機甲少女の想いは一途   作:hekusokazura

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 冬月コウゾウは完全自律のVTOL機の窓から、眼下に広がる景色を無感動に見下ろしていた、

 VTOL機の下に広がるのは赤い荒野。その広大な荒野を埋め尽くすように並べられているのは、無数の投石器。何世紀も前に戦場から姿を消したはずの攻城用兵器が、現代の戦場で再びその雄姿を示そうとしている。

 この作戦に投入された前時代的な投石器たちは、現代版として様々な改良が加えられている。一見して分かりやすいのは、かつて木製だった器体は金属製へと置き換えられ、そしてとにかくバカみたいにデカかった。荒野という周りに比較対象が少ない場所に並べられているが、もしここが街中であったり渓谷であったりしたならば、ビルよりも遥かに高い、山よりも遥かに大きい投石器が居並ぶ姿はさぞ壮観だったことだろう。

 

 冬月がたった一人で見守る中、ついに投石器たちが稼働を始めた。その投石器はトレビュシェットと呼ばれるタイプのもので、支点となる軸にシーソーのようなアームが取り付けられ、片方に重り、片方に投擲物を入れるための籠がぶら下げられ、テコの原理によって投擲する仕組みである。

 

 稼働を始めた投石器たちから次々に空へ向けて飛ばされる投擲物たち。山のような巨大な重りの落下エネルギーと超高層ビルのようなアームの回転エネルギーによりって、投擲物たちは地球の重力という呪縛をも打ち破り、空の彼方へと消えていった。

 莫大な予算と資材と時間を費やして拵えた投石器たちだが、無論、石ころを空に飛ばすためにこれだけの数を揃えた訳ではない。

 投石器たちによって、空の彼方へと飛ばされる投擲物たち。それらは、人の形をしていた。

 バカみたいにデカい投石器の籠に乗せられ、空へと飛ばされる人の形をしたそれもやたらとデカかった。

 人の形をした巨大なもの。巨人。

 頭部が頭蓋骨という悪趣味極まりない造形をした巨人。

 エヴァンゲリオン・マーク7。

 10年前に起きた戦闘で破壊されてしまったオリジナルの機体を再利用し、量産化された巨人たちは、投石器の籠に乗って、次々に空へと放り投げられていく。

 荒野を埋め尽くす無数の投石器群。その投擲物であるマーク7の数もまた膨大だった。

 空から見下ろせば蟻の群れのようなマーク7たちは、割り当てられた投石器の後ろに行儀よく並び、空に向けて放り投げられるのを大人しく待っている。

 

 順番が回ってきたら、アームの籠の中に座り、体を折りたたんで丸くなる。巨大な重りとマーク7が自ら発するATフィールドの反動によって、地面に置かれていた籠は空高くへと瞬時に舞い上り、マーク7の体は宙へと放り出される。

 文字通り、投げられたマーク7は地球の重力に逆らってぐんぐん高度を増していく。

 対流圏を超え、成層圏を超え。

 真っ青だった空は、いつの間にか濃紺の空へと変わり、視線を下に移せば赤く染まった大地、赤く染まった海が空気の層に覆われて淡く光っている。

 マーク7は、宇宙空間へと飛び出していた。

 宇宙へと次々と飛び出して行くマーク7の群れ。ある程度重力から解放される高度に達したら、背中に背負ったスラスターを使い、軌道修正を行いながら、彼らはある一点を目指していく。

 彼らが目指す先。

 幾つもの閃光が瞬いている。

 先行していたマーク7たちと、彼らが目指す先で待ち構えていたものたちとの間では、すでに激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 

 

 それは数百基に及ぶ軍事衛星から成る防御システムだった。

 14年前まで地上に存在していた国々が製造し、打ち上げ、運用していた軍事衛星たち。14年前の厄災により、それらの国々の殆どが地図上から消え、地上からのコントロールを失い、周回軌道を彷徨っていた軍事衛星たち。

 それらをかき集めて構築された防御システムは、実に効率的・効果的に運用され、統一された指揮系統のもとに完璧な連動を見せ、この数年間、この防御システムの突破を試みようとした敵たちを、悉く撃退していた。

 全方位に張り巡らされた一切の死角のないレーダー・ソナー類はどのような侵入物も見逃さず、定めた防衛ラインを突破したものに対しては警告を発し、警告が無視されればそれが自然物の隕石であろうとただの宇宙デブリであろうと、光学兵器や電磁加速砲、ミサイルなど、搭載されたあらゆる兵器を駆使して破壊していた。

 それらは正に宇宙の覇者だった。

 宇宙の覇者は陣営に属さない人工衛星についてはたとえ軍事利用を目的としていない人工衛星であっても片っ端から拿捕し、あるいは破壊し尽くした。

 そしてその宇宙の覇者が定めた地球方面に対する防衛ライン。

 それは地上より400キロメートル上空。

 即ち、大気圏。

 宇宙の覇者は、地上から宇宙への飛翔を試みる人工物を、宇宙空間に達する前に破壊し尽くした。

 

 凡そ70年前に最後の未開の地である宇宙への進出の第一歩を踏み出した人類。以後、彼らは宇宙空間における活動圏を貪欲に広げてきたが、世紀を跨いで四半世紀以上が過ぎ、地上での生存圏をかつてないほど奪われた今日。宇宙とも隔絶され、不毛の地と化した地球に閉じ込められた人類は、地上に僅かに残された辛うじて人の存在が許される土地での活動を強いられていた。

 

 しかし、この日。

 ついに人類は、空を塞ぐ巨大な蓋を打ち破ることになる。

 

 もっともこの日、人類の尖兵たちを宇宙空間へと送り出した特務機関ネルフが目論むのは、人類の生存圏拡大などではなかった。空を塞ぐ蓋、防御システムが護ろうとしているもの。それを奪取するために、大量のマーク7を宇宙空間へと放ち、防御システムの破壊を目指していた。

 

 

 背負ったスラスターを操作して軍事衛星群へと向かっていくマーク7の群れ。しかしまともな兵装を持たないマーク7たちは、軍事衛星から放たれる光学兵器や電磁加速砲などによって、無残にも次々と撃ち落されていく。あっという間に、広大な宇宙空間の一角は、マーク7の死体(?)によって埋め尽くされた。

 それでもなお、マーク7は続々と地上からやってくる。撃墜されるためだけに、健気に宇宙空間へと飛び出してくる。

 

 ネルフがこの防御システム破壊のために企てた作戦。それは極めて単純なもので、防御システムが処理しうる限界を遥かに超えた物量を一斉投入するというものであった。加えて宇宙空間へ飛び立とうとする熱を帯びた飛翔体は大気圏を飛び出す前に防御システムの格好の的になってしまうため、投石器での飛翔方法を用いたのだった。

 

 広大な宇宙空間は瞬く間にマーク7の死体によって埋められていくが、それらは有効な遮蔽物として軍事衛星らによる狙撃を妨害し、マーク7の侵攻を容易にしていく。築き上げられる死体の山と、軍事衛星らが築く防御ラインとの間が、徐々に近づいていく。軍事衛星の中にはエネルギー切れや弾切れを起こすものも発生し、防御システムが張り巡らせる弾幕は目に見えて薄くなっていった。

 そして遂に仲間の屍と敵の弾幕を乗り越えるマーク7が現れ始める。彼らは片っ端から軍事衛星に取り付き、何の武器も持たされていない彼らは口を大きく開け、取り付いた軍事衛星へと噛り付いていく。

 あちこちで軍事衛星の爆発が起き、防御システムは崩壊を始めた。

 防御システムの第1層を突破し、続いて第2層が彼らを待ち受けるが、マーク7の群れがするべきことは変わらない。死体の山を築きながら軍事衛星へとにじり寄り、軍事衛星へと取り付き、噛り付き、破壊する。それをひたすら繰り返す。

 

 防御システムは第12層まで続いた。

 ネルフが本作戦のために用意したマーク7とて、無限ではなかった。防御システムが張り巡らせる弾幕によって築かれたマーク7の死体は膨大な数に及び、それらはやがて地球の周回軌道上を回り始め、一時的に地球の周りに土星や木星のような惑星の環を発生させるほどだった。もはや地上には、宇宙空間に放り投げられるために待機しているマーク7の在庫はない。

 そして宇宙空間で健在なマーク7の数も、片手の指で数え切れる程度しか残っていなかった。

 それでも現代の宇宙空間で「肉を以て弾と成す」を実践したマーク7たち。彼らの努力はもう間もなく結実しようとしてる。

 攻撃力を有している軍事衛星はあと1基のみ。旧世紀の重機関砲を擁するその衛星は、飛び掛かってくるマーク7に鉄の塊を叩きつける。粉々になったマーク7の後ろから、さらに別のマーク7が衛星へと迫る。そのマーク7も機関砲によって爆散するが、ついに機関砲の弾は底を尽き、残りの3体が衛星に取り付いた。マーク7に噛り付かれた衛星は爆発を起こし、取り付いたマーク7諸共宇宙の藻屑となった。

 

 

 ここに、宇宙の覇者として君臨した防御システムは崩壊した。

 用意していたマーク7軍団が全滅するという大損害を被ったネルフだが、それでも彼らは未だに作戦の目的を達成していない。彼らの目的は、防御システムの破壊ではないのだ。そして最終目標を達成するために、彼らは最後の一手を投じる。

 地上から、宇宙空間に向けて放り投げられた最後の投擲物。それは、人の形はしていない。まるでサイコロのような、立方体を成している。

 その立方体はマーク7たちの残骸の環を抜け、軍事衛星たちの残骸の環を抜け、彼らが目指そうとし、彼らが護ろうとしたある物体へと、真っすぐに飛んでいく。

 

 

 周回軌道上を高速で移動するそのコンテナは、これといった兵装もなく、これといった動力機関もない。ただ、彼らの母星の引力に引かれながら宇宙空間を漂うだけの物体。しかし十字架のような形を成したこのコンテナこそが、地球の空に蓋をし続け、あらゆる侵入者を拒み、破壊し、人類を地上へと閉じ込め続けた防御システムの中枢だった。

 

 その中枢が今、大変無防備な状態で宇宙空間を漂っている。

 

 地上から飛来したサイコロ状の物体は、あっという間にコンテナとの距離を詰め、ついにはその表面に貼り付いた。

 コンテナと接触した部分からは無数の細長いケーブルが伸び、コンテナの壁を貫き、その内部に収められているものに浸食を始める。

 

 

 

 

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