勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
スバルたちは元一味の男に教えてもらった屋敷へ向かいます。
その屋敷はすぐに見つかりました。
他の建物より頭が二つ三つ分高いうえに紫色の屋根がとても目立っていたため、遠目からでもよくわかったのです。
広い庭を持った大きな屋敷でした。
海に面した場所に建てられており、海上に浮かぶ大きな船を屋敷に横づけしています。
屋敷に到着したるしあは早速インターホンを鳴らしました。
すると屋敷の方でチリンチリンと鈴のような音が響きます。
「ど、どちらさまでしょう?」
しばらくしてからメイドが出てきました。
明るい紫色の髪をして、それらをツインテールに結びカールさせています。
そんな彼女の着るメイド服は紺色で、裾から白い下衣のフリルが覗かせていました。
「あなたはこの家のメイドですか?」
るしあが尋ねます。
すると彼女はおずおずと頷きながら「そう、ですけど」と答えました。
「あ、あなたたちは?」
メイドは不安そうにスバルたち三人を見回します。
「ああ、心配しないでください」
るしあはそんな彼女の不安を和らげようと微笑みかけました。
「るしあたちは湊あくあさんに少し用があってやってきただけなんです。もしよければ、あくあさんにそのことをお伝えしてもらえませんか?」
なるべく物腰柔らかに話するしあに「別に、いいけど」とメイドは答えます。
「何の用できたのか、あ、あてぃしにも教えてもらわないと」
それを聞くまで動かないと言いたげに、彼女はじっとるしあの返答を待ちます。
るしあは困った顔をしながら「どうしましょう?」とスバルとキアラの方を振り向きます。
すると二人は頷き返してきました。
るしあはメイドに向き直り「実はですね」と説明し始めます。
「るしあたちはある島に行きたいのです。それで船場の人々に船を出してくれないかと頼んでみたのですが断られてしまいまして、そんなとき、親切な方にあくあさんも立派な船をお持ちだと教えていただきましてね。どうかその船を出していただけないかと」
「つまりアクアマリン号を使いたいのね?」
メイドは話途中のるしあを遮って聞き返します。
いきなり強気に聞き返されたものだから、ルシアは「え、ああ、はい、まあ」と曖昧に答えて頷いてしまいました。
「行きたい島っていうのは西の孤島?」
さらに問いかけられて、るしあはどう返答しようか困ってしまいます。
元宝鐘海賊団一味の男から、この町の人々は西の孤島を恐れていると教えてもらっていたからです。
しかしふと、スバルがるしあに向かって何度も頷いているのが視界の端に見え「ええいままよ!」という気持ちで「はい」と答えました。
「この町の皆さんにとって嫌な島だということは重々承知しているのですが、るしあたちはどうしてもあの島に行かなければならないのです」
するとメイドはるしあに「ふうん」と軽く相槌します。
「そうなんだ。やっぱり西の孤島に行くためなのね」
驚いたことに、彼女はるしあが西の孤島に向かうと言っているのにまったく不快そうではありません。
むしろ嬉しそうにすら見えます。
「ちょっと待ってて、呼んできてみる」
そう言い置くなり、彼女は屋敷のなかへ駆けていきました。
「ううう、ごめんなさいスバル先輩、るしあがいろいろとちってしまいました」
込みあがる不安を我慢できずついつい吐き出するしあ、そんな彼女をスバルが「シュバルバシュバシュバ」(そんなことないシュバ)と励まします。
「シュババシュバルバシュバシュバルババシュバルルシュバルシュバルルバ、シュバルルシュバシュバルルバシュバルバシュバルルシュババシュババシュバルルバシュバシュバルルシュバ」
(それになんだかあのメイドには脈ありの感じだったし、案外この屋敷の主に好印象で伝えてくれて上手くいくかもしれないシュバ)
「そうデスよ、るしあさん」
そんなふうに三人で喋っている時でした。
「ねえ、あんたたち!」
本当に聞いてきたのかと疑うような早さで戻ってきたメイドが、屋敷の玄関前に立ちながらスバルたちへ呼びかけます。
「いいって! とりあえず屋敷のなかへ入って!」
大声で言いながら、彼女は門扉を開けてスバルたちを屋敷内に通しました。
◇ ◇ ◇
「いいって、あくあさんが船を出してくれるとおっしゃってくれたんですか?」
屋敷内の通路を案内されるまま歩きながら、るしあがメイドに尋ねます。
「うん、まあそれは条件次第だけどね」
メイドはまるで自分のことのように答えました。
◇ ◇ ◇
「さあ、着いたわ」
言ってメイドがスバルたちを連れてきた場所は、屋敷の敷地内に作られた波止場らしきところです。
「シュバ?」
(ん?)
「え?」
「あれ?」
てっきり客間に通されると思っていたスバルたちは、三人そろって瞬きしながら口を半開きにしました。
「どうしたのよあんたたち、アクアマリン号がお目当てじゃなかったの?」
スバルたちにそう問いかけるメイドの横、波止場の水面には巨大船が停泊されています。
その船体には「AQUAMARINE」と華美な字体で飾り彫られています。
スバルたちは思わずその船、アクアマリン号を見上げました。
「どう? あてぃしのアクアマリン号、すごくない?」
唐突に、メイドが腕を組んでドヤ顔をしはじめます。
「あてぃしの?」
キアラがメイドの言葉をオウム返ししました。
するとメイドは顔を俯かせ「へっへっへっへっ」と笑いだします。
「そう! あてぃしこそが湊あくあ! この屋敷の主であり、アクアマリン号の持ち主よ!」
「シュバア!」
(なにい!)
スバルが大げさなくらいに驚きます。
それが余程うるさかったのか、あくあは耳を押さえてから「ちょっとアヒル、うるさい」とスバルに文句を言いました。
「シュ、シュ、シュバル……」
(あ、ご、ごめん……)
スバルはしゅんと項垂れます。
「でも、あなたが湊あくあさんだとして、どうしてメイドの格好なんてしてるんですか? それっておかしくないですか?」
一方るしあはあくあを疑っているようで、問い詰めるように質問します。
あくあは「すーぅ」と息を吸ってから、「それは」と説明しようとしました。
「コスプレ、というやつデスね?」
そんな彼女の答えを先取りしようとしてか、キアラがその前に答えます。
するとあくあはカッと目を見開きました。
「あてぃしを船長と一緒にするな!」
「シュバ、シュバルバシュバルルシュバルバ」
(いや、あっちは元船長だろ)
スバルが突っ込みますが案の定、当然のように聞き流されます。
「あてぃしにはちゃんとした理由があるのよ。あれはそう、数年前」
あくあはそこでまた「すーぅ」と息を吸ってから続けました。
「数年前、あてぃしのパパとママが亡くなったの。その瞬間から、あてぃしはこの屋敷を一人で守らなければならなくなったわ。まあ実際、屋敷を維持管理すること自体は簡単だった。パパが生前にいろいろ教えてくれたから。でも一つ問題があったの、すーぅ、それは屋敷に来訪客が来るということ。最悪なことに、湊家に用があるお客だけじゃなく宅配便やセールスマンまでやってくる。あてぃしはコミュ障なのに! パパとママが生きていた頃はそうした来訪客は全部パパたちが対応してくれたけど、今はもうあてぃししかいない。だからあてぃしが屋敷の主としてきちんと応対しなくちゃいけないんだけど、でもでも、人とまともに目を合わせることさえできないあてぃにはあまりに過酷すぎたわ」
そこまで喋り通してから、あくあは再度「すーぅ」と独特の呼吸をします。
「そこでメイドのふりすることを覚えたの。本当の本当に大事な要件のお客以外は『あ、あのぉ、あてぃし、あてぃし、ただのメイドで、よくわかんなくて、ご主人様もいつ戻って来るかわかんなくて』って泣き脅せば、たいていの人は帰ってくれるから」
「なんでしょうか、この伝説級のコミュ障は」
るしあが呆れたようにため息をつきます。
「自慢じゃないけど、ツバ付き帽子で目元を隠さないと外出もできないわ」
「シュバシュバシュバルバ」
(自慢じゃねえな)
「まあほら、あてぃしのことはいいから」
あくあは話を戻します。
「それよりアクアマリン号を使わせてほしいんでしょ? 構わないけど、一つだけ条件があるわ」
「シュバルバ?」
(条件?)
「その条件とは何でしょう?」
尋ねるるしあに「ふふん」とあくあは鼻を鳴らしてから答えます。
「船長、つまり宝鐘マリンを船に同乗させることよ」
あくあが口にするその条件に、スバルたちは声には出さないものの「マジかー」と言いたげに顔をしかめました。
「なによ、別に驚くことじゃないでしょ?」
あくあはそんな三人の反応を驚いていると捉えたようです。
「そもそもこんなでかい船、並みの船乗りじゃ扱いきれないんだから。船長くらいじゃないと出航することもできないのよ」
「シュバシュバルバシュバルバシュババシュバシュババ」
(じゃあ何でそんなにでかくしたシュバよ)
「いい? あなたたち、よーく覚えておいて」
あくあはスバルたちにニンマリと笑いかけました。
「船長を乗せて一緒に西の孤島へ向かうこと、これがアクアマリン号を貸してあげる条件だからね!」
スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。