勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
102羽
スバルたちが星降り亭を出発してからしばらくして、それに気付いたはあちゃまたちが慌てて追いかけます。
一方そんな光景を星降り亭近くの木にぶら下がって見ていた一匹のコウモリがありました。
そのコウモリはスバルたちとはあちゃまたちが見えなくなってから、羽を広げて飛び立ちます。
コウモリが向かう先は真っ直ぐに南方です。
森を抜け洞窟を抜け飛び続け、やがてうっすら塔が見えてきます。
見上げてもてっぺんが目視できないほど高い塔です。
コウモリは塔の一階部分にある、開きっぱなしになっている小窓から中へ入りました。
その中は明かりが付いているものの薄暗く、テーブルといくつかの椅子が置かれており、三人の女性が各々くつろいでいます。
その女性たちのなかの一人にコウモリは向かっていきました。
やや濃いレモン色の目をした、藤紫色の長髪をツインテイルに結った女性です。
角が生えたスライムをデザインしたような黒色のニット帽をかぶり、黒地のキャミソールにショートパンツ、キャミソールの上には白地のへそ出しジャンパーを羽織っています。
左右で色違いのスニーカーを履き、ショートパンツの隙間から先端にハートの形の突起がついた黒く細長い尻尾を生やしています。
彼女はコウモリが自分に向かってきていることに気が付いているようで、止まり木を与えてやるように腕を伸ばします。
コウモリはその手首あたりに静かに足をつけてから、女性の方をじっと見つめてカチカチと歯を鳴らすような音をたてはじめました。
女性はそれをしばらく見つめてから、ドアに立っている女性に向かって「まつり先輩」と呼びかけます。
「大空スバル一行なんですが、追手たちと共に近々ここにやってくるそうです」
彼女が報告すると、まつりと呼ばれた女性は「そう」と頷きました。
淡いエメラルド色の目をした、栗灰色の髪をサイドでポニーテイルに結った女性です。
黒地のへそ出しキャミソールの上からオレンジ色のオフショルダーの上着を羽織っています。白地にオレンジのパイピングがなされたミニスカートをはき、脚には黒いレギンスをしています。
「ありがとうトワ」
「いえいえ」
トワと呼ばれた女性は手をひるがえしながら答えます。
彼女の手首に乗っていたコウモリはまた羽ばたいて小窓から外へ出ていきました。
「トワち」
最後の一人、椅子に腰かけている女性がトワに話しかけます。
「大空スバル、追われているの?」
鮮やかな紫の目を持つ、羊の角と耳をした獣人の女性です。
透明感のあるレモン色の髪をふわりと腰下まで伸ばしています。
彼女は肌触り良さげな真綿のドレスを着ており、そのドレスの首元と裾には純白ウールを使ったフリルが施されています。
丸顔の本人とその服装が相まって、見る人におっとりとした物腰の印象を与えます。
「大丈夫かな……」
女性は不安げに俯きました。
「追いつかれないかどうかの心配なら杞憂だよわため」
トワが彼女に言います。
「追いつこうというより、気づかれないように尾行しているみたいだから」
わためと呼ばれた女性は安心したように「よかった」と言って顔を上げました。
「まあ、それはつまりこの『時の塔』に大空スバル一行だけじゃなく、よりによって最悪の招かざる客がやってくるということだけどね」
まつりが喋り出すと、トワとわためは彼女の方へ向き直ります。
「どうします? ここにやってくる前にトワがそいつら全員ぶちのめしてやってもいいけど」
指関節を鳴らしながら言うトワに「やめなさいトワ」とまつりが注意します。
「相手はこれまで何人ものレジェンド所有者を倒しスキルを奪い取っているほどの手練れよ。加えてソーセージ道を鼻で笑い、剣士として決して踏み越えてはならない一線を躊躇うことなく跨ぎ越える外道の者、まさに悪魔のような女。まつりが相手をするからあなたたちは決して手を出さないで」
「トワだって悪魔だし!」
「だから?」
「トワの方がそいつより強い!」
食い下がるトワにまつりが「手を出さないで」と念を押します。
トワは舌打ちしてから「わかったよ」と頷きました。
「あなたたちの役目は大空スバルを無事あの方の元へ導くことよ」
まつりは続けます。
「わためは森の、トワは洞窟の岐路で大空スバルと追手たちに正しい道を教えてあげて。まつりは塔の前で待機して大空スバルを塔内に迎え入れてから、続いてやって来る追手たちを食い止めるわ。何度も言うけどバカなことは考えないでね」
「はい」
わためが頷きます。
「あなたに言ってるんだけど、トワ」
まつりがトワを名指しします。
トワは渋々「はい」と答えました。
◇ ◇ ◇
部屋を出たトワとわためは一緒に塔内の廊下を歩きます。
「トワち、まつり先輩に怒られちゃったね」
「うっさい」
トワがわための方を向きます。
「トワはいいのよ、もしも戦うことになったとしてもさ。追手を撃退するのがまつり先輩からトワに代わるだけなんだから。問題はあんたよわため」
「わためが問題なの?」
「そうよ。あんたは弱っちいんだから絶対に変な気を起こしちゃだめよ。可能ならスバルたちに道を教えてすぐこっちに戻ってきな」
「無理だよ。まつり先輩に追手にも道を教えるように言われてるもん」
「ふん。じゃあそれでいいわ」
「トワちこそまつり先輩の言うとおりにしないと、また怒られちゃうよ」
「別にトワはそんなの怖くないわ。わためがうるさいから聞いといてあげるけどさ」
「トワちは偉いね」
「まあね」
それから二人は塔を出て、それぞれの持ち場へ向かいます。
わためは森のなかの岐路、トワは二つの入り口がある洞窟の手前です。
それらはどちらも南端の塔もとい時の塔へ辿り着くためには通らざるを得ない場所でした。
◇ ◇ ◇
深い森にずっと伸びている道、わための立つ岐路まではずっと一本道なので迷うと言うことはまずありません。
わためは最近産まれた子羊を一匹だけ側において、ぼんやりと夜空を見上げながらスバルたちを待ちます。
月の明るい夜でした。
「めえ」
そばの子羊が道の先を見て一声鳴きます。
わためがそちらへ目を向けてみると、大きなダチョウに乗った女性たちが道沿いに駆けてくるのが見えました。
向こうもわために気づいたのでしょう、女性の一人、キアラが「フェニックス!」とダチョウに呼びかけます。
フェニックスはわための前で急停止しました。
「どうしたのですか? キアラ」
るしあがキアラに問いかけます。
「いえ、道に女性が立っていて、轢いてしまいそうデシタので」
言ってキアラはわための方へ目をやります。
「シュバルババ。シュババシュバルルシュバ」
(本当だ。しかも獣人だな)
スバルも顔を覗かせます。
三人はまじまじとわためを見ました。
わためは「こほん」と咳払いします。
「わためはただ道の真ん中でボケっとしてるだけの通行人じゃないよ。あなたたち三人を時の塔に導くよう命じられた、塔の守り人にしてこの森の案内人なんだ」
「はあ」
「そんなわために対して頭上から話しかけるのは、ちょっと失礼じゃないの?」
ドヤ顔で言うわために、スバルたちは顔を見合わせます。
三人はいそいそとフェニックスから降りてわためと向き合います。
「こんばんドドドー、角巻わためです」
わためは唐突にそんな挨拶をして頭を下げました。
「……ドドドー、小鳥遊キアラデス」
キアラが同じようにして返します。
「ド、ドドドー、潤羽るしあです」
るしあも少し恥ずかしそうにしながら頭を下げました。
「べ、別に真似しなくていいよ。わためが勝手にやってる挨拶だから」
わためは顔を赤らめながら言いました。
「さっきも言ったけどわためはこの森の案内人、あなたたちをあの方の待つ塔まで導くためにここで待ってたんだ」
わためは左の道を指さします。
「こっちが塔へ通じる道。もう片方はずっと行った先が行き止まりになっているから絶対に行っちゃダメだよ」
「ありがとうございマス」
礼を言ってからキアラはフェニックスに騎乗しようとします。
「あ。待って待って、最後まで話を聞いて」
わためはそれを止めました。
「ここから先は神聖な場所、だからダチョウさんは入れないんだ。悪いんだけどみんなが戻って来るまでわためと待っててくれるかな」
「フェニックスは私たちの仲間でありマスしスバ友アヒージョの一員でもありマス。それでも無理デショウか?」
「わためは入れてあげたいんだけど」
「いえ。無理であれば仕方ないデス」
キアラはフェニックスに一言二言話しかけます。
するとフェニックスは大きく頷いてからわための側にやってきました。
「どうかフェニックスを頼みマス」
キアラがわために頭を下げます。
わためは「うん」と頷きました。
「さあ、みんな急いで」
それから彼女は急にスバルたちを急かしだしました。
「ごめんね、ずっと忘れてたけどみんなは追手につけられてるんだ。だから少しでも離れられるように早く早く!」
「シュババ? シュバルババ?」
(追手? はあちゃまか?)
「アヒルさんじゃなかったスバルさん、シュバシュバ言ってる暇なんてないの! ほら!」
るしあとキアラ、るしあに抱えられたスバルたちの三人は追い立てられるようにして左の道を走っていきます。
「みんなー! 頑張ってねー!」
わためはそんな彼女たちの背中に手を振って見送りました。