勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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「困りましたね」

 

 あくあの屋敷を出たスバルたちは帰り道を歩いています。

 

「シュバ、シュバルバシュババ。シュバシュバルババシュバルルシュババシュバルルシュバルルシュバルルシュバシュババ」

(いや、大きな前進だ。あの船長をやる気にさせれば船を貸してもらえるんだから)

 

「そうですけど」

 

「スバルせんぱいはなんて?」

 

 シュバル語がわからないキアラがるしあに聞きます。

 

「あとはあの船長をやる気にさせるだけだ、と」

 

「そうデスねスバルせんぱい!」

 

 キアラは元気よく拳を突き上げました。

 

「でも、それが問題ですよ。あの船長が素直に同乗してくれるとはとても思えません」

 

 意気込んでいるキアラに聞こえないよう、るしあはぼそりとスバルに話しかけます。

 

「シュバルババ」

(確かにな)

 

 それにはスバルも同意しました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 五時過ぎごろ、スバルたちはあくあから教えてもらったマリンの宿泊先へ向かいました。

 

「え? 船長? いや、まだ帰ってきてないね」

 

 事情を話し、マリンの部屋を尋ねたスバルたちに宿屋の主人は首を振ります。

 

「きっとまだ酒場で酒を飲んでるんじゃないかな」

 

「そうですか。ありがとうございます」

 

 るしあは礼を言って頭を下げました。

 それから昼頃訪れた酒場に向かおうとします。

 

「がんばってくれよおまえたち」

 

 すると、主人がそんなスバルたちの背中をばんばんと叩いて応援してくれました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 スバルたちが例の酒場に行ってみると、宿屋の主人が言っていた通りまだマリンがいました。

 昼頃会った時と同じカウンター席に座ってお酒を飲んでいます。

 

「あらあ、あんたたちぃ。おかえりなさあい」

 

 スバルたちを追い払ってからもずっと飲み続けていたのでしょう、その顔は真っ赤になっていました。

 

「シュバ。シュバア、シュバア」

(おい。るしあ、キアラ)

 

 そんなマリンを認めたスバルがるしあとキアラに目配せをします。

 二人もスバルに頷き返しました。

 

 これはもしかするとチャンスなのではないか、と三人は思ったのです。

 酒で酔った勢いに任せて「いいよー、船に乗るよー」と言わせるために、スバルたちはマリンの近くの席に腰かけてさりげなく話しかけ、彼女が気持ちいいように持ち上げてから船に同乗してくれないかと頼みました。

 

「いやだ」

 

 しかし、船に乗ってほしいと頼む直前までは「なんでも言ってよー」と安請け合いしていたくせに、そのことを口にしてみれば手のひら返して「いや」の一言です。

 

「なんでですか」

 

 るしあが食いつきます。

 

「なんでもよ。とにかくいや」

 

 取り付く島もありません。

 

「あんたたち、どうせ昼頃言ってた西の孤島に行きたいんでしょ? あーやだやだ、どうしても行きたきゃ泳いでいけばいいんじゃない? アヒル連れてるんだし」

 

「シュバ、シュバルバシュバシュバ!」

(おま、ふざけんなシュバ!)

 

「ス、スバルせんぱい落ち着いてください、どうか」

 

 シュバル語がわからなくてもスバルが怒っているのは一目瞭然です。

 マリンに殴りかかろうとする彼女をキアラがなだめます。

 

「とにかく帰った帰った、あんたたちのせいでせっかくいい感じに酔ってたのに醒めちゃったじゃない」

 

 そう言ってからマリンはまた飲み始めます。

 

「仕方ありませんスバル先輩、ひとまず引き上げましょう」

 

「シュバ」

(くそ)

 

 スバルたちは仕方なく酒場を出ます。

 それから泊まるための宿屋を探し、おそらく長引くでしょうこの戦いに備えて眠りにつきました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

 翌朝、さっそくスバルたちは行動を開始しました。

 マリンの泊まる宿屋で出向き、シラフ状態の彼女に同乗を頼み込んだのです。

 

「いやだ」

 

 案の定即答されました。

 

「そうですか。ではまた来ます」

 

 それでもスバルたちは何度も何度も頼みに行きます。

 

 酔ってる時も醒めてる時も同乗を頼みに行き、時にはマリンの飲んだ酒代をすべて肩代わりするなどしてやりました。

 しかしスバルたちの頼みに対し、マリンは決まって「いやだ」の一点張りでした。

 

 そしてとうとうメードにやってきてから十日が過ぎます。

 キアラは「スバ友トリ派に何やら不穏な動きがあるようデス」と言って、その詳細を探るため時々別行動するようになりました。

 

 

  ◇  ◇  ◇

 

 

「シュババシュバア」

(行くかるしあ)

 

「はいスバル先輩」

 

 十一日目になりました。

 昼食を済ませてから、スバルとるしあはマリンにアクアマリン号の同乗を頼みに行くため表口で出かける準備をしはじめます。

 

「どうやら頑張ってくれてるみたいね」

 

 玄関ドアの方からそんな二人に話しかける声がしました。

 いつからそこにいたのか、メイド服にキャップ帽を目深にかぶった女性が立っています。

 思わずスバルとるしあは息をのみました。

 

「ああ、もしかして誰だかわからない? あてぃしよあてぃし、ほら、湊あくあ」

 

 言いながらあくあはキャップ帽をとります。

 

「シュバ、シュバルルシュバ。シュバルルシュバシュバシュババシュバルバシュバシュババシュバルバシュバルルシュババ。シュバシュバルバシュバルルバシュバルバシュババ」

(いや、それはわかる。メイド服にキャップ帽のあまりの悪目立ちに言葉を失っただけだ。よくそれで街中を歩けたシュバな)

 

「な、なに? なんかこのアヒル、すっごく喚いてるけど」

 

 スバルを不気味そうに見下ろしながらあくあがるしあに聞きました。

 

「ダサい、だそうです」

 

 るしあが通訳してやると「はあ?」とあくあは顔をしかめます。

 それからまたスバルのほうを見て「すーぅ」と息を吸いました。

 

「ふん、あんたの帽子よか幾分ましでしょ」

 

 鼻で笑うように言いました。

 

「シュバルシュバア!」

(んだとコラあ!)

 

 突然スバルがキレました。

 

「きゃあああ!」

 

 飛びかかろうとするスバルにあくあは悲鳴を上げ、頭を抱えてうずくまります。

 それからびくびくと震えだします。

 

「スバル先輩、落ち着いてください。冷静になって、どうか」

 

 るしあがスバルをなだめました。

 

「シュ、シュバシュバルバシュバア、シュウウ」

(お、おお悪いるしあ、すーぅ)

 

「スバル先輩、例の呼吸がうつっています」

 

 スバルを落ち着かせたあと、るしあは腰が抜けてしまったあくあを椅子に座らせてあげました。

 

「ごめんなさいあくあさん、スバル先輩が驚かせてしまって」

 

「ああ、うん。びっくりしたけどもう大丈夫」

 

 答える彼女に「それはよかったです」と頷いてから「余計なお世話かもしれませんが」とるしあは続けます。

 

「誰しも人から悪く言われたくないことの一つや二つあるものなんです、スバル先輩にも。むしろ今回は温和なスバル先輩でよかったですよ。今後は気を付けた方がいいと思います」

 

「いや、なんかあてぃしが失言したのが悪いみたいな空気作ってくるけど、はじめに服装を侮辱されたのはあてぃしだからね?」

 

 それだけ言ってから、あくあは独特の呼吸をして頭を切り替えます。

 

「それよりどうよ、船長は? うまく説得できそう?」

 

「正直、かなり手強いですね」

 

「へっへっへっ、あの船長だからねえ」

 

 なぜか嬉しそうに笑います。

 

「あの、あくあさん。そのことでちょっと提案があるのですが」

 

「ん? なに?」

 

「あくまで確認なのですが、どうしても船長、つまり宝鐘マリンを同乗させないとダメですか? 仮にですが、るしあたちが彼女の代わりにアクアマリン号を乗りこなす代理を見つけてくる、という条件では無理でしょうか?」

 

 すると、あくあの目が急に険しくなりました。

 

「悪いけど、そういうことならアクアマリン号は貸せないわ。他をあたってちょうだい」

 

 彼女は吐き捨てるように言って立ち上がろうとします。

 

「ま、待ってください。あくまで聞いてみただけ、本気で言っているわけじゃありません!」

 

 るしあは自分の失言に気づき慌ててあくあを止めて、椅子に座りなおさせました。

 

「気を悪くさせてしまってごめんなさい。でもるしあたちは今本気で船長を説得しています。そんなるしあたちの立場として、どうしてもそこを確認しておきたかったんです」

 

 るしあはあくあの向かいにもう一脚椅子を持ってきてそこに座り、居住まいを正します。

 

「なんで船長をアクアマリン号に乗せることにこだわるのか、その理由を教えてくれませんか?」

 

 尋ねるるしあに「すーぅ」とあくあは息を吸いました。

 

「そうよね、あなたの言うとおりだわ。ごめんなさい。こんなにしてくれてるんだもの、はじめに話しておくべきだったわ」

 

 あくあは表口の方に目を向けます。

 その先には、頭に緋色のバンダナを巻いた子供たちがチャンバラごっこをして遊んでいます。

 

「船長は、船長率いる宝鐘海賊団は負けなしの海賊チームだった」

 

 そんな子供たちを眺めながら彼女は話しはじめました。

 

「あらゆる海を踏破し、悪さをはたらく海賊を討ち果たしてはこの町に帰ってきてくれた。宝鐘海賊団は持ち帰ったお金をたくさんメードで使ってくれて、おかげで町はずっと景気が良くなった。そうでなくても船長は、子供や青年たちをいつも笑わせて町を明るくしてくれてたわ。あてぃしもパパとママが死んじゃって一人塞ぎ込んでた時、船長に笑わしてもらって本当に元気づけられたの。船長はこの町みんなの希望でアイドルなのよ、つらい時はいつでも現れて笑顔にしてくれるのさ」

 

「この町のムードメーカーなのですね」

 

 相槌を打つるしあに「そうよ」とあくあが自慢げに頷きます。

 

「だからみんな宝鐘海賊団に加わることを夢見たんだよ、二年前にチームが解散するまでは。実際、解散直前までの海賊団チームの半数以上はこの町の出身者だったし、町の子供たちなんか今でも宝鐘一味になることが将来の夢だと語ってる。へっへっへっ、なにを隠そうあてぃしも宝鐘一味になるため剣士の資格を取った口だしね。まだ下級だけどさ」

 

 空笑いしてから、あくあは「はあ」とため息をつきました。

 

「優しすぎたんだよ、船長は」

 

 あくあは独り言のように続けます。

 

「二年前の忌まわしいあの日まで、たった一人だって宝鐘一味を失うことなく船長は連勝し続けた。船長は優しいからさ、常に勝って宝鐘一味や町のみんなを喜ばせて、なおかつ一人もチームメンバーが欠けない安全な航海をし続けてきたんだ。それがすごいことだって一味も町のみんなも十分すぎるくらいわかってたのに、船長だけがわかってなかった。そうしていくのが当たり前だって思ってたんだ。だから……」

 

 あくあはいったん言葉を止めました。

 どうしたのだろうと思いスバルが下から顔を覗き込んでみると、彼女はぎゅっと下唇を噛み締めていました。

 

「だから西の孤島ではじめて敗北して、船長は狼狽えてしまったの。常勝することが当然の役目だと思ってきたせいでさ、皆の夢を潰してしまったと思い込んで、混乱した頭のままとにかく逃げるように出航して島を出た。そしてその航海中に大嵐にあった。普段の船長だったらどうということなく防げていただろうけど、慌てて出航してろくな備えもできていなかったからその嵐に揉みに揉まれてね、ようやく町にたどり着いた時には一味の半数を失っていた。町に帰ってきたときの船長の顔ときたら、気の毒すぎてかける言葉が見つからなかったよ」

 

「……」

 

「そのあと船長は宝鐘海賊団の海賊船を急に解体しだして、チームも解散してしまった。あとはご存じの通り、ただひたすらお酒ばかり飲むようになってしまったってわけ」

 

 すーぅ、とあくあは息を吸い込んでから「でも船長はさ、西の孤島に行きたくないわけじゃないのよ」と続けます。

 

「町のみんなはさ、船長がぼろぼろになって帰ってきた西の孤島がそりゃ怖くて仕方ないから絶対行きたいなんて思わないけど、船長はそんな理由で航海を拒んでるんじゃないんだよ。あてぃしにはわかる。船長は西の孤島のバケモノにリベンジしたいとずっと思ってるはずなんだ。だけど自分にはもう船を出す資格なんてないと思い込んでるんだよ。バケモノとの勝負に負けたこと、船員を半数失ったこと、にもかかわらずおめおめと逃げ帰ってしまったこと、全部自分のせいだと思い込んでずっとずっと自分を責めてるんだ」

 

 あくあは目を潤わせはじめ、くしゅくしゅと嗚咽をもらしだします。

 るしあはたまき君を呼び出し宿泊している部屋からハンカチを持って来させ、彼女の目元にそれをあててやりました。

 

「誰も船長のこと責めてなんていないのに。船長だって負けるときはあるだろうし、人間なんだからミスもするってわかってるのにさ。いつも助けてもらってたから、あてぃしたちも何かしてあげたいって思ってるのに、いつもいつも一人でお酒ばかりのんでさあ!」

 

「シュバシュバ、シュバルバア」

(うんうん、そうだなあ)

 

 泣きすぎて鼻孔に水気がこもってしまったのでしょう、あくあはるしあから受け取ったハンカチで鼻をかもうとします。

 るしあは急いで再びたまき君を呼び出し、部屋からティッシュを持って来させ、それを彼女に手渡しました。

 あくあは「ありがとう」と受け取って鼻をかみました。

 

「きっと海に出れば、船長はあの頃の船長を取り戻す。だからあてぃしはアクアマリン号を造ったの。アクアマリン号は希望の船、復活した宝鐘海賊団が再びあらゆる海を制覇するための無敵の海賊船。あてぃしは、いつか宝鐘一味になり上級剣士となって海賊団率いる船長の片腕になる。そして一味のみんなと一緒にアクアマリン号に乗って世界中を航海し、大海原の風を感じるんだ!」

 

 言って、あくあは天井に向けて拳を突き上げました。

 

「なるほどです、話はよくわかりました」

 

 るしあはあくあに頷きます。

 

「シュバルルシュババ、シュバシュバルババシュバシュバルルバシュババシュバルシュルバシュバルルシュバルバ」

(そういうことなら、どうあってもあの船長をアクアマリン号に乗せるしかねえな)

 

 スバルも改めてやる気になります。

 

「そうですねスバル先輩、絶対に船長を同乗させましょう」

 

「ありがとう」

 

 あくあは手の甲で目元を拭ってから二人に礼を言いました。

 

「へっへっへっ、なんか湿っぽい感じになってごめんね。でもあなたたち、ここ十日間連日で船長を説得してくれてるんでしょ? 船長は体力オバケだからさ、そんなんじゃあなたたちの方が先にへばっちゃうわよ。今日くらいは思いっきり気分転換して、明日からまた気合い入れていくのもいいかもしれないわね」

 

 彼女はそれだけ言ってから立ち上がり、キャップ帽を目深にかぶります。

 そして宿屋を出ていきました。

 




 スバルドダック(アヒルverスバル)のシュバル語は読み始めると疲れます。
 あえて読もうという方以外は、基本的にシュバシュバ喋った次行の(~)だけをお読みください。
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