上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第29話(2) 手合わせ

「なんだと……?」

 

「ね、姉ちゃん! いきなり何を言い出すんだよ!」

 

「いや、つい勢いで……」

 

 一美が自らの後頭部を抑える。

 

「勢いでわけわかんねえことを言うなよ!」

 

「でも……ちょっとこっち来て」

 

 一美が勇次を隊長室の隅に連れていく。

 

「なんだよ?」

 

「いいの?」

 

 一美が小声で尋ねる。

 

「なにがだよ?」

 

「このままだと、あの坊主頭さんと隊長さんが正式にお付き合いすることになるかもしれないのよ?」

 

「そうか? 隊長は負けないと思うけどな……」

 

「いや、あの坊主頭さん……相当やりそうよ?」

 

「それは俺も分かるけどさ……」

 

「でしょ?」

 

「仮にそういう結果になったとしても、俺がどうこう言うことじゃないからな……」

 

「そこはどうこう言いなさいよ!」

 

 一美が怒鳴る。勇次が戸惑う。

 

「一体何を怒鳴られているんだよ……」

 

「いい? 私はアンタと隊長のことを応援しているの」

 

「? ああ、いつもありがとう」

 

「あ~! だから、そういうことじゃなくて!」

 

 一美が頭を抱える。

 

「何をさっきから大声出しているんだよ?」

 

「私の人生の展望を聞いてくれる?」

 

「い、いきなりなんだよ」

 

「色々過程はすっ飛ばすけど……」

 

「いや、すっ飛ばすなよ」

 

「いいから。あのクール&ビューティーな隊長が私のことを『一美お義姉さん』とか言ってくれたらどうしてなかなか素敵だと思わない?」

 

「さっきから何を言っているんだよ……」

 

 勇次が困惑する。

 

「それを横からしゃしゃり出てきた謎の海坊主に邪魔されたくないの」

 

「おい、聞こえているぞ、誰が海坊主だ」

 

 一慶がムッとする。

 

「あら、ごめんあそばせ、おほほ……」

 

 一美が口元を抑えて笑う。御剣が真剣な表情で一慶に問う。

 

「……海坊主の半妖だったのか?」

 

「違えよ」

 

「冗談だ」

 

「真顔で言うな」

 

「しかし……どうだろうか?」

 

「何がだ?」

 

「勇次との手合わせだ」

 

「おいおい、こいつは妖絶講に入って一年も経ってねえだろう?」

 

「そうだな」

 

「そんなルーキーボーイと俺に手合わせしろと?」

 

「得るものがあるかも知れんぞ?」

 

「いやあ、無えだろう~」

 

「……勇次は鬼の半妖だぞ」

 

「! そういえばそうだったな……」

 

 一慶が勇次を見つめる。

 

「頼む。手合わせしてもらえないか? 勇次の現時点での実力を計りたい」

 

「俺は物差しかよ……」

 

「どちらかと言えば分度器だな」

 

「丸みで判断すんな」

 

 一慶は自らの坊主頭を抑える。

 

「では……」

 

「ん?」

 

「管区長命令だ。古前田隊隊長古前田一慶、上杉山隊との合同訓練に参加せよ」

 

 御剣が居住まいを正して告げる。

 

「命令ときたか……」

 

 一慶が自らの頭を撫でる。

 

「どうする?」

 

「分かった、分かった、やれば良いんだろ」

 

「では、隊舎正面に出るぞ」

 

 御剣が席から立ち上がり、すたすたと隊長室を出る。

 

「ったく……」

 

 一慶がその後に続く。

 

「随分と妙な展開になったわね……」

 

「誰のせいだよ」

 

 勇次が一美に冷ややかな視線を向ける。

 

「……では、双方準備は良いな? 手合わせを始めろ」

 

「ちょ、ちょっと待って下さい」

 

「どうした勇次?」

 

「い、いや、古前田隊長のご準備がまだのようですが……」

 

「問題ねえぞ?」

 

 一慶が屈伸をしながら答える。金棒を持ちながら勇次が尋ねる。

 

「え? あの……武器は?」

 

「要らねえ」

 

「あ、素手で戦われているのですか?」

 

「いや、普段は武器を持っているさ。ただ、こんな展開になるとは思ってなかったからな」

 

「武器の貸し出しなら出来ますが……」

 

「自分のなら転移鏡の側に置いてあるよ」

 

「で、では、それを……」

 

「だから要らねえって……お前程度なら素手で十分だ」

 

「!」

 

「さあ、かかってこいよ……」

 

 屈伸を終えた一慶が手招きをする。勇次が顔を険しくしながら問う。

 

「……本気でいきますよ?」

 

「当然だ、訓練にならねえからな」

 

「はああ……」

 

 勇次が気合を込める。一慶が目を見張る。

 

「おおっ、頭に角が生えて……全体的にほんのりと赤くなっているな……」

 

「はあっ!」

 

「! よっと!」

 

「⁉」

 

 飛びかかった勇次だが、次の瞬間、地面に転がっていた。一慶が呟く。

 

「まあ、筋は悪くねえみたいだけどな……」

 

「な、なにを……?」

 

「ちょっと風を読んだだけさ。さあ、御剣、俺と手合わせしようぜ」

 

「……すまんが、これから北海道へ行かなくてはならないのでな。また今度にしてくれ」

 

「北海道? 奇遇だな、俺もちょうど行こうと思っていたんだ。飛行機でな」

 

「なに?」

 

「はっはっは、気が合うねえ~」

 

 一慶がからからと笑う。

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