ハリー・ポッターと竜魂の学徒   作:ホグワーツの点字聖書

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ハリー・ポッターと賢者の石
02


 魔法の本が首が痛くなるほど高く積まれた書店で、ハリーの興奮は最高潮に達した。いや、実のところ最高潮は更新され続けているのだが、ともかく先ほどまでを超える興奮だった。

 教科書はもちろんとして、少し面白い本を買うくらいのことは許されるだろう。意地悪な従兄弟のダドリーに仕返しをしてやる、そんなちょっとした呪いの本があれば買っていきたい。

 呪いに関する本の棚を探してあちこちを見回していたハリーは、正面を進む小さな影に気づかなかった。

 

「うわっ」

 

 尻餅をついたハリーは、目の前で同じように本屋の埃臭い床に転がる少女を見て、彼女にぶつかったのだとわかり、慌てて立ち上がった。

 小さな女の子だ。8歳か9歳だろうか。

 謝りながら手を差し伸べると、少女は手を宙で迷わせた。

 彼女の手を掴んで立ち上がらせたとき、ハリーは彼女の顔に巻かれた包帯に気づいた。まるで両目を守るように巻き付けられた黒い包帯。

 

「大丈夫? あの、ごめんね」

「……お前は」

「僕? 僕はどこも怪我して――」

「違う。お前は何者だ?」

 

 とても静かで不機嫌そうな声だ。大人びた口調は父親の真似だろうか。

 名乗ってよいものか迷ったが、いずれ彼女もホグワーツに来るのだろう。どのみちそのときにはもうわかるのだから、ハリーは自分の正体を明かすことにした。

 

「僕、ハリー。ハリー・ポッター」

「ハリー・ポッター。ふむ……なるほど。死の呪いを受けて生き残ったという」

「覚えてないんだけどね。小さいころの話だから」

「そのソウルの有様は呪いによるものか、それとも……」

「魂?」

「……いや、悪かったな。本を拾うのを手伝ってくれるか?」

 

 よくわからないままにハリーは頷いて、彼女が落とした本を拾った。

 随分と難しい本を買うようだ。『古代エジプトの防衛における魂の呪縛について』、『いかにして魔女は神格化されたか』、『東洋仙術』……。

 ハリーが本を手渡すと、少女は礼を口にして会計カウンターへと去っていった。

 魔法界には不思議な人がいるものだ、と思いながら、ハリーは本屋探検を再開した。

 

***

 

 ハグリッドに叱られて教科書だけを購入したあと、ハリーはあの少女について尋ねた。

 

「ねえハグリッド、不思議な女の子がいたんだ」

「女の子ってのはみんな不思議なもんさ」

「ううん、そういうことじゃなくて。目を包帯で隠してたんだ」

「黒い包帯か?」

「うん」

「男みたいな喋り方の?」

「そう、まるで、こう……くたびれた学者みたいな。知ってるの?」

 

 ハグリッドは頷いて、唸るように答えた。

 

「十中八九、プロメテア・バークだろうな。ボージン・アンド・バークスっつうがらくた屋の娘だ。まあ、あの連中のなかじゃいっとうまともな部類だな」

「あの連中って?」

「闇の魔法使いや魔女どもだ。お前がぶっとばした『あの人』の手下さ」

「でも……あの子はまだ8歳くらいでしょ?」

「ハリー、いいか、女の子に歳の話をしちゃいかん。俺はそれで随分痛い目にあってなあ」

 

 ハグリッドは笑って、彼女が11歳だと教えてくれた。つまり、同級生なのだと。

 ハリーはどうしてもあの少女に言われた言葉が忘れられなかった。魂とか、呪いとか、そういった言葉を。もし本当に彼女が悪い人たちの一員なら、言葉だって悪い意味なのかもしれない。でも、あんなに小さな女の子が初対面のハリーに嫌なことを言うだろうか……。

 自分の杖を買ったあと、オリバンダー老人に問いかけたのも、そういう疑問があってのことだった。

 

「オリバンダーさん。どんな人に売った杖も覚えてるんですか?」

「もちろんですとも。つまり、今イギリスにいるほとんどの魔法使いや魔女の杖を知っておるということでしてな。ポッターさんにとってこれから先生となる人々の杖も儂が売ったのじゃから」

「じゃあ……プロメテア・バークも?」

 

 オリバンダー老人は嬉しそうに眉を上げた。

 

「おお、バーク嬢はなかなか難しい客じゃった。最終的にはポプラに一角獣のたてがみ、25cm、十分にしなやか。ポプラの杖は戦いに優れた革命的な主を選びがちでしてな。バーク嬢も驚いたご様子じゃった」

「戦い……」

「ポッターさん、あなたの杖が示した運命にも戦いが含まれているやもしれませんが、せめてその運命がよい旅路であるとよいですな」

 

 ハリーは曖昧に頷いた。

 プロメテア・バーク。あの子は悪い魔女なのだろうか。

 

***

 

 コンパートメントの中でロンにプロメテア・バークのことを話すと、大げさなくらいに顔をしかめてみせた。

 

「僕、そいつのこと知ってる。パパの仕事を邪魔するんだ」

「仕事って?」

「魔法省の役人。マグルの道具に魔法をかけて悪いことに使う連中をとっちめてるんだ。マルフォイっていう悪党をパパが捕まえようとしたんだけど、そいつがかばったってパパが言ってた」

「じゃあ、あの女の子も悪い魔女なの?」

「うーん……実際のところ、そいつが邪魔しなくてもマルフォイは逃げきってたとパパは思ってるみたい。マルフォイはボージン・アンド・バークスから色んな呪いの道具を買ってるんだけど、そいつが魔法省に届け出を出してるから摘発できないんだって。研究目的の資料とかなんとか」

 

 ロンはカボチャジュースを飲み干してげっぷをしてから、バークや闇の魔術師たちの悪口を言い散らした。闇の魔術師を知らないハリーはそれに相槌を打ちながら、プロメテア・バークと同じ寮になりませんようにと小さく願った。

 

 ところが、いざ組分けとなるとハリーは緊張ですっかり彼女のことを忘れていた。もしここで「何かの間違いでした、マグルの世界にお帰りなさい」なんて言われでもしたら!

 今にも吐きそうになりながら、ハリーはマクゴナガルがリストを読み上げるのを聞いてじっと耐えた。

 

「――バーク家、プロメテア!」

 

 名前が呼ばれてから少しして、待機している1年生達の前のほうがどよめいた。ロンが「見てみろよ」と指差すので、ハリーは気を紛らわせるためにどよめきの原因を見ようとつま先立ちになった。

 ずっと奥、椅子に座って今まさに帽子を被った女の子。ハリーがダイアゴン横丁でぶつかったあの子だ。誰かが「目が見えないのに」と嘲るようなことを言って、それを聞いた周りが嫌そうな顔をした。

 プロメテア・バークはしばらく座っていたが、

 

「スリザリン!」

 

 そう帽子が叫ぶと、何事かマクゴナガルに申し立てていた。組分けに抗議しているようだ。マクゴナガルが頷かないとわかると、彼女は少し困ったようにしてスリザリンのテーブルに向かった。

 

「あいつ、どこに入ろうとしてたんだ? スリザリン以外なさそうなもんだけど」

 

 ロンの言葉によくわからないまま頷いて、ハリーは再びこみ上げる緊張をこらえる作業に戻った。




《プロメテアの杖》
ポプラで作られた白い杖
杖職人オリバンダーの作

ポプラに一角獣のたてがみ、25cm、十分にしなやか
ソウルの業を扱うのには適さない

白い妖木として知られる変種のポプラは闘争と革命を求める
主が望もうと望むまいと
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