上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第18話(2) 自宅にて

「今更と言えば今更な話だが……不思議だな」

 

 自室のベッドに寝転んでぼうっとしていた勇次が天井を見て呟く。

 

「何が?」

 

「妖絶講に入ってから数ヶ月……何日も家を空けていることもしゅっちゅうなのに、家族が誰も俺のことを心配していない……」

 

「ああ、なんだ、そういうことね」

 

「って⁉ 愛! お前いつの間に⁉」

 

 勇次はベッドから体を起こし、ちょこんと座っている愛を見る。

 

「ちゃんとノックしたわよ。返事もしたじゃない。ぼうっとしている方が悪いんでしょ」

 

「いや、だからと言ってだな……」

 

「見られて困るものでもあるの? ⁉」

 

 愛が悪戯っぽく笑いながら部屋を見回し、空いていたクローゼットの一点を見て固まる。

 

「どうした?」

 

「あ、あれは……?」

 

 愛が指差した先には林根から送られた女物の洋服がある。

 

「え、えっと、なんと言えばいいのかな、ある人に貰ったんだ」

 

「貰った⁉」

 

「ああ、俺に似合いそうだからって……」

 

「そ、そう……」

 

 愛が目を伏せる。勇次が首を傾げる。

 

「あれ、いつものように『破廉恥よ!』とか言わないんだな?」

 

「だ、だって、そういう時代ですもの」

 

「え?」

 

「人の趣味はそれぞれだからね。理解するわ」

 

「ちょっと待て、お前は誤解している」

 

「こ、この話は良いでしょう? それよりもさっきの勇次君の疑問だけど……」

 

 愛は分かりやすく話を逸らす。

 

「あ、ああ……」

 

「妖絶講に入隊していることは基本的には身内にも内緒するものなの」

 

「そうなのか?」

 

「隊長や私みたいな家柄の者はまた別だけど、勇次君のような一般のご家庭出身の隊員の場合はどこから妖絶講のことが漏れるか分からないからね」

 

「確かに家族には伝えてはいないが……何も聞かれないのも妙な話じゃないか?」

 

「それは特別な術を持った方々が動いているのよ」

 

「特別な術?」

 

「簡単に言えば催眠術のようなものね」

 

「催眠術⁉ ひょっとして……」

 

「そう、ご家族の記憶を操作・改変させてもらっているの」

 

「い、いつの間にそんなことを……」

 

 勇次は言葉を失う。愛は補足する。

 

「もちろん、普段の生活には支障が出ない程度の催眠よ」

 

「例えば俺から伝えたらどうなんだ?」

 

「大体は笑い話で片づけられると思うわ。出来れば試さないで欲しいけど」

 

「ふむ……ただ、俺でも都市伝説的な意味合いではあるが存在は知っていたぜ? 100%信じていたわけじゃねえけど」

 

「術も完璧ってわけじゃないし……完全に秘匿するのは今のご時世なかなか難しいわね」

 

「ふ~ん、そういうことか」

 

「納得出来た?」

 

「まあ、なんとなくはな」

 

 愛の問いに勇次は頷く。

 

「それは良かった」

 

「しかし、学校が休校とはな……体を休められるからいいが、流石に三日も続くと暇だな」

 

「それなら……」

 

「ん?」

 

「どこかにお出かけしない?」

 

「なんで?」

 

「な、なんでって、前はよく一緒にお出かけしたじゃない」

 

「ああ、ガキの頃な」

 

「確かに中学校に入ってからは勇次君は部活もあったし、そういう機会もなくなったけど……久しぶりにどう?」

 

「そうだな、そこの公園にでも行くか」

 

「い、いや、公園じゃなくて!」

 

「駄菓子屋の方が良いか? あの店まだやっているかな……」

 

「駄菓子屋でもなくて!」

 

「うん?」

 

 勇次は首を捻る。愛は若干苛立ち気味に話す。

 

「こ、高校生なんだから! 長岡駅前でショッピングとかどう?」

 

「別に欲しいもんねえからなあ……」

 

「私の買い物に付き合うって発想はないわけ⁉」

 

「そ、そんなに怒るなよ」

 

「そりゃあ怒るわよ……」

 

 愛はため息をつく。勇次は手を合わせる。

 

「悪かった。じゃあ今から行こうぜ。暇で暇でしょうがないし」

 

「最後の一言が余計だけど……それじゃあ出かけましょうか」

 

「お休みのところ大変申し訳にゃいのにゃが……」

 

「きゃっ⁉」

 

 又左が急に声をかけてきたため、愛と勇次は驚く。

 

「ま、又左⁉ どうしたんだ⁉」

 

「まさか……」

 

 愛は嫌そうな顔を又左に向ける。

 

「そのまさかにゃ。緊急任務を二人にお願いしたいにゃ」

 

「はあ……」

 

 愛は露骨にため息をつく。

 

「重ね重ね申し訳にゃい……」

 

「他の隊員の方では駄目なの?」

 

「今動けるのは二人だけにゃ」

 

「そう……」

 

「厳密に言うと、御剣の指名でもあるのにゃが……」

 

「隊長の指名? 俺たちをか?」

 

「そうにゃ」

 

 勇次の問いに又左が頷く。愛は頭を掻きながら立ち上がる。

 

「それなら尚更仕方ないわね……で? どこに行けば良いの?」

 

「今はにゃしていたように、にゃがおか駅前に向かってもらいたいにゃ」

 

「え? 長岡駅前で妖が発生しているのか?」

 

「いや、まだ発生していないにゃ」

 

「まだ?」

 

「これから発生する可能性が高いってことね?」

 

「そういうことにゃ。妖の行動パターン、出現分布などを分析する限り、にゃがおか駅前に現れる可能性が高そうにゃ……」

 

「そうか、分かったぜ」

 

「一旦お家に帰って隊服に着替えてくるわね」

 

「いや、戦闘準備はともかく……私服のままで構わないにゃ」

 

「え?」

 

「どういうことだよ?」

 

「これは一種の囮捜査のようなものと考えてもらいたいにゃ。駅前の適当な店で合コンをしてもらうにゃ」

 

「「はあっ⁉」」

 

 又左の言葉に勇次と愛は揃って驚く。

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