「いらっしゃいませユーノさま、本日はお迎えに行けず申し訳ありません」
「いえ、こちらこそ今日はお招きありがとうございますファリンさん」
とうとう来てしまった、お泊まり会。いや別に来て欲しくなかった訳では無い
というか、待ちに待ってたというか⋯⋯仕方ないじゃん、好きな人の家でお泊ま
り会何だから仕方ないじゃん。
「こんにちは、いらっしゃいユーノくん。今日は来てくれて本当に嬉しいわ」
「やぁすずか、僕こそお呼ばれされて嬉しいよ」
「そう? それならよかった」
二人っきりのお泊まり会⋯⋯と、言ってもやる事はいつも通りでゲームしたり、
本を読んでゆったりしたり、楽しくお茶会したりと普通の事だ。
♢
時刻は夜、僕はすずかの厚意で先にお風呂に入ってる。入りながら、色んな事を考えていた。すずかは何時もこの湯船に浸かっているんだよなぁとか、どうしてすずかはなのは達を呼ばなかったのかとか、そもそもとして月村邸にいるのがすずかを除けば使用人の方々だけってどういう事だよ僕男だよ?! とか⋯⋯それに
(こんな事してても結局僕とすずかの間柄友人、だしな⋯⋯⋯こないだの事だっ
て多分その言葉通りに捉えられたろうし、いやソレは別に思惑通りだからいいん
だけど⋯⋯)
まぁ、情けないよなぁ⋯⋯
そう零しながら僕は天井を仰いで、俯き、湯船に深く沈みぶくぶくと泡をふかせる。
(彼女の前でくらいカッコよく粋がってみろよ)
♢
(今日、変な所とか無かったかな? ユーノくん楽しんでくれてたかな?)
そうお風呂で考えてるのは私こと月村すずかです。というのも今日は記念すべきGWお泊まり会の初日、何事も初めが肝心。
そうでなくとも今家にいるのは使用人を除けば私とユーノくんだけ、だから殆どの時間を二人っきりで過ごす。コレは大変喜ばしい事である反面、少しでも気まづくなれば目も当てられない悲劇と早変わり。
(いつもならはやてちゃんやアリサちゃん辺りが上手く空気を変えてくれるけど⋯⋯今回ばっかりは私の完全な抜け駆け、頼る事は元より選択肢に無い。それでも攻めるしかない、私にとってはとても貴重過ぎる,二人っきりの時間"⋯⋯こんなチャンス次いつ来るかなんて本当に分からない、だから)
──覚悟を決めるのよ、月村すずか
そう己を鼓舞しながら、私はお風呂場から出てとある場所に向かう。
(いざ、ユーノくんが居るゲストルームへ!)
♢
僕は今この一週間寝泊まりする事になっているゲストルーム──の、テラスにいる。テラスにはお茶が出来る程度には大きさのあるテーブルと椅子があり、そこでゆったりとしている。
というのも長湯し過ぎたせいか少しのぼせてしまったので、夜風を浴びる次いでとしてドリンク片手に月見をしていた。
(すずかの事で色々と悩み過ぎたな、粋がってやるって言った矢先にこれじゃ
ちっとも格好つかないな)
まったくダメダメだな、僕は。
自分に少しイライラしながら、そのムカつきをジュースと一緒に流し込む。
(あーもう、好きな人の家に泊まってるんだから暗いこと考えるのはおしまい!
こんな所すずかにでも見られたら嫌われちゃうよ)
そう思っていたらゲストルームの出入口から、コンコンっとノックされる音が聞こえてくる。
「ユーノくん、まだ起きてる?」
「あ、うん起きてるよ今扉開けるね。どうしたのすずッ?!」
僕は返事をし、扉を開け、すずかをみて絶句した。何故ならば──
「その、まくらとブランケットどうしたの?」
恥ずかしげにけれどしっかりと枕を抱きかかえていたからだ。
僕の"考えてしまった事"なんて知らない、と言わんばかりにすずかは口を開けた。
「あぁ、ユーノくんとまだ話していたくてね? ここのテラスから見る夜空綺麗
だから一緒に見ながらお話しない?」
そう言ってすずかは僕の手を取ってテラスの方に足を進める。
「あれ? ユーノくんもう夜空見てたの?」
「え? あ、うん。ちょっとお風呂でのぼせちゃってね、それで給仕さん冷たい飲み物貰いながら夜風に浴びてたの」
「ふーん⋯ねぇ、私も一緒に居ていい?」
「え? まぁ良いけど」
「ふふ、良かった」
すずかは僕に了承を得ると、テーブルの向かいに座る。枕を背もたれにしてる所をみて、本来の用途のつもりで持ってきたのでは無かったんだなとホっとした。
そして、少し落ち着いてすずかを見てまた心臓が落ち着かなくなった。
乾ききっておらず水の反射で艶やかな髪の毛、お風呂上がりで少しだけ上気し
赤らんでる肌、普段見る事のない寝巻き。
(好きな女の子がこれだけの要素を持って会いに来たら男がどれだけ困る事か、
もし好きでなくともすずかは美少女だ。誰だってドキドキする)
そんな僕の心を見透かしたのか、すずかは微笑みながら話す。
「大丈夫だよ、ユーノくん以外の前じゃこんな未防備の所見せないよ」
「は、はぁ?! 何言ってるのすずか!」
「ん? 私の服装について何か言いたげだったから、違う?」
「ちが⋯わないけど、出来るなら僕の前でも控えて欲しいです」
「⋯⋯⋯なんで?」
「僕の心臓が持たない、君は少し自分が魅力的だと言う事を理解した方がいい。その内痛い目見ちゃうよ?」
「ユーノくんなら大歓迎なんだけどなぁ」
「そういう所!」
そう言った後僕は逃げるように夜空を見上げた。彼女も釣られて夜空を見上げる。しばし沈黙が訪れ、それを破ったのはやっぱり彼女だった。
「"月が、綺麗ですね"」
それを聞いて、さっきの事もあって、またからかわれてるんだと、そう思って文句言ってやろうって、思ったのが完全に墓穴であると⋯⋯
「すずか! きみはまたそうやって──」
振り向いた瞬間に気付かされた。
彼女は月なんて見てなかった。
彼女は夜空なんてものを見に来ていなかった。
彼女はずっと、ずっと──"僕を見ていた"。
緊張のせいか、顔は赤くなり、目は少し潤み、テーブルに置かれてる手は震えていた。
(馬鹿か僕は、惚れた女の子にここまでされてやっと気づくなんて⋯⋯大バカ野郎じゃないか)
全く持って恥ずかし過ぎる、謝れるものならば今すぐ土下座でもしたいものだ。
けれど違う、少なくとも今ここで言うべき言葉はそれじゃない。
「貴方となら、一緒に死ねる。大好きです、僕と、お付き合いしてくれませんか」
僕は震える彼女の手に自分の手を重ね、真っ直ぐと視線をまじ合わせて言った。
僕の言葉を聞いた彼女は、びっくりして目に溜め込んでいた涙を流した。
「本当に? 本当に私でいいの?」
「うん」
「う、う……私も好き! 大好き!」
そう言いながら彼女は僕の手を抱きながら泣き続けている。本当に緊張したのだろう、本気で告白してくれたのだろう、だからこんなにも本気で喜んでくれてるんだ。
そんな彼女を見て僕は、こんなにも思ってくれていたのに気づけず情けなく思う気持ちと、こんなにも本気で喜んでもらえて嬉しく思う気持ちで、実はかなり心がいっぱいいっぱいだった。
出来るのならこのまま彼女が気が済むまでしてあげたかったけど、夜も更けて寒さが無視できなくなって来ているのは見過ごせなかった。
「すずか、ごめんね」
「ぐずっえ? ヒャァァァ?!」
僕は彼女をお姫様抱っこしてテラスを後にし、ベッドに運ぶ。
「もう外は寒いからね、話しかけずらかったし無理やり運ばしてもらったよ。ごめんね」
「え、いやソレはいいんだけど⋯⋯その、なんでベッドに⋯⋯なんか、ユーノく
ん怖いなぁっていうか」
お姫様抱っこによってびっくりし過ぎて逆に冷静になったのか、しおらしく⋯そして何処か期待しがちにソワソワしている。
「すずかはお風呂上がり直ぐにきて体冷やしちゃっただろうしね、何より」
僕は彼女の手を引っ張って、腰に腕を回し密着して耳元で囁く。
「最初に期待してたのはすずかでしょ?」