上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第26話(4) 狐、その尾を濡らす

                  ☆

 

「鬼ヶ島一美、いつの間に……神不知火さん、貴女の仕業ね」

 

 加茂上が神不知火を睨み付ける。

 

「複雑な造りの施設でしたが、妖力を辿れば居場所を突き止めるのは案外簡単でした」

 

「又左さんが助け出してくれたのよ」

 

 一美が勇次に向かってウィンクする。

 

「そ、そうだったのか……とにかく無事で良かった」

 

「無事……なのかしらね? ちょっと貴女、私の体に妙なことをしていないでしょうね?」

 

 一美が鎌を加茂上に向かって突きつける。

 

「その質問に答える必要はありません……」

 

「は? それって何かしたってことじゃないの⁉」

 

「ならば、嫌でも答えてもらうようにしましょう……」

 

 神不知火が前に進み出る。加茂上が笑う。

 

「まだ私を拘束しようというおつもりですか?」

 

「ええ、貴女の頼みの綱は全て断ち切りましたから」

 

「頼みの綱……ふふっ、せいぜい念の為の保険のようなものですよ」

 

「強がりを……」

 

「それはこちらの台詞です!」

 

「‼」

 

 加茂上の背後に巨大な尻尾が九尾生える。その圧倒的な妖気に対面する神不知火たちが思わずたじろぐ。加茂上は淡々と呟く。

 

「こうなったら、私が直々に始末して差し上げましょう……」

 

「この人数を相手に随分と強気ですね」

 

「ふふっ、大半の方が立っているのがやっとのようですが? 面倒ですから、一気にケリをつけてしまいましょう……『狐火(きつねび)』!」

 

「⁉」

 

 加茂上の手や尻尾から火の奔流が凄まじい勢いで流れ出し、神不知火たちに向かって降り注ぐ。神不知火たちは避けきれず、その火を喰らってしまい、皆が倒れ込む。それを見て、加茂上が高らかに笑う。

 

「ふふふっ! あははっ! 口ほどにもないとはまさにこのこと! もう少し楽しませていただけるかと思いましたが……」

 

「……勝利を確信するのはまだ早いぞ」

 

「なっ⁉」

 

 加茂上の頭上から御剣が斬りかかる。

 

「はあっ!」

 

「ぐおっ!」

 

 御剣の振り下ろした刀の一撃を喰らって、加茂上は階段の下に落下し、床に思い切り叩きつけられる。

 

「……とっさに結界を張ったか、手ごたえが今一つだったな……」

 

 氷の術を使って、御剣は滑るように床に降りてくる。加茂上がゆっくりと起き上がる。

 

「曲江愛さんの治癒能力で回復しましたか。さっさと始末しておくべきでした……」

 

「油断したな」

 

「それにしても、まさか上から斬りかかってくるとは……」

 

「神不知火副管区長が術で飛ばしてくれた。貴様が攻撃に気を取られている間にな」

 

「なるほど……」

 

 加茂上は笑みを浮かべながら立ち上がる。

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

「……ええ」

 

「そうか……」

 

 御剣は刀を構え直す。加茂上は目を丸くする。

 

「ちょ、ちょっと、お待ちください、逆に貴女から聞きたいことはないのですか?」

 

「ない、私は妖絶士、貴様は根絶対象……ただそれだけのことだ」

 

「……黙って根絶されるわけには参りませんね」

 

 加茂上の表情から笑みが消え、冷たい顔立ちになる。

 

「……」

 

「狐火!」

 

「凍撃!」

 

 加茂上の放ったいくつかの火を御剣が氷の斬撃でことごとく凍らせる。

 

「……認めたくはないですが、貴女との相性はあまり良くないようですね……」

 

「私にとっては朗報だが」

 

「戦い方を変える必要がありますね……」

 

「雨でも降らせるか?」

 

「雨?」

 

 加茂上が小首を傾げる。

 

「『狐の嫁入り』というだろう?」

 

「まあ、出来なくもありませんが……」

 

「出来るのか……冗談で言ったのだが」

 

「九尾の狐の半妖ですよ? 大抵のことは出来ます」

 

 加茂上が胸を張る。

 

「胸を張られても困るのだが……」

 

「それは……失礼!」

 

「むっ!」

 

 加茂上が一瞬で御剣の懐に入り、心臓めがけて一本の尻尾を突き出すが、御剣が刀で防ぐ。

 

「さすがの反応ですね!」

 

「なんのこれしき!」

 

「ではこれならどうです⁉」

 

「むうっ⁉」

 

 加茂上の残りの八本の尾が御剣の体を襲う。御剣はかわしきれずに喰らってしまい、後方に倒れ込む。加茂上が尾を動かしながらゆっくりと歩み寄る。

 

「急所を狙ったのですが、八本とも微妙にずらしましたね……器用な真似をなさる」

 

「ぐうっ……!」

 

 御剣はすぐに起き上がり、構えを取る。

 

「貴女がいくら剣術の達人と言ってもたかが知れています……」

 

「何を……!」

 

「まだ分かりませんか⁉」

 

「ぐはあっ!」

 

 加茂上は九本の狐を自在に動かし、御剣の体のあらゆる場所を刺す。

 

「鍛えに鍛えぬいたこの尻尾は、刃のような鋭利さを持っています。言わば『九尾の刃』! たった一本の刀でどう戦うというのです!」

 

「がはっ⁉」

 

 一本の尻尾が御剣の背中に突き刺さる。

 

「軌道は自由奔放……加えて伸縮も自由自在……この武器を持つ私は、貴女にとってまさに相性最悪な相手!」

 

「ふ、ふん!」

 

 御剣は背中に刺さった尻尾を振り払って、なんとか加茂上と距離を取ろうとする。

 

「粘れば粘るほど、辛くなるだけだと思いますが……」

 

「はあ……はあ……」

 

 憐れみを込めた目を向ける加茂上を御剣は睨み付ける。加茂上が首を捻る。

 

「気に入りませんね、まだ目が死んでいない……どこに希望を見出す要素があるのです?」

 

「……勝機がまだあるからだ」

 

「冗談も休み休み言いなさい!」

 

 加茂上が九本の尻尾を一斉に動かし、御剣の体に突き立てる。

 

「……むう!」

 

「なっ⁉ 今度はあえて動かなかった⁉ どういうつもりです⁉」

 

「……頭と首と心臓さえ守れば、なんとかなる!」

 

 御剣は体に力を込める。なんらかの狙いがあることに気が付いた加茂上が動揺する。

 

「くっ、尻尾が突き刺さったまま動かない! おのれ、離れなさい!」

 

「今だ! 愛!」

 

「アップギア……お貸し給へ!」

 

 愛が叫ぶと、サイドカーが出現する。それを横目に見た加茂上が驚く。

 

「バ、バイクの式神⁉ どういうつもり⁉」

 

「こういうつもりだよ!」

 

「⁉」

 

 サイドカーに勇次と一美が飛び乗り、加茂上に向かって猛スピードで突っ込む。

 

「おらあっ!」

 

「ええいっ!」

 

「ぎゃあああっ!」

 

 勇次と一美は突っ込むと同時に、金棒と鎌を振り回して、尻尾を三本ずつ、計六本切断する。加茂上は悲鳴を上げながら倒れ込む。勇次は快哉を叫ぶ。

 

「やったぜ!」

 

「ゆ、勇次、ブレーキは⁉」

 

「え? いや、分かんね」

 

「分かんねって⁉」

 

「「ああああっ!」」

 

 哀れ勇次たちは部屋の壁に派手に衝突する。

 

「……姉弟そろって半妖だ、あれくらいなら大丈夫だろう……」

 

 御剣は形だけ二人の心配をして、倒れている加茂上の下へゆっくりと歩み寄る。

 

「うぐ……」

 

「形勢逆転だな」

 

「お、おのれ……よくも大事な尻尾を……」

 

「どうせ時間を置けば再生するのだろう?」

 

「そ、そういう問題ではありません!」

 

「どういう問題でもいい……再生などさせん!」

 

「くっ!」

 

 御剣が刀を突き刺そうとするが、加茂上が起き上がって、横に飛んでそれをかわす。

 

「ちっ、まだそんな元気があるとは……」

 

「尻尾はまだ三本残っている! 貴女を串刺しにするのは十分!」

 

「むうっ!」

 

「今度こそ終わりよ!」

 

「ぐっ!」

 

「なにっ⁉」

 

 加茂上が驚愕する。突き出した三本の尻尾を御剣が、左手で、靴の裏で、さらに口でくわえて防いでみせたからである。

 

「ふぁんぼんむらいならまんとかなる……!」

 

「そ、そんな馬鹿な……!」

 

「しぇい!」

 

「ぎゃあ⁉」

 

 御剣が右手に持っていた刀を一閃し、残りの三本の尻尾をまとめて切り捨てる。加茂上がまたも悲鳴を上げて倒れ込む。御剣が体勢を立て直し、再び歩み寄る。

 

「覚悟しろ……」

 

「ま、待って!」

 

 半身を起こした加茂上が手を上げて、御剣を制止しようとする。

 

「……」

 

「こ、これまで、決して短くない期間、妖絶講の管区長として、共に職務に励んできた仲じゃない⁉ そんな相手に刃を向けるというの⁉」

 

「はっ、全くどの口が言うのか……それに決して短くない期間、共に職務を励んできて仲だというのなら分からないのか?」

 

「え?」

 

「妖絶士としての私の生き様だ」

 

「生き様?」

 

「そうだ、私……上杉山御剣は躊躇しない!」

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