勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
「あ! スバル先輩! 塔です!」
洞窟を抜けたスバルたちの視界に、上空に向かって聳え立つ大きな塔が映ります。
「シュバルバア!」
(高いなあ!)
「急ぎマショウ!」
キアラが言って塔に向かって駆けだします。
スバルを抱えたルシアも続きます。
そうしてしばらく走った三人は塔の手前までやってきます。
「中に入りましょう!」
「待って」
塔の入り口から中へ入ろうとするスバルたちを、すぐ近くから呼び止める声がしました。
「大空スバルね。待ってたよ」
「あなたは?」
「夏色まつり。わためやトワと同じ塔の守り手よ」
声をかけてきたのは三人目の塔の守り手、夏色まつりでした。
「守り手であるあなたがいるということは、ここも何かの分かれ道になっているのデスか?」
キアラが聞きます。
まつりは「ううん」と首を振りました。
「塔に入ればもう上がるだけで迷うことなんてないと思うし、もしも迷っても塔内に案内人がいるから心配ないよ」
では何でここで待っているのか、どうして自分たちを呼び止めたのか、いろいろと聞きたいことが出てきますがキアラは「そうデスか」とだけ言って飲み込みます。
まつりはそんなキアラを察して「ごめんね急に呼び止めて」と謝ります。
「まつりはあの方の元へ大空スバルたちを無事連れてくるようにとしか聞いてないから、どういう用件であの方がお呼びしているのかも全然わからなくて」
でも、とまつりは続けます。
「シオンから聞いてるよ、レジェンド所有者の署名を集めてるんでしょ。まつりは何事もなく長生きして一生を終えるつもりでいるけれど、言うて人生いつ何が起こるかわからない、今できることは今しておいた方がいいと思ってさ」
言ってから、彼女はレッグバッグに手を伸ばしてフォークを取り出しました。
スバルたち三人の目がそのフォークに集まります。
まつりの持っているのは虹色の、レジェンドソーセージのフォークだったのです。
「まつりはレジェンドソーセージ、『血の涙』ブラッディー・ブルートヴルストの所有者よ。ほら、そういうわけだから何とかって本を早く出して。手早く名前書いてあげるから」
「は、はい!」
るしあは急いでクソザコの書を取り出し、新しいページを開いてまつりに手渡します。
まつりはそこへ一秒もかけず「夏色まつり」とサインしました。
「シュババシュバシュバル、シュバ」
(これであと一人、か)
スバルが感慨深げに呟きます。
「行きましょう、スバル先輩」
るしあも同じ気持ちを噛み締めているのでしょう、スバルに寄り添うような優しい声音で呼びかけます。
「シュバ」
(ああ)
「まつりさん、ありがとうございマス」
「よしてよ。名前書いただけじゃん」
三人はまつりに礼を言って塔のなかへ入っていきます。
まつりは彼女たちに小さく手を振って見送りました。
◇ ◇ ◇
スバルたちが塔に向かってからしばらくして、はあちゃまとハートンたちが塔の入り口前にやってきます。
「止まりなさい」
そこで待機していたまつりが彼女たちの前方に現れ立ち塞がりました。
「なに? 私たち急いでいるんだけど、そこを退いてくれないかしら」
はあちゃまは苛立ち気にまつりを睨みつけます。
「それは無理なんだよね」
まつりは肩を竦めて答えます。
「あんたたちをここで食い止めるのがまつりの仕事だからさ」
「よほど死にたいようね」
「んなわけないじゃん。これでもまつりはすんごく長生きするつもりでいるんだけど」
言いながらまつりはレッグバッグに手を伸ばし、中から虹色のフォークを引き抜きます。
彼女はブンとフォークを振るいました。
フォークの先に異様なソーセージが現れます。
長さおよそ140センチメートル、やや幅の太いソーセージです。
透明のソーセージ膜内に赤黒の生々しい血色の液体がはち切れそうなくらい満たされており、そんな内側からの圧力によるものでしょうか、しばしばそのソーセージは脈打つように静かに蠢いています。
そうやってソーセージが蠕動するたび、周囲に生臭い血の臭いが溢れました。
「これがまつりのレジェンドソーセージ、『血の涙』ブラッディー・ブルートヴルスト」
まつりははあちゃまの方へこれ見よがしにブラッディー・ブルートヴルストを振ってみせます。
「あんたが喉から手が出るほど欲しがってるレジェンドソーセージのスキル、そのレジェンド所有者がまつりなんだけど、まだまつりにここから退いてほしい?」
「前言を撤回するわ」
はあちゃまもフォークを抜き取りました。
「あなた、名前は?」
「夏色まつり」
「そう。夏色まつり、逃げたりしたら承知しないわ。この場で私に倒されなさい」
言ってはあちゃまはフォークを振るいます。
そのフォークの先にクリスタルサビロイが出現します。
まつりとはあちゃま、二人の剣士は各々のレジェンドソーセージを出したまましばらく睨み合いました。
「実はね」
まつりが急に口を開き、そんな沈黙を破ります。
「赤井はあとの別人格、はあちゃまって名乗ってたっけ? あんたがここにやってくるとわかった時からほんのついさっきまで、まつりはあんたを一も二もなく斬り倒してやろうと思ってたんだ」
「遠慮しなくていいわ。さっさと来なさいよ」
返すはあちゃまにまつりは苦笑します。
「トワから聞いたよ。あんた、嘘の道を教えたわためを斬らずに見逃してあげたんだってね」
意外だった、と彼女は続けます。
「正直言って驚いた。あんたにもほんの一握り程度とは言え、まだ良心が残っていたなんて」
「……」
「だから問答無用で斬りかかる前に、チャンスをあげることにしたの。はあちゃま、あんたにとって敗北が致命的であることはわかっているわ。まつりと戦って負ける前にここからさっさと立ち去りなさい。そうすればまつりはあんたを追わずに見逃してあげるわ」
まつりが話し終えます。
「……ぷっ、あはは! あはははは!」
はあちゃまが笑いだしました。
「何を言うかと思えば、バカバカしい! 思わず笑っちゃったじゃない! 私と戦ってレジェンドソーセージを失うのが怖いからって必死に考えた逃げるための言い訳が、それ? 全然なってないわよおバカさん!」
ふん! とはあちゃまは鼻を鳴らします。
「あのコウモリ女にも言ったけどね、私が見逃してやるような気まぐれを起こすのはあなたの言ってた一回切り。ましてあなたはレジェンド所有者。ほら、私の良心は一握りしかないからみすみすスキルを見逃してあげれるほどの持ち合わせがないのよ生憎だけど」
「バカね」
「バカはあなたの方だって言ってんでしょうが!」
はあちゃまが怒鳴って飛び掛かります。
まつりはブラッディー・ブルートヴルストを構えて迎えうちます。
クリスタルサビロイとブラッディー・ブルートヴルストが交わるかと思われたその刹那、はあちゃまの目が黒く染まりました。
それと同時にクリスタルサビロイから黒い霞が発生します。
スキル『悪意』の発動です。
『悪意』は使用者の体力が完全状態であることを条件に発動可能となり、攻撃力を50%向上させます。
「はあ!」
いきなり剣速を増したクリスタルサビロイが、ブラッディー・ブルートヴルストと接すると思われた空間をすり抜けるようにしてまつりの懐まで入り込みます。
はあちゃまはその凄まじい勢いのまま、ソーセージをまつりの腹部に叩きつけました。
「ぐっ!」
クリスタルサビロイの一撃がクリティカルヒットします。まつりの腹部が深く抉り取られ、大きな風穴を開けます。
戦闘続行不可能なほどのダメージ、致命傷です。
「ふん」
はあちゃまはクリスタルサビロイを軽く振るって剣身についた血を払います。
「あっけなかったわね」
言ってクリスタルサビロイを消し、フォークをレッグバッグに仕舞おうとするはあちゃまですが、そこでふと彼女は気づきます。
まつりの所有するレジェンドソーセージ、ブラッディー・ブルートヴルストのスキルを獲得できていないことに。
「そうだった。油断したわ」
まつりの声がします。
喋るのも困難なほど深い傷を負ったはずなのに、その声には余裕すら感じられます。
「ダーク・ヴァイスヴルストのスキル『悪意』、あなたはここに来る前に星街すいせいを倒していたのだったわね」
「!」
はあちゃまがまつりの方へ振り返ります。
まつりはソーセージを出したまま立っており、その顔には作り笑いを浮かべていました。
「あなた、なんで立っていられるの? あの致命傷で!」
さすがのはあちゃまも動揺を隠せません。
「なんでって?」
まつりは笑顔で細目にしていた目をゆっくり見開きます。
彼女の目は血色に染まっていました。
まつりの持つブラッディー・ブルートヴルストも先程までと様子が違っており、ドクンドクンドクン! と音をたてながら激しい脈を打っています。
そして、はあちゃまに抉り取られたはずのまつりの腹部が、まるで動画を早送りするような凄まじい再生力で治癒していきます。
まつりの重傷が薄い血の線が残るほどの軽傷になるまで治ってから、その回復はぴたりと止まります。
まつりの目も血色から元のエメラルド色に戻り、彼女の持つソーセージも先に波打つほど脈打っていたのが嘘のように大人しくなっています。
「ブラッディー・ブルートヴルストのスキル『血の涙』。致命傷、もしくは致命傷に限りなく近い傷を負った場合に発動可能となり、そのダメージを劇的に軽減することができる」
まつりがそう口にした直後、はあちゃまの右腕をまとっていた黒い霞がサッと霧散します。
「まつりの癖でね」
それを認めたまつりが続けます。
「まつりが傷を負わされる時は、何はともあれ相手に一太刀入れるようにしているの」
はあちゃまの左頬の薄皮がピッと切れて、そこから一筋の血が伝います。
体力完全状態という発動条件が満たせなくなったために『悪意』のスキルが解除されたのでした。
「やるじゃない」
はあちゃまは親指で血を拭きとりながら言います。
まつりは「ふふ」と含み笑いを返しました。
「さあ、仕切り直しましょう赤井はあとの別人格。これからがまつり達の本当の勝負よ」