機甲少女の想いは一途   作:hekusokazura

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(57)運命の二人

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

綾波!!

 

 

 

 

 

 

 

 

僕はここだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 4本の腕を持つ異形の巨人。

 エヴァンゲリオン第13号機。

 

 13号機は、暗闇に包まれた空間。その中に聳え立つ巨大な赤い十字架に磔にされた、仮面を被る怪物の前に立っていた。

 

 13号機の肩から伸びる4本の腕。

 そのうちの2本の腕。第1、第2の手に握られた、2本の赤い槍。

 

 槍は13号機の手から離れると、空中を舞い、互いの周りを旋回し始める。

 やがて槍同士は距離を縮め、接触し、溶け合い、混ざり合い、一本の槍へと姿を変えた。

 その槍の切っ先は、まっすぐに仮面を被った怪物の胸へと深く沈んでいく。

 

 その槍はカラクリ人形のゼンマイを巻くための鍵のような役割を果たす。

 巨大な十字架に磔にされていた怪物は、胸に槍を捻じ込まれてから数秒を経て、大きく体動を始めた。

 磔にしていた杭から両手が引き抜かれると、その巨体をゆっくりと十字架の周囲に広がる原始の海に着地させる。着水の衝撃で原始の海は大きな津波を起こし、十字架の前に立っていた第13号機の体に生命のスープの雨を浴びせた。

 

 原始の海に着地した瞬間、ただでさえ、とてつもない大きさを誇る怪物の体が、さらに膨張を始めた。

 肥大化していく体。一方で醜い形をしていたその体は、腰や腕は細くなり、肩は丸くなり、胸は膨らみ、そして頭部からは不自然な色をした毛髪が生え始める。

  

 肥大化していく体は空間の天上にある、虚構の世界と現実の世界の狭間にある扉へと接近する。

 この怪物の体が扉を越え、現実の世界へと姿を現した時。

 その時こそが、「彼」が思い描いた新しい世界が始まる瞬間だった。

 

 

 

「もうすぐだ…、ユイ…」

 

 ついに怪物の頭部が虚構と現実の扉に辿り着いた。

 扉に接触した瞬間、怪物の頭部がぐらりと大きく揺れ、その首からごろんと転げ落ちた。

 しかし頭部はそのまま落下することなく、怪物の胸に寄り添うように宙を漂い続ける。

 そして暗闇に包まれていた空間が。天井が、床が、全てが黄金色に輝き始めた。

 

「もうすぐ会える…、ユイ…」

 

 怪物の顔面を塞いでいた仮面が剥がれ落ちる。

 仮面の向こうから、「彼」がその再会を待ちわびる人物とよく似た顔が現れた。

 

「私たちの夢が叶うのだ…!」

 

 

 4本の腕を持つ異形のエヴァンゲリオン第13号機。

 その内の第1、第2の手は、握っていた2本の槍をすでに手放している。

 そして残りの2本。第3、第4の腕に抱かれたていたのは、四肢が捥げた1体のエヴァンゲリオン。

 

 

「だからレイ…!」

 

 

 エヴァンゲリオン初号機。

 

 

「耳を貸すな…!」

 

 

 その瞳に、光が宿った。

 

 

「答えてはならん! レイ!」

 

 

 第13号機の腕の中で完全に活動停止していた初号機。

 胴体と頭部だけが残った痛々しい姿の初号機。

 その初号機が、体動を始める。

 

 

 その先を失った右肩に燐光が瞬くと、何もなかった空間に一筋の眩い光が走り、それはすぐに腕の形を成し始めた。

 右肩だけではなく、左肩にも同じ現象。

 

「もうよせ!」

 

 第13号機の第1、第2の腕が、再生された初号機の2本の二の腕を掴み上げた。

 しかし抗う初号機は再生された手で逆に13号機の二の腕を握り締める。そして初号機を拘束する13号機の手を、引き剥がしに掛かった。

 互いの二の腕を掴みあう2体の巨人。腕の本数と目以外は、まるで双子のように瓜二つの2体の巨獣。

 しかし次第に片方の巨獣の腕力が、もう片方の巨獣の腕力を凌駕し始める。

 初号機の両手が13号機の腕を握り潰さんばかりに肉に深く食い込み、初号機の二の腕を拘束していた13号機の手から、徐々に腕力が失われ始めた。

 

「やめろ!」

 

 

 発動した「世界の書き換え」。

 アディショナルインパクト。

 それは秘密結社ゼーレの悲願であり、滅びへと向かいつつある人類が生き残るための最後の儀式であったはずのフォースインパクトに、たった一人の男の願いを上乗せするための儀式。

 彼が抱くただ一つの願い。

 そのための最後のマテリアルは、初号機の中にある。

 だから。

 

 

 4本ある第13号機の腕。

 うち第1と第2の腕は初号機の腕を掴んでいる。

 そして残り2本の腕。

 第3と第4の腕が、前に向かって真っすぐに伸びた。

 

「やめるんだ! レイ!」

 

 第3と第4の腕が突き出された先。

 そこにあったのは初号機の頚部。

 分厚い装甲で覆われた第13号機の手が大きく開き、初号機の頚部に絡み付いた。第2指から第5指までの計8本の指は首の後ろに回り、そして残った2本の第1指は初号機の逞しい喉仏に突き立てられる。

 次の瞬間、全ての握力を総動員する第13号機の手。

 第13号機の手が、初号機の首を一気に締め上げた。

 

 首を急激に圧迫された初号機はたまらず13号機の腕を掴んでいた手を離し、今度は首を締め上げている腕の手首を掴み、引き剥がそうと試みた。しかし自由になった13号機の第1と第2の手が初号機の両手首を掴み返し、逆に拘束してしまう。

 その間にも、13号機の第3、第4の手は、初号機の首を絞め続けている。

 

「もういいんだ、レイ…」

 

 そして13号機は4本全ての腕を己の頭上に向かって掲げた。

 

「もういい…」

 

 13号機の4本の腕によって、まるで絞首刑に処せられた罪人のように吊り下げられた初号機。

 その機体が、弛緩していく。

 腕から、足から、力が抜けていく。

 黄金色に輝く空を背景に、両腕を強制的に広げられた初号機の体が、地面に向かって力なく垂れ下がる。

 

「お前はもう、休め…」

 

 眼孔の奥に宿っていた光が消え、初号機の体は動かなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

碇くん

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

なに? 綾波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また、お父さんと、話。したい?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うん

 

 

 

 

 

 

 

 

そうだね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

また父さんと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

できたらいいな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然迸った強烈な光。

 初号機の切断されていた腰から、眩い光が弾ける。

 腰から地面に向かって一気に伸びた光の柱。

 それはやがて2本の柱に分かれ、そして脚の形を成し始める。

 足の形を成すと光は急速に消え失せ、そして現れたのは紫色の装甲。

 

 初号機は瞬く間に再生させた両脚を素早く折り畳むと、初号機と第13号機の間に挟み込んだ。そしてその足底を第13号機の胸に押し当て、畳んでいた膝を一気に伸ばす。初号機の2本の脚が、13号機の体を渾身の力で一気に突き飛ばした。

 初号機の全霊を込めた一撃についに第13号機の手による4つの拘束が解け、束縛から解放された初号機の体が轟音を轟かせながら地面に降り立つ。

 すぐさま初号機は後方に向かって跳躍し、第13号機から距離を取った。

 地面に両手を付いて着地する初号機。

 

「待て! 行くな! レイ!」

 

 顔を上げ、遠くに離れた第13号機を見つめる。

 初号機の視線の先にある第13号機の顔。大きく開いた口の中に、一人の人物が立っていた。

 

「お前もか! お前も…! 私から全てを…! 希望の光を奪っていくのか…!」

 

 碇ゲンドウは遠くに行ってしまった初号機に対し、懸命に声を振り絞る。 

 

 初号機はゆっくりと腰を上げ、2本の脚で大地に立った。

 少しだけ開いた口。その両端から、少量の蒸気が漏れ出る。

 初号機の喉の奥が、まるで遠雷のような低い唸り声を響かせた。

 

「なんだと…」

 

 棒立ちとなっている第13号機。そしてその口の中に立つ男の姿を、まっすぐに見つめる初号機。

 その口は今も少しだけ開き、その奥の喉は低い唸り声を響かせ続けている。

 

 初号機の足もとから、湧き水のように淡い光が溢れ出し始めた。

 

 淡い光は泡となって瞬く間に範囲を広げていき、脚、腰、そして胸と、初号機の体を包み込んでいく。

 

「レイ…」

 

 ついに初号機の巨体全てを包み込んだ光の泡は、一際強く煌くと、急速にその輝きを失い、そして消えていった。

 

 光が消えた跡。

 

 そこに初号機の姿はなかった。

 

 

 

 13号機の口の中に立つ碇ゲンドウ。

 光の泡に包まれていく中、初号機の薄く開いた口から確かに聴こえた「彼女」の声。

 

「“必ず、戻ってくる”…」

 

 彼女の言葉を、碇ゲンドウは反芻する。

 

「“希望の光と、共に”…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 ブラックホールのような巨大な穴に向かってひたすら落ちていく。

 あの巨大過ぎる飛行戦艦から飛び降りて、どれくらいの時間が経っただろうか。こんなに距離や縮尺の感覚が出鱈目な空間に居ると、時間の経過すらも分からなくなってしまう。

 ひたすら、ひたすら落ちていく。

 あの艦の副長は、この先は人類には手出しできない未知の空間、不可侵の場所と言っていた。

 

 でも行ける。

 

 絶対に辿り着ける。

 

 この確信が揺らぐことはない。

 

 自分が進むべき道を見失うことはない。

 

 

 なぜなら。

 

 

 それは。

 

 

 

 背中に空気の揺らぎを感じた。

 背中に、熱を感じた。

 背中に、光を感じた。

 

 何処か懐かしい光。

 何処か懐かしい温かさ。

 

 

 それは彼が抱く確信の拠り所。

 未知の場所を目指す彼にとっての、揺るぎない道標。

 

 てっきり今自分が落っこちている最中のこの大きな穴の奥から現れるものとばかり思っていたのだけれど。

 相変わらず、「彼女」の行動は自分の想像を軽く超えていく。

 

 少年は微笑む。

 

 体を捩じり、背中を真下に広がる大きな穴へ、そして体の正面を空へと向けた。

 

 

 途端に、その視界に入ってきたのは大きくて厳つい顔。

 

 ごつごつとした鉄兜に包まれた大きな顔が、彼を覗き込んでいた。

 

 そんな、見る者によっては一目見ただけで失神しそうになってしまいそうな顔を、少年は愛おし気に見上げる。

 

 

「やあ、綾波…」

 

 

 大きな顔の鼻に向けて、両手を伸ばした。

 

 

「やっぱり、来てくれたんだね…」

 

 

 

 紫色の巨人。

 エヴァンゲリオン初号機は、巨大な漆黒の穴に背に落下していく少年の体に向けて両手を伸ばした。

 あらゆる敵を、障壁を引き裂き、粉砕し、叩き割ってきた厳つい手。その大きな手が、ゆっくりと繊細に少年の体を包み込んでいく。そして少年の華奢な体を覆うと、その手の平に無数の光の顆、極小のATフィールドの結晶を溢れ出させた。その結晶が緩衝材となり、少年の体は巨人の手のひらに柔らかく着地する。

 自分の体を包み込む光の結晶たち。

 「かつて子供の頃」に見た記憶がある懐かしいこの光景に、少年は「ははは」と声を上げて笑った。そして「当時」に戻ったかのように、その光の結晶たちを両手で掬い上げ、空へ向けて放り投げる。舞い上がった光の結晶たちが少年の体の周りと、そしてすぐ側にある巨人の顔との間に無数の燐光を舞わせた。

 

 光の結晶の中に、背中から倒れ込んだ少年。

 舞い上がった光の結晶たちが、羽毛のように少年の体を包み込む。

 

 そんな少年を覗き込む巨人。

 少年もまた、数多の光に囲まれながら巨人の顔を見上げる。

 少年の目には、手のひらに溢れる数多の光を反射させ、きらきらと光っている巨人の顔が、何よりも美しく思えた。

 

「ありがとう、綾波…」

 世界一美して、ちょびっとだけ厳つい大きな顔を見つめながら、彼は口を開く。

「ずっと僕を、護ってくれてたんだね…」

 世界一美してちょびっとだけ厳つい顔の持ち主は、「大したことじゃない」とでも言うかのように、その大きな顔を左右に振る。

「ごめん、綾波…」

 少年の声が、僅かばかり強張った。

「僕を護るために…、君はとてもたくさん傷ついてしまった…」

 巨人は今度もやっぱり「大したことじゃない」とでも言うかのように、大きな顔を左右に振っている。

 そんな厳つくも健気な巨人の仕草を見て、少年は笑みを見せつつ、目尻に涙を滲ませる。

  

 ATフィールドの結晶の光を浴びてキラキラと光る巨人の顔。

 その装甲は無数の傷で抉られ、亀裂が走り、彼が眠っている間に巨人が身を投じた戦いの激しさを物語っている。

 そんな傷塗れの巨人の顔を見つめていると、心の底から色々なものが込み上げてきてしまう。

 

 それでも、今は感傷に浸っている時間はない。

 再会の喜びも、今は脇に置いて。

 

 少年はぎゅっと目を閉じ、目尻に浮いた涙を絞り出した。

 細めた目で、巨人の顔を見上げる。

「綾波…。僕は父さんと、話がしたいんだ」

 巨人は、再会して初めてその大きな顔を、縦に大きく振った。

 何の躊躇いもなく縦に振られた巨人の顔に、涙を絞り出したはずの少年の目が再び潤んでしまう。

「だから。綾波」

 潤んだ少年の目が、彼を囲む無数の光の結晶たちを映し出して、万華鏡のように光り輝く。

 光に溢れた顔で、少年は言った。

 

 

「僕を、エヴァに。初号機に乗せて欲しい」

 

 

 

 

 まるで一心同体。

 シンクロ率(無限大)

 「彼女」とは、全てが通じ合っているかのよう。

 

 

 少年はそう感じていたのだが、しかし彼が巨人に告げたその願いに対し、巨人は、今まで一番大きく、顔を左右に振った。

 

「お願いだ、綾波…。僕を初号機に…」

 

 少年が言い切る前に、巨人はもう一度。まるで駄々をこねる幼子のように、顔を左右に大きく振るう。

 

 何となく、巨人のその反応を予想していた少年は、困ったように笑う。

「もう…、頑固だなぁ、綾波は…」

 そんな少年の指摘に、巨人は「そうだ」と言わんばかりに素早く2度頷いた。

 少年はくすりと笑う。

「そんなに、僕がエヴァに乗るのはダメなことなのかな?」

 一度だけ大きくゆっくりと頷く巨人に、少しばかり呆れたように浅い溜息を吐く少年。

「あ、でもごめん、綾波」

 少年は何かを思い出したように苦笑いした。

 

「僕、実はもう別のエヴァ。あの第13号機ってやつに乗っちゃったんだ」

 

 少年の告白。

 まるで悪戯の報告でもするかのような少年の報告に、巨人は虚を突かれでもしたかのように、固まってしまった。

 

 巨人が少年の顔を見つめたまま10秒ほど硬直してしまって。

 

 ようやく硬直から解かれた巨人が動かしのは、巨人の大きな手。

 少年の体を支えるためにお椀のように重ねられていた巨人の手が、まるでおにぎりを作る要領で、少年の体全体を完全に包み込んでしまう。

「え? 綾波?」

 巨人の手に覆われてしまい、外が見えなくなってしまった少年。

「あ、あのさ…うわわわ!?」

 やっぱり怒ってるのかなと思って言い訳を始めようとしたところで、地面が。正確に言えば背にしていた巨人の右手の平が大きく浮き上がり、その反動で少年の体も浮き上がってしまった。かと思えば、今度は少年の体を覆っていた巨人の左手の平が大きく沈み、少年の体を下に叩き付けてしまう。少年の背が右手の平に付いたら再び右手の平が浮き上がり、少年の体が浮いたら左手の平が少年の体を下に叩き付ける。それを小刻みに何度も繰り返す。

 少年の体は、巨人の手の中で思いっきりシェイクされていた。

 

「わあああああああああああああああああ! やめてぇ! やめてよ綾波ぃ!」

 

 光の結晶たちが緩衝材になっているので特に痛くはないし怪我もしないが。

「ごめん! ごめんごめんごめん! ごめんったらごめん!」

 巨人の手の中で激しくもみくちゃにされてしまう少年の体。

「ごめんってば! 謝るから許してよおぉぉ綾波ぃぃ!」

 重ね合わされた巨人の手の中から、少年の情けない悲鳴が木霊する。

 

 

「分かったよぉ! もう2度とエヴァには乗りませんからぁ!」

 

 

 巨人の手が、ピタリと止まった。

 

 重ね合わされた巨人の手が、ゆっくりと開く。

 そこには無数の光の結晶たちに囲まれて、ひっくり返っている少年の姿。

 そんな情けない格好のままで、少年は巨人を見上げている。

「分かったよ、綾波…。君の言う通りにするよ…」

 そう告げる少年の顔はあからさまに不満顔。しかしそんな表情は長くは保っていられず、すぐに歯を見せてくくっと笑う。

 とりあえず天地逆さまの不様な格好を戻し、2本の足で光の結晶の上に立ち上がった。

「それじゃあ綾波」

 巨人の大きな親指に手を付きながら、巨人の顔を見上げた。

「僕を、父さんのもとまで、連れて行ってくれるかな」

 少年のその申し出に、巨人は大きく頷いた。

 

 

 巨人の手の平から溢れ出る光の結晶たちが更にその量を増し、光の奔流となって少年の体だけでなく、巨人の腕を、胸を、腰を、足を、頭を。体全体を包み込む。光の奔流はやがて穴に向かって降下する巨人の体に尾を引き、その様は赤銅色の空を流れる大きな彗星のようだった。

 巨人の手の上から、眼下に開く巨大な穴を見つめる少年。あの穴に向かって一人で落ちている時は、どんなに落ちても一向に近付く気配のなかった穴が、今は明らかに距離を縮めているのが分かる。

 自分を手の平に乗せている巨人が、巨大な漆黒の穴の、さらにその先へと導いてくれている。

 巨人の中の「彼女」が、自分が望む場所まで導いてくれている。

 「彼女」が、僕の願いと共鳴してくれている。

 

 

 

「綾波」

 

 少年はその先に望む場所がある穴の奥を見つめながら、巨人に向けて呼び掛けた。

 

「僕たちは、運命を仕組まれた子だ…」

 

 顔の正面に巨大な穴をまっすぐに捉える巨人は、瞳だけを動かして手の上の少年を見た。

 

「それは人の手によって仕組まれたものかもしれないけれど…、でも綾波」

 

 少年も、巨人の顔を見つめる。

 

「僕は、君との運命を信じてるよ」

 

 そして、少し照れ臭そうに、少年は笑った。

 

「僕たちはきっと、運命の二人なんだ」

 

 分厚い装甲で固められた巨人の顔。

 表情を浮かべることなんてできないはずの巨人の顔。

 しかし少年の目には、その顔がどことなく恥じらっているように見えて、少年の笑顔はさらに大きくなる。

 

「だから行こう! 綾波!」

 

 少年の瞳は再び彼らが目指す巨大な漆黒の穴の奥をまっすぐに見据える。

 

「どこまでも一緒に!」

 

 その呼び掛けに呼応するかのように、巨人の体全体から光の結晶たちが溢れ出し、強烈な閃光を瞬かせる。

 

 この惑星の極地。

 セカンドインパクトの爆心地であるこの地に久しく覗かせることのなかった太陽よりも遥かに強烈なその光は、全ての光を飲み込んでしまう深い漆黒の闇に覆われた巨大な穴の中をも、明るく照らし出した。

 

 

 闇の中を突き進む彗星。

 

 彗星が目指す、深い深い闇の奥。

 

 まるで降下する彗星と入れ替わるように、闇の奥底から宇宙へと向かって膨張を繰り返す、白い怪物の姿が見えた。

 

 

 

 

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