上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第21話(3) 目立つオアダイ?

「嫌な予感しかしないが……来てしまった」

 

 三尋は『研究室』の前に立っている。そしてドアをノックしようとした次の瞬間……。

 

「!」

 

 部屋の中から物凄い爆発音が聞こえる。三尋はため息まじりにドアを開ける。

 

「……失礼します」

 

「ああ~白伏殿、ようこそ~」

 

 文字通り爆発したような髪型をした億葉が応える。三尋はそれについては気にも留めず、億葉の間違いを訂正する。

 

「黒駆です……」

 

「あ、これは失礼、黒駆三尋殿ですね。ようやく覚えてきました」

 

「いい加減覚えて下さい……初対面からもう大分経つでしょう」

 

「黒駆殿があまりにも優れた忍びでございますから……忍び過ぎて存在感が希薄というか、交流した記憶がほぼ無いのでありますよ」

 

「一応、褒め言葉として受け取っておきます。かなり虚しいですが……」

 

「どうぞ、適当におかけ下さい」

 

 億葉がかろうじて原型を留めた椅子を指差し、三尋がそこに腰かけて問う。

 

「……赤目さんからの呼び出しとは珍しい、というかほぼ初めてな気がします。今日は一体どういうご用件でしょうか?」

 

「……流石でありますね」

 

「は?」

 

「いや~この部屋の様子を見たら皆さん大体驚かれるのですが……全く混乱もせず、平常心を保っておられる……」

 

 億葉が爆発によって散乱した部屋を指し示す。三尋は部屋を見回しながら淡々と語る。

 

「正直初めの内は爆発する度に驚いていましたが……この隊にいるものにとってはもはや日常茶飯事でしょう」

 

「あはは、そうでありますね」

 

「……それでご用件は?」

 

「せっかちでありますね」

 

 話を急かす三尋に対し、億葉は苦笑交じりで答える。

 

「急を要することならば、早めに動いた方が良いと思いますので」

 

「それは確かにそうですね」

 

「それで?」

 

「いや、例えば潜入調査とかそういう類のことではないのです」

 

「え?」

 

「今日お願いしたいことは別のことでして……」

 

「はあ……」

 

「その前に……ちょっとお待ち下さい」

 

 億葉は隣の部屋に入っていく。三尋はため息をつく。

 

「……ふう」

 

「……お待たせ致しました」

 

 しばらくして部屋に戻ってきた億葉はボロボロになった白衣を着替え、モジャモジャになっていた髪の毛をいつもの三つ編み姿に戻してきた。

 

「……」

 

「替えの白衣に着替えてきました」

 

「相変わらずの変わり身の素早さ……くのいちになれますよ」

 

「お褒めに預かり光栄です……それで改めてお願いしたいのですが……」

 

「はい」

 

「拙者の実験体になってくれませんか?」

 

「お断りします」

 

 三尋が即答する。億葉が手を左右に振る。

 

「ああ、言い方を間違えました。実験に付き合ってはもらえないでしょうか?」

 

「ですから、お断りします」

 

「何故?」

 

「嫌な予感が現実になりそうですからです。失礼します」

 

「ああ、ちょっと待って!」

 

 立ち上がって去ろうとする三尋の袖を億葉がギュッと掴む。三尋が静かに告げる。

 

「……貴女は我が隊の技術開発研究主任でいらっしゃいますが、厳密に言えば、自分と同じ平の隊員のはずです。よって、貴女の命令に従う義務はありません」

 

「で、ですから命令ではなくてお願いと言っているではないですか!」

 

「む……」

 

「これは優れた忍びである黒駆さんにしかお願い出来ないことなのです!」

 

「そう言われても……」

 

 三尋が困った顔を浮かべる。

 

「この実験が無事成功した暁には、我が隊の皆が黒駆殿の存在を強烈に認識し、称賛の声を惜しまないことでしょう!」

 

「……話を伺いましょう」

 

 三尋が椅子に座り直す。億葉が笑みを浮かべてお礼を言う。

 

「ありがとうございます!」

 

「どういう実験なのですか?」

 

「……拙者は黒駆殿の高い身体能力に注目しました。そこで考えました。もしも、あの身体能力を皆で共有することが出来れば……と」

 

「共有?」

 

 三尋が首を傾げる。

 

「ええ、隊服の上に着用するパワードスーツのようなものを開発出来ないかと考えております。つきましてはその基となるフィジカルデータを黒駆殿から取らせて頂ければと……」

 

「ふむ……」

 

「よろしいでしょうか?」

 

「……一つ気になるのですが」

 

「何でしょうか?」

 

「そのパワードスーツとやらの開発に無事成功した場合、皆が自分並みの身体能力を得ることになりますよね?」

 

「まあ、理論上ではそうですね」

 

「そうなると……自分の存在感がより希薄になるのではないですか?」

 

「希薄というかほぼゼロになるかと思われます」

 

「失礼します」

 

 再び立ち去ろうとする三尋の袖を億葉がガシッと掴む。

 

「ああ、ちょっと待って下さい! 今のは冗談です!」

 

「笑えない冗談ですよ……」

 

「た、例えば、そのパワードスーツの名称を『KUROGAKE』にするというのは⁉」

 

「……悪くないですね」

 

 三尋が再び椅子に座り直す。億葉が満面の笑みを浮かべる。

 

「では、お気が変わらない内に、データを取りましょう! そのままお待ち下さい!」

 

 億葉が怪しげな機器をいくつか三尋の体に取り付ける。三尋が不安そうに首を捻る。

 

「あ、あの……フィジカルデータを取るのならば、走ったり飛んだりした方が良いのでは?」

 

「それには及びません! この機器を使えば、わざわざ動かなくても、フィジカルデータを取ることが出来て、さらに分析まで行えます!」

 

「そ、それがもはや凄い発明ではないですか⁉」

 

「いやいや、凄い発明はこれからですよ!」

 

「そ、そうでしょうか……」

 

「では、データを取らせて頂きます! あ、ケーブルを繋いでなかった……失礼しました、改めてデータを取らせて頂きます!」

 

「は、はい……」

 

「では、スイッチをポチッとな……」

 

「どあっ⁉」

 

 電流が流れ、それを受けた三尋がガクッとなる。億葉が首を傾げる。

 

「おかしいでありますね……黒駆殿、すみませんがもう一度よろしいでしょうか?」

 

「お、お断りします……」

 

 三尋が呟く。

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