上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第25話(3) 厄介なエンカウント、2連続

 先を急ぐ御剣たち。勇次が声をかける。

 

「さっきはいきなり飛び出してきたのが三尋たちで良かったですね」

 

「ああ、おかげで各自の状況が分かったし、伝言も送ることが出来たからな」

 

「しかし、援軍に伊達仁の嬢ちゃんとあの姉弟を送るとは思い切ったの」

 

「東北管区もご協力いただけるということになったからな」

 

 御盾の問いに御剣が先を進む神不知火を見ながら答える。神不知火は笑う。

 

「早急に治癒して頂いたお礼……というのは半分冗談ですが、加茂上の行動を看過することは我々としても到底出来ませんから」

 

「伝言は上手く伝わっているかの?」

 

「信じるしかあるまい。どうやらこの空間は通信には不向きのようだからな……」

 

 御剣が周囲を見回す。勇次が尋ねる。

 

「ここはどういう空間なんですか?」

 

「詳しいことは調べてみないと分からんが、狭世をいくつも重ね合わせることによって作り上げた空間のようだな」

 

「実質の妖絶講本部である、東京管区の隊舎周辺も似たような作りをしているわね~」

 

 雅が呑気な声で説明する。勇次が戸惑う。

 

「そんな複雑かつ厳重な先にある研究施設とは……」

 

「……あまり考えたくはないが、遅くなるとマズい。急ぐぞ!」

 

「はい!」

 

「ミツケタ!」

 

「⁉」

 

 走るスピードを上げた御剣たちの右側からある女が猛然と殴り込んでくる。御剣たちはなんとかそれをかわし、女の振るった棍棒は地面を打ち砕くにとどまる。

 

「ハズシタカ……」

 

 そこには白黒ビキニ姿の豊満な肉体の女が立っている。御剣が舌打ちする。

 

「貴様、干支妖の丑泉(うしいずみ)か! こんな時に……!」

 

「イツカノカリヲカエス……」

 

「うおっ! 此方をにらんでおる! ど、どうする⁉」

 

 御盾が御剣に問う。御剣が丑泉に向き直る。

 

「妖絶士がこれだけ揃っていれば、あるいは根絶の好機か!」

 

「ちょい待ち~御剣っち、主目的を見失っていない?」

 

「雅さん……」

 

「ここはなんとかするから、先を急ぎなさい」

 

「……すみません、お願いします! 皆、行くぞ!」

 

 御剣たちが再び走り出す。雅が笑う。

 

「決断が早くて結構……さ~て、セクシーダイナマイトなお姉さん? どちらがよりセクシーか競いましょうか♪」

 

 雅が悠然と構えを取る。丑泉が口を開く。

 

「ソノチカラ……ドコカデオボエガアルナ」

 

「え? き、気のせいじゃないかしら……」

 

「ソウダアレハタシカ……イツゾヤノカマクラデ……」

 

「こ、来ないならこっちからいくわよ!」

 

 雅が飛びかかる。

 

「ムッ!」

 

「はっ! それ!」

 

「フン! ヌン!」

 

 雅の繰り出す攻撃を丑泉は棍棒を器用に操って、防いでみせる。

 

「さすが、良い反応ね!」

 

「ムン!」

 

「おおっと⁉」

 

 丑泉が繰り出した反撃を雅は受け止めるが、堪えきれずに吹き飛ばされる。

 

「フン……」

 

(くっ、一撃が速い上に重い……! 御盾ちゃんの報告通りね……)

 

 雅が内心舌打ちする。丑泉が距離を詰めてくる。

 

「オオッ!」

 

(あんなのいちいち受けていたら身がもたないわ! ……タイミングを合わせて……)

 

「フン!」

 

「廻老!」

 

「ヌ⁉」

 

 雅は左手の掌で丑泉の振り下ろした棍棒を受け止める。すると、棍棒がポキッと折れる。

 

「う、上手くいったわ! 得物がなければ、こっちのものよ!」

 

「……トツゲキ!」

 

「がはっ⁉」

 

 丑泉が体全身を使って、雅に体当たりを仕掛ける。予期せぬ攻撃だったため、雅はまともに喰らってしまう。丑泉が地面に転がる折れた棍棒を横目に呟く。

 

「オキニイリダッタノ二……ユルサン」

 

「ぐっ……可愛いところあるじゃないの……」

 

「……トドメダ!」

 

「くっ!」

 

「ムウッ⁉」

 

「ぐっ……」

 

 丑泉の突進を雅は右手の掌を前に突き出して受け止めてみせる。丑泉が驚く。

 

「ナ、ナンダト⁉ ソノカラダデワタシノタイアタリヲ⁉」

 

「か、『廻若(かいにゃく)』……! これであなたの馬鹿力、もとい牛力も少し大人しくなったわ!」

 

「ソ、ソンナコトガ……!」

 

「正確に言うと、若返ったってことかしらね、それくらいの力ならまだ何とかなる!」

 

「ム、ムウ……」

 

「お肌も心なしかピチピチになって羨ましいわ!」

 

「グハッ!」

 

 雅は丑泉のみぞおちを思い切り蹴り飛ばす。強烈な一撃を喰らって丑泉は苦悶の表情を浮かべ、体をくの字に折り曲げる。

 

「耐久力もやや下がっているようね! ここで決める!」

 

「グウ……」

 

「『廻老若(かいろうにゃく)』!」

 

「⁉」

 

 雅が両の掌底を立て続けに丑泉の顔に叩きこむ。丑泉の首は激しくねじれ、仰向けに倒れる。雅は乱れた呼吸を整えながら、丑泉を見下ろして呟く。

 

「普通は立てないわよね、普通ならね……念の為にトドメを……ん⁉」

 

                  ☆

 

「雅さんに任せて良かったのか⁉」

 

「おっしゃっられていたように主目的は鬼ヶ島一美の身柄確保だ! それを優先する!」

 

御盾の問いに御剣は走りながら答える。後ろを走っていた高松が呟く。

 

「あ、あれが、干支妖……恐るべき妖力の高さだった……」

 

「この管区では、ほとんど遭遇情報がありませんでしたからね。何を考えているかよく分からないのにもかかわらず、こちらにちょっかいはかけてくる。厄介極まりない存在です……」

 

「随分な物言いやな?」

 

「なっ⁉」

 

「おらあっ!」

 

「むっ⁉」

 

 走っていた御剣たちの左側からある女が勢いよく飛び込んでくる。御剣たちはかろうじてそれをかわし、女の繰り出した拳は何もない地面を粉々に砕いた。

 

「ほう……今のをかわすとはなかなかやるやないけ」

 

そこには虎縞のジャケットを羽織ったジーンズ姿の女が立っている。御剣が叫ぶ。

 

「今度は干支妖の天寅(てとら)か! 全く立て続けに……!」

 

「え、干支妖がもう一体⁉」

 

「これは偶然……でしょうかね?」

 

 頭を抱える高松の近くで神不知火が首を傾げる。天寅が御剣たちを見回して首を捻る。

 

「うん? あの若づくりのおばはんはおらんのか? まあええか、ちょいと遊んでくれや」

 

 そう言って天寅は拳闘のようなファイティングポーズを取る。御剣が前に出る。

 

「今の暴言、聞かれたらただでは済まんぞ……せめてもの情けで私が……むっ⁉」

 

 御剣の鼻先に御盾が軍配を突きつける。

 

「宿敵、ここは此方に任せてもらおうか……」

 

「しかし……」

 

「優先すべき目標があるじゃろう! 心配するな、勝算はある……」

 

「心配はしていないが……分かった、任せる! 皆、行くぞ!」

 

 御剣は勇次たちを連れて走り出し、その場から離れる。御盾が苦笑する。

 

「いや、心配しておらんのか……」

 

「おいおい、お嬢ちゃん一人で大丈夫かいな? 弱いものいじめは好かんのやけど……」

 

 天寅が後頭部をポリポリと掻く。御盾が呆れ気味に答える。

 

「其方らにとっては大体が弱いものいじめみたいなものじゃろう……」

 

「はっ、それも……そうやな!」

 

「むうっ⁉」

 

 天寅が一瞬で距離を詰め、御盾にコンビネーションのワンツーパンチを繰り出す。それを軍配で防ごうとした御盾だったが防ぎきれず、パンチを喰らってしまうが、踏みとどまる。

 

「へえ……今ので終いやと思ったんやけど、案外タフやな」

 

「ふ、ふん……こんなものか? ハエが止まったのかと思ったわ……」

 

「! 言うてくれるやんけ!」

 

 御盾は軍配を自らの頭上で振りかざす。

 

「『鼓武奨励』‼」

 

「!」

 

「はっ! はっ! はっ!」

 

 自らに術をかけ、素早さを増した御盾は軍配を巧みに振るい、天寅のラッシュに対し、的確なカウンターを浴びせる。天寅が片膝を突き、信じられないという様子で呟く。

 

「そ、そんなアホな……ワイが打ち負けるやと……?」

 

「はあ……はあ……術のおかげじゃ」

 

「! 妙な術を使いよってからに! 姉ちゃん! ここで消えてもらうで!」

 

「うおおっ! そ、それっ!」

 

「なっ⁉」

 

 そこに大きくなった尚右に跨った仁藤が飛び込んできて、刀で天寅に斬りつける。

 

「な、尚右! 仁藤⁉」

 

「た、隊長、お助けに参りました!」

 

「そ、其方……干支妖に斬りつけるとは良い度胸しておるの……正直見直したわ」

 

「そうでしょう! って、ええ⁉ え、干支妖⁉」

 

 仁藤は恐る恐る天寅の方を見る。天寅はジャケットの破れた部分を手に取って眺める。

 

「お気に入りの奴やったのに……今日は気分が乗らんわ。帰らせてもらうで……」

 

「あ、そ、そうですか……」

 

「この借りは返すで? ツインテールの姉ちゃんとワン公と茶髪の兄ちゃん……」

 

「ひ、ひい⁉」

 

 天寅は一睨みして消えていった。震えあがる仁藤の横で御盾がため息をつく。

 

「気分屋で助かったわ……良かったな、仁藤。干支妖に顔を覚えられたぞ?」

 

「ぜ、全然良くないですよ!」

 

 仁藤の叫び声が虚しくこだまする。

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