機甲少女の想いは一途   作:hekusokazura

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(66)私たちの槍

 

 

 

 

 12枚の翼を背負った、首の欠けた巨人。

 その巨人の周りを泳ぐように周回する無数の首が欠けた少女の群れ。

 その巨人と少女の群れ。そして虚構の世界を覆う、黄金色の大空。

 まるで金メッキを施された、円蓋の天井のような大空。

 その大空の一角が、放射状にひび割れた。

 そして、まるでガラス製の天窓のように、音を立てて砕けながら一角に大きな穴を開ける空。

 空に開いた大きな穴から飛び出てきたのは、異形の槍だった。

 

 

 白い支柱に青い翼と赤い翼が絡みつくような造形の巨大な槍は、黄金色の空を外から穿つと、周囲に空の破片をまき散らしながら地上に向かって落下していく。

 ヒトの手では開くことが許されない扉を、ヒトの意志を乗せてぶち破いた槍。

 勇ましくその姿を現した槍だったが、その全貌はあちこちが破壊され、すでにボロボロの状態だった。

 

 白い支柱と、2枚の翼を繋ぐ3つの連結部。そのうち前部と後部はすでに粉々に破壊され、残る最後の中央の連結部も今にも砕けてしまいそう。槍は落下しながら、今まさに崩壊の危機に陥っていた。

 その崩壊を何とか繋ぎ止めていたもの。

 残された最後の連結部を、身を挺して繋ぎ止めていたもの。

 エヴァンゲリオン8号機は、2本の腕と2本の足を使って、崩壊寸前の連結部に抱き着き、繋ぎ止め、辛うじて槍全体の崩壊を防いでいた。

 8号機の八つの目が地上を見下ろす。

 

 

 

 

「アァァァァァァァァァァァスゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥカァァァァァァァァァァァ!!」

 

 

 

 

 8号機のパイロット。真希波・マリ・イラストリアスは生まれたばかりのようなツルッツルの肌の額に青筋を浮かべ、噛み締めた口の端からは血を滲ませ、青い瞳を爛々と輝かせながら、最後の気力を振り絞って8号機を操っている。そして地上に立つ第13号機の存在を認識するや、彼女の相棒の名を懸命に叫んでいた。

 マリの背中に抱き着く小さな子供も身を乗り出し、やや興奮気味に鼻の両孔からふんふんと荒めの呼気を漏らしながら、右拳を突き上げている。

 

 

 第13号機は頭上を見上げた。

 4つある目から放たれる視線の先には、こちらに向かって落下してくる巨大な異形の槍。

「マリィーーーーーーーーー!!」

 第13号機の搭乗者も彼女の相棒の名を叫んだ。

「その槍寄越せええええええええ!!」

 

 

 

「ゴメン…、もぅマヂ無理…」

 槍に抱き着きながら勇ましく表れた8号機だが、機体よりも遥かに大きい槍の連結部を支え続けた全身の筋肉がいよいよ限界に達したらしい。8号機の両腕が、両足が。連結部に絡めていた8号機の四肢が明らかに緩みつつある。

 そして8号機の四肢と槍との間に僅かな隙間が生じると、途端に大きな破裂音と共に中央部の連結部にも複数の亀裂が走り始めた。

 

「なにやってんのよコネメガネ! ちったー根性見せなさいよぉ!」

 アスカの叱咤も空しく、槍にしがみ付いていた8号機のまずは両足が槍から離れてしまった。両足が絡みついていたことで何とか形を保ち続けていた中央連結部の後部が完全に割れてしまう。

 さらに続けて左腕が離れ。そして残った右手も小指、薬指と次々と槍から外れてしまい。

 そして。

「あ~~~~れ~~~~~!」

 8号機の機体は槍から離れ、高速で落下する槍が巻き起こす乱気流に飲まれて弾け飛んでしまった。

「こんの役立たずがぁぁぁ!」

 

 槍の形を辛うじて繋ぎ止めていた8号機がついに離れてしまった。

 白い支柱に絡みつく赤い翼と青い翼の、残された最後の連結部がついに粉々に砕け、異形の槍はそれを構成する1本の支柱と2枚の翼に分裂してしまう。

 

 飾りっ気のないただの素槍となってしまった白い槍。

 その白い槍から分裂した赤い翼と青い翼。それらはまるでそれぞれが一枚の羽根のような形状であり、その先端はまるで如何なるものも貫く鋭い刃のようだった。

 

 白い槍。

 そして赤い羽根と青い羽根。

 いや、赤い槍と青い槍。

 3本の巨大な槍が、轟音と共に虚構の世界の大地へと突き刺さる。

 

 

 遥か上空から落下した超巨大構造物。

 地上に衝突した瞬間に強烈な空振が発生し、それは見えない津波と化して周囲に波及していく。

 第13号機はATフィールドを張り巡らせながら片膝を付いてその衝撃に耐え、そして初号機は大きく跳躍すると地面に着地すると同時にその右手で地上に立つ少年の体を庇い、そして左手で少年の父親の体を庇った。

 直後に襲った衝撃波。

 空が震え、大地が割れる。

 

 

 

 槍の衝突によって巻き上げられた大量の土砂による霧が落ち着き、そして現れた光景を前に、アスカは思わず頭を抱えてしまった。

「あっちゃーーーー…」

 この槍が一体どのような経緯でここまで辿り着いたのか。第13号機に乗るアスカは知る由もない。しかしその槍に彼女の相棒が乗ってきた以上、あの槍はきっと彼女の仲間たちが彼女たちのために届けてくれたものなのだろう。

 その槍が。

 ヴィレの槍が見るも無惨に崩壊してこの世界に届けられ、そして地面に突き刺さる様を目撃したアスカは唖然とするしかなかった。

「どうすんのよ、これ…」

 そうアスカが呟いた時。

 

「うわっ!?」

 

 第13号機のパイロット。アスカ・ラングレーは、彼女が支配下に置いたはずの第13号機が勝手に動き始めたので小さな悲鳴を上げてしまった。彼女が乗る機体が、大地に突き刺さった3本の槍へと向かって走り始めたのだ。

「何勝手に動いてんのよ、こいつ!」

 第13号機のコントロールを取り戻そうと操縦桿を握り締める。

「スーパーアスカ…」

 アスカは最初、隣から掛けられたそのか細い声が自分に向けられたものとは気付けなかった。「何者だ」と問うあのヒゲ親父に向かって咄嗟の思い付きで、その場のノリでついつい口走ってしまったその名で改めて呼ばれてしまうと、こっ恥ずかしさが込み上げてしまう。

「な、何よ…」

 隣を見ると、隣のエントリープラグに屯する3人の少女。アスカがネルフに所属していた時代の同僚によく似た少女たちのうち、操縦席に座る一人がこちらを見ていた。

「碇ゲンドウは、付加的なインパクトを発生させるために、2本の槍を使った」

 それを聴き、アスカの目は地上に突き刺さった3本の槍へと向けられる。

「このインパクトを止めるには、それを上回る3本の槍を使えばいいってこと?」

 少女はこくりと頷く。

「カヲルがそう言ってる」

「それってどーゆー理屈よ!」

 アスカはそう怒鳴りながらも、握った操縦桿を通して槍へと向かうよう機体に意思を伝えつつ、素早く通信回線を開いた。

「コネメガネ! あんたも手伝え!」

「心得たぁ!」

 槍と共に地上に墜落し、頭の上に天使とお星さまをぐるぐる回していた8号機は、その号令を聴いて弾かれたように飛び上がった。

 アスカはさらに開いた別の回線にも向かって怒鳴り散らす。

 

優等生(エコヒイキ)!」

 

 少年とその父親を槍の落下による衝撃波から守っていた初号機は、その呼び掛けにゆっくりと顔を上げた。

 

「あんたもよ!」

 

 

 その落下により地表に巨大なクレーターを築き上げた3本の槍。

 真っ先に辿り着いた第13号機は、赤、白、青の順で並んで突き刺さっている3本の槍の内、赤の槍のもとに駆け込む。

「あたしはもちろん赤い槍!」

「んじゃあたしは青い槍で!」

 槍のもとまでひとっ跳びで現れた8号機も、青の槍の根元へと着地した。

 

 4本のうち半分を失いつつも、残っている2本の腕を使って赤い槍を引き抜こうとするエヴァンゲリオン第13号機。

 復活させた2本の腕を使って、青い槍を持ち上げようとするエヴァンゲリオン8号機。

 素体の表面に極太の血管が浮かび上がり、素体を覆う装甲をはち切る勢いで筋肉が膨張する。

 空に向けて真っすぐに突き刺さっていた2本の槍が大きくぐらつき、地面深くに埋没していた先端が露出し始めた。

「どりゃああああああ!」

「だっしゃあああああ!」

 2人のパイロットによる雄叫びが重なる。

 彼女たちが操る機体もまた大きく咆哮しながら、ついにはその機体よりも遥かに大きな槍を抱え上げてしまった。

 

「何やってんのよ優等生(エコヒイキ)!」

 2体のエヴァンゲリオンが槍を引き抜いた時になって、ようやく白い槍のもとに現れたその巨人に向けて、アスカは怒鳴り散らす。

 すでに4つ足の獣の姿ではなく、人型に戻った姿で現れた初号機。リミッターを外し暴走させるという形で機体スペックを強引に引き上げた結果、体内に蓄えられたエネルギーを使い果たしたかのように筋肉が萎んでしまった初号機は、まるで飢民のような姿。第13号機との激闘により至る所に穴が開いている体は、動く度に大量の体液を垂れ流している。人型に戻ったはずなのに、2本の足で歩くことなく、地面を這ってやってきた初号機は、もたれかかった槍に助けられながら、辛うじて大地に立った。

 両手で白い槍に抱き着き、そして大地を踏みしめた両脚に力を籠める。

 しかし地中深くに刺さった槍は小動もしない。

「あんたも根性見せろ!」

 8号機のパイロットから檄が飛ぶが、初号機が引き抜こうとする白い槍の切っ先は、未だ地面に埋まったまま。

 それでも初号機は残された力を全身に漲らせる。体中に開いた穴から夥しい量の体液が飛び散り、足もとにどす黒い水溜まりを広げながらも、傷だらけの機体で、その機体よりも遥かに大きい槍を引き抜こうとする。

 そしてついに、地上から天に伸びた白い槍がぐらつき始めた。白い槍の先端が地面から顔を出し始めた。

 長大な槍が初号機の右肩に乗り、その膨大な質量を支えきれずに初号機の膝は堪らず地面に付く。

 初号機の口の両端から大量の水蒸気が噴き出した。

 顎が砕けた口を大きく開き、喉の奥から大地を轟かす巨大な咆哮が迸る。

 

 地面に付いていた右膝が浮く。

 折れていた膝が伸びていく。

 腰が地上から離れていく。

 

 白い槍を右肩に抱えた初号機が、ついに地上に立った。

 

 

 右側には赤い槍を構えたエヴァンゲリオン第13号機。

 左側には青い槍を構えたエヴァンゲリオン8号機。

 その2体に囲まれる、白い槍を構えたのはエヴァンゲリオン初号機。

 

 その3本の槍の切っ先が、一斉に上空を睨んだ。

 

 3本の槍の鋭い切っ先が睨む先。

 

 この虚構の世界の大地に、世界樹のように聳え立つ、女性の姿をした白い巨人。

 黄金色の空をすり抜け、この世界の「外」へと顔を覗かせた白い巨人。

 あまりにも巨大過ぎて、その足もとに立つ3体のエヴァンゲリオンからの視点では、先端の見えない2本の巨大な柱があるようにしか見えないだろう。

 

 3体のエヴァンゲリオンは、誰から合図するでもなしに、ほぼ同時にその予備動作に入った。

 左足を前に。そして右足を後ろにずらし、大きく股を開いて大地を強く踏みしめる。

 右足に体重を乗せ、上半身を大きく後ろへ倒す。

 その上半身を時計回りに捻じれさせ、その捻じれの中に上半身のあらゆる筋肉から生じる弾性エネルギーを溜め込む。

 

 その体勢で静止して3秒後。

 

 右足に傾けていた体重を、一気に左足に傾け。

 後ろに倒していた上半身を一気に前に倒し。

 上半身の捻じれに集中させていた弾性エネルギーを一気に解放させる。

 体中から発したそれらのエネルギー全てを、構えた槍に籠めて。

 

 

 投擲。

 

 

 エヴァンゲリオンが持ちうる全ての力を乗せられた3本の槍が、空に向けて一斉に飛翔した。

 

 

「行けええええええええ!!」

 アスカが叫ぶ。

 

「貫けっ!! ヴィレ(あたしたち)の槍!!」

 マリが叫ぶ。

 

 そして槍を投擲したと同時に、両膝を地面に付き、両手を地面に付き、力尽きたかのように崩れ落ちてしまった初号機も、地面を睨みながら最後の力を振り絞って咆哮する。「届け」と叫ぶ。

 

 

 

 大地から飛び立つ3本の槍。

 秒速11.2キロメートルを遥かに超える速度で飛翔する3本の槍。

 その切っ先が虚構の空。黄金色の円蓋に触れると、まるで稲妻のように空全体に大きな亀裂が放射状に走った。次の瞬間、黄金色の空はガラスのように音を立てて砕け散る。砕けた蓋の破片たちは、さらに微小な塵へと分解していき、それらがまるで光輝く流星群のように虚構の大地へと降り注いでいく。

 

 

 虚構と現実を分け隔てる扉を完全に砕いてもなお、3本の槍の勢いは衰えない。

 断熱圧縮による膨大な熱エネルギーを纏った3本の槍は、炎を纏った不死鳥のような姿で、虚構の空から現実の空へと飛び出していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 赤い大地。

 赤い海。

 抱いた豊かな生命のほぼ全てを血の色で塗り固めた星。

 

 地球。

 

 その地球の最南端。

 南極点に聳え立つ、女性の姿をした白い巨人。

 その背に、12枚の翼を背負った白い巨人。

 虚構と現実の境を取り払い、全てを、あらゆるものを単一化するためにこの世界に遣わされた白い巨人。

 その体からは頭部のみが切断され、その頭部の母体の胸の前でゆらゆらと浮いている白い巨人。

 

 その頭部。

 巨人の顔。

 まだ幼さが残る、少女の顔。

 全身が白く染まった巨人の体において、青みがかった頭髪、赤い瞳。

 宇宙空間を漂う少女の頭部。

 その頭部に向けて、地上から3つの光の筋が伸びていく。

 

 3つの光の筋はやがて1つの光に融合すると、光煌めく大きな彗星となって宇宙空間へと飛び出した。

 

 ぐんぐんと高度を増していく彗星はやがて少女の頭部へと到達。

 光を纏った槍の切っ先が、少女の下顎に深く突き刺さる。

 光の尾を引く彗星はそのまま頭部の中を突き進み。

 少女の左目へと。赤く輝く瞳へと到達し。

 その赤い瞳を穿ち。

 瞳を砕き割り。

 

 少女の頭部を貫いた彗星はなおも強烈な光を瞬かながら、やがて地球という小さな檻からも飛び出し、数多の星々が瞬く無限の宇宙へと音もなく消えていった。

 

 頭部のない女性の姿をした巨人の体が、胸を張り、背中が大きく仰け反っていく。

 背負った12枚の翼が、少しずつ消滅していく。

 そして彗星によって貫かれた少女の頭部は、一度大きく煌めき、そして次の瞬間には砕けて無数の塵へと分解していった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 虚構と現実。

 2つの相反する世界を隔てる扉。

 それが砕け散ると、その先に現れたのは数多の星々を抱く濃紺の空。

 空という大海に掛けられた橋のように伸びる天の川。

 そしてこの地か、あるいは対極の地でしか見られない現象。オーロラが舞い踊る夜空。

 その夜空を、砕けた扉の粒子たちが流星群となってさらに彩っていく。

 

 そんな幻想的な空に在って、圧倒的な異物感を撒き散らして聳え立っていた女性の姿をした白い巨人。

 

 その白い巨人に向かって。

 正確には、頭部を欠いた巨人の前でゆらゆらと浮遊する少女の頭部に向かって。

 

 地上に向けて降り注ぐ流星群に逆らうように。

 瀑布の中を遡上する龍のように。

 

 虚構の地上から投擲された3本の槍。

 炎を纏う3本の槍。

 それらは1つの彗星へと融合し、少女の頭部を下顎から左の瞳に掛けて貫いた。

 

 天に向けてひたすら肥大化していった巨人は、まるで糸が切れた操り人形のように、体を大きく仰け反らせ、その大き過ぎる体を背中から大地へと倒れていく。

 貫かれた頭部は大きな光を発すると、無数の塵と化して弾け飛んだ。塵たちは夜空を描いたキャンパスの上に落とされた灰色のペンキのように八方に大きく広がっていき、星々と流星群とオーロラで彩られた夜空を覆っていく。

 

 

 

 

 それらの事象は。

 3体の巨人が空に向けて巨大な槍を投擲してから僅か数分の間に起きたそれらの事象は、彼の夢が。

 四半世紀の時間を費やした彼の夢が。

 文字通り心血を注いだ彼の夢が。

 あらゆる犠牲を払って叶えようとした彼の夢が、打ち砕かれた瞬間だった。

 

 彼は。

 碇ゲンドウは、自分の夢が。願いが。希望が引き裂かれる瞬間を、十字状に裂かれた目で、ただ見守っていた。

 見守るしかなかった。

 見守ることしかできなかった。

 

 己の夢を叶えるために、尋常ならざる熱量を漲らせ続けたその肉体からは生気が消え。

 彼の夢を妨害するあらゆる障壁を打ち砕いてきた拳を握ることもできず、その両腕は重力に引かれるままに両肩からぶら下がるだけ。

 

 白い巨人は。

 彼の願いを叶えるはずだった白い巨人は地球という牢獄の重力という鎖に引かれるままに倒れていき、その倒れていく過程で今更自然の法則でも思い出したかのように、不自然過ぎる膨張を重ねた体のあちこちが裂け、腕がもげ、脚がもげ、自然の、神の法則に逆らった罰でも受けるかのように、その巨大過ぎる体を崩壊させていく。

 

 崩壊していく白い巨人。

 肩から完全に分断した右腕の先端。

 右腕から捥げた右手の先端。

 右手から千切れた小指のさらにその先端。

 小指から剥がれ落ちた爪が、碇ゲンドウらが居る場所から少し離れた場所へと落下した。

 

 あまりにも大き過ぎる巨人から剥がれ落ちたその小指の爪もまたあまりにも大き過ぎて、その落下の衝撃は地面を大きく震わせ、周囲に突風を撒き散らし、膨大な量の土砂を舞い上がらせた。

 突風と土煙に煽られ、ゲンドウは両腕で顔を覆う。

 

 突風が止み、ゲンドウは腕を下ろした。

 

 大地は未だに震え、大気は騒めき、遠くからは地鳴りが響いている。周囲は土煙が立ち込めたまま。

 その土煙も次第に晴れていき、大気は清浄を取り戻し、大地の震えが静まる中で。

 

 

「父さん」

 

 

 遥か彼方で未だに響く地鳴りに紛れて聴こえてくる、小さな声。

 それでいて、まるで頭の中に直に語り掛けてくるような、明瞭な声。

 

 

「僕と…」

 

 

 背中に掛けられた声に、ゲンドウは振り返る。

 振り返った先に彼が見たものは、次第に晴れていく土煙の向こうに見える華奢な人影。

 人影は彼に語り掛ける。

 

 

「話をしよう…」

 

 

 世界は静寂に包まれた。

 

 

 

 

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