上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第14話(3) 優先課題

「俺だけ個別に反省会ですか?」

 

 後日、隊長室に呼ばれた勇次は椅子に座る御剣に問う。

 

「まあ、貴様は反省することが多いからな……状況判断の甘さ、油断のしやすさ、確認不足、根本的な戦い方、その他エトセトラ……」

 

「そ、そんなに多いんですか……」

 

 肩を落とす勇次を見て、御剣が微笑む。

 

「まあ、そうは言っても貴様はまだ妖絶士としての経験が浅い。その辺りの課題はおいおい解決していけばいいとして、もっと重要な問題がある」

 

「重要な問題?」

 

「貴様は半分人間で半分妖のいわゆる半妖だということだ」

 

「……ああ、両親や祖父母も至って普通の人間なのに、俺は“鬼の半妖”として生まれてしまったんですよね。残念ながら血筋の問題というわけでもなく」

 

「……血筋に関係なく妖力の高い人間はよく生まれる。そう珍しいことでは無い」

 

「そう聞きました。確率としては……百人に一人位だと」

 

「ああ、そう言ったな」

 

「それじゃあそんなにレアじゃねえじゃん……ってガッカリしたのを覚えていますよ」

 

「ガッカリするところが違うと思うのだが……」

 

 肩を落とす勇次に御剣が呆れる。勇次がハッと顔を上げる。

 

「で、俺は結局何だったんでしたっけ?」

 

「貴様は“そう珍しくは無い半妖の中では結構珍しい種族の半妖”だと判明したのだ」

 

「あ、相変わらずややこしいな」

 

 勇次は肩をすくめる。

 

「貴様の優先課題は変わらず“半妖としての力をコントロールすること”だな」

 

「コントロールですか……」

 

「そうだ、半妖の力が暴走すれば、人間に仇なす危険な存在とみなされ、『根絶対象』となってしまう恐れがある」

 

「万が一暴走してしまうと、いつかのように隊長が俺のことを一切の躊躇いなく殺しに来ちゃうわけですね」

 

「躊躇いなく、情け容赦なくな」

 

 御剣が淡々と告げる。勇次はため息をつく。

 

「……そうならないように気をつけます……とは言っても、一体何をどう気をつけたらいいものでしょうか?」

 

「ふむ、併せてその話もしようと思っていた。貴様はある一定の条件を満たすと、半妖としての力を覚醒させる傾向が見て取れる」

 

「ある一定の条件?」

 

 勇次が首を捻る。

 

「そうだ、感情が高ぶったとき……要は怒りがこみ上げたときだな、貴様の頭部にはまさに鬼のような角が生え、体全体がなんというかこう……ほんのりと赤くなる」

 

「なんですか、ほんのりと赤くなるって」

 

「そのように形容するしかあるまい。貴様だって自分で確認しただろう」

 

「まあ、それはそうですけど……」

 

 御剣が少しムッとした表情を浮かべた為、勇次は頷いてみせた。

 

「……暴走する危険性を孕んでいるとはいえ、あの状態になると、貴様の戦闘力は格段に上がる。これを利用しない手はない」

 

「はあ……つまりは感情を上手くコントロールせよということでしょうか?」

 

「そういうことになるな」

 

「なかなか大変ですね……どう鍛えれば良いものか……」

 

 勇次は後頭部をポリポリと掻く。

 

「出来ないこともない……」

 

 御剣がポツリと呟く。

 

「え?」

 

「出来ないこともない、と言った」

 

「ど、どうやって⁉」

 

 御剣は視線を勇次からゆっくりと外す。

 

「なんと言えば良いのか……」

 

「教えて下さい!」

 

「……荒療治になるぞ」

 

「ええ……」

 

「なんだ、ええって」

 

「いやあ……」

 

「荒療治と言っても多少だぞ、多少」

 

「でも……荒いんでしょ?」

 

「細かいことは気にするな、大体において荒っぽくない鍛錬などあるものか」

 

「それはそうかもしれませんが……」

 

 勇次は肩を落とす。

 

「貴様は強くなる必要がある……姉君の為にもな」

 

「! 姉?」

 

「そうだ、鬼ヶ島一美(おにがしまかずみ)のことだ」

 

「な、何故そこで姉ちゃ、姉のことが出てくるんですか?」

 

「貴様は鬼の半妖、そして姉君は夜叉の半妖だということが分かっただろう?」

 

「ええ……」

 

「姉君は貴様より早く、半妖の力に目覚めた……そこを曲江実継(まがりえさねつぐ)に狙われた」

 

「実継さん……」

 

「そうだ、愛の次兄にして、貴様をこの妖絶講へと言葉巧みに誘った者だ」

 

「そうでしたね……」

 

「奴は己の掲げる理想を体現しようとしている」

 

「理想……」

 

 御剣が視線を勇次に戻す。

 

「ああ、奴は生き物と妖……その両方の血を持つ半妖こそ、この世で最も崇高なる存在、世を統べるに相応しい存在だと考えている。半妖が世を統べる世界をこの目で見てみたいとのたまっている。その為には世を正し、人を排することも厭わないという……そういう危険な思想の持ち主だ」

 

「過去形ではないんですね……」

 

 勇次が呟く。御剣が腕を組んで首を左右に静かに振る。

 

「先日の上越での戦いでは情けないことにトドメを刺し損ねた……奴はまだ生きていると考えて間違いないだろう」

 

「そうですか……ということは?」

 

「そうだ、世にも珍しい半妖の姉弟である貴様らを自らの掌中に収めたい……そのように考えているはずだ」

 

「また姉を狙ってくる……姉を守る為に、俺が強くなる必要があるんですね」

 

「少し違うな」

 

「少し?」

 

「姉君の身柄は現在、妖絶講の東京管区が預かっている。東京管区は実質、妖絶講本部と言っていい。優れた妖絶士が揃っている。流石にそこに仕掛けてくるとは考えにくい」

 

「そうなると……」

 

「貴様の身柄を抑えようとしてくる可能性の方が高いと私は見ている」

 

「狙いは俺ですか?」

 

「あくまで推測の域は出ないがな、用心するに越したことはないだろう」

 

 勇次は一瞬の沈黙の後、声を上げる。

 

「こうしちゃいられません! 早速荒療治をお願いします!」

 

「まあ、落ち着け……」

 

「落ち着いていられませんよ!」

 

「場所を移すとしよう、転移室に行くぞ」

 

 二人は隊長室から転移室に移動した。転移室には部屋のど真ん中に大きな六角錐状の鏡が置いてある。

 

「転移鏡……この鏡を通れば、例えばこの隊舎からならば佐渡ヶ島を含めた新潟県全域や長野県北部の各地に飛ぶことが出来るんですよね?」

 

「ああ、鏡や何かを反射するものがある場所ならばどこでもな」

 

「どういう仕組みなんだ?」

 

「それは分からん」

 

 御剣があっけらかんと答える。

 

「把握していないものを使っているんですね、俺も人のこと言えないけど……」

 

「便利だからな。 ! ……来たか」

 

「⁉ こ、これは⁉ 転移鏡が赤く光っている!」

 

「霊力・妖力が極めて高い者が転移鏡を利用するとこうなることがある、というのは以前にも説明したな?」

 

「は、はい……」

 

 光が治まった次の瞬間、妖絶講の隊服に身を包んだツインテールの少女が姿を現した。

 

「はっはっはっ! 久方ぶりの再会だな! 我が宿敵よ! って、えええっ!」

 

 御剣がその少女をグイッと押し返した。勇次が驚く。

 

「な、何をしているんですか⁉」

 

「……呼んだは良いが、あまりにやかましいのでついつい押し返してしまった」

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