上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第6話(1) 何の変哲もない女子高生

                   陸

 

「あんなことがあった次の日に学校ってのもなかなかダルいよな……」

 

「……」

 

「っていうか、狭世じゃなくても妖って襲ってくるんだな」

 

「……」

 

「そういや、和子さん昨夜のこと覚えていなかったな。まあ忘れてもらって良いんだが」

 

「……」

 

「おい、なんか反応しろよ」

 

「……お願いですから破廉恥の塊が口をきかないでもらえますか」

 

「もはや人扱いすらされていない⁉」

 

 そんなやりとりをしながら教室に入った勇次と愛は驚く。

 

「おはよう、二人とも」

 

「なっ……⁉」

 

「隊、う、上杉山さん⁉ なんでここに⁉」

 

「学生だからな、登校している」

 

「そういうことではなくて……」

 

「そろそろ朝のHRが始まるぞ」

 

 御剣が勇次たちに席につくように促す。愛が小声で尋ねる。

 

「まさか……また妖ですか?」

 

「いや、今日はそういうわけではない。単に来てみただけだ」

 

「来てみただけ⁉」

 

「折角、色々と誤魔化して学籍も取得したわけだからな、使わなければ損だろう」

 

 愛が呆れ気味に尋ねる。

 

「それなら別に万夜さんの学校でも良かったんじゃないですか?」

 

「おいおい、万夜の通っている学校は超のつくお嬢様学校だぞ。そんな所に私が行ってみろ。浮いて浮いてしょうがないだろう」

 

「浮く浮かないの概念はお持ちなんですね」

 

「ここでも十分に浮くと思いますけど……既に浮いてるし」

 

「何だと? 一体どこがだ? どこからどう見ても何の変哲もない女子高生じゃないか」

 

 勇次の言葉に御剣が不服そうな顔を見せる。

 

「まず、腰のそれですよ! 何の変哲もないJKは普通腰に刀を帯びないんですよ!」

 

「そ、そうなのか……?」

 

 御剣は刀を手に取りながら露骨に戸惑う。

 

「困惑されてもこっちが困りますよ! 何で昨日は持っていなかったのに、今日は持ってきちゃったんですか⁉」

 

「昨日の今日だからな、やはり携帯しておいた方が良いと思ってな」

 

「現世ではアウトって常識でしょ! ここがコスプレ会場だったらギリギリイケるかもしれませんけど!」

 

「刀剣好きが高じた女子高生とでも言えば問題ないと億葉から教わったのだが……」

 

「ロクなこと教えねえな、アイツ……」

 

 勇次が両手で頭を抱える。愛がため息混じりに呟く。

 

「はあ……とにかく大人しくしておいて下さいね」

 

「任せろ。気配を殺すことは得意だ」

 

「誰もそこまでしろとは言っていません」

 

「このようにナポレオンのロシア遠征は失敗に終わりました……では、どうすれば良かったのかな? 上杉山さんはどう思う?」

 

「……」

 

「いやいや、ちょっと難しい質問だったかな?」

 

「まず防寒対策をもっとしっかりと入念に行うべきだったかと考えます」

 

「え?」

 

「更に言えば、兵站が不十分であったとの記録もあります。補給が滞ってしまえばどんな精強な軍隊でも継戦行動は不可能です。そもそもとして歴史を学ぶ上で、『もしも』などとという考え方を持つこと自体が……」

 

「あ、ああ……」

 

「う、上杉山さんは歴史シミュレーション大好きだものね!」

 

 愛がわざとらしく大声を上げる。世界史の教師が頷く。

 

「そ、そうなんだね、ゲームも案外馬鹿には出来ないものだからね、ははっ……」

 

 教師は御剣の席から離れた。次の休み時間、御剣は時間割を見て呟く。

 

「次は体育か。女子は体力テストと聞いたが」

 

「上杉山さん、ジャージは……」

 

「心配無用だ。用意してある」

 

「素直に見学して欲しかったです……更衣室はこちらです……」

 

 愛は御剣を案内する。勇次は苦笑する。

 

「大変だな、愛も……ん?」

 

 勇次は視線を感じ、周囲を見回す。しかし、視線の主は見当たらなかった。

 

「気のせいか……男子はバスケか。さて、俺も更衣室に行くか」

 

 体育の授業が終わり、女子生徒たちが教室に引き上げてきた。

 

「凄いよ、上杉山さん! インターハイとか行けるんじゃない!」

 

「陸上部に入らない?」

 

「いやいや、球技なんかどう?」

 

 興奮気味の女子生徒たちに囲まれる御剣。その隣で愛が軽く額を抑える。

 

「申し訳ないが、興味がない。他をあたってくれ」

 

 残念そうな女子生徒たちの言葉を余所に御剣は席についた。そうしている内に怒涛の女子高生体験二日目も放課後を迎えた。またも御剣がクラスメイトたちから遊びの誘いを受けたが、愛が体よく断って、教室には勇次たち三人が残るのみとなった。

 

「どうした愛、帰らないのか?」

 

 勇次は座ったまま頭を抱える愛に対して声を掛ける。

 

「……」

 

 勇次が苦笑混じりに御剣に尋ねる。

 

「体育でまたやらかしたんでしょう、隊長?」

 

「またとはなんだまたとは。普通の女子高生らしくつつがなくこなしたぞ」

 

 愛がドンと机を叩く。

 

「どこがつつがなくですか! 普通の女子高生はナポレオンの遠征について持論を展開しませんし、体力テストで県の記録をことごとく破らないんですよ!」

 

「ええっ⁉ ああ、インターハイ云々ってそういう……」

 

「手加減したんだが……」

 

「足加減して下さい!」

 

「足加減って……愛、少し落ち着けよ」

 

「落ち着いていられないわよ! 隊長、あんまり悪目立ちすると、学籍を偽造した件もバレて、色々と面倒なことになりますよ!」

 

「そう言われるとそうだな……済まなかった、今後は気を付ける」

 

 御剣が愛に頭を下げる。それを見て愛は冷静さを取り戻す。

 

「……いえ、私も言い過ぎました。帰りましょうか」

 

 教室を出る愛に二人の女子生徒が声を掛ける。

 

「あ、いたいた! 愛ちゃん!」

 

「佐藤先輩、鈴木先輩、どうかしたんですか?」

 

「どうかしたじゃないよ! 今日は部活出れるって言ったじゃない!」

 

「ああ、そうでした……」

 

「頼むよ~活動実績が無いと、即廃部になっちゃうんだから、『オカルト研究部』!」

 

「愛、そんな部活に入っているのか……」

 

 御剣が腕を組んで呟く。愛が小声で話す。

 

「どうしてもと頼まれたので……同じ中学の先輩ですし、断りきれなくて……」

 

 愛の言葉に勇次は納得する。勇次も見掛けたことのある顔だったからだ。

 

「すみませんが、私はここで失礼します!」

 

 二人に引きずられる様に愛はその場を去る。

 

「じゃあ、帰るか、貴様の家に」

 

「はい……って、ええっ⁉」

 

 御剣の突拍子も無い言葉に勇次は驚く。

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