エースストライクウィッチーズ 〜因果は交わり、新たなifへと〜   作:writer

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( 主)「久々に1万超えたな…」


懺悔、そして世界に…

 声が聞こえる。幾多の人間が苦しむ声…

 

『止めろ…』

 

 声は止まらない。苦しむ声は飢餓による物、暴力による物…様々だ。

 

『止めてくれ…』

 

 念じても止まらない。苦しむ声は大きくなり、自分に降り掛かった。

 

『俺も望んでなかった…なぜ俺は作られた…?』

 

 炎に包まれた。

ー熱い…熱い…あつい…アツイ…ー

ー苦しい…くるしい…クルシイ…ー

 

 炎から伸びる何万もの手が彼を掴み、そして…

 

「止めろ!」

 

 フェンリアは飛び起きた。

 彼は肩で息をしていた。寝間着とシーツは汗で濡れ、今までずっと起きていた感覚だった。

 昨日の戦闘の後、彼が来ていたアーマーは戦闘状態になると自然と身に纏う物のようで、着陸して安全装置を掛けると消えてしまった。

 細かい詮索は明日にして寝ようという事になった。

 確かに彼は寝た。時計を見ると朝の5時とまだ早いが、トータル6時間は寝ていた。

 だがフェンリアは寝た気がしない。あり得ないぐらいの疲労が彼を襲っていた。

 

「あの夢…やはり俺は作られるべきじゃなかったか…」

 

 何度も何度もフラッシュバックする、故郷レサス。その市民の声が頭から離れない。

 

「…クソっ!」

 

 フェンリアは頭を強く振ると、寝間着とシーツを引っ剥がして洗濯カゴに入れておく。

 汗を拭き、静かに着替えると廊下に出た。黒いトレンチコートに黒いズボン。フェンリアはそれが似合うと思っている。

 他はまだ寝てるのだろう。今日は昼から雨が降る予定だ。それまでにやらなくてはならない事がある。

 外に出ると、朝日がゆっくりと顔を出してきた。

 朝日を背に、フェンリアは廃棄されていた大量のレンガを運んだ。フェンリアの自室の下に位置する場所に、それを置いた。

 ついでに漆喰も持って来てある。

 

「さて、やるか…」

 

 極力音を立てないようにして、まずはレンガを階段状に積み上げる。漆喰を塗りながら積み上げ、風通しの良い所に放置する。

 そして次に縦50cm横100cm高さ40cmの壁を作る。前面に当たる所は開いたまま、コの字型で固めていった。

 簡単なように見えるが、レンガを出来るだけ水平にしなくてはならなかった為に時間がかかった。 

 コの字型の壁を作り終えると、その上に残った漆喰を塗って上に階段を乗せる。簡易的だが立派な物が出来た。

 フェンリアはその出来に満足し、小部屋の奥に御守を入れた。

 

「…花は後で持って来る…」

 

 そう言い残してフェンリアは中に入って行った。

 その様子を、3人の女性が執務室から見ていた。

 1人はミーナ、もう1人はバルクホルン。そして最後の1人は…

 

「あれがフェンリアと言う者か…」

 

 日本海軍の服装に身を纏った女性だ。鋭い眼光は、歴戦の猛者を思わせる。

 元501ストライクウィッチーズのメンバー。坂本美緒だ。

 

「えぇ…私達が苦戦してた所を助けてくれた人よ」

「ウォーロック12機を数分で全滅…ミサイルと未知の武装を持ってると聞いたが」

「あぁ。私が助けられた…命の恩人だ…でも…」

「そうだな…どこか死を望んてそうだ…」

 

 坂本の言葉で2人は口を噤む。昨夜バルクホルンが寝室に戻る直前に、ミーナと相談したのだ。『アイツは私と似ている。ちょっと気にかけた方がいいかも』と。

 深夜寝静まった頃に坂本が到着し、ミーナが全てを報告した。そして朝になった後、ミーナがバルクホルンを呼び出して今に至る。

 

「理由を聞けたらいいが…表には出さんだろうな…」

「なぜだ…なぜあんな奴が苦しまねばならんのだ…」

「バルクホルン…」

 

 バルクホルンが感情的になるのは珍しい事ではない。たがここまで他人を気にかけるのは、宮藤以来だ。

 かつての自分と彼を重ね合わせ、そしてそれよりも酷い事を感じ取ってるのだろう。

 

「落ち着けバルクホルン…今私達に出来る事は、仲良くなる事しかない」

「でも…!」

「焦らないでバルクホルン。下手に手出しできない問題よ…彼の闇は深いわ…」

「…分かった…」

「(ここまでバルクホルンが気に掛けるとはな…)」

 

 不承不承といった形で納得したバルクホルンに、顔には出さず坂本が面白そうな視線を向けていたのに気が付いたのは、彼女と長い間隣にいたミーナだけだった。

 

 

 

 

 

 起床のラッパはそれから1時間後に鳴り響いた。

 本来は朝食の時間だが、今回は着任式的な催しを行ってからになる。

 と言っても全員誰が着任するか分かっているようだが…

 講堂に集められた全員の目線は、既に前に立っていたミーナと坂本、そしてフェンリアに釘付けだった。

 

「皆集まったわね。改めて紹介します。本日から501航空団に所属する事が決定いたしました、フェンリアさんです」

「フェンリアだ。昨日話した通りの者だが、気軽に話し掛けてくれると嬉しい。今後ともよろしく頼む」

 

 淡々と進む通過事例だが、フェンリアは途中からミーナの手元にある簡単な荷物に目が入った。

 日常用品の物の上に拳銃がある。護身用だろうが間に合っている。

 

「…以上です。フェンリアさんは何かありますか?」 

「質問ですが、その荷物の上に置かれた拳銃は護身用ですか?」

「そのつもりよ」

「あ〜…なら預かっててくれ。俺はいい」

「はっはっはっ!お前も宮藤みたいに拳銃は握らないのか?」

 

 かなり豪胆な坂本の笑いにフェンリアも少し含んだ笑いを見せる。

 

「ははっ…いえ、自分にはこれがあるので…」

 

 そう言ってトレンチコートに隠れた物を見せる。

 右腰の辺りに剣が刺してある。鍔の形からレイピアを思わせたが、抜いてみるとそれは刃渡り65cm程度の直剣だった。しかも鍔から伸びる2つの筒状の物は、軍関係者なら一発で銃と見抜く物だった。

 

「これに加えて、左腰にはヴィクトル・コレーピストルがホルスターに仕舞ってある」

「ほぉ…フェンリアよ。その銃と剣を組み合わせた物は何だ?」

「レイテルパラッシュと呼ばれる物だ。騎士剣と独特な機構の銃を組み合わせた品物」

 

 フェンリアも少々独特な武器だと思っているが、彼自身はロマン好きなのだ。寝る直前に気が付いて疑問に思っていたが、カッコいいから不問にした。

 

「へぇ、ちょっと見せてくれよ」

「壊すなよ?」

 

 イェーガーが間近で見たくなったのか、その武器を見せると、坂本、宮藤、ペリーヌ、リネット、ルッキーニが顔を覗かせていた。

 どうやら皆が気になるようだ。

 

「あの武器そんなに珍しいのか…」

「あははは…」

 

 流石にミーナも苦笑いしている。弾は抜いてあるが壊されると困る。ちなみに左腰の拳銃は1発辺りの威力が弱いが、20連発の拳銃だ。整備も簡単だから重宝する。

 

「とにかくだ。護身用ならこれらでいいから、それはもしもの時に置いておいてくれ」

「了解しました、フェンリア」 

「でもよく上層部が理解したよな〜」

 

 昨日フェンリアを変態扱いしたエイラがそう呟く。

 

「まぁ…昨日の彼の戦果とか伝えたらね…」

 

 フェンリアは横目で見ながら何となく分かった気がした。

 彼女らの付けていたストライカーユニットは、レシプロ機のそのものだ。ウォーロックはどう見ても音速を超える速度で飛んでいた。

 アーケロン要塞で技術者から聞いた噂話では、装甲を捨ててエンジンを最新の物に変えることでジェット戦闘機とやりあった化け物がいると聞いたことがある。

 が、彼女らがそれ程の化け物では無いと思われる。

 

「(と言うかそんな化け物が何人もいてたまるか…いや向こうは化け物が逃げるか…)」

 

 フェンリアの脳内には、感情の無いはずのネウロイが全速力で逃げ、それをスコアに代えようと追い掛け回す化け物共の姿が浮かんだ。

 

「ミーナ。何か無線連絡が来てるぞ」

「はぁ…またね…」

 

 何やらトラブルがあったらしい。面倒くさそうに無線機の前に立つミーナ。フェンリアも嫌な予感を抱いていた。

 

「はぁ…ごめんねフェンリア…ちょっと来てくれない?」

「いいぞ。何かありそうだな」

「あっ、おい待て!私達も行くぞ!」

 

 フェンリアとミーナが外に行こうとすると、バルクホルンらを戦闘にわちゃわちゃと付いてきた。

 その途中でレイテルパラッシュを受け取ると、右腰の鞘に直した。

 外に出ると1機の連絡機らしき機体が停まっていた。 

 そこには太ったデブの男が軍刀を杖代わりに立っている。勲章を胸からいくつもの垂らしているが、それらは底辺の勲章っぽかった。

 何よりソイツの顔が気に食わなかった。ベルカ人っぽい見た目…この世界ではカールスラントといった国だったか…

 

「いやはや見た目は立派な基地ですな。ミーナ中佐」

「(開口一番それかよ…)」

「ようこそ、501航空団基地へ…何の用ですか?大佐」

「確かこの基地に期待の新人が来たと聞いたが?」

「自分の事ですかね?大佐殿」

 

 どうやら自分に用があると考えたフェンリアは、ミーナの前に立つ。

 

「ほぉ、君が…実は君に新たな辞令書が来ているんだ」

 

 ドンッと目の前に書類を突きつけてきた。見ると『フェンリア、501部隊から505部隊に異動を命ず』と書いてあった。

 

「何を言っている貴様!」

「坂本少佐…私は大佐だぞ?その口を閉ざしたまえ」

 

 ククッと笑う大佐。恐らくここの基地に色々イチャモン付けて嫌がらせしてるのだろう。

 ならば遊んでやるか…

 

「くっ…卑怯者め…」

「あ〜はいはい、そこまでだ宮藤」

「フェンリアさん!?」

「1つ質問いいかな大佐殿。これは正式な物なのですね?」

「そうだが?」

「ならあなたの上官に聞いても?」

 

 ピクリと大佐のこめかみが動いた。わっかりやすいアホ野郎だなと心の中で呟きながらカマかけを続ける。

 

「どうしましたか?これが正式な物なら、あなたの上官からでしょ?聞いてもいいじゃないですか」

「私の上官は忙しい身でな…」

「確かに忙しいでしょうな…ですが上官の部屋には電話があるものですよ?交換手を挟んだとしても、辞令が正しいものかを確認する為なら、荒っぽくても答えると思いますが?」

 

 ついでとばかりに爽やかなニッコリ笑顔を付け足しておく。こうすると怒りやすくなるのは知っていた。

 

「き…貴様ぁ!俺に楯突く気か!?」

「自分はあなたの上官に聞こうとしただけですよ?」

「このっ…!」

 

 大佐が軍刀を抜こうとした。その瞬間、輸送機が着陸した。

 出て来たのは2人。ウィッチと思われるミーナに似た女性。そしてもう1人は男性だが、カールスラントの軍服を着こなし、その服に取り付けられたたった2つの勲章が眩しい。砂漠で使用する砂塵ゴーグルが印象的だ。そして襟元の階級章は元帥だった。

 大佐以外の全員が反射的に敬礼を送った。

 

「部下が失礼したようだな」

「失礼。自分が見るに、あなたは元帥のようですね…あなたがこの大佐の上司ですか?」

「自己紹介が遅れたな。私はエルンスト・ロンメル元帥だ。そしてこちらが…」

「私はエディタ・ノイマン大佐だ…そちらの大佐は、正確には元帥の部下ではない。元帥のお知り合いの方の部下だ」

 

 ロンメル元帥…フェンリアはその高度なシステムを制御するためのコンピューターが備わっていた。それを駆使して、この世界のロンメルの情報を収集した。

 結果フェンリアは、彼を信用に値する人物と見抜いた。

 

「こちらこそ申し遅れました。昨晩よりお世話になっております、フェンリアです」

「話は聞いているよ。この基地を救ってくれて感謝しているよ…さてカスパール大佐。やり過ぎたな…」

「ぐっ…」

 

 カスパールと呼ばれた大佐は、明らかに動揺した様子で後退った。

 

「君の通信内容は全て聞かせてもらった…その命令書も自作…レープ将軍直々の頼みだ」

「カスパール大佐…あなたを拘束します!」

 

 ノイマン大佐の命令の一言、それを合図に憲兵が出て来る。

 

「う、動くな!コイツらを撃ち殺すぞ!」

 

 カスパールは銃を抜き、501航空団面々に向けた。だが引き金を引く事は無かった。その銃は金属音の後、宙を舞ったからだ。

 

「な、何だ…貴様…何をした…」

「…」

 

 フェンリアの右手には、レイテルパラッシュが握られていた。刀の使い手である坂本の反応速度すら上回る速度で距離を詰め、銃を弾いたのだ。

 止めと言わんばかりに無言でカスパールの腹に膝蹴りをお見舞いした。

 

「ぐはっ!」

「俺は…権力を盾にあらゆる物を欲しいままにするやつ…或いは他の者から搾取するやつとかは大嫌いなんだよ…カスパール大佐…」

 

 フェンリアを支配していたのは激しい怒りだった。かつてレサスを支配していたナバロを思い出していたのか、フェンリアは無意識に左手に拳銃を握っていた。

 

「フェンリア君。その辺で構わないよ」

 

 呪縛を解いたのはロンメルだ。瞬間に憑いた者が消えるように殺意が消えていた。

 

「後は任せてくれ」

「…了解。よろしくお願いします…」

 

 先程とは打って変わって弱々しい雰囲気を出すフェンリアだったが、ロンメルは頷くとその背後にいるミーナ達に敬礼する。

 ミーナらも慌てて敬礼を返し、ロンメルは憲兵に連れられたカスパールとノイマン大佐を連れて輸送機に乗って帰っていった。

 フェンリアはそれを見送ると、黙って基地に戻っていった。

 

「フェンリア…」

「…凄まじい殺意だったな…」

 

 バルクホルンの心配そうな声に被せるかのように、坂本が呟く。彼女らはまるで人を勝手に斬り殺す妖刀を近くに置いたかのような心境にあった。

 

「なぁ…こんな事を言うのも悪いと思うけど…アイツ基地にいて大丈夫なのか?」

「リベリアン!」

「ふ、2人とも待ってください!」

 

 イェーガーの言葉にキレたバルクホルンが掴み掛かろうとするのを、宮藤が慌てて止める。

 

「宮藤の言う通りだ。喧嘩はよせ」

「しかし坂本少佐!」

「確かにイェーガーが言うのも正しいとは思う…だが我々はアイツの過去を知らない…知らずに好き勝手言うのはまた別だ…」

 

 坂本の言葉が重く沈んでいく。

 あれ程までの殺気を出す程の過去…彼女らには想像付かない物なのだ。

 

「…あっ、降ってきた…」

 

 いつの間にか黒い雲が空を覆い、雨が降ってくる。

 リーネの言葉を合図に、皆も基地へと帰って行った。

 

 

 

 

 

「雨止まないね。リーネちゃん」

「うん。外の気温も低いだろうね」

 

 あれから時間が経ち、その日は夜になった。その間も雨は激しく降り続け、今日の訓練は中止になっていた。

 

「おや?今日の夜ご飯はシチューかい?」

「うわっ!フェ、フェンリアさん!?」

「驚かせてしまったね。悪い悪い」

 

 いきなり現れたフェンリアに驚きを隠せないが、朝の出来事があるので、リーネはどう接すればいいか分からなかった。が、宮藤は普通に接すればいいかと会話を続けた。

 

「も〜止めてくださいよ〜」

「いや、本当に悪かったよ…ところでお願いをしても?」

「何ですか?」

「そのシチュー、完成する直前ならお椀に入れてくれないか?食べる目的じゃ無いんだが…」

「あ、分かりました。リーネちゃんお皿とスプーン取って」

「う、うん…」

 

 リーネはお皿とスプーンを宮藤に渡した。

 宮藤はシチューを盛ると、フェンリアに渡した。

 

「はいどうぞ。何に使うんですか?」

「ん?あぁちょっとね…出来れば聞かなかった事にしてくれるかな?」

「別に構いませんけど…」

「すまない…後ご飯の時間にまでは戻る予定だから大丈夫だよ」

 

 そう言うとさっさと食堂から出ていってしまった。

 

「何だったんだろう…?」

 

 それから続々と食堂に人がやって来る。何時も皆は食堂でご飯を一緒に食べるのだ。

 

「あれ〜?アイツはどこにいるんだ?」

 

 エイラが食堂に入って来て放った第一声がそれだ。アイツとは無論フェンリアの事だ。

 

「フェンリアさんなら、先にシチューを持ってどこかに行きましたよ?」

「えぇ〜先にシチューでも食べてるんじゃないの〜?シャーリーは?」

「そう言えば見てないな…格納庫にいたけど来てないぞ?」

 

 あーだこーだと言い合う中、たった1人彼を見たやつがいた。

 

「フェンリアなら私見たよ」

「ハルトマンさん?」

「何か雨降ってるのに外にいたけど…」

「外!?」

 

 思いの外声を大にして叫んでしまった宮藤だが、本人はそれどころではない。手元の時計を確認してハルトマンに質問する。

 

「それってさっきですか!?」

「そうだけど…」

「本当にそうなら20分近く外にいる事になりますよ!?早く行かないと!」

 

 20分も雨の降る外にいるのはおかしい。途中話に入って来ようとしたバルクホルンが我先にと食堂を飛び出た。

 そのまま傘を開いて外に出る。

 

「どこで見たのですの?」

「廊下からだけど、確か向こうに…」

「向こう…ミーナ。もしかして…」

「えぇ、美緒。朝の時の…」

 

 ハルトマンが指差す方向は、フェンリアがレンガで作ったお墓がある。

 

「本当にここに……おいっ!お前何してる!?」

 

 バルクホルンの怒声が夜の闇の雨の中に響き渡る。いきなりの怒声に宮藤とリーネ、ペリーヌが肩を竦めた。

 他もバルクホルンの元に走って追い付く。

 彼女らが見たのは、傘を墓に差して自らは雨に打たれるフェンリアの姿だった。

 20分間もこうしてたであろう冷え切った彼の息は、バルクホルン達が吐く息が白くなるのと対象的に、全く白くならなかった。

 

「あぁ…バルクホルンか…もうそんな時間か…」

「そんな時間じゃない!何して…る…」

 

 バルクホルンの言葉が詰まる。傘で見えなかったが、レンガの墓の中にシチューが供えてあった。   

 

「俺は生まれるべきじゃなかった…俺、俺達のせいで亡くなった民間人を弔いたかった…」

 

 透き通るように綺麗な青い目は、悲しみに満ち溢れていた。その姿は恐らく誰よりも優しいのだろう。それ故に彼自身は自分が許せない。そんな雰囲気を纏わせていた。

 

「フェンリア…中で話してくれないか?私達に…」

 

 フェンリアはゆっくりと頷いた。

 

 

 

 中に戻ると、フェンリアは濡れたままぽつりぽつりと語り始めた。

 

…どこから語ろうか悩むが…俺が製作されている時、ある戦争があった。オーレリアと呼ばれる国と、俺の祖国レサスとの間の戦争だ。戦争中期まで我が国は圧倒的軍事力と超兵器でオーレリアを壊滅させた。超兵器は俺じゃない。別のやつだ…ともかく相手は空軍基地1つの所まで追い詰めた。だがそこにエースがいた。ソイツは基地制圧に向かった爆撃隊を壊滅させ、そこから連戦連勝を重ねた。レサスには多種多様な特殊部隊や精鋭部隊がいた。超兵器もあった。だがアイツは…あの凶星は全てを打ち砕いた。僅か数ヶ月で、オーレリアの首都を奪還された…そしてあろう事か、製作された俺達フェンリアさえも撃墜された…それだけならいい。俺が懺悔する必要はない。そうならば死んだのは軍人。その覚悟を持った者達だからだ…レサスは軍事独裁国家だ。圧倒的軍事力も、超兵器も俺も…ナバロと呼ばれるやつが色々指揮したからだ…その資金はどこから調達したか分かるか?当時貧困に喘ぐ民衆から奪ったんだよ!オーレリアは何も悪くない!寧ろ内戦によって疲弊したレサスを助けようと援助していた!だがナバロはその金を奪い、全て軍事に充てた!この戦争の前に大陸戦争で活躍し、英雄と称されたナバロがそうした…そしてその金で俺は作られた…これは俺を作り、次世代試作機パイロットとして乗り込んで来たやつが色々話してくれた…俺は試作機故最終決戦には飛んでいない…だがフェンリアとして完成した5機全てが凶星に撃墜された…その後は要塞内部に侵入してきた凶星の攻撃で俺は飛べなくなり、要塞内に格納された特殊燃料で俺は吹き飛んだ…後は皆が知っての通り、昨日の夜に繋がる…せめて俺はレサスで死んだ民衆に食べさせてやりたかった…温かいご飯をな…

 

 気が付けば雨は止み、月が顔を見せていた。

 静かな闇に包まれた基地の中は、静寂に包まれていた。

 フェンリアの壮絶な過去と死。ミーナ、坂本、バルクホルンは、なぜあれだけ死を望むのかがようやく分かった。

 他もあまりの惨状に声が出せない。

 沈黙を破ったのはフェンリアだった。

 

「…これが俺とレサスの過去だ。今は戦勝国となったオーレリアの元、復興が行われてる筈だ…」

「何て事を…ナバロっていう人はどこに…」

 

 宮藤は元凶の男が捕まっていれば、亡くなった国民も浮かばれると思っていた。が、フェンリアはゆっくりと首を横に振った。

 

「確かに奴は失脚したが、行方は知れず…だ。どこに逃げたのかすらも分からない」

「そんな…酷い!」

「その酷い奴に俺は作られたんだ…なぜ俺は生きている…」

 

 フェンリアの問いかけに、誰も答えることが出来なかった。1人を除いて…

 

「誰かの思いで生かされてる…そうじゃないのか?」

「バルクホルン…」

「私も故郷を守りきれず、妹も重傷にさせた…こんな弱い奴なんていらないとまで思ってた」

「…」

「だがある日、出撃して私が重傷を負った時に宮藤に治療され、ミーナに色々言われてな…その時の言葉が頭に残ってるのさ。『私達は家族だ』って。それと同時にある考えが浮かんだのさ」

 

 訝しげに見つめてくるフェンリアに、バルクホルンは微笑みながら結論を付けた。

 

「『生きているのは、まだ役目があるからだ』…だから私はまだ死ねない。フェンリアにも何かあるんじゃないのか?」

 

 フェンリアは狐につままれた気分だった。思い出したのだ。あの要塞内部で、死にゆく相棒の言葉を…

 

『来世はその力を…持たざる弱い人々に使え…』

 

「そうですよ。私もウィッチに入ったのは、皆を守りたいからです!」

「私も芳佳ちゃんと同じです!」

「わ、私もですわ」

「アタシは夢を追いたいからな」

「シャーリーとなら飛べるよ!」

「私はそうだな…サーニャと一緒に入れるしね」

「まだやるべき事がある…それだけ」

「私は…まだ故郷と世界を解放してないから」

「ふふっ♪ここにいる皆、それぞれの目的を持ってるのよ。フェンリア」

「そうだぞ。悩む事は無い」

「もう迷うな。私達で支えてやる」

 

 フェンリアを取り囲んでいたのは、負の感情だった。怒り、憎しみ、悲しみ…

 だが今は違う。希望や感謝などの温かい心を、フェンリアは初めて見たのだ。

 

「…皆優しいんだな…ありがとう。何か…吹っ切れたよ」

 

 フェンリアは笑った。初めて普通に笑った。

 

「いい笑顔じゃないかフェンリア」

「きしし♪トゥルーデったら惚れちゃった?」

「な、ななな何を言ってるんだハルトマン!?///」

「ハハハッ!…はぁ、分かったよ。何かあれば頼らせてもらうよ。皆…ところで、腹が減ったな」

 

 最後の一言が皆を笑いの渦に誘った。彼はようやく救われたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく司令部が見えて来たな」

「えぇ、そうですね」

 

 カスパール大佐を、本国に待機していたレープ将軍に引き渡した後、ロンメルとノイマンが司令部に戻って来たのは夜だった。

 

「しかしあのフェンリア君は、どうも私と同じような感じがしたよ」

「前世の夢の話ですか?確かその話だと、将軍は…」

「ネウロイと言う化け物はおらず、人間と戦っていた。私は第7装甲師団を率いて、北アフリカで戦っていたさ」

「…もしかしたら、その時に私も会っていたかもしれませんね」

「そうだな」

 

 他愛も無い話だ。だが着陸して輸送機から降りて来ると、伝令兵が焦った様子で駆け寄ってきた。

 

「将軍!大変です!」

「落ち着きたまえ。何かあったのかね?」

「それが…陸戦型ユニットを装備したウィッチが…」

「どういう事だ?」

「分からないんですよ。それもカールスラントのだけではないです。その内の1人は、『将軍なら会えば分かると』…」

 

 ロンメルもノイマンも顔を見合わせて首を傾げる。とにかく向かう事にした。

 格納庫に案内されると、確かに陸戦用ユニットが多数置かれている。多種多様だ。だがその内の2つには見覚えがあった。

 

「ティーガーIのユニット…!?」

「まさか…あれはまだ試作段階じゃ!?」

 

 2人の前には、試作されていたティーガーIのユニットが2つも置かれている。しかも丁寧な整備から、実戦配備されているかのようだった。

 さらに驚くべき事に、もっと巨大なユニットや見たこともないユニットが置かれていた。が、ロンメルのみはなぜか何のユニットか分かっていた。

 

「マウス、ティーガーⅡ、ヤークトティーガー、ヤークトパンター、パンター、Ⅳ号…これはポルシェティーガーか?こっちはJS-2、T-34-85、KV-2…M4、M4A1の76mm、ファイアフライ…P40、セモヴェンテM41、カルロヴェローチェ…これは確かフィンランドのBT-42。日本のチハ新旧に九五式軽戦車…」

「知ってるんですか?将軍…」

「前世の夢で見た戦車達だ…あっ、これは!」

 

 圧倒的な数のユニットに目を奪われていたが、1つ彼でも忘れられない存在のユニットがあった。小さい車体に15sm榴弾砲を搭載した自走砲。北アフリカでたった1両のみ現地改造で作られた自走砲。

 

「…Ⅲ号重自走歩兵砲…」

「覚えていてくれたのですね…」

 

 声のする方に、ロンメルは顔を向けた。

 たくさんの少女が立っていた。服装もバラバラだったが、彼女らを代表に前に立った銀の長髪の少女は懐かしげに休めの姿勢を取っていた。

 

「ロンメル将軍。この世界の事は他の方に聞きました。我々も戦います!かつて私達に乗り込んでいた者の意思を継ぎ、未来を絶やさないために」

 

 ロンメルは何も言わなかった。ただその代わりに敬礼を交わし、彼女らもそれに敬礼で返した。遥か未来からの戦友として…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「夜は流石に冷えるな」

「だが綺麗な夜空だろ?」

 

 2人の男が砂漠の洞窟の外に立ち、焚き火で温めたコーヒーを飲み交わしながら夜空を見上げる。

 片方は黒髪で、もう片方は金髪だ。だが両者から溢れるオーラは尋常じゃなかった。

 

「そっちの部下は4人と1人か」

「そうだ。そっちはお前だけか?」

「あぁ…なぜだか知らないが…」

「別人として転生してるのかもな」

「あり得なくもないな。だがかつて敵同士だったのが、今やよく分からん化け物相手に戦う戦友か…」

「人間同士の戦争よりマシだ。それに…お前と互いに技術を磨き合えるのは嬉しい」

 

 明るい焚き火が彼らの腕を明るく照らす。

 黒髪の男の腕のエンブレムは無限の字。金髪の男のエンブレムは、黄色を背景にあしらった金色の白鳥のマークが刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの基地を思い出す寒さだなここは…」

 

 廃棄された銀世界に佇む空軍基地。その格納庫に4人の男の姿があった。

 この辺りはネウロイの侵攻を受けて撤退した軍事施設。その上空には欠かさずネウロイの偵察タイプが居座っていた。

 今その姿はなぜか無い。雪がちらつく基地格納庫で、4人は温かいコーヒーを飲んでいた。

 

「今となっては懐かしい…俺を操ってたパイロットは生きてるのだろうか…」

「俺のとこはISAFで戦ってるそうだ」

「自分は言わなくていいですよね?」

「とにかく、あの時の4人が再開出来たのを喜ぼう」

 

 赤黒い髪の男、金髪の男、少年のような男、メガネをかけた知的な男の順で会話は続いた。

 赤黒い髪の男が話し始める。

 

「…俺達がこの世界に来たのは、何でだろうな?」

「上にいた化け物を駆逐する為じゃないか?」

「この世界には、あの化け物がのさばっている様だ。ならもう我々の役目は決まってるな…他の連中もそうするだろう」

 

 赤黒い髪の男と金髪の男の表情が変わる。好戦的で、なおかつ使命を魂に刻んだ狩人…

 地獄の番犬のエンブレムを持った2人は、まだ見ぬエース達に思いを馳せていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 高級感漂う執務室。多数の書物を収めた本棚と漂う紅茶の香りは、ここの主の心を安らかにした。

 506統合戦闘航空団の本拠地、セダン基地の騒乱は落ち着いた物になった。重傷者が出た上に見計らったようやネウロイの襲撃には参ったが、突如現れた航空部隊によって全て片付いた。

 

コンコン…

 

 静かな執務室にノックの音が響いた。

 執務室の主であり、506統合戦闘航空団隊長のグリュンネ少佐は、音の主を引き入れた。

 

「どうぞ」

「失礼します」

 

 入って来たのは、ここにやって来た航空部隊の内の1人だ。一応代表として色々してくれている。

 長髪の美しい瑠璃色の髪の毛をした女性。だがその立ち姿や雰囲気は騎士を想起させる。

 女性は明らかに年下と思われるグリュンネの前に立った。

 

「グリュンネ少佐。重傷者の黒田中尉の現状を報告しに来ました」

「ごほっ!そ、それで彼女は!?無事なのですか!?」

「落ち着いてください。こちら側の者に治癒が使える者がおりましたので、既に…山場を越えて、今は安静しています」

 

 喰い付かんばかりの気迫を見せたグリュンネを冷静に押し留める辺り、相当な者だろう。立ち振る舞いは貴族のそれを思わせる。

 

「はぁ…良かった…」

「大切な部下なのですね」

「えぇ、とてもとても大切です…しかしあの爆発は…」

「私の知り合いが調べています」

「…陰謀という線は…」

「あり得ます。しかし、手出しする必要は無いでしょう」

 

 陰謀。この506統合戦闘航空団は2つに分かれており、こちらはA部隊となっている。貴族中心の高潔な戦いぶりを見せるこの部隊は、比較的自由なB部隊とのいがみ合いが多く、問題視されていた。

 だが新たに日本からやってきた新人。黒木がお互いの架け橋となりつつあり、互いの喧嘩はただの軽口の応酬となる程沈静化し、なおかつ共同戦線も張ることがあった。

 しかしながらウィッチーズをよく思わない軍上層部の非難の標的にされることも多く、グリュンネはそれを疑ったのだ。

 

「あなた…今何と?」

「手出しする必要は無い…ですよ」

「それもあなたの古い友人とやらですか?インディゴ」

 

 インディゴと呼ばれたら女性は、騎士らしい笑みを見せて堂々と言い張った。

 

「そうですね。手荒な連中ですが、今頃我々の敵を根絶やしに動いてるんじゃないですかね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、貴様らは何が目的なんだ!」

 

 オーロラの輝く北欧のフィヨルド地帯。入り組んだ地形に紛れた基地は、ネウロイだとしても見つける事が難しい。

 怒声を上げた男は、そんなフィヨルド地帯に建設された海軍基地の司令であり、裏で暗躍する者の1人だった。

 そう。もう暗躍者は彼しかいなかったのだ。

 彼の眼前には、6人の男と1人の女性が立っていた。

 この時の基地周辺の猛吹雪が吹いており、ジェットストライカーを装着したウィッチーズさえも突破は不可能とされていた。

 それでも一応の対空兵器を備え、艦隊には何時でも対応できるように待機させていた。

 が、目の前の13人の男女は猛吹雪を物ともせず飛び回り、対空兵器と艦隊の弾幕をくぐり抜けて両者を殲滅した。

 そして彼には分からなかったが、実はこの13人のみではなく、洋上を疾駆する者もいるのだ。それらは現在港湾を制圧しつつあった。

 そうとは知らず、基地司令は虚勢を張る。

 

「も、目的は金か!?」

「ノーサー基地司令…あなたはやり過ぎました」

 

 黒い蛇のエンブレムが描かれたパイロットスーツを着た男が前に出てから言う。

 

「情報工作に破壊工作、罪の擦り付け…物資の横取り…お陰で周辺のウィッチーズの被害が増えてるのにも関わらず、怪我の手当も出来ないのは貴様が原因か…」

 

 手元にある資料を冷静に読みながらも、その声には僅かな怒りを滲ませている。

 その傍らに別の男。枝を噛む赤い蛇のエンブレムの男が怒りの目を浮かべて睨みつける。

 

「やるならもっと穏便にやるべきだったな。それでも我々にはお見通しだがな」

 

 だがそれよりも基地司令を恐怖の底に追いやったのは、後ろに控える漆黒の闇を纏った男性達と女性だ。

 漆黒の騎士のエンブレムの異常さは尋常じゃなく、遠慮無しに突き刺してくる殺意の目線は今にも彼の心臓を止めてしまいそうだ。

 

「だから何なのだ!我々はウィッチーズなど必要無い!あんな小娘連中に」

「黙れ」

 

 闇の中の男性。その隊長の声は底冷えする狂気を秘めていた。

 思わず黙った基地司令を畳み掛ける。

 

「貴様が成してきた事。それは断じて許されるべき行為では無い。地獄に落ちて貰おう」

「悪魔め…」

「俺達にとっては褒め言葉だなブービー。じゃあ後頼んだ。グラーバクとオヴニル」

 

 もう1人の闇が合図を出した。グラーバクとオヴニルと言われた2人の蛇は、抜き手を見せぬ早さで拳銃を引き抜いて基地司令目掛けて発砲する。

 人体に銃弾がめり込み、心臓を貫く。基地司令は倒れ、動かなくなった。

 

「はい、これで最後だ…本当にいいのか?ブービー。俺達がお前らと一緒にいて」

「お互いあの化け物を見てるなら、手を組むべきだろ。グラーバク」

 

 かつての敵同士が手を取り合い、共に戦う強さを知るブービーと言われた男は、グラーバクからの確認を肯定した。

 彼らの戦力は海軍戦力も含まれるが、これはまた語られていく事だろう…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 海の上の空を3つの影がデルタ編隊で飛んでいる。肩甲骨辺りのブロック状の物は、フェンリアのガンランチャーに似ているが、そうではなかった。そのブロック状の

 砲身は無く、代わりに何やら筒のような物が並んでいる。このブロック状の物は腹筋辺りのアーマーにも装着されている。また、2丁拳銃のような物を両手に持っていた。

 

「ミサイルが無い代わりに2種類使えるのはいいな。機銃はどうだ?」

 

 デルタ編隊の先頭を飛ぶ男性が背後の2人に尋ねる。

 

「一応切り替えは出来るらしい。全く不思議だ」

「俺もそうだな。しかし魔術師の奴と飛ぶのは気に食わない」

 

 3人とも同じ機体のようだ。しかし3人の内1人が元敵らしく、2番機として飛ぶ男性からは白い目で見られていた。

 

「そう言うなよ。彼は恐らく珍しい、この世界の誰かさんの転生者…そうだな?」

「えぇ…彼女に会えればいいんですが」

「安心しろよ。俺達は吉鳥だからな!」

 

 この3人はそんな会話をしながら飛んでいく。その方向には、501統合戦闘航空団の基地があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アンドラ。ここはガリアやカールスラントの難民の通り道。いわゆる人類の要所である。

 そんな要所の近くの上空に、一風変わったネウロイの巣が出現した。

 世界にはこの翌日に発信された情報は、『純白の雲を纏ったネウロイの巣』であった。

 ネウロイの巣とだけあって、アンドラはパニックになったが、不思議とネウロイはやって来なかった。しかも信じられない事に、アンドラに攻め入ろうとしたネウロイが何者かに攻撃されて散って行くのを見たと言う者が現れたのだ。

 曰く、ウィッチの姿をしたネウロイが現れて蹴散らしたと。

 だがネウロイである事に変わりなく、招集されたウィッチ達が攻撃をしかけた。

 だが…

 

「ちょっと大丈夫!?」

「なんでこうなってるの…」

 

 アンドラの要所を守り抜き、世界から『アンドラの魔女』と呼ばれている2人、イリスとマリアが駆け寄っていった先には、招集されたウィッチ達が地面に座っていた。

 しかし不思議と外傷は無く、ストライカーユニットのみがボロボロになっていた。

 だが2人が疑問に思ったのはそこだけでは無い。 

 目の前のウィッチ全員が震えて座っているのだ。寒いとかでは無い。その表情からは何か恐ろしい物を見たのか今にも泣きそうな顔だった。

 

「何があったの?」

 

 イリスの問いかけに、恐らく隊長らしきウィッチが答えた。

 

「あれは…あれはウィッチでもネウロイでも無い…」

「何ですかそれ…」

「追ってくる…何処までも何処までも!撃墜出来るはずなのに…なのに追ってくる!」

「追ってくる…何が?」

「黒いパイロットスーツを来た高齢の男…それと4人の男が…嫌だ…飛びたくない…」

 

 完全な恐慌状態に陥ってしまった。イリスもこうなればお手上げだ。だが猛者揃いのウィッチが空を飛びたくないと言うのは異常だ。

 一体何があったのだろうか。

 

「イリス!あれ!」

 

 マリアが何かを見つけたようだ。

 遥か青い空に9つの飛行機雲。その内8つが急降下してきた。

 

「ちょ、こっちに来る!?」

 

 凄まじい速度で降りてくる物体に、思わずぶつかると2人は思ったが、飛行機雲の主達は地面すれすれで急停止した。 

 男性6人と女性2人で、見たことないストライカーユニットとアーマーに身を包んだ集団だった。

 

「あ、あの…皆さんは一体…」

「あぁ。俺達はオーシアっていう国から来た者だが…まぁ知らなくていい。それよりも君達と…後この惨状は?」

 

 隊長らしき男性が説明する。

 イリスもマリアもオーシアという国を知らなかったが、今は置いておき、自分達の自己紹介と出来事を話した。

 

「…と言うことです。本当に何があったのかさっぱりで…」

「いや、ありがとう。大体分かったし、ウィッチ達に恐怖を植え付けたのが誰かも分かった」

「本当ですか!?」

「その主と話をしてくる」

 

 言うやいなやその男性はストライカーユニットの炎を焚いて青空に消えて行った。

 

「早い…」

「あなたがマリアさんね?この娘達が装着しているユニットの整備って出来る?」

「えっ、あ、出来ます!」

「手伝って。私も直すのを手伝うわ」

「クイーン。俺達は何をすればいい?」

「この娘達を運んであげて」

「ワーオ!任せてくれ」

「でもこの娘達の原隊復帰は無理かもしれないな…」

 

 イリスもマリアも、色々ありすぎて現状を把握しきれなかった。だが飛んでいった男のアーマーに、狼と3本の爪痕のエンブレムがある事には気が付いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの…えっと…その…」

 

 アフリカの夜の砂漠。稲垣真美は困っていた。

 一時帰国の後、アフリカへの帰路の最中に出会った男性との関係性に全員から質問攻めにあっていた。

 

「おいマミ!あの男は誰なんだ!?このマルセイユに聞かせてくれ!」

「だからt」

「どんな出合いでした?」

「ま、マイルズ少佐!?」

「真美も女の子ね〜♪」

「ケイさんも!?」

「マミさんも運命の人と出合ったんですね!」

「本当ね♪」

「シャーロットさんにフレデリカさん!?だ、誰か助けて〜!」

 

 …とまぁメチャクチャだ。

 確かに洋上でネウロイと遭遇。単機でやり合ってる最中にオープンチャンネル無線で『助けが必要なら手を貸すぞ。お嬢さん』の呼び掛けから乱入してきた男性に救われた。

 だが世界中を見渡しても、恐らく彼女の見た彼の戦闘は文字通り『身を削る』物だ。事実戦闘を終えた時の彼の消耗ぶりは尋常では無く、船の甲板に降りた時には倒れかけていたのだ。

 真美はそんな彼を介抱してただけなのだが、全てが終わって膝枕をさせていた所をたまたま近くを飛んでいた加東圭子(以下、『ケイ』とする)に発見されて写真を撮られた。真美が到着した頃には写真はばら撒かれ、今に至る。

 なおその騒動の元凶の男性は…

 

「あなたがパットン将軍ですか。元いた世界でもあなたは有名でした。お会い出来て光栄です!」

「おぉ!儂の事を知っているのか!儂にもファンがいたとは恥ずかしいな!」

「またまたご冗談を!色紙にサインを貰っても?」

「構わないぞ!そうだな…君も元はパイロットか何かで、この世界にウィッチの1人として転生したのだろ?見返りに君のサインか何か貰えないかな?」

「お安い御用ですよ!」

 

 パットンと勝手に会話をしており、サイン交換会を行おうとしていた。

 

「だ、誰か〜!ご先祖様〜!お助けくださ〜い!」

 

 真美の情けない悲鳴が響いた所、サイン交換会も終わったようだ。

 

「パットン将軍のサイン…大切なコレクションにさせて頂きます」

「君のサインはサソリ座かな?カッコいいじゃないか!そうだ。後今後はいつも通りで構わないぞ?その方が接しやすそうだ」

「そうですか…俺もその方が楽だし別にいいか」

「ほぉ、リベリオンかぶれか!気に入った!ハッハッハッ!」

「いやぁ仲良くやっていけるか不安でしたが…楽しくやっていけそうでホッとしました!」

「そう言えば貴様の名前は何だ?」

「そうですね…アンタレスとお呼びを。では俺は命を助けてくれた恩人の所に行って来ます」

 

 自分の元を離れ、命の恩人を助けに行く男性を見送りながら、パットンは彼がくれた色紙の隅に、自分が吸っていた葉巻の火口を押し付けた。

 

「これで儂の名前を書いた事になったな!しかしサイン交換会も楽しいものだ!アンタレスか…砂漠にピッタリだな」

 

 

 

 

 

 

 

  

 

「本当にこっちにいるんですか?隊長」

「あぁいる。確実にな…」

 

 こちらも夜の内にさっさと目的の場所に行こうとしてるようだが、片方の速力はどうしても遅くなる為に、到着時刻は翌日になりそうだった。

 

「第501統合戦闘航空団基地…そこにフェンリアがいる…」

「何にせよ今は味方だが…望むなら相手してやるさ…」

「暑いところだったとしても我慢してくださいよ?」

「分かってるさ…」

 

 大型航空機のユニットを装備した1人と、フェンリアとは異なる先鋭的なフォルムの装備は、速度と機動力を容易に想像させた。

 

「全く…あなたには色々無茶させられますね」

「付いてきたお前が言うな」

 

 夜が更けてきた。水平線の向こうから明るい太陽が見える。

 だが夜の空はまだ明けていない。薄っすらと星々が形成されたままだ。その中でも1つの星座が彼らの目に止まった。

 

「この世界でも見れるか…」

「そうですね…夜明けのあの星座も美しいです…行きましょう。グリフィス」

「そうだな。クラックス」

 

 フェンリアの仇敵。南十字を咥える鷲のエンブレム。

 フェンリアとグリフィスの邂逅は近い…

 この世界に集いしエース達。彼らの転生は、この世界にさらなる混沌を呼び起こしたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『宛、501統合戦闘航空団へ。不落の対空要塞、インドラ基地消滅セリ。敵ハ新型ネウロイ1機。ロンドンへ向カウ。敵速度、マサニ彗星ノ如シ』




( 主)「やれやれ…次回に戦闘が始まります。初敵はジェットストライカーでも撃墜が難しいですね。なのでフェンリアには無茶してもらいます」

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