上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第17話(1) 微笑からの動揺

                  肆

 

「失礼します。遅くなりました」

 

 勇次が敬礼して隊長室に入る。そこには既にとある人物もいた。

 

「来たか……!」

 

「⁉」

 

 勇次の顔を見るなり、御剣とその人物が一瞬驚く。

 

「どうかしましたか?」

 

「い、いや、貴様の顔、何だか所々ミミズ腫れになっていないか?」

 

「気のせいでしょう」

 

「気のせいではないと思うが……」

 

「気にしないで下さい」

 

「気にするなと言われてもな……」

 

「うっかり武枝隊の林根さんの胸にうずくまってしまって、思わずニヤついてた所を万夜から思いっきり鞭で打たれたとは言えない……」

 

「声に出しているぞ」

 

「なっ!」

 

「なっ!じゃない。全く何をやっているのだ……」

 

 御剣が呆れ顔を浮かべる。

 

「……」

 

 ある人物が空気を読んで黙っている。

 

「そういえば、その林根から貴様宛に荷物が届いていたぞ」

 

「え? 俺宛にですか?」

 

「ああ……これだ」

 

 御剣が丁寧にラッピングされた袋を机の上に置く。

 

「こ、これは……?」

 

「どうやら中身は女ものの洋服らしいが……」

 

「お、女ものの服? なんでまた?」

 

「さあな、こちらが聞きたいくらいだ」

 

「はあ……」

 

「貴様、女子高に潜入してなにをやらかしたんだ?」

 

「やらかしたって……極めて自然に振る舞いましたよ。自分で言うのもなんですが、完全にお嬢様学校に馴染んでいました。また転校することになったと告げたとき、クラス中が涙の大洪水でした」

 

「……それはいくらなんでも馴染み過ぎだ」

 

「誰がやらせたんですか、誰が」

 

 呆れる御剣に対し、勇次が目を細める。

 

「そういえば、林根よりメッセージを受け取っている」

 

「メッセージ?」

 

「ああ、『人間扱いをして頂いて嬉しかったです。お近づきのしるしに貴方さまによく似合いそうな洋服をお贈りします』……とのことだ」

 

「いや、女ものを贈られてもな……」

 

「よく分からんが、好ましく思われているようではないか、結構なことだ。貴様が両隊の懸け橋になってくれるとはな」

 

「そ、そうなんですかね……」

 

 勇次が戸惑い気味に笑う。ある人物が軽く咳払いをする。

 

「……こほん」

 

「あ……」

 

 勇次が御剣に視線を向ける。

 

「これは失礼した。勇次、知っている顔だとは思うが、こちらは……」

 

「ご無沙汰しております。武枝隊所属の風坂明秋(ふうさかめいしゅう)です」

 

 隊服を折り目正しく着た女性が頭を下げる。茶髪のストレートヘアーが静かに揺れる。

 

「ああ、どうもお久しぶりです……鬼ヶ島勇次です」

 

「これで顔合わせは済んだな」

 

「えっと……」

 

 勇次が首を傾げる。御剣が頷く。

 

「察しの通りだ、続け様で悪いが、貴様にはまた任務に当たってもらう」

 

「それは全然良いんですが……風坂さんと二人でですか?」

 

「いや、もう一人いるのだが、呼び出してもさっぱり来ないな。なにやら実験で忙しいとかなんとか言って部屋から出てこない」

 

「ああ……」

 

「私はこれから用事がある。勇次、申し訳ないが風坂をそこまで案内してくれないか?」

 

「わ、分かりました……」

 

「仔細は伝えてある。基本は奴の指示に従ってくれ」

 

「はい」

 

「風坂もそれで構わないな? もちろん、その場その場での判断は貴様に任せるが」

 

「ええ……ですが、両隊の共同任務という訳ですから、出来る限り協調を優先致します」

 

「そうしてもらうと助かる。では、両者行っていいぞ」

 

「失礼致します」

 

 風坂がさっと敬礼をして、部屋を出ていく。御剣が勇次を呼び止める。

 

「待て勇次。今回の任務は……そうだな“賢さ”に関しての成長を期待したい」

 

「賢さですか……」

 

「ああ、健闘を祈る……」

 

 勇次は部屋を出る。風坂が廊下で待っていた。勇次が頭を下げる。

 

「し、失礼しました。それでは部屋にご案内します!」

 

「ふふっ……そんなに慌てなくても大丈夫ですよ?」

 

 勇次の様子を見て、風坂は優しく微笑む。

 

「す、すみません……何故だかちょっと緊張してしまって……」

 

「同じ平隊員同士なのですから、変に畏まらないで下さい」

 

「そ、そう言って頂けると……」

 

「……ああ、初対面の時は確か、貴方はうちの隊員に危うく殺されかけたのでしたのね」

 

 風坂は両手をポンと叩いて物騒なことを言う。勇次は苦笑を浮かべる。

 

「そ、そんなこともありましたね……彼女は元気ですか?」

 

「元気がありあまり過ぎてなのか、こういう共同任務の類からは外されております」

 

「そ、そうなんですか……」

 

「それにしても貴隊の隊長さん……」

 

「はい?」

 

「全く隙がありませんね。斬りかかろうかと思いましたが出来ませんでした。ご主人様……我が隊の隊長へ良い土産を持っていこうかと思ったのですが」

 

 風坂は腰に下げた刀を優しく撫でながら笑う。勇次が驚く。

 

「ええっ⁉」

 

「冗談です」

 

「じょ、冗談ですか……あ、そろそろ着きます」

 

 勇次が廊下の先を指し示す。風坂が呟く。

 

「赤目億葉さん……今回の任務に最適の方だとはあまり思えませんが……」

 

「億葉は妖などについて研究熱心です」

 

「聞こえていましたか、お気を悪くされたら申し訳ありません。赤目さんの科学知識などの豊富さは他の隊にもよく知られております。しかし、今回は……」

 

「どういう任務なのかまだ分かりませんが、あいつの開発した兵器に俺たちは幾度となく助けられてきました。今回もきっと力になってくれるはずです!」

 

 勇次の力強い言葉に風坂はふっと笑う。

 

「それは大変失礼しました……余計なことを申しました。どうか忘れてください」

 

「ここです。着きました」

 

「こちらが……『研究室』……失礼しまっ⁉」

 

 風坂がドアをノックしようとした瞬間、部屋から凄い爆発音が聞こえた。勇次が呟く。

 

「まあ、大分エキセントリックでマッドサイエンティストな奴ですが……」

 

「だ、大丈夫なのですか⁉」

 

 風坂が動揺する。

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