機甲少女の想いは一途   作:hekusokazura

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(72)世界で一番短い愛の歌

 

 

 

 

 真希波マリ、渚カヲル、アスカ・ラングレー、そして小さな子供が旅立っていった青い海。

 その水平線を、白い砂浜に立つ碇シンジは見つめていた。

 水平線に視線を。そして皆の旅立ちに意識を奪われたまま、腰を低くし、右手を地面に下ろし、お尻を地面に近付ける。

 地面に座ろうとした瞬間、少しバランスを崩してしまったらしい。シンジの体が左側にぐらりと傾いた。

 ちょん、と左肩に感触。

 シンジの左肩が、隣に座る綾波レイの右肩に接触している。

 その接触を合図に、水平線へと投げられていた2つの視線が自然と絡み合う。互いに吐息を感じる距離で見つめ合いながら、どちらからともなく口許を緩め、そしてレイは豊富な髪を抱く頭をそのままシンジの左肩に預けた。左肩に重みを感じ、シンジの顔は今更ながらに赤くなり、背筋がピンと伸びてしまう。

 視線は水平線の彼方に投げつつ、体中の神経は左肩に全集中。

 浜辺に2人きりであることを強く意識つつ、顔は海に向けたままで瞳だけを動かし、隣の彼女の様子を伺う。

 

 羽毛のようなふわふわの空色の髪の隙間から覗く彼女の顔。

 綿のような白い肌。

 伏せられた繊細な睫毛。

 薄く開いた瞼の隙間から覗く、赤い瞳。

 瞳から投げられる視線は、絶えることなく繰り返し押し寄せる波が泡となって消える様子を、静かに見つめてる。

 

 細い全身を包み込む勢いで伸びた髪の間から伸びた彼女の白い右手は、白い砂地の上に下ろされている。

 シンジは立てた膝の上に乗せていた自分の左手を、そっと、彼女の右手の側に下ろしてみた。

 

 サラサラとした白い砂地の上に並ぶ、彼の左手と彼女の右手。

 彼の左手の小指が少し動き、その指の先端が躊躇いがちに彼女の右手の小指に重ねられる。その感触に驚いた様子の彼女の小指が一度だけぴくりと動き硬直してしまうが、やがて彼の指から伝わる温もりにほぐされるように、彼女の指から力が抜けていく。

 そして彼の指の下敷きにされていた彼女の小指が少しずつ動き出し、彼の指の下から脱出すると、今度は彼女の薬指と小指が、彼の薬指と小指に重ねられた。彼女の繊麗な2本の指は、彼の小指と薬指、そして薬指と中指の隙間に滑り込み、指の関節を曲げて彼の指の根元に深く絡み付く。

 

 自身の左手と左肩に全ての神経を集中させつつ、彼女の横顔を見つめていた彼。

 波打ち際を見つめていた彼女の目が一度閉じられ、そして開くと、中に収まる瞳は隣の彼の胸元へと向けられていた。

 そしてもう一度瞼が閉じられ、そして開くと、中に収まる瞳は隣の彼の顔へと向けられていた。

 

 上目遣いでこちらを見上げる彼女の瞳。

 少しだけ潤んだ彼女の瞳。

 波に反射する光を湛えて、きらきらと光る彼女の瞳。

 

 全ての神経を左手と左肩に集中させているため、脳味噌がまともに働いていない彼の顔は、その瞳に吸い寄せらるようにふらりふらりと彼女の顔へと近付いていく。

 

 こつん、と当たる、彼の額と彼女の額。

 

 お互い顎を引いた状態で、お互いの目を見つめ合う。

 

 彼は、彼の額で彼女の額を少しだけ押してみた。

 

 額を押され、少しだけ上がる彼女の形の良い顎。

 

 そして無防備に晒される、彼女の薄い唇。

 

 その瞬間を見逃さず、素早く近付く彼の唇。

 

 彼の唇の動きに呼応するように、前へと出される彼女の唇。

 

 

 砂の上では、薬指と小指だけが絡み合っていたはずの2人の手は、いつの間にか全ての指が深く絡み合い、互いの温もりを求めるように強く握り合っている。

 

 

 

 唇が離れ、再びお互いのおでごを当てたまま見つめ合う2人。

 潤んだ瞳。上気した頬。鼻孔から漏れる乱れた息遣い。

 お互い同じような顔になってしまっていて、それが少しだけ可笑しくて、どちらからともなく笑みを零してしまう。

 

 そして、どちらからともなく相手の背中へと回される腕。

 

 お互いを抱き寄せ合う2人。

 

 触れ合う彼の右頬と、彼女の左頬。

 

 

 2人しか居ない世界。

 

 2人だけの世界。

 

 

 寄せては返す波の音に混じって聴こえるのは、相手の息遣い、そして胸の高鳴りだけ。

 

 それらの音に耳を傾けながら、碇シンジは彼女の耳もとで囁いた。

 

 

 

 

「残っているのは君だけだ…、綾波…」

 

 

 

 

 互いの体を抱き締め合っているため、相手の顔は見えない。見えない表情の代わりに彼の背中に回された彼女の手が、彼の着る黒のランニングシャツをぎゅっと掴む。彼女のその仕草に同調するように、彼女の細い体を抱き締める彼の腕にもより一層力が込められた。

 

「僕にはまだ、やらなきゃいけないことがある…。だから、綾波は先に行ってて…」

 

 ランニングシャツを掴む彼女の手にも、より一層力がこもった。

 

 彼は彼女の背中に回した左腕はそのままに、そして右腕は彼女の両膝の下へと滑り込ませた。

 そのまま、ひょい、と立ち上がる。

 その腕に、彼女の細い体を抱き上げたまま。

 

「はは。本当に綾波は軽いな」

 

 彼のその笑い声に彼女は応えず、額を彼の胸元に押し付け、両手は彼のランニングシャツの胸元を鷲掴みにしている。。

 

 

 彼は歩き出した。

 彼女を抱き上げたまま。

 海に向かって。

 

 サク、サク、と砂を踏む音が、やがてちゃぷ、ちゃぷ、と水を弾く音へと変わっていく。

 

「綾波。君は覚えているかな?」

 

 踝まで浸かっていた水が、やがて膝下まで迫る。

 

「僕たちが初めて出会った時のことを…」

 

 ザブ、ザブ、と海水を掻き分けながら彼の足は沖へと向かって歩いていく。

 

「僕がミサトさんに連れてこられたあの時じゃない。それよりも、ずっと前の」

 

 ついに抱き上げた彼女の腰までもが、海へと浸かり始めた。

 

「この世界での、君と僕との、最初の思い出…」

 

 海に浸かることで浮力を得た彼女の体が、ふわりと浮き上がる。

 

「あの時の約束のこと…、覚えてる…?」

 

 ふわりと浮き上がったことで、彼女の体は彼の腕の支えを必要としなくなる。

 彼の腕から離れる彼女の背中。

 

 彼のシャツを握り締めていた彼女の両手が、慌てたように彼の背中を抱き締める。

 その額は彼の胸元に押し付けたまま。

 縋り付くように。

 必死に、彼の体にしがみつく。

 

 シンジは彼女の膝の下に回していた右手を、彼女の頭へと回し、彼女の体をそっと抱き締めた。

 

「ほら。見てごらん」

 

 彼女に囁き掛ける。

 しかし彼女は彼の胸に顔を埋めたまま、首をふるふると横に振る。

 

「見てごらん…。綾波…」

 

 彼女は首を振る。

 豊富に伸びた髪を右に左に大きく揺らして。

 

「綾波…」

 

 

 3度目の呼び掛けに、彼女はようやく首を振るのを止めた。

 彼の胸から額を離す。

 ゆっくりと顔を起こし、伸びた前髪の隙間から彼が促す方へと視線を向けた。

 

 

 

 そこには青い海が広がっている。

 遥か彼方にある水平線まで続く、果てしない海が広がっている。

 

 

「いつか君に、青い海を見せる…」

 

 

 エヴァンゲリオンも居ない、笑い声を立てるパイロットたちも居ない、静かな海。 

 

 

「そう約束したね…」

 

 

 背後から聴こえる彼の声。

 

 

「25年目の約束…」

 

 

 波の音に混じって聴こえる彼の声。

 

 

「ようやく果たせたよ…」

 

 

 遠くから聴こえる、彼の声。

 

 

 

 

 青い海に目を奪われていた彼女は、慌てて後ろを振り返った。

 

 

 彼の首に絡めていたはずの腕はいつの間にか空っぽ。

 

 

 彼の姿が、波間の向こうに見えた。

 

 

 気付かないうちに出来てしまっていた彼との距離。

 彼女はその距離を埋めるべく、両腕を、両足を必死にばたつかせて、彼のもとへ泳ごうとする。しかし14年ぶりに得た肉体は、宿主の意思のままには動いてはくれない。

 手足はバラバラに海面を叩くだけで。水飛沫ばかりが派手に上がり、その体は一向に前へ進もうとしない。前へ進むどころか、返す波によって逆に沖へと引き摺られていく始末だ。

 

 

 

 腰まで海に浸かった場所で、碇シンジは綾波レイの姿を見ていた。

 彼の元に戻ろうと、必死に藻掻く綾波レイの姿を、ただ見ていた。

 その努力も空しく、少しずつ離れていく綾波レイの姿を見ていた。

 

 波の音に混じって、何かが聴こえてくる。

 それは人の唸り声。

 この場所に居るのは。この空間に最後まで残っていたのは、彼と彼女だけ。

 碇シンジは、口を噤んでいる。

 つまり、その唸り声を発しているのは碇シンジ以外の、もう一人。

 

 綾波レイが、唸っていた。

 波に揉まれながら。

 両手と両足をばたつかせながら。

 海の中で藻掻きながら。

 

 懸命に唸っていた。

 言葉を発することができない。彼の名前すら叫ぶことができない口で、必死に唸っていた。

 まるで沖で響く海鳴りのような唸り声。

 その声も、やがて碇シンジのもとには届かなくなる。

 彼女が上げた必死の唸り声も、波の音に掻き消されるようになる。

 

 そして彼女の姿も。

 両手で海面を掻き、両足をばたつかせている彼女の姿も、まるで青のペンキで上塗りされるように、大きな波で掻き消されていく。

 

 一際大きな波が、シンジと彼女の間を通り抜けた。

 海面のうねりが通り過ぎ、現れたのは遥か彼方に見える水平線。

 静かな白波が絶え間なく打ち寄せる海原。

 

 

 そこに、彼女の姿はなかった。

 

 

 

 

「さよなら…、みんな…」

 

 彼女が消えた水平線を見つめていたシンジの首が前に垂れた。

  

「さよなら…、綾波…」

 

 シンジの華奢な両肩が、微かに震えた。

 

「ごめん…、綾波…」

 

 その言葉の後に続いたのは、小さな嗚咽。

 波の音にも負けてしまうような、静かな嗚咽。

 

 

 

 現実と虚構の狭間。

 崩れかけた世界に秩序と均衡を齎すために作られた空間。

 その空間にただ一人残された少年は、まるで彼女の髪の色のような青い空と青い海に一人で挟まれ、唇を噛み締め、肩を震わせて、ただ一人泣いていた。

 

 嗚咽を漏らす口。

 鼻水を垂らす鼻。

 しかし、彼の双眸からは涙は零れない。

 

 

 黒曜石のような瞳の持ち主だった少年。

 その少年の顔に、2つの目は無かった。

 

 世界の色を知るために。

 世界の形を知るために。

 世界の広さを知るために。

 そして愛する人を見つめるために与えられた2つの目。

 その2つの目が本来収まるべき位置。

 

 

 そこに在るのは、顔の表面を十字状に切り裂いた大きな溝だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 一人で泣いていた。

 

 涙を流せなくなった顔で泣いていた。

 

 ただ一人残された空間で、声にならない声で泣いていた。

 

 全身を、かつてない寂しさと悲しさが支配していた。

 

 

 だから、碇シンジはその右肩を叩かれた時。

 碇シンジただ一人を除いて誰も居ないはずのこの空間で、右肩を叩かれた時。

 例えば街中を歩いていて、唐突に背後から肩を叩かれた時と同じように、ただ小さく「え?」と短い声を漏らしながら、後ろを振り返るしかなかった。

 

 振り返ったその瞬間、シンジの視界全てを、一つの大きな拳が占拠する。

 

 

 

 視界一杯に火花が舞い散る。

 

 

 

 振り向きざまに頬を殴られたシンジの体が吹っ飛び、大きな水飛沫を立てながら海水の中へと沈んだ。

 気泡だらけの海中。

 訳も分からず海の中で藻掻いていたら、海面の方から2本の腕が伸びてきて、シンジの黒のランニングシャツの胸元をむんずと掴む。2本の腕は物凄い力でシャツを引き寄せると、シンジの体ごと海上へと引き揚げた。

 薄暗い海中の中から明るい海上へ。

 口にも鼻にも塩水が侵入しひどく咳き込むシンジは、薄く瞼を開きながらシャツの胸元を掴む手の持ち主の顔を確認する。

 

 浅黒い肌。

 顎にたくわえられた髭。

 丸渕の色付きメガネ。

 レンズ越しの、黒い瞳。

 

 

「息子を殴るのはこれが初めてだったな」

 

 

 碇シンジの父親の顔が、すぐそこにあった。

 

 

 

 殴り倒した息子を海中から無理やり引き摺り出す。

 その粗暴な振る舞いとは裏腹に、碇ゲンドウの声音は酷く落ち着いていた。

 

「父さん…」

 シンジは塩水で焼き付いた喉の痛みを感じながら、十字状の裂け目から注がれる視線を父の顔に向ける。

 

 ゲンドウの手が握った息子のシャツの襟元に深く食い込んだ。

「何のつもりだ、シンジ…」

 

 静かで、それでいて厳しい口調による父親の問い掛けの意味を、シンジはすぐに理解した。

 父親に向けていた視線を、気泡だらけの海面へと落とす。

 

「だって…、僕は…、僕の落とし前を着けなくちゃ…」

 震える声で、父親に訴える。

 

「僕が引き起こしたことで、死ななくていい人たちがたくさん死んだ…。苦しまなくていい人たちが、たくさん苦しんだ…。この世界に住む全ての人たちの人生を、僕は狂わせてしまったんだ…!」

 それは、彼の仲間たちにも、愛する人たちにも、誰にも言えなかった胸の中の苦しみ。

 

「虚構と現実を隔てるための新しい扉。その扉を閉めるための鍵がないんだ。誰かが鍵にならなくちゃ…」

 それは、彼の仲間たちにも、愛する人たちにも、誰にも言わなかった決意。

 

「僕が…、鍵にならなくちゃ…」

 

 

 襟元を掴んだ父親の手にさらに力が籠り、シンジの首を圧迫する。喉の焼け付く痛みと首を圧迫される苦しみに顔を顰めながら、シンジは伏せていた目を父親へと向けた。

 

「シンジ。前にも聞いたな」

 

 ゲンドウは息子の視線がこちらに向いたところで、両手に籠めていた力を少しだけ緩めた。

 

「シンジ。お前は何を願う」

 

 ゲンドウは、落ち着いた声で息子に語り掛ける。

 

 

「僕は…」

 解放された気道で深く呼吸したシンジは、父親に向けていた視線を今一度海面へと落とした

「僕は…、みんなが…、世界が…、あや…」

 

「世界だとかみんなとか。そんな大仰な話はしていない!」

 その怒鳴り声と共に、シンジの襟元を掴む父親の手に再び力が籠り、シンジの視線は強制的に父親へと向けられることになる。

「シンジ! お前は…、碇シンジは何を望むのだ!」

 

 

 シンジは初めてだったかも知れない。

 嫌悪、諦念、蔑み、そして無関心。

 父親から自分自身に向けらるそれらの感情以外の。

 父親の怒りの表情を、こんなにも間近で見たのは。

 

 

 シンジは親からこっぴどく叱られて怯え震える幼子のように、顔を小刻みに揺らし始めた。

 その顔の半分を占拠する十字状の裂け目から。

 涙を流さないはずのその裂け目から、大粒の涙がボロボロと溢れ出す。

 

「僕は…」

 

 奥歯がカチカチと鳴る口をぎこちなく開いた。

 

「僕はみんなと…」

 

 言い掛けて、父親の目を見た。

 メガネ越しに、まっすぐに息子を見据えている父親の黒い瞳を。

 

 シンジは一度歯を食いしばり、そして父親の目をまっすぐに見つめ返して言った。

 

 

 

「僕は、綾波と一緒に生きたい!!」

 

 

 

 息子の口から飛び出た、熱の籠もった力強い声。

 

 しかしその顔は、すぐにしわくちゃになり、眉尻が盛大に下がり、大量の涙と鼻水と涎で塗れるという、何とも情けない顔になってしまう。

 

「父さん…、僕は…、綾波と一緒に…、生きたいよ…」

 

 絞り出すように、縋り付くように、嗚咽に塗れた途切れ途切れの声で、シンジはその言葉を父親に向けて吐いた。

 

 

 

 ゲンドウの両手が、シンジが着るシャツをさらに引き上げる。浮力にも助けられ、シンジの体が海の中でふわりと浮いた。

「立てるか?」

「あ…、うん…」

 シンジはしゃくりあげた声で返事をしながら、2本の足の裏を海の底に付ける。

「顔を洗え」

「あ…、うん…」

 シンジは父親の言われるがままに、両手で掬った海水で顔を洗った。その間、ゲンドウは乱れてしまった息子のシャツを整えてやる。

 

「シンジ…」

「うん…」

 まだ嗚咽が完全に収まり切らない様子のシンジは顔を伏せたまま、ひきつけを起したように肩を揺らしながら返事をする。

「レイが、好きか?」

「うん…」

「レイと一緒に、生きたいか?」

「うん…」

「レイのことは、聞いているな」

 シンジは鼻水が垂れそうになった鼻を右手で拭いながら、こくりと頷く。

「シンジ…」

 ゲンドウの右手が、シンジの左肩に乗せられた。

「レイのことを…、頼む…」

 

 シンジは伏せていた目を上げる。 

「父さん…」

 見たことのない、穏やかな表情の父親の顔が、そこにはあった。

 

「でも…、僕は…」

「シンジ」

 この期に及んで逆説の接続詞から入ろうとする息子の声を、ゲンドウは遮る。

「子が親の罪を被るようなことはあってはならない。しかし、親が子の罪を負うのは監督者として当ぜ……」

 ゲンドウは口を噤み、自分の言葉を途中で自ら遮った。

「すまん」

 ゲンドウは首を横に振る。

「俺は昔から口下手なのだ…」

 そしてゲンドウの左手も、シンジの右肩へと乗せられた。

 

 ゲンドウは一度鼻から大きく息を吸い込んで。

 

 

「最後くらい、父親らしいことをさせろ」

 

 

 息子の両肩に乗せた手を引き寄せ、息子の華奢な体を抱き締める。

 

 

 

 何が起こっているのか分からなかった。

 現状把握が追い付かず、ひたすら混乱した。

 

 自分が。

 碇シンジが。

 自分の父親に。

 碇ゲンドウに抱き締められている。

 

「父さん…」

 

 そう呟いて、シンジはようやくこの行為が、きっと今この瞬間にも、世界中の至る所で繰り広げられているごく有り触れた行為であったことを思い出す。

 

「父さん…」

 

 やがて息子の両手もゆっくりと遠慮がちに、父親の背中へと回された。

 

「父さん…!」

 

 父親の広い背中を感じながら、息子は父親の腕の中で泣いた。

 2つの黒曜石のような瞳から大粒の涙を零しながら、声に出して泣いていた。

 

「すまなかったな…、シンジ」

 頭上から降ってくるその言葉に、父親の腕の中のシンジは激しく頭を振る。

「僕こそ…、ごめ…」

「言うな…」

 息子が口走り掛けたその言葉を封じ込めるように、息子を抱く父親の腕に力が籠った。

「我が子にあのような言葉を吐かせたのは、私の一生の不覚だ…」

 

 息子を抱き締める父親の腕。

 息子の頭を撫でる、いつも身に着けていた白い手袋を脱いだ手。

 古い火傷の痕があったその手のひらに、十字状の溝が生まれていた。

 

 

 

「ごめん…」

 結局のところ謝罪の言葉を吐くシンジの視線の先にあるのは、ゲンドウが着る黒のジャケット。その胸元辺りが、シンジが流した涙と涎と鼻水で汚れている。ゲンドウは右手で掬い上げた海水で、ジャケットに付いた汚れを洗い落とす。

 やや神経質気味に汚れを落としたゲンドウは、ふとシンジの姿を見た。

 腰から上を海面から出したシンジ。黒の学生用ズボンに、黒の袖なしランニングシャツ。

 何を思ったか、ゲンドウはようやく汚れが落ちたジャケットを脱ぎ始めた。海水をふんだんに吸った袖から苦労して腕を引っこ抜いだジャケットを、一度上下に力強く振りさばいて皺を伸ばす。

 そしてそのジャケットを、そのままシンジの背中に羽織らせた。

「父さん…」

 シンジは羽織らされた海水を吸ってずっしりと重いジャケットに戸惑いつつも、その袖に腕を通し始める。大柄な父親のジャケットは成長期に入り始めの子供には明らかに大き過ぎで、袖を何度もたくし上げてようやく袖の口からシンジの手が出てきた。

 一方、息子にジャケットを譲り渡したゲンドウは、赤のタートルネックシャツという、青い海の上では余計に映える出で立ちとなっている。父親がジャケットを脱いだ姿を初めて見たシンジは、黒のジャケットの下に隠れていたやや自己主張強めなシャツの色に思わず笑ってしまった。

「これはユイの趣味だ…」

 そう言い訳するゲンドウの表情が可笑しくて、シンジはまたもや笑ってしまう。

 

 

「行け…、シンジ」

 ゲンドウのその促しに、シンジは力強く頷いた。

 そして水平線へと。彼の帰りを待っている世界へ繋がる出口へと、踵を返そうとして。

 振り向き掛けた体を、今一度父親へと向ける。

「父さん…」

 ゲンドウは息子の門出を、落ち着いた表情で見送ろうとしている。

「父さんは、これでよかったの?」

 その問い掛けに、ゲンドウは静かに目を閉じ、柔らかく頷いた。

「ああ。随分と遠回りをしてしまったが、28年掛けて、ようやく私の願いはユイの願いと重なったよ」

「父さんは…」

 穏やかな表情のゲンドウに、シンジは問い掛ける。

「父さんは今、何を願っているの?」

 父親は掛けていた色付きの丸渕メガネを外し、瞼を開けると、柔らかな眼差しで息子を見つめた。

 

 

「子供たちが笑って暮らせる、明るい未来だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 両腕で海面を掻く。両足で海面を蹴る。

 全身を使って、海を泳ぐ。

 水平線に向かって。

 彼を待つ、世界に向かって。

 

 波の立つ海を泳ぐのに、父親が与えてくれたブカブカのジャケットは正直なところ邪魔だった。

 でも脱ぐ気にはならない。

 この体は、父親の想いを背負って、泳いで。進んでいるのだから。

 

 ふと、後ろを振り返ってみた。

 随分と遠くなってしまった浜辺。

 みんなと。

 仲間たちと語り合った砂浜。

 その波打ち際から沖に向かって10歩ほど進んだ場所で、彼の父親が海に膝までを浸からせながら立っている。

 立って、こちらを見ている。

 息子の旅立ちを、見守ってくれている。

 

 シンジは手を振った。

 いってきます、と心の中で叫びながら手を振った。

 

 波間に見える、彼の父親。

 その父親もまた、少々躊躇いがちではあるが、右手を上げてぎこちない動作で手を振り返してくれた。

 

 

 再び水平線に向かって泳ぎ始める。

 水を掻いて、水を蹴って、前へ。新しい世界へ。未来へと進む。

 

 未来へ進むためには、時折過去を振り返ることも必要だ。

 だからシンジは再び泳ぎを止め、後ろを振り返った。

 

 沖に進むにつれ、高くなっていく波。

 右から左から打ち寄せる波のうねりに遮られ、もはや海岸は見えない。

 

 その波の隙間から、ほんの微かに赤のタートルネック。

 父親の姿が垣間見えた。

 

 向こう側からはこちらが見えているだろうか。

 もう一度、手を振ってみる。

 父親は、手を振り返さなかった。

 もう波間に漂う自分の姿は、波打ち際近くの父親の位置からは見えていないのかも知れない。

 

 

 いや。

 違う。

 

 

 父親は見ていない。

 こちらを見ていない。

 沖の方に、その顔を向けていない。

 父親の目は、沖を泳ぐ息子以外のものを見ている。

 

 父親は、彼のすぐ側を。

 彼の右隣に顔を向けていた。

 

 

 海面が大きくうねる。

 波が邪魔をして、父親の姿が見えなくなる。

 

 大きな波のうねりが去る。

 波の隙間から現れる、遠くの父親の姿。

 

 

 

 シンジは見たような気がした。

 

 

 

 彼の父親が見ているものを。

 

 

 

 父親の側に立っている存在を。

 

 

 

 彼の父親が、心奪われているものを。

 

 

 

 父親のすぐ隣に立つ女性の姿を、シンジの瞳は確かに見たような気がした。

 

 シンジが愛する少女と、よく似た雰囲気を持つ女性を。

 

 

 

 その女性を見ている父親。

 

 遠くからでも見て分かるくらいに、びっくりしている様子の父親。

 

 目の前に在る存在を信じられないとばかりに肩を強張らせ、半歩だけ後ずさってしまっている父親の姿。

 

 その父親が半歩だけ目の前に在る存在に近付き。

 

 その右腕がひどくぎこちない動作で上がり。

 

 その右手がひどくぎこちない動作で女性へと向けられ。

 

 あと少しで、目の前に在る女性の頬に触れそうになって。

 

 

 再びシンジの前を、大きな波のうねりが通り過ぎていく。

 

 波のうねりに遮られ、父親も、女性の姿も見えなくなる。

 

 大きな波のうねりが去る。

 

 シンジは、浜辺の方を凝視した。

 

 泳ぎを止めている間にも、シンジの体は離岸流によって沖へ沖へと運ばれていく。

 離れた分、シンジと浜辺との間に立つ波の数も多くなる。

 

 シンジは、父親の最後の姿を見届けようと、必死に目を凝らした。

 

 そして波間に微かに見えた、赤のタートルネック。

 

 もはや点にしか見えない父親の姿。

 

 

 あまりにも遠くてはっきりと見えないが。

 

 

 シンジの目には、父親が隣に立つ女性を抱き締めているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 海辺で抱き締め合う男女。

 

 最高のハッピーエンドを目撃したかのように、その2人の姿に心を奪われていたシンジ。

 

 不意に、ブカブカの袖を誰かに引っ張られ、たちまちその体は海の中へと引き摺り込まれてしまう。

 あまりに急なことで、シンジの口からは盛大に息が漏れ、海の中に無数の気泡が溢れた。

 

 

 その大量の気泡の中で。

 海の上の空から差し込む陽射しの中で。

 

 

 シンジは見た。

 

 

 目の前に広がる、この海と同じ明るい青に染まった髪を。

 

 

 父親のあんなに怒った顔を見たのが初めてだったら、彼女がこんなに怒った表情を見たのも初めてかも知れない。

 

 

 無数の気泡と光の筋の中で。

 

 彼女が。

 

 綾波レイが眉間に深い皺を寄せ、両目の端を吊り上げ。

 

 それでいて、眉尻は下がり、口は激しく戦慄き。

 

 

 間違いなく怒っているが、同時に今にも泣いてしまいそうな顔で、シンジの顔を見ていた。

 

 レイはシンジを海中に引きずり込むために掴んだ袖を離すと、両手で拳を作り、それでシンジの胸をポカポカと殴り始めた。

 何かを殴るにはあまりにも細い腕。加えて今は海の中である。水の抵抗に遮られて威力をほぼほぼ削除されたレイの殴打はシンジの胸に僅かばかりのダメージも与えられないが、それでもレイはシンジの胸をポカポカと殴り続ける。

 そして戦慄く口を激しく開閉させた。口が開く度に、レイの口からも大量の気泡が溢れ出す。

 レイが、何かを喚いている。

 口を激しく開閉させて、何かを叫んでいるが、海の中ではその必死の叫びもシンジの耳には届かない。

 それでもシンジは、レイが何を叫んでいるのか理解できた。

 何せ、あのマンションで同居していた緋色髪の少女から、毎日挨拶代わりのように散々言われてきたことだから。

 

 

 

  バカ!

 

  バカ!

 

 

 

 綾波レイの口は、その2文字を懸命に繰り返していた。普段の彼女の口からは決して出ることはないその2文字を、彼女は繰り返し叫んでいた。

 

 レイが何に怒っているのかも、シンジは理解できた。

 そしてその怒りに対して、自分には弁解の余地がないことも。

 

 だから、シンジが彼女に対して言えることは一つだ。

 

 

 

  ごめん。

 

 

 

 彼女の憤りに対して言える言葉は、たったの3文字しかなかった。

 だから、シンジは口を懸命に開閉させて、その3文字を彼女に届けようとした。

 しかし口から発せられた声はブクブクと意味を成さない音に変わり、全ては泡となって海の中へと消えていく。

 海の中では、その3文字すらも相手には届かない。

 せめて口の形でも見て貰えていれば届いたかも知れないが、いつもの冷静さを欠いた綾波レイの取り乱しようは酷く、彼女の口から溢れる気泡が視界を塞ぎ、そしてこれまで内に秘めた激情を全てをこの瞬間に爆発させる勢いで、小さな両拳はシンジの胸を相変わらずポカポカと殴り続けていた。

 

 

 どうしたら彼女にこの心は伝わるだろう。 

 

 どうしたら僕の想いは届くだろう。

 

 

 ポカポカと彼の薄い胸を殴り続ける細腕。

 その細い左手首を、彼の右手が掴んだ。

 それでも彼女は、残った右拳で彼の胸を殴り続けるが、その右腕も、彼の左手に拘束される。

 

 両手を封じられた彼女は、それでもなお両肘をばたつかせ、拳を強引に目の前の彼の胸に打ち込もうとしている。

 

 2人の口から。彼が着ている父親から譲り受けたブカブカのジャケットの中から大量の気泡が発生し、2人を包み込む。

 

 

 気泡だらけの世界。

 

 

 気泡に視界全てを封じられ、目の前の彼の姿が見えなくなる。

 途端に不安が込み上げてきた彼女の動きが、ぴたりと止まった。

 

 その気泡の中から唐突に現れたのは、彼の顔。

 突然前に出てきた彼の顔にびっくりして、硬直してしまう彼女の体。

 

 

 その瞬間を見逃さなかった彼。

 

 ぽかんと半開きになっていた彼女の無防備な唇に、強引に重ねられる彼の唇。

 

 

 無理やり前に突き出された彼の唇に押されるように、後屈してしまう彼女の首。

 

 唇を襲った衝撃にまん丸に広がる彼女の二つの目。

 

 海中に蝶の羽根のように広がる豊富な髪が後屈した持ち主の頭部に引っ張られ、彼女の顔を包み隠してしまう。

 

 しかし彼女の顔はすぐに髪の隙間から現れることになる。

 

 何故なら、彼女もまた彼の顔を押し返すように、彼女の唇を前に突き出したから。

 

 

 2人が同時に顔を前へ前へと突き出すものだから、2人の顔の唯一の接触点である唇が酷く歪む。

 それでもなお2人は相手に負けまいと強引に顔を前に出すため、今度は鼻同士が潰れ、頬同士がひん曲がった。

 2人の力は拮抗し、2人の顔はそれ以上前には出られなくなる始末。

 

 彼は顔の代わりに、彼女の腕を握っていた手を、彼女の背中へと回した。父親のそれに比べれば遥かに狭く、あっさりとその腕の中に収まってしまう小さな背中。回した手でその背中を引き寄せた。

 彼の薄い胸板で、彼女の慎ましく膨らんだ胸が潰れる。

 背骨が軋むほどの、激しい抱擁。

 抱き寄せる彼の腕と、押し付けられる彼の体の形に合わせて、彼女の形も歪んでいく。

 

 すると負けじと自由になった彼女の両手が彼の頭部へと回された。

 彼の黒髪を掻き毟るように突き立てられた10本の指。

 頭蓋骨を砕き割るかの如く頭部を束縛する2本の腕。

 抱き寄せる彼の顔に、自身の顔を押し付ける。

 

 

 言葉を交わせないこの場所で、それが唯一のコミュニケーション方法であるかのように。

 自身の想いを相手に伝えるために。

 より強く、想いをぶつけるために。

 お互いに相手の想いを上回ろうと全身を強張らせながら、互いの体をぶつけあう2人。

 

 衝突と反発を繰り返していた2人の体は、まるで手足を通して互いの想いが互いの体に滲み渡っていくように、深く絡み合うようになる。

 2人の口の周りから激しく漏れ出ていた気泡は消え失せ。

 気泡の代わりに、2人の4つの目尻からは溢れ出た涙が宝石の粒のように輝きながら、光りの差す海面へと染まっていき。

 これまでの激しいやり取りが嘘のように、全身で感じる彼の、彼女の温もりに。唇で感じる彼の、彼女の想いに、2人は静かに身を委ねる。

 

 

 海の中を漂う2人。

 ゆっくりと回転しながら海の中を揺蕩う2人。

 彼女の豊富な髪によって包み込まれる2人。

 深く絡み合いながら、海の底へと静かに沈降していく2人。

 

 2人が沈んでいく先。

 海の底からは、まるで沈んでくる2人を温かく迎え入れるかのように幻想的に輝く淡い光が広がっていくが、2人は光の存在すらも気付かないまま、互いの存在を唇を通してひたすら貪り合っている。

 やがて淡い光は広げられた翼のように、2人を優しく包み込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * * * *

 

 

 

 

 波の音が聴こえた。

 海辺に打ち寄せる、柔らかな波の音が。

 

 風の匂いがした。

 海から吹く、湿り気を帯びた風の匂いが。

 

 体の前面で感じるのは光。

 空から降り注ぐ、太陽の光。

 

 体の後面で感じるのは大地の存在。

 多少の身じろぎでは小動もしない、この星の存在。

 

 

 

 

 空を見つめていた。

 青い空を。

 地面に仰向けになって。

 おそらく後頭部に感じる感触から砂地だろう。

 砂浜に横になって、空を見上げていた。

 

 

 

 いつからこうしていたのだろう。

 ここでこうし始めてから、どれくらいの時間が過ぎているのだろう。

 

 いつからここにて、そしてここが何処なのかも分からないまま、ぼんやりと空を見上げている。

 

 

 いつからここにいるのか。

 そしてここが何処なのか。

 

 そんなことはどうでもよいのだ。

 些細なことなのだ。

 

 

 そんなことよりも今、大切なこと。

 空よりも海よりも大地よりも地球よりも今、重要なこと。

 

 それは自分の左手が感じているもの。

 左手が握っているもの。

 

 繋いでは離し、離しては繋いでを繰り返してきたもの。

 

 改めて左手の全ての指を、相手の指に絡めてみた。

 すると、向こう側からも、全ての指をこちらの指の隙間に絡めてくる。

 

 左手のその感触に、シンジは空を見上げながら、ふふ、と幸せそうに笑った。

 

 そして空に向けていた2つの瞳を、左の方へと移動させる。

 瞳が目の端っこまで移動したら、今度は空へ向けていた顔を左の方へと傾ける。

 

 視界の隅から少しずつ入ってくるのは、今見上げていた空と同じ色の髪。

 そして空にぽつぽつと浮いていた雲と同じ色の肌。

 そして地上を温かく照らす太陽のような瞳。

 

 顔を横に向けて。

 彼女の顔を、その視界の中央に収めて。

 

 彼女が、2つの瞳でじっとこちらを見ていたので、ちょっとだけびっくりしてしまう。

 

 

 白い砂浜に広げた空色の髪をベッド代わりに横になっている彼女。

 彼が貸した白のワイシャツだけを身に纏い、体を隣の彼に向けて傾けている彼女。

 ぱっちり開いたその双眸。長い睫毛に縁取られた目に収まる真紅の瞳は、まっすぐに隣の彼の方へと向けられている。

 

 

 自分が空をぼけーっと見上げていた時からずっと見られていたのかな、と思うとちょっとだけ恥ずかしくなるが、それも今はどうでもよいことだ。

 

 今重要なこと。

 何よりも大切なこと。

 

 今、自分の隣に、彼女が居ること。

 

 この左手が、彼女の右手を握っていること。

 

 

 紅い瞳が、じーっとこちらを見ている。

 瞬き一つせずに見つめてくる。

 

 陽射しを浴びてキラキラと光る瞳。

 濁りのないどこまでも透き通った瞳。

 見つめるものを、たちまち虜にしてしまうような瞳。

 

 空も海も大地もこの星のことも。

 全てをどーでもよくしてしまう。

 

 この世界で一番罪深い瞳。

 

 その瞳についつい吸い寄せらてしまうのは、仕方のないこと。

 自然と彼の顔が前へと移動してしまうのは、仕方のないこと。

 彼の唇がうー、と隆起し始めてしまうのは、仕方のないこと。

 

 視線は彼女の瞳に釘付けになったまま。

 意識の全ては彼女の唇に集中したまま。

 

 彼の唇が彼女の唇と接触を果たすまで、あと5センチメートルまで迫った時。

 

 ここまで一度も瞬きをしなかった彼女の目。

 その瞼がぱたりと閉じ。

 そして次にその瞼がぱっちりと開いた時に現れた赤い瞳は、彼ではなく空の方へと向けられていた。

 

「え?」

 

 彼女の瞳に引っ張られるように、彼の瞳もまた空へと向けられる。

 

 

 青い空。

 ポツポツと浮かぶ、白い雲。

 真っ赤な太陽。

 3つの色だけで占められていたそのキャンバスに、1つの染みが落ちている。

 

 その染みは青いキャンバスの上を優雅に舞っている。

 時折、2枚の翼を上下に大きくはためかせて。

 

「鳥だ…」

 

 そう呟いた彼は、空をひらひらと舞っている白い鳥に引っ張られように砂浜から体を起こした。

 

 鳥は、地上の彼らの頭上を大きく旋回しながら飛んでいる。

 

 ずっと鳥を見上げていたら首が疲れてきたので、後屈させていた首を前に戻し、視線を落とした。

 自然と視界に入るのは、砂浜の向こうに広がる青い海。

 

 

 白い砂浜。

 青い海。

 青い空。

 

 それは、彼らが彼らの仲間たちと共にひと時の語らいの場として過ごした場所と同じ。

 彼が彼の父親のもとから巣立った場所と同じ。

 それでいて、決定的に違う。

 

 白い砂浜。

 青い海。

 青い空。

 その3つだけで構成されていたあの場所。

 

 しかし、今見える空には真っ赤な太陽がぎらついている。

 ぽつぽつと白い雲が漂っている。

 海から吹く風には磯の香りが混じっている。

 海面では時折水飛沫を立てながら魚が飛び跳ねている。

 そして頭上の青い空では鳥が舞っている。

 

 彼は海を見つめたまま砂浜から腰を上げた。

 その左手に、彼女の右手を繋いだまま。

 そして2本の足で地面を踏みしめて。

 この星に立つ。

 

 

「戻って…、これたんだ…」

 

 

 虚構の世界ではない。

 

 現実の世界に。

 

 生きてゆくための場所に。

 

 

 目を閉じる。

 2つの鼻の孔から、深く空気を吸い込む。

 鼻腔に感じる、海の匂い。

 彼は、その匂いの正体を知っている。

 この母なる海で生き、そして死んでいったあらゆる生命の骸の匂い。

 すなわち、生命に満ち溢れたこの惑星の匂いそのもの。

 

 鼻から吸い込んだこの星の息吹を、今度は口からゆっくりと吐き出していたら、ふと、着ていたジャケット。父親から譲られた黒のジャケットの右側が微妙に重たいことに気付いた。

 ジャケットの右ポケットに手を突っ込む。

 右ポケットの中に、何かが入っている。

 その何かを取り出してみた彼。

 その口許が、小さく笑った。

 

「父さん…」

 

 彼の右手にあるのは、黒の筐体。携帯型の音楽プレイヤー。

 あちこちがベコベコに傷ついたプレイヤー。

 父から譲られ。

 ゴミ箱の中に投げ入れ。

 「彼女」の手から返され。

 そして自らの手で父の手に返し。

 そして今、自分の手の中にある。

 

 視線を上げ、水平線を見つめる。

 

 

「さよなら…、父さん…」

 

 

 彼のその言葉に重なるように、頭上の海鳥が高い声で鳴いた。

 

 

 

 足もとで横になっている彼女を見下ろす。

 空色のふわふわの豊富な髪に包まれた、白いワイシャツと白い素足の彼女。白い砂地を背景に横たわる彼女。

 まるで地球という卵から生まれたばかりの天使のようだ、などとメルヘンチックなことを思いつつ、いつまでもこうして見ていたいという誘惑に打ち勝ちながら、彼は彼女に声を掛ける。

「立てるかい?」

 彼の声掛けに、彼女は細い身をいかにも重たそうに動かしながら上半身を起こした。そして右膝を立て、左手を地面に付いて腰を浮かそうとしたが、小ぶりなお尻はすぐに砂地へと引き戻されてしまう。

 14年ぶりに形作られた肉体。動かすことに、まだ慣れないらしい。

  

 そんな彼女の様子を見ていた彼は、心の中で密かにほくそ笑んでしまう。

 彼女の側に跪いた彼は、虚構の世界の海辺でやった時と同じように、右手は彼女の膝下に潜り込ませ、そして左手は彼女の背中へと回し、その体をひょいっと抱え上げた。

「ははっ」

 暫くは彼女をお姫様抱っこできる理由に欠きそうにないことに、ついつい喜びを感じてしまう不届きな彼は思わず笑いながら膝を伸ばして立ち上がった。

「こっちの世界でもやっぱり君は軽いや」

 お姫様抱っこされてちょっとだけ恥ずかしそうに頬を赤らめている彼女の顔を満足げに見て、そして空を見上げる。

「まるで鳥みたいだ」

 彼らの頭上では、白い海鳥が空に大きな輪を描きながら飛んでいる。

 

 砂地に2人分の重みを乗せながら、波打ち際まで足を運ぶ。

 彼が履く白いスニーカーに、波が弾く水飛沫が被る。

 

 

 太陽の陽射しを受けてキラキラと光る海。

 その両腕に彼女の存在全てを感じながら、煌めく海を見つめていたら。

 

 ふと視線を感じ、水平線に向けていた瞳を腕の中の彼女の顔へと向けた。

 感じた視線。

 腕の中の彼女の瞳から注がれる視線と、彼の瞳から注がれる視線とが重なる。

 

 彼女は、彼の顔を見つめながら小さな口をパクパクと開閉させていた。

 何かを。何かしらの言葉を、彼に伝えたがっているらしい。

 しかし彼女の口からは途切れ途切れの唸り声が漏れるだけで、言葉が形となって出てこない。

 14年ぶりに形作られた肉体。声帯も、まだまともに機能していないらしい。

 

 懸命に何かを伝えようとして、懸命に口をパクパクさせていたものだから、ちょっと酸欠状態になってしまったらしい。

 彼女は一度口を閉じるとぎゅっと目を瞑り、鼻で大きく息を吸って酸素濃度が下がってしまった肺の中に、海の香りを含んだ新鮮な空気を取り込んでいる。男物のワイシャツに包まれた彼女の胸が、上下に浮き沈みを繰り返している。

 

 上下に動く彼女の胸。今更ながらに彼女の体を包んでいるのが自分が着ていたワイシャツ一枚だけということを思い出した彼の動悸が急速に乱れ始める中、目を開いた彼女はもう一度口を開いてみるが、やはり薄桃色の唇に囲まれたその穴からは、意味のある言葉は出てこない。まるで初心者が奏でるヴァイオリンのように、歪んだ音を鳴らすだけ。

 

 伝えたいことがあるのに伝わらない。彼女の顔が、もどかしそうに、悲し気に歪む。

 それでも彼女はすぐに顔に広がりつつあった悲しみの色を追い出し、そしてどうにかこの気持ちを伝えようとして、何かよい手段はないかと方々を見渡して。

 

 そんな彼女を、彼は黙って見守っている。

 視線を右往左往とさせている彼女の姿を、微笑んで見守っている。

 

 そして何か思い付いたらしい彼女は、胸元に畳んでいた腕を伸ばし。

 その白い手を彼の方へと伸ばし。

 細やかな人差し指を伸ばし。

 

 その指の先が辿り着いたのは、彼の胸元。

 

 彼女の指が、彼が羽織るジャケットの隙間に入り込み、シャツ越しの彼の薄い胸の上を這い始める。

 

「うひゃっ」

 

 突然彼女の指で胸を触れられ、驚いた彼は変な声を上げてしまった。

 そんな彼の反応に、彼女は咄嗟に彼の胸から指を離してしまう。

「あ、いいんだ。続けて続けて」

 彼がそう言うので、彼女は再び伸ばした人差し指で彼の胸に触れた。

 

 彼女の人差し指は彼の胸に押し当てられたまま、右に向かって大きく動いた。

 彼の胸の上に描かれる、一本の横線。

 一度彼女の指は彼から離れ、そして今度はその横線に重なるように、彼の胸の上に縦の線が引かれる。

 そして今度はその縦の線の下の部分に重なるように描かれる、大きく乱れた円。

 

 胸の上を這う彼女の人差し指。こそばゆさとそこはかとないエロティックさに身を捩らせながら、その指の動きに集中していた彼。

「えっと…、もしかして…」

 彼女の顔を見つめる。

 

「あ?」

 

 彼の極めて短いその一言を肯定するべく、彼女は何度も首を縦に振る。

 自分の伝えたいことが伝わらないもどかしさ。

 そして伝えたいことが伝わった時の嬉しさ。

 もしかしたら生まれて初めて感じたかもしれないその気持ちを目一杯に表すかのように、やや興奮気味に頷く彼女。

 

 そして彼の胸の上を這う、彼女の細い指。

 彼女の指は、彼の胸の上に2本の縦線を描いた。

 

「り?」

 

 彼の極めて短いその一言に、彼女は何度も首を縦に振る。

 

 彼女の白く細い指は彼の胸の上を這い続ける。

 

「が?」

 

 

「と?」

 

 

「う? ……ありがとう?」

 

 

 何度も首を縦に振る彼女。

 

 そして彼女の指はさらにもう2文字追加した。

 

 

「う」

 

 

「み」

 

 

 その7文字を伝えるためだけに、全ての力を使い果たした様子の彼女。

 彼の腕の中で、ぐったりとしてしまっている。

 

 そんな彼女を、彼は少しだけ潤んだ瞳で愛おし気に見つめている。

「思い出してくれたんだね…。25年目の約束…」

 彼のその言葉に、彼の腕の中の彼女は小さく微笑みながら、控えめに頷いた。

 彼もまた微笑みながら、視線を彼女から外し、上へと向ける。

 

 彼の瞳が見つめるのは青い海。

 彼がこの世界で初めて目にする、ありのままの青い海。

 

 

「あ…」

 彼と同じように、青い海を見つめていた彼女。

 上から降ってきたその短い声を受けて、視線をすぐ側の彼の顔へと向ける。

 

「そう言えば、もう一つ、大切な約束、あったよね?」

 

 彼もまた青い海から視線を離し、腕の中の彼女を見つめる。

 少しだけ照れ臭そうに頬を赤らめながら。

 

「君を僕のお嫁さんにするって、さ」

 

 そう告げると、腕の中の彼女はぱっちりとその目を開いた。

 

「赤い指輪を持って、君を迎えに行くって、さ」

 

 豊富な空色の髪の隙間に見え隠れする頬、額からさらには首筋に掛けて、白い肌に赤身が帯びていくのが彼の目からもはっきりと見えた。

「いや~、それにしてもさぁ…」

 そんな彼女の表情が面映ゆくて、彼は視線を海へと戻してしまう。

「いくら何でも先走り過ぎだよね。当時の僕って」

 もちろん、後悔なんてない。当時の自分の無邪気な言動について後悔なんてこれっぽっちもないのだが。

「ガラス越しだったとは言えさ。ファーストキスもしちゃうしプロポーズまで済ませちゃうし。そんな大事なイベントごとは将来の僕の為に残しておいてほしかったよ」

 ちょっとばかし、良いところを全部持っていってしまった幼い頃の自分が妬ましい。

 

「お嫁さん…、か…」

 

 もう一度口に出してみて。

 ふと、あることを思い出した。

 

「そう言えばさ。君のこと、色々と聞かされたんだ。冬月副司令から」

 

 彼の視線は水平線に向けられたまま。

 それでも感じた。

 腕の中の彼女の体が、少しだけ強張ったことに。

 そんな彼女の体に走る微かな緊張を無視して、彼は続ける。

「あの時はひたすら混乱してて…。君を救えてなかったことに打ちのめされてて…。正直副司令が言ってたこともあんまり頭の中に入ってこなかったんだけどさ」

 当時の自分の心境を思い出して彼の体も少しだけ強張ったが、両腕に感じている彼女の存在はいとも簡単に当時の恐怖を拭い去ってくれて、小さな吐息と共にその強張りもすぐに消えいく。

「今改めて考えてみると…」

 白髪の男性から伝えられたことを思い起こしながら、視線を腕の中の彼女へと向ける。その体と同じように、少しだけ強張っている彼女の表情。

 そんな彼女に、彼は言った。

 

「君って凄いんだね…」

 

 その彼の一言に、強張っていた彼女の顔がきょとんと緩くなる。

「いや、だってさ」

 彼の視線は再び水平線へ。

「君は僕のお母さん? ってことになるんだし…」

 そう言って、彼は少しだけ首を捻る。

「いや、妹? 姉? ってことでもいいのかな? もしくは従姉妹とか親戚とかでもいいかも知れないね」

 捻っていた首を元に戻す。

「それに同じ学校の同級生だし友達だし、エヴァンゲリオンのパイロット仲間だし同僚だし戦友だし命の恩人だし…」

 熱っぽく語る、彼の口。

「僕を導いてくれた人だし、僕のことをずっと護ってくれた人だし…」

 やがてしどろもどろになる彼の口。

「初めてビンタされた女の子だし…、は、初めてそ、その…、裸を見た女の子だし…。そそそ、それにはは、初めておおおお、おっぱい触っちゃった異性だし…」

 そして彼の両頬に、赤みが差す。

「恋人にしたい人だし、愛しい人だし、大好きな人だし、ずっとずっと一緒に居たい人だし…、……そして」

 恥ずかしそうに笑いながら、彼女の顔を見た。

 

「僕の将来のお嫁さん…」

 

 相変わらずきょとん顔の彼女の顔を見つめながら、彼は続ける。

 

 

「僕の人生に、女性は君一人だけ居れば事足りるってことだね…」

 

 

 途中変なことを口走ってしまったものの、彼は、彼なりに最高の決め台詞を言ったつもりだった。

 やや冗長気味ではあるものの、彼なりの愛の歌を紡いだつもりだった。

 それなのに腕の中の彼女は愛らしい目をぱちくりさせながら、相変わらずのきょとん顔。

 そんな彼女の反応に、彼はついつい苦笑いしてしまう。

 どうやら自分は父親に似て口下手らしい。

 

「えっと…、分からないかな? つまりは…ね」

 

 父親に倣って、率直な言葉を選ぶことにした。

 

 

 

 

「君は僕の全て…、ってことさ…」 

 

 

 

 

 彼女の視線が落ち着かない。

 彼の顔を見て。

 そして彼女の胸元に組んだ彼女自身の手を見て。

 その間を何度もうろうろと行き来している彼女の視線。

 

「君は…?」

 

 彼から掛けられた声に、ようやく彼女の視線は彼の顔に定まった。 

 それでも空色の睫毛は震え、その睫毛に縁取られた目の中に収まる赤い瞳は小刻みに揺れ動いている。

 

「君はどう…?」

 

 その問い掛けの意味をすぐに理解できず、彼女の顔に広がる戸惑いの色。

 彼はそんな彼女の顔から戸惑いの表情を洗い流すように、柔らかく微笑み掛けながら言う。

 

「僕にとっては今、目の前にいる人が全てなんだ。君は…、どうかな…?」

 

 その問い掛けに、再び彼女の視線が彼の顔と彼女の手との間をおろおろと彷徨うようになる。

 

 しかし彼女は戸惑いながらも、必死に彼の問いに対する答えを見つけようとしている。

 彼の真心に、誠意をもって答えようとしてくれている彼女の想いが、彼の目から見てもありありと伝わってくる。 

 

 

 わざわざ探す必要なんてない。

 答えなんてすぐに見つかる。

 あとはその答えを、彼に伝えるだけ。

 

 

 自分の想いを伝えようとして。

 彼の問いに答えようとして。

 そして口を開いて。

 

 

「…ぁ……、…ぅ……」

 

 

 しかし彼女の喉は意味のある言葉を鳴らさない。

 彼女の口は、愛の言葉を紡げない。

 

 自分の心の中の全てを占める想いをただ声に出せばいいだけなのに。

 心の中から溢れ出しそうになる想いを、その一滴でも絞り出せれば十分なのに。

 この喉は、その一滴すらも漏らすことを許してくれない。

 

 

 彼女は口を閉じてしまう。

 自分自身に酷く落胆したように。

 目も閉じてしまう。

 

 

 腕の中で、力なく項垂れてしまった彼女。

 彼は、自分の問いに懸命に答えようとしてくれた彼女のその態度だけでも満たされた気分になっていたが、これだけで満足してはいけないと自身の甘い心を律した。

 

 この世界で共に生きていこうと決めた相手。

 これからあらゆる時を、想いを共有していこうと決めた相手。

 愛の歌も、2人で紡いでこそ価値あるものだから。

 

 

 彼は自分の口を、豊富な髪の隙間から見え隠れする彼女の可愛らしい耳もとに近付ける。

 

「こう言ってくれたら、嬉しいな…」

 

 そして、彼女の耳に、2文字だけを囁いた。

 

 

 彼女の耳もとから顔を離す。

 

 彼女の答えを待つべく、彼女の顔を真っすぐに見つめた。

 

 彼女もまた、彼の顔をまっすぐに見つめる。

 

 

 その小さな鼻で、一度深呼吸をし。

 

 そして小さな口を少しだけ開いた。

 

 開いた口を、横に少しだけ引き延ばし。

 

 喉を鳴らし、唇の形を通して奏でられる彼女の声。

 

 

 

「…み…ぃ……」

 

 

 

 そして今度は開いた口を少しだけ前に突き出して。

 

 再び喉を鳴らし、唇の形を通して奏でられる、愛の歌。

 

 

 

「…と…ぅ……」

 

 

 

 

 彼女の唇。

 

 薄桃色の唇。

 

 

 

 その単語を呟くために、少しだけ前に突き出された唇。

 

 

 

 世界一短い愛の歌を結ぶために、無防備に隆起した唇。

 

 

 

 そんな世界一可愛らしい唇に向けて、彼もまた隆起させた自分の唇を前に出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第三部 終了  アフター・シン・エヴァンゲリオン編に続く?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 



第三部終了です。この後最終章となる第四部へと続く予定なんですが、この時点でそれなりにうまくLRSエンドに収まったような気もするので、余計なことせずにこのまま終わりにしてもいいかなとも思ってます(第三部が終わった時点で第四部を書き終えてるはずだったんですがじぇんじぇん書けてない…)。ですので一旦「完結」扱いとしますが、もし再開したらその時はまたお付き合いして頂ければ幸いです。
まずは、ここまで読んで頂きまして、本当にありがとうございました。



 
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