上杉山御剣は躊躇しない   作:阿弥陀乃トンマージ

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第24話(1) 良い物差し

                  拾壱

 

「ふん、どんなもんだ……」

 

 勇次がふらふらっと倒れ込む。御盾が声をかける。

 

「大丈夫か、鬼ヶ島?」

 

「だ、大丈夫です。ちょっとふらついただけです……」

 

「隊長クラスを打ち倒すにはそれだけ力を消耗するということだな」

 

 御剣が冷静に語る。御盾が問う。

 

「此方が回復するか?」

 

「……後でいい。それより前を見ろ」

 

「うむ?」

 

 御剣の言葉に御盾が振り返ると、峰重姉弟がゆっくりと前に進み出ていた。由衣が呟く。

 

「私たち姉弟とお手合わせをお願いたします……」

 

「姉弟で来るか……ならばこちらも……宿敵!」

 

「嫌だ」

 

 御盾の呼びかけを御剣は瞬時に断る。

 

「なっ……!」

 

「貴様と呼吸が合う気がせん」

 

「そ、それは合わせる方が言う台詞じゃ!」

 

「だからそう言っている」

 

「あ、合わせるつもりなど無い癖に!」

 

「御盾ちゃん~私が組んであげるわよ」

 

 雅が背後から御盾に抱きつく。

 

「み、雅さん……」

 

「私なら誰とでもすぐに呼吸を合わせられるわ♪」

 

 雅がウィンクする。

 

「それは……雅さんは年齢を重ねているだけありますから……はっ!」

 

「……」

 

 雅が無言で御盾に顔を近づける。

 

「い、いや、経験豊富でいらっしゃいますから……!」

 

「なんで言い換えたの?」

 

「そ、それは……」

 

「……雅さん、圧をかける相手を間違っています」

 

 御剣がため息まじりに声をかける。

 

「おっと……それじゃいきますか♪ 御盾ちゃん」

 

 雅はパッと笑顔を浮かべて、正面を向く。御盾がぶつぶつと呟く。

 

「こう言ってはなんだが、今更隊長クラスと手合わせしてものう……」

 

「御盾ちゃん、良いことを教えてあげるわ」

 

「え? な、なんでしょうか?」

 

「あの姉弟のお姉ちゃんの方、管区長候補でもあるらしいわよ」

 

「⁉」

 

「実力を測る良い物差しになるんじゃない?」

 

「そ、それは良いことを聞きました……」

 

 御盾がニヤリと笑う。由衣が苦笑する。

 

「まさか、物差し扱いとは……」

 

「……」

 

 史人が前に出ようとする。由衣が首を傾げる。

 

「史人?」

 

「姉さんを侮辱するなんて……許せない」

 

「気持ちは嬉しいけど、貴方になにかあったら姉さんが嫌だわ。ここは私に任せて」

 

 史人を制し、由衣が一歩前に進み出る。御盾がジッと見つめる。

 

(宿敵には偉そうなことを言ったが、此方もこの姉弟について、実はよく知らんのだが……着物姿ということは、柔術や古武術などの使い手か? ならば接近戦は避けた方が無難じゃな……こいつで様子を見る!)

 

 考えをまとめた御盾が軍配を盾にして前に突き出す。

 

「!」

 

「『風林火山・火の構え・火炎』!」

 

「……お寄り給へ、大国の女王よ……」

 

「‼」

 

 御盾の軍配から激しい炎が噴き出し、由衣に迫るが、由衣が小声でなにやら呟くと、炎は大量の水によって消火される。由衣が頷く。

 

「ふむ……」

 

(な、なんじゃ、水を発生させた? いや、雨が降ったかのように見えたな……そういう術の使い手か? ならば……!)

 

「む……」

 

「『風林火山・風の構え・疾風』!」

 

 御盾が軍配を振るうと、突風が巻き起こり、由衣に迫る。由衣がまたなにやら呟く。

 

「……お寄り給へ、出雲の踊り手よ……」

 

 由衣が華麗な舞のようなステップで突風をかわしてみせる。御盾が驚く。

 

「なっ⁉」

 

「今度は風ですか……」

 

(かわしたじゃと⁉ 遠くから攻撃を当てるのは難しいか……危険が伴うが、ここはあえて接近してみるかの!)

 

「⁉」

 

「『風林火山・林の構え・静林』!」

 

 軍配を振るった御盾はあっという間に由衣の懐に入る。ここまで平静だった由衣がやや驚いた様子を見せる。

 

「! 音もなく⁉」

 

「林のように静かにってやつね……」

 

 雅が感心するように頷く。御盾がニヤッと笑う。

 

「間合いに入ったぞ!」

 

「くっ!」

 

「『風林火山・山の構え・巨山』!」

 

「むう!」

 

 御盾が軍配を掲げると、地面が山のように盛り上がり、それによってバランスを崩した由衣が転びそうになる。それを見た御盾は追い打ちをかけようとする。

 

「もらった!」

 

「……お寄り給へ、木曽の女武者よ……」

 

「なにっ⁉」

 

「うおおっ!」

 

 突如現れた槍を手にした由衣が隆起した地面を粉々に打ち砕いてみせる。

 

「なっ、どこから槍が⁉ それにその怪力……!」

 

「隙あり!」

 

「むう!」

 

 由衣が驚愕していた御盾の隙を突く。御盾は槍での攻撃を軍配で防ぐが、後方へ派手にふっとばされてしまう。雅が近くに転がってきた御盾に声をかける。

 

「御盾ちゃん、大丈夫?」

 

「な、なんとか……」

 

「へえ、あの槍の鋭い突きを防ぐとはやるじゃない」

 

「そ、そんなことより、あの戦い方は一体⁉ 何かの術ですか⁉」

 

「術っていうのもちょっと違うけど……イタコって知ってる?」

 

「は、はあ……」

 

「峰重家は代々続く優れたイタコの家系なの。特にあの由衣ちゃんは歴史上の女性の偉人や有名人を自身の体に口寄せ……つまり憑依させることが出来るのよ」

 

「な、なんと……!」

 

「それにしても懐かしいわね、木曽の女武者さん……」

 

「え?」

 

「な、なんでもないわ、こっちの話!」

 

 首を傾げる御盾に対し、雅が慌てて手を左右に振る。

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