「ふう……」
「姉ちゃん、大丈夫か?」
隊舎に戻ってきてため息をつく一美を勇次が気遣う。
「え、ええ、大丈夫よ……」
「勇次、一美、御剣が呼んでいるにゃ」
又左が二人に告げる。勇次が頷く。
「ああ、分かった」
「隊長室にいるにゃ」
勇次たちが隊長室へと向かう。勇次が部屋のドアをノックする。
「……鬼ヶ島勇次、鬼ヶ島一美、両名参りました」
「入れ」
「失礼します」
二人が隊長室に入る。自らの席に座った御剣が口を開く。
「先の任務、ご苦労だった」
「いえ……」
「一美もどうだ? 少しは慣れてきたか?」
「徐々に……といったところでしょうか」
一美は苦笑交じりに答える。御剣が頷く。
「まあ、まだ一週間も経っていないからな」
「俺は良いんですが……姉ちゃん、姉に少し負担をかけすぎではないでしょうか?」
「そう思うか」
「ええ……」
勇次が遠慮気味に頷く。御剣が席からゆっくりと立ち上がって説明を始める。
「そもそもとして……勇次、貴様は鬼の半妖だな」
「は、はい……」
「そして一美、貴様は夜叉の半妖だ……」
「はい……」
「貴様らは半分人間で半分妖のいわゆる半妖だということだ。ただ……」
「ただ、両親や祖父母も至って普通の人間なのに、俺たちは“半妖”として生まれてしまったんですよね。残念ながら血筋の問題というわけでもなく」
勇次の言葉に御剣が頷く。
「……血筋に関係なく妖力の高い人間はよく生まれる。そう珍しいことでは無い」
「そう聞きました。確率としては……百人に一人位だと」
「ああ、そうだな」
「それってそんなにレアじゃないですよね……」
「姉弟揃ってガッカリするところが違うと思うのだが……」
肩を落とす一美に対し、御剣が呆れる。勇次が話を続ける。
「で、俺たちは結局何だったんでしたっけ?」
「貴様らは“そう珍しくは無い半妖の中では結構珍しい種族の半妖”だと判明したのだ」
「や、ややこしいですね」
一美が困惑する。
「貴様らの優先すべき課題は“半妖としての力をコントロールすること”だ」
「コントロール……」
「そうだ、半妖の力が暴走すれば、人間に仇なす危険な存在とみなされ、『根絶対象』になってしまう恐れがある」
「『根絶対象』……」
「万が一暴走してしまったりすると、隊長が俺たちのことを一切の躊躇いなく殺しに来るってわけだよ」
「躊躇いなく、情け容赦なくな」
御剣が淡々と告げる。勇次はため息をつく。一美が問う。
「そ、そうならないようにするにはどうしたら良いのでしょうか?」
「妖絶士としての経験を積む他あるまいな、多少ハードではあるが、時間は待ってくれない。故にほぼ連続で任務に赴いてもらっている」
「なるほど……」
「実はまた任務があるのだが……」
「さ、さすがにさっきの今というのは……!」
御剣に詰め寄ろうとする勇次を一美が制する。
「いえ、成長することが自身の身を守ることに繋がる……その任務、任せて下さい」
「そう言ってもらうと助かる……顔合わせも兼ねてこの地点に援護に行ってもらいたい」
御剣は部屋のモニターに表示された地図のあるポイントを指し示す。一美が頷く。
「分かりました」
「相手の妖は大したことはない。もちろん油断は禁物だが……勇次もよろしく頼む」
「はい。それでは直ちに向かいます!」
一美と勇次が部屋を出る。
「おらあっ!」
金髪のウルフカットで長身かつ豊満なスタイルの女性がメリケンサックをはめた拳と安全靴を履いた足を振り回し、妖を片っ端からあっという間に霧消させてしまう。
「さすがですね、上杉山隊の特攻隊長、
「へへっ、これくらい造作もねえぜ!」
一美から千景と呼ばれた女性はそのサラシで巻いた大きな胸やムチムチっとした太ももを揺らしながら答える。勇次は男の悲しい性でそれをついつい目で追っかけてしまうが、慌てて視線を逸らす。一美が笑顔で話す。
「それにしても見事な戦いぶりです。援護は全く必要なかったようですね」
「まあ、壬級や癸級ばっかりだったからな」
「妖は上から
「おっ、覚えるのが早いね~勇次なんてまだ怪しいのに」
千景が笑う。勇次がムッとする。
「俺は感覚派だから良いんだよ」
「それもどうかと思うけどよ、アタシが言えたことじゃないが……」
「新人隊員ですから、そういうことから皆さんに追いついていかないと……」
「~えらい! さすが姉さんだ!」
「あ、姉さん? 樫崎さん、私のことは一美で構いません」
「いや~勇次のお姉さんを呼び捨てなんてとてもとても……将来的なこともあるし……」
千景が長身をモジモジとさせる。一美が苦笑する。
「将来的なことって……」
「あ、アタシのことは千景で構いませんぜ! 姉さん!」
「そ、それはもうちょっと仲良くなってから……周辺を見回りしてきます」
一美がその場を離れる。千景が舌打ちしながら後頭部を掻く。
「ちっ、少し先走っちまったか……?」
「……ふむ、とくに妖の反応は残っていないわね」
「残存する妖は俺が根絶しました……」
暗い場所から、黒装束に身を包んだ男が声をかけてくる。突然、声をかけられたにもかかわらず、一美は落ち着いて会釈する。
「ああ、
「!」
「ど、どうしたの、そんな驚いた顔をして……」
「お、俺のことをご存知で……?」
「そりゃあ知っているわよ。勇次と中学の野球部でバッテリーを組んでいたでしょう? よく応援に行っていたし。まさか忍者だとは思わなかったけど」
「くっ……」
「ど、どうして泣いているの?」
「忍びの悲しい定めか……誰も俺のことなど忘れてしまうのです、この隊でも……忍び過ぎて、存在感がすっかり希薄に……」
「ゆ、優秀過ぎるのも考えものなのね……」
一美はなんとも言えない笑みを浮かべる。