上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第11話(3) 呼び寄せてしまいましたとさ

 放課後、勇次たちの教室に集まる上杉山隊の面々。

 

「何事もなくて良かったな」

 

「何事だらけだったでしょ!」

 

 御剣の発言に愛は思わず声を荒げる。

 

「おいおい、どうしたんだよ」

 

「いつも冷静沈着な愛さんらしくないですわね」

 

「曲江氏、何かあったでございますか?」

 

 隊服に着替えた億千万トリオが心配そうに席に座る愛を覗き込む。

 

「~~~! 原・因・は! 貴女方でしょう⁉」

 

 愛は立ち上がって、三人をリズムよく指差す。

 

「「「ええっ⁉」」」

 

「何で揃いも揃って『そんなこと言われるのはちょっと心外だな』、みたいなリアクション⁉ 良いですか! まず億葉さん!」

 

「は、はい!」

 

「何が地球の鼓動を感じろ、ですか! 冷たい床の感触しかしませんでしたよ!」

 

「若い人たちに科学を好きになってもらいたくて……」

 

 億葉は後頭部を掻く。

 

「次に千景さん!」

 

「お、おう」

 

「授業に竹刀を持ち込むとかいつの時代ですか⁉ いやむしろどの時代にもいませんよ!」

 

「あ、あれは気合いの表れというか、なんというか……」

 

 千景は俯いてボソボソと呟く。

 

「それから万夜さん!」

 

「え、ええ」

 

「一般人相手に術を使わないで下さい! 全員回復させるのにどれだけかかったか!」

 

「フォ、フォもわず力が入ってしまって……」

 

 飴を舐めながら、万夜が項垂れる。

 

「最後に隊長!」

 

「わ、私か⁉」

 

 怒りの矛先を向けられた御剣は驚く。

 

「この三人の狂気、愚行、暴走を阻止しなかった……それどころかむしろそうなるように仕向けた! これは隊長としての監督不行届を通り越して、重罪ですよ!」

 

「そ、そこまで言うか……」

 

「言います! ……うっ」

 

 愛が頭を抑える。勇次が声を掛ける。

 

「あ、愛?」

 

「力を少々使い過ぎたわ……」

 

「大丈夫か?」

 

「平気よ、少し横になれば……保健室で休んできます」

 

 多少ふらつきながら、愛は教室を出ていく。

 

「……怒られたじゃないか、大体貴様ら悪ノリが過ぎるぞ」

 

「いや、自分は関係ないみたいに言うなよ!」

 

「フォモ……そもそもとして監督責任ですわ!」

 

「曲江氏の言う通りであります!」

 

「……悪かったな、後で皆、愛に謝りに行くぞ」

 

「い、いや、今行った方が良いんじゃないですかね?」

 

 勇次が頬を掻きながら呟く。

 

「用事が済んでからな」

 

「用事?」

 

 勇次が首を傾げる。それと同時に勇次の妖レーダーのアラームが教室中に響き渡る。

 

「うおっ⁉ び、びっくりした!」

 

「レーダーが反応したか」

 

「ここ最近はアラームを切っていたからかな……久々に聞いたら、結構な音量ですね」

 

「音量がデカいっていうことはそれだけヤバい妖ってことなんだよ」

 

 千景が勇次に教える。

 

「そ、そうなのか? おっ、アラーム切っても振動が収まらねえ⁉」

 

「隊長、この狭世……相当な規模であると同時に、かなりの濃度を感じます」

 

 万夜の言葉に御剣が頷く。

 

「確かにこの濃さは気になるな……よし、三手に分かれるぞ。私は校舎の屋上と三階を調べる。勇次と万夜は校庭と体育館を調べろ。億葉は原因を究明しつつ、二階と一階を調べてくれ、千景はその援護を頼む」

 

「了解!」

 

 御剣の指示を受け、全員が行動を開始する。千景が振り返って尋ねる。

 

「そうだ、姐御、愛はどうする⁉」

 

「少し休ませておけ。あの調子ではすぐに戦闘に移るのは無理だろう。一応各自互いに連絡は取れるようにしておけ!」

 

 そう言って御剣は走り出す。

 

(まずは屋上に上がって、全体を見渡すか……)

 

 御剣は屋上に飛び出す。

 

「億葉よ、原因を究明しろって言われたけどどうする気だ?」

 

「ふっ、大方の見当はついております……」

 

 億葉は眼鏡をクイッと上げて得意気に答える。

 

「マジかよ⁉」

 

「この事態を想定していたから学校に集まっていたのか?」

 

 階段を駆け下りながら、勇次は万夜に尋ねる。

 

「ええ、ここまでの規模は予想していませんでしたけど」

 

「さっき濃度がどうとか言っていたな?」

 

「狭世にも薄さ濃さというのがあります」

 

「ヤバい妖がいると濃くなるのか?」

 

「まあ、そういう認識でも構いませんが、より問題なのは……」

 

「問題なのは?」

 

「ひいっ!」

 

 悲鳴を聞いて目線をやると、プールの近くで用務員の男性が腰を抜かしている。その側に妖が立っている。万夜が叫ぶ。

 

「狭世が濃いと、あのように一般の方が迷い込みやすくなってしまうのですわ!」

 

「成程な!」

 

 勇次が男性を守る様に妖の前に立つ。

 

「きゃあ!」

 

「い、嫌……」

 

 悲鳴を聞いて、千景と億葉がある教室に入ると、隅で二人の女子生徒が怯えている。その

 

反対方向に妖が立っている。

 

「こ、こいつは……」

 

「御剣氏、聞こえますか、原因が分かりました」

 

「……ああ、ちょうど私も分かった。一応教えてくれ」

 

「……二人の女子生徒が『こっくりさん』を行っていたようです」

 

「オカルト研究部か……」

 

 億葉の報告を受け、御剣は先日見かけた二人の女子生徒の顔を思い浮かべる。そのやり取りを聞いていた勇次が尋ねる。

 

「ど、どういうことなんですか⁉」

 

「人の多く集まる場所に妖が寄ってきやすい。特に若々しい気が集う学校という場所は奴らにとっては恰好の餌場みたいなものだ」

 

「ああ、それで……」

 

「そこにご丁寧に呼び寄せてしまったわけだ……『狐狗狸(こっくり)さん』を!」

 

 御剣の真ん前に狐の顔をした人型の妖が、千景と億葉の前側に(いぬ)の顔をした人型の妖が、勇次と万夜の目の前に(たぬき)の顔をした人型の妖がそれぞれ立ちはだかる。

 

 


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