勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 そこは不気味な森の中でした。

 ソーセージの神様が住まう塔に通じる森だから絶対に立ち入ってはいけないと、大人たちに日頃から言い聞かされているところです。

 しかしまだ幼くやんちゃの気があった赤井はあとは、遊び仲間にかっこいいと思われたいという子供の見栄からあえてその森に足を踏み込みました。

 彼女の何がいけなかったかと言えば、道沿いに森に入っても大した自慢にはならないと侮って道なきところを歩み進んでしまったことです。

 案の定、彼女は迷ってしまいました。

 あたりは暗くなりわずかな月明かりだけが周囲を照らします。

 のどが渇きお腹も減ってきましたが、場所が場所で大人たちも立ち入らないような森の中、はあとは空腹でお腹の音が鳴るたびに森の獣に聞きつけられはしないかとびくびく震えながら身体を丸めていました。

 もう自分は助からないかもしれない、そう考えてじんわりと目に涙をためた時です。

 

『誰? そこにいるのは』

 

 聞こえてきた声にはあとは思わず顔を上げます。

 少し離れたところの木立の間で、カンテラの灯りが揺れていました。

 灯りを持つ人影は徐々に近づいてきて、はあとのすぐそばまでやってきます。

 声の主はカンテラをかざしてはあとを照らしました。

 

『お嬢ちゃん、迷子?』

 

 おっとりとして優しい声をした、人のよさそうな獣人の女性です。

 はあとは無言で頷きました。

 

『名前は?』

 

『はあと。赤井はあと』

 

 はあとは答えてから『お姉さんは?』と聞き返します。

 

『こんばんドドドー、角巻わためです』

 

 わためははあとに微笑み返しました。

 

 はあとが迷子だとわかったわためは、連れていた羊の上に彼女を乗せて歩きだしました。

 しばらくするとはあとがお腹を鳴らしたので、持っていたパンとチーズ、ミルクを取り出して全部あげてしまいました。

 

『それ、レッグバッグ?』

 

 羊に乗りながら、はあとがわための脚に取り付けられたレッグバッグを指さして聞きます。

 

『そうだよ。はあとちゃん詳しいね』

 

『うん。私、大きくなったら剣士になるから知ってるの』

 

『そうなんだ』

 

『わため、剣士なの?』

 

 尋ねるはあとにわためは『うん』と頷きます。

 

『剣士って言っても、全然強くないんだけどね』

 

『ふうん』

 

 わためははあとを乗せた羊を引きながら、目印など全くない森のなかを一切迷わず進み続けます。

 そうしてしばらくすると、彼女たちの前方に人里の明かりらしきものがちらちらと見えてきました。

 

『私は強くなるよ』

 

 唐突にはあとが喋ります。

 

『強くなってチームを作ってレジェンドソーセージも手に入れて、いただきのステージに立ってみせるの。それでみんなに自慢するの、私は一番になったんだって』

 

『そうなんだ』

 

『わためはいただきに立ちたいって思わないの?』

 

『わためは弱っちいからなあ』

 

 苦笑いして答えてから、わためは『でも』と続けてはあとに優しく微笑みます。

 

『敵とか味方とか関係なくみんなを思いやれる優しい人が一番になってくれると、うれしいな』

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「私に嘘をついたわね」

 

 はあちゃまがハートンの着ぐるみから現れます。

 そうかと思えば右の道へ駆けて行ったはずのハートンたちがいつの間にか戻ってきて、あっという間にはあちゃまとわためをぐるりと囲いました。

 

「あ、あう」

 

 わためは羊耳を弱々しく垂らして、立ち上がることもできずに身を縮めます。

 はあちゃまはレッグバッグからフォークを取り出してわための前にやってきます。

 それからブン! とフォークを振るってクリスタルサビロイを取りつけます。

 無慈悲な目がわためを見下ろします。

 おもむろにクリスタルサビロイが振りかざされます。

 やられる、とわためは思いました。

 わためはレッグバッグに手を伸ばしフォークを取り出そうとします。

 フォークの柄を掴み、それを引き抜こうとします。

 しかしその時、彼女はふと昔のことを思い出しました。

 決して人は近寄らないはずのこの森に女の子が迷い込んで、暗がりに蹲っていました。

 わためは彼女を羊の背に乗せて、近くの村まで連れて行ってあげました。

 村に着いたあと、彼女はわために抱きついてお礼を言ってくれました。

 

『私がわための夢になる!』

 

 別れ際の彼女の笑顔が不意に脳裏に過ります。

 

「……」

 

 斬られる直前のはずなのに、わためは気持ちが楽なってしまいました。

 

――ごめん、まつり先輩。トワち。

 

 わためは引き抜こうと握っていたフォークから、そっと手を離しました。

 

 ――でもわためは、悪くないよね。

 

 わための頭上にクリスタルサビロイが振り下ろされます。

 わためは抵抗せずに目を閉じました。

 

「……。……?」

 

 しかし振り下ろされたはずなのに、いつまで経っても痛みを感じません。

 そっと目を開けてみると、剣はわための頭の寸前のところで止められていました。

 剣を止めたはあちゃま本人が、なぜ寸止めしているのかわからないとでも言いたげに目を瞬かせています。

 これが赤井はあとに妨害されたというならば、またかと憎々しく歯噛みするところでしょうが今回はそうではありません。

 前回のすいせい戦で力を使い果たしてしまったのでしょう、赤井はあとは全く無力に手を出せない状態でいます。

 信じられないことに、はあちゃま自身が意識的であれ無意識的であれ自分で剣を止めたのです。

 時間が止まったかのように、二人はしばらくそのまま固まってしまいます。

 

「ブブー」

 

 ハートンの呼びかけに、はあちゃまは我に返ったように目を見開きます。

 彼女はクリスタルサビロイを消してレッグバッグにフォークを納めました。

 

「そうね。こんなことをしてるのは時間の無駄、早く大空スバルを追いかけないと」

 

 言ってから、はあちゃまはわためを見下ろします。

 

「今回だけは見逃してあげる。でも覚えておきなさい。口は災いの元、今度私に嘘つくようなことがあれば容赦しないわ」

 

 はあちゃまは「続きなさいハートン!」と言ってから左の道へ駆けだしていきました。

 

「……」

 

 一方わためはまだ呆然と座り込んだままです。

 そんな彼女のそばに子羊が寄ってきて、めえめえと甘えるように鳴きました。

 

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