上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第11話(1) 御剣の考え

                  拾壱

 

「……まあ、振り返ってみれば良い対抗戦だったと言えるかもしれないわね」

 

「総括にしては少々楽観的過ぎるかもしれませんが……」

 

 隊舎の隊長室に備えられた専用回線でビデオ通話をする御剣はため息混じりに答える。通話の相手である雅はお気楽な声色を崩さず、話を続ける。

 

「分かったことがいくつかあるもの。これは収穫じゃない?」

 

「収穫?」

 

「まず一つ、干支妖は相も変わらず各々が勝手気ままに動いているということ」

 

「断定するには早い気もしますが……」

 

「あの天寅という妖は昔から関西、畿内を中心に活動するのよ」

 

「なかなかお詳しいですね」

 

「……文献資料によるとね。こほん」

 

 雅がわざとらしく咳払いをする。

 

「互いに綿密な連携を取るなら、各々が勝手知ったる地方で動き回った方が色々と都合が良いじゃない? そう思わない?」

 

「そういう考え方もあるかとは思いますが、その点に関しては保留ですね」

 

「じゃあ何? 連中が組織だって動いているということ?」

 

「可能性はあります」

 

「あり得ない! あの天寅とは初対面だったけど、私の知っている何体かの干支妖は私たち妖絶講と争いながらも、互いにいがみ合い、騙し合い、潰し合ってきた存在よ?」

 

「……随分と事情通のようで」

 

「……これも文献資料の受け売りだけどね。ごほん!」

 

 雅が今度は強めに咳払いをする。御剣が説明する。

 

「私が言いたいのは最悪の事態も想定しておいた方が良いということです」

 

「連中が組織的に動くということ?」

 

「いえ、もっと大変なことです」

 

「つまり?」

 

「……こればかりはもう一度くらい連中と遭遇してみないことには分かりません」

 

「とは言っても神出鬼没な相手だからね……」

 

「私は連中と不思議な縁があると思います。縁と言っても因縁みたいなものですが……」

 

 御剣は子日と丑泉の存在を思い浮かべながら話す。

 

「そう言えば御剣っちは交戦経験があったわね」

 

「ええ」

 

「まあ、この件は良いわ。もう一つ、鬼ヶ島勇次君を狙う勢力の存在よ」

 

「目的はなんでしょうか?」

 

「そこまでは分からないけど、先の対抗戦では、直接的手段だけでなく、間接的な手段も併せて用いてきていたわね」

 

「間接的な手段……山牙の暴走ですか」

 

「そうよ」

 

「誠にすみません」

 

「え? なにが?」

 

 急に頭を下げる御剣に戸惑う雅。

 

「私も武枝も山牙になにか仕込んだのは雅さんの仕業かと思っていました」

 

「ちょっと、ちょっと、あまりに偏見が過ぎるでしょ、それは」

 

「ですから謝罪しております。すみません」

 

「しょうがないわね、色々と前科があるから」

 

 雅は苦笑する。

 

「頭を上げて。話を戻しましょう。私は何者かが、山牙ちゃんをマインドコントロールしたと見ているの……こう言っては失礼だけど、元々、結構歪みのある性格の娘みたいだしね」

 

「その何者かが勇次を殺すように仕向けたと……?」

 

「ええ、それが不首尾に終わったのを見て、あのロン毛君、天狗の半妖が出てきた……もっとも狙い通りだったのかもしれないけどね」

 

「狙い通り?」

 

「そう、曲江ちゃんの報告とドローンで撮影された映像によると、山牙ちゃんとの戦いの最中、鬼ヶ島君の妖力が一段階上に覚醒したことが窺えるわ。御剣っちも見たでしょ?」

 

「それは確認しました。力を目覚めさせることが目的だったということだったですか」

 

「私はそうだと見ているわ」

 

「勇次を窮地に追い込むことによって、その力をより覚醒させるのが狙いだった……成程、それならば辻褄は合うか?」

 

「何か思い当たる節でもあるの?」

 

 俯いて小声で呟く御剣に雅は尋ねる。御剣は首を振る。

 

「ああ、いや、まだ推測の域を出ていませんので……」

 

「聞かせて欲しいわね」

 

「もう少し確信が持てる材料が揃った時、お話しします」

 

「慎重なことね……まあ、いいわ。今の話に関連することなのだけど……」

 

「金糸雀色の髪をした女のことですか?」

 

「そうよ、曲江ちゃんの証言は確かなの?」

 

「愛は基本的には冷静な性格です。いい加減なことは言いません」

 

「では……あの恐らく半妖と見られる女は……」

 

「当の勇次本人がまだ混乱しておりますので、確実とは言い切れませんが……顔立ちや体付きから判断する限り、行方不明になっていた鬼ヶ島一美(おにがしまかずみ)本人だと思われます」

 

「ふ~ん、そうなると姉弟揃って半妖の血の持ち主か……全く聞かない話でもないけど、わりとレアなケースではあるわね……時に御剣っち」

 

 雅は御剣をビシッと指差す。

 

「なんでしょうか?」

 

「もしも上が……妖絶講本部が鬼ヶ島君のお姉さんを根絶対象としたら―――」

 

「無論、絶やします」

 

「そ、即答……躊躇いがないわね……」

 

「それが妖絶士としての務めですから」

 

「そ、それはまあ、そうなんだけどね……う~ん」

 

 雅が頬杖をついて考え込む。少し間を空けてから御剣がゆっくり口を開く。

 

「……本音を言えばそういう事態にならないように願っています。事実をしっかりと見極める時間が欲しいですね」

 

「ふふっ、私に根回しをしろってこと?」

 

「色々とお顔が広くいらっしゃるので」

 

「色々と、ね……」

 

 御剣の言葉に雅が笑みをこぼす。

 

「大事な隊員の家族を手にかけるのは避けたいのです」

 

「分かった、関係各所に働きかけてみるわ」

 

「よろしくお願いします」

 

 御剣は頭を下げる。

 

「なにかあったらまた連絡するわ。まあ、近々管区長会議があるみたいだけどね」

 

「管区長会議ですか……」

 

「鬼ヶ島君のことも含めて、いい報告が出来ると良いわね」

 

「努力します」

 

「それじゃあこの辺で……ご苦労様~」

 

「お疲れ様です」

 

 通話が切れ、隊長室に沈黙が訪れる。御剣はドアの向こうに声を掛ける。

 

「盗み聞きとは感心せんな、又左」

 

「ドアが少し開いていると思って近づいただけにゃ……」

 

 又左が隊長室に入ってくる。

 

「怪我の具合はどうだ?」

 

「もう平気にゃ、ヤワな鍛え方はしてないにゃ」

 

「勇次たちはどうしている?」

 

「しばらく自宅で静養していたが、今日は学校に行っているようだにゃ」

 

「学校か……」

 

 御剣は腕を組んで考え込む。


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