上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第10話(1) 山牙の槍

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「さっさと終わらせる……!」

 

「!」

 

 山牙があっという間に距離を詰めてきたため、愛はすぐさま後退しながら形代を四枚投げつけて唱える。

 

「朔月望……宿り給へ!」

 

「⁉」

 

 四体の朔月が山牙を取り囲み、攻撃を仕掛ける。四方からの素早い攻撃だったが、山牙は戸惑いつつも、槍を振り回して、その攻撃を受け止めてみせる。

 

「ちっ、そういう術か……マジでウザいな……」

 

 山牙は舌打ちする。愛が叫ぶ。

 

「速さと手数で圧倒します!」

 

「ふん……竹落葉!」

 

「なっ!」

 

 山牙の繰り出した槍の連撃に、四体の朔月は頭部を貫かれ、紙きれとなる。山牙は槍を肩に担ぎながら笑みを浮かべて呟く。

 

「手数なんてこうやって補えば良いだけ……」

 

「くっ……」

 

「それに速さは本人ほどじゃないね」

 

 山牙は再び距離を詰めようとするが、言葉の調子とは裏腹に今度はゆっくりと歩いて愛に近づく。愛は形代を四枚投げつけて唱える。

 

「火場桜春! 宿り給へ!」

 

「! へえ、今度は火場か……」

 

「速さが駄目なら、力はどうです⁉」

 

 四体の火場が山牙に飛び掛かる。次々と繰り出される攻撃をなんとか躱しつつも、山牙は顔をしかめる。

 

「一人でもウザいってのに四人もいるとかウンザリだね……!」

 

 山牙は槍を振るう。

 

「ふん!」

 

「ちっ!」

 

 素早い振りだったが、一体の火場が槍を掴む。

 

「ぬん!」

 

「どわっ⁉」

 

 火場が掴んだ槍を持ち上げる。小柄な山牙の体は宙に浮く。

 

「せい!」

 

「ぐっ!」

 

 火場が槍を思い切り振りおろし、山牙の体は地面に勢い良く叩き付けられる。

 

「がはっ……」

 

 山牙が呻き声をもらす。愛が静かに呟く。

 

「槍を手放せば良かったのに」

 

「……戦いの最中に武器を捨てる阿呆はいないでしょ……」

 

 そう言いながら、山牙はのっそりと起き上がると槍を両手で掴み、杖代わりにしてゆっくりと立ち上がる。愛は山牙の耐久力に内心驚く。

 

(⁉ 今の攻撃を喰らって、なおも立ち上がる⁉)

 

「さあ、続けようか……」

 

 とはいえ、効いていないわけではないようで、山牙の足取りは若干ふらついている。愛は諭すように話しかける。

 

「……倒れていた方が楽だったかもしれませんよ?」

 

「はっ? 余裕だし」

 

「強がりを……」

 

「マジだから、大したことないね、アンタの手品」

 

「! ならば畳みかける!」

 

 愛が手を振ると、四体の火場が再び山牙に襲い掛かる。山牙はボソッと呟く。

 

「馬鹿力には馬鹿力だ……」

 

「⁉」

 

「岩山!」

 

「なっ⁉」

 

 山牙がそう叫ぶと、彼女の両の細腕が、山が隆起したように盛り上がり、倍以上の太さとなり、四体の火場の攻撃を受け止めた。

 

(あれは山地系統の術⁉ それにしてもあのような使い方をするなんて……自身の体に相当な負担が掛かるのでは?)

 

「うおりゃあ!」

 

「!」

 

 山牙が四体の火場をはねつけて、間髪入れす反撃に移る。

 

「弱い!」

 

「!」

 

「遅い!」

 

「!」

 

「温い!」

 

「!」

 

「甘い!」

 

「!」

 

山牙の繰り出した鋭く力強い突きに反応しきれず、四体の火場は頭部を貫かれ、単なる紙きれとなって、その場に落ちる。

 

「うおりゃあ! とか吠えちゃったよ、我ながらダサ……」

 

 山牙は苦笑しながら、愛に向き直る。

 

「さあ、速さも強さも封じたよ、そろそろネタ切れじゃない?」

 

「ぐ……」

 

「随分苦しそうだね」

 

「……」

 

「隠しているつもりでも呼吸の乱れが感じられるよ。アタシの目は誤魔化せない、この手品、相当消耗するんでしょ?」

 

「……手品などではありません」

 

 愛はややムッとして答える。

 

「体力をそんなに削られているようじゃん。術に振り回されているようじゃ術とは呼べないね。アタシの持論だけど」

 

「お説教は結構!」

 

「それもそうだね、アタシも柄じゃないと思っていたし……」

 

 山牙は片手で持っていた槍の柄をもう片方の手でポンポンと叩き、次の瞬間、愛に向かって飛び掛かる。

 

「くっ!」

 

「させないよ!」

 

「ぐっ!」

 

 形代を投げようとした愛の右腕を山牙の槍が突き刺す。愛は痛みに顔をゆがめる。

 

「……!」

 

「おっと!」

 

「うっ⁉」

 

一瞬の間を置いて、愛は左腕で形代を投げようとしたが、再び山牙の槍で刺される。

 

「これで両腕は塞いだよ、次はどうする? 足で投げる?」

 

「そんな器用なマネは出来ません……」

 

「そりゃ残念、少し期待したのに。これで終わりにするよっと―――!」

 

「!」

 

 山牙が情け容赦なく自身の腹部に向けて槍を繰り出してきたのが見えて、愛は思わず目を瞑る。しかし、腹部には予想された痛みが走らなかった。不思議に思って目を開けると、そこには山牙の槍を金棒で受け止める勇次の姿があった。

 

「ゆ、勇次君!」

 

「悪い、ちょっと遅くなった! 選手交代だ! 後は俺がやる!」

 

 勇次は山牙の槍を弾いて叫ぶ。


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