるお姉さん。

 

 

 そのお姉さんが動かなくなった。

 

 ペタペタと頬を叩いても、動かなくなった。

 

 赤い水が、どんどん溢れ出してくる。

 

 ペタペタと叩く頬が、どんどん冷たくなっていく。

 

 

 

 

 狙いを外さないように、その場に膝を折った。

 狙いを外さないよう、男の子の後頭部のすぐ側まで銃口を近づけた。

 

 

「ふえ…」

 呆けていた男の子の顔が、突然くしゃくしゃになった。

「ふぇぇ…」

 半開きの口が、大きく歪んだ。

「ふええああああああああああああ!!」

 

 簡素なパイプベッドに小さなチェスト、小さなテーブルに小さなイス、簡易トイレ。

 たったそれだけが置かれただだっ広い空間の中を、男の子の大きな泣き声が響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 破壊的な音が轟くと同時に、コンクリートの壁が弾け飛んだ。

 

 続けて壁の穴から現れた巨大な右手は、女性の死体を取り囲む兵士たちよりも数メートル手前のコンクリートの床を激しく叩く。巨大な手に叩かれた床はたちまち放射状のひび割れを方々へと広げ、まるで爆弾が破裂した時のように大量のコンクリート片を伴う強烈な衝撃波を周囲へとまき散らす。

 その衝撃波に煽られた兵士たちの体が吹き飛び、続けて女性の死体が吹き飛び、そして女性の死体の上に乗っていた男の子の体も吹き飛んだ。

 

 巨大な右手に続いて壁の穴から現れたのは、巨大な左手。

 巨大な左手は、その手の平に極小の光の結晶を無数に溢れさせながら、宙をくるくる回転しながら舞っている男の子の体を、そっと包み込む。

 男の子の体をその中に収めた巨大な左手に、右手も重なり、男の子の体を両手で守りながらゆっくりと床へと下ろしていく。

 

 

 

 大量の塵埃と火花が散らす壁に開いた巨大な穴。

 そこから巨大な右手が現れ、続けて巨大な左手が現れ。

 常識的な縮尺から大きく逸脱したものが次々と現れる壁の穴。

 そして最後に現れたのは、巨大な顔だった。

 紫色の鬼のような、巨大な鎧兜を纏った巨人の顔。

 巨人は穴から顔をにょきっと突き出すと、床に転がっている兵士たちを見下ろした。

 

 

 ここは子供の部屋。

 子供の寝所。

 子供が夢見る場所。

 世界中の何処よりも、平和でなければならない空間。

 

 

 床に転がっている兵士たち。

 その手には、この部屋には決して持ち込んではならない銃火器が握られている。

 

 

 巨人は顎を少しだけ下ろし、口の隙間から深く深く息を吸い込んだ。

 

 そして今度は顎を限界まで下ろし。

 

 真っ赤な舌を突き出し。

 

 狂暴な牙を剥き出しにし。

 

 

 

『グァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

 

 それは聴く者のハラワタがひっくり返るような、いや天と地そのものが全てひっくり返ってしまうような、あまりにも巨大な咆哮だった。咆哮は不可視の強烈な波となって周囲に広がり、コンクリートの床をビリビリと震えさせる。

 その狂暴極まる咆哮を真正面から受けた兵士たちは、幾人かは泡を吹いて気絶してしまい、幾人かは腰を抜かししてしまい、幾人かはズボンの股間を濡らしてしまい。

 瞬く間に半分が行動不能に陥ってしまった。

 

 そして残りの半分は。

 

「悪魔…」

 拳銃を構え。

 

「悪魔…」

 自動小銃を構え。

 

「悪魔…」

 手榴弾を構え。

 

 

 パン!

 

 

 最初の一発を放ったのは、つい10秒前まで男の子の後頭部に向けられていた拳銃の銃口だった。巨人の激甚な咆哮に比べれば、何とも慎ましやかな破裂音。そして銃口から旅立った豆粒のような銃弾は、巨人が纏う装甲の表面に当たり、微かな凹みを付けただけで跳ね飛び、何処かへ行ってしまった。

 

「あああああああ!」

 

 それでもその若い兵士は絶叫と共に立て続けに発砲を繰り返す。

 弾倉に詰められた12発はたちまち撃ちつくされ、弾切れを起こした拳銃からは撃針が空を切る音だけが空しく響いた。

 

「ああっ!」

 若い兵士は短い叫び声と共に空になった拳銃をぽいっと投げる。放り投げられた拳銃はくるくると回転しながら宙を舞い、巨人の額にコツンと当たって床に落ちていく。

 

 カタン、と、拳銃が床に転がる音。

 

 それが合図となった。

 

 

 激甚な咆哮を真正面から食らいながらも、行動不能に陥らなかった彼ら。

 彼らの足を踏み止まらせたのは、恐怖を上回る殺意。

 

「返せ!」

 彼らは口々に叫んだ。

 

「返せ!」

「返せ!」

「返せ!」

 殺意の対象に向かって、喉を嗄らさんばかりに叫んだ。

 

「子供を返せ!」

 

「父を返せ!」

 

「母を返せ!」

 

「家族を返せ!」

 

「ふるさとを返せ!」

 

「俺たちの未来を返せ!」

 

 彼らは「返せ!」「返せ!」と連呼しながら、対人用のささやかな武器を携え、彼らの何十倍もの大きさを誇る巨人に向かって襲い掛かり始めた。

 

 

 子供の部屋。

 子供の寝所。

 子供が夢見る場所。

 世界中の何処よりも平和でなければならない空間は、たちまち銃声と爆発音と火炎と火薬の匂いで満たされることになる。

 

 

 ある者は拳銃を撃ち、ある者は自動小銃をフルオートで撃ちまくり、ある者は手榴弾を投げ、ある者はナイフを突き立て、ある者は歯で噛み付き。

 

 それは言わば人間に群がる10匹足らずの無力で小さな虫たちだった。

 巨人は、ただ一回だけでも、その巨大な腕で小さな虫ケラたちを薙ぎ払えば済むことだった。たったそれだけで、この事態を鎮静化することができた。

 もし巨人に虫ケラたちを駆除する意思がないのであれば、開けた穴で逃げればよい。たったそれだけで、この全くもって無意味な闘争を終わらせることができた。

 

 しかし、巨人はどちらの選択肢も選ばなかった。

 選べなかった。

 

 憎悪を剥き出しにして、巨人に襲い掛かってくる虫ケラたち。

 かないっこないのに。

 勝てるはずないのに。

 彼らの復讐心は、彼らがこの場でどんな攻撃を繰り出したとしても、決して満たされることはないのに。

 それでも我を忘れた彼らは、巨人に群がってくる。

 

 一人の兵士が飛び出した。

 全身に大量の爆薬を巻き付けたその兵士は、巨人の重なった両手に抱き着く。

 極限まで吊り上がった2つの眼が、巨人の手を。いや、その下に潜むものを睨み付ける。

 

「死ねぇ! 碇シンジィ!!」

 

 彼の大声と共に、爆音、閃光。飛び散る血と肉片。

 爆炎に包まれる巨人の手。

 しかし爆炎と煙が晴れて現れた巨人の手は、多少の埃と血が付着しただけで、傷一つ付いていない。

 兵士たちが撃つ銃弾も、投げる手榴弾も、突き立てるナイフも、巨人が纏う特殊装甲の前には、まともな傷一つ付けられない。

 

 それでも彼らは攻撃の手を止めない。

 「返せ!」「返せ!」と連呼しながら。

 

 いや。

 「死ね!」「死ね!」と連呼しながら。

 

 

 反撃も逃亡もしない巨人。

 

 巨人は動かなかった。

 

 動けなくなっていた。

 

 

 

 

 

 

 碇ゲンドウは扉を蹴破った。

 目の前に現れた光景は、数々の怪奇を目撃し、また作り出してきた彼にとっても異様なものであった。

 

 コンクリートの壁に開いた巨大な穴から、紫色の巨人が身を乗り出している。その巨人が突き出した両手は、まるでその下に大切なものを護るように、床の上で重ね合わせられている。

 実験房に居たはずの巨人。完全機能停止状態だったはずの巨人が、自分を先回りして第7ケージに現れている。これだけでも十分に異様と言える光景だったが、ゲンドウにとって、完全停止していたはずの巨人が動き、保護対象を守ったことよりも異様なこと。

 

 それは、巨人よりも遥かに小さい人間たちが、ちっぽけな武器で巨人に襲い掛かっていること。

 

 そして、ちっぽけな人間に対して圧倒的な力を持つはずの巨人が、抵抗の意志をまったく見せていないこと。

 

「ちっ!」

 ゲンドウは舌打ちをすると、巨人への攻撃に夢中になっている叛乱分子の兵士たちの背中を、拳銃で狙い撃ちにしていく。

 

 

 

 何人かの兵士が、背中を撃たれた。

 突然の背後からの銃撃に、まだ立っている兵士たちが振り返る。

 

 

 想定外の厳重な警備。

 想定外の巨人の出現。

 

 数々の「想定外」に見舞われてきた彼らにとって、振り返った先に在ったものは、この日一番の「想定外」だったかも知れない。

 

 

 碇ゲンドウが立っている。

 

 あの碇ゲンドウが、立っている。

 

 

 

 この場に碇ゲンドウがいる。

 

 碇シンジがいる。

 

 そしてエヴァンゲリオン初号機がいる。

 

 

 

 彼らの震怒の対象。

 大切な人々を奪い、故郷を奪い、未来を奪った憎悪すべき相手。

 それらが、この場に全て揃っている。

 

 

 3つのうち、2つが揃った時点ですでに理性を手放していた彼ら。

「ああああああ!!」

 思いがけぬ3つ目の登場に、彼らの憤懣はむしろ狂喜へと昇華する。

 

 一人の兵士は、唇の両端が吊り上がった口で雄叫びを上げながらゲンドウに向かって自動小銃を向けた。

 

 パン!

 

 人の神経を鷲掴みにするようなその雄叫びにもゲンドウは顔色一つ変えずに淡々と拳銃を構え、その兵士の膝を撃ち抜く。

 ガクンと膝を折った兵士。

 

 パン!

 

 続けて撃った2発目は、ヘルメットと防弾ベストの隙間から僅かに覗いていた兵士の喉を貫いた。

 仰向けに叩き付けられるように倒れ、床の上に放射状の血飛沫を広げる兵士の顔は、狂気的な笑みを浮かべたまま硬直している。

 

 

 立っている兵士はたったの3人にまで減っていた。

 ゲンドウの背後からは重武装の多脚式歩行戦車が現れ、ぶら下げた機関砲を生き残った3人へと向ける。

 

 ゲンドウは氷のような凍てついた声で言う。

「降伏しろ」

 

 

 生き残った3人の兵士。

 彼らにとってその生涯において抱くことができる全ての憎悪をぶつけたとしてもまだ足りぬ相手を前に、彼らは不思議と冷静だった。先行して自動小銃を構え、一方的に殺された仲間の兵士の死に様が、理性を彼方に飛ばしていた彼らに辿るべき正しい道を示してくたのかも知れない。

 

 互いの顔を見合わせる3人。

 笑い合う。

 そして頷き合う。

 

 

 彼らは武器を床に捨てた。

 

 床の上に、折り重なるように落下する3丁の自動小銃。

 彼らはさらにホルスターの拳銃も捨て、手榴弾や弾倉を装着したベルトも脱ぎ捨てる。

 

 

 素直に武装解除に応じた3人に対し、ゲンドウは拳銃を構えたまま告げる。

「手を挙げて跪け」

 

 

 武器は素直に捨てた3人。

 しかし彼らは互いの顔を見合ったまま、両手は床に向けてぶらんと下げ、突っ立ったまま。

 手を挙げる素振りも、膝を折る素振りも見せない。

 不気味なくらいに穏やかな笑みを浮かべながら、互いの顔を見合っている。

 

 パン! パン!

 

 ゲンドウが構えた拳銃から更に2発の銃声。

 3人の兵士のうち右端に立っていた1人の両膝から、大量の血が迸った。

 両膝を撃たれた兵士は、悲鳴も上げずに、口角を上げたまま、その場に崩れ落ちる。

 

「捕虜は2人もいらん」

 淡々としたゲンドウの声。

 残りの2人に銃口を向けた。

「どちらか一人だけでいい。跪け」

 

 

 残った2人の兵士。

 ゆっくりとした動作で、体の正面をゲンドウへと向けた。

 そしてまるで相手を焦らすように少しずつ両手を挙げ始める。

 ゲンドウに向けて、相手を包み込むような笑顔を向けながら。

 

 

 その兵士の背後では、もう一人の兵士が笑う兵士が背負う背嚢の中に手を差し入れようとしていた。

 

 パン! パン!

 

 ゲンドウの拳銃から放たれた2発の拳銃は、1発は笑う兵士の右膝へ。もう1発は、背嚢から何かを取り出そうとしていた兵士の左太ももへ吸い込まれる。

 その2人も、やはり悲鳴一つ上げず床の上へと倒れ込む。

 

 倒れた拍子に、背嚢の開いた口からゴロンとサッカーボール大のボール状のものが床に転がり落ちた。

 

 

 ゲンドウの目に、ボール状のものの表面に印字された文字が見えた。

 

 

    『N2』

 

 

 兵士の穏やかな笑みが、狂気的な笑みへと変化した。

 

「碇ゲンドウ…、碇シンジ…、この世界を破滅させた親子に裁きの鉄槌を!!」

 

 両目と口の両端を吊り上げた兵士は床を舐めたまま右腕を大きく振りかぶる。

 大きく開いた手の平は、ボール状のものの表面にある突起物に目掛けて、勢いよく振り下ろされた。

 

 パン!

 

 ゲンドウが撃った銃弾はその兵士の手のひらを貫いたが、1発の銃弾だけでは彼の手の勢いは止まらなかった。

 ゲンドウの隣に立つ多脚式歩行戦車の機関砲が2人の兵士を目掛けて火を吹いたが、初弾が目標物に届く前に、それは起きた。

 

 

 兵士の手が、携帯型N2爆弾の起爆スイッチを叩いた。

 

 

 

 

 

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