勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~ 作:はばたくアヒル
『まつり先輩!』
『まつり先輩ー』
『?』
ある日、まつりが塔内の廊下を歩いている時でした。
後ろからトワとわためが小走りで追いかけてきました。
まつりは一旦足を止めて彼女たちを待ってから、三人並んで再び歩きだします。
『まつり先輩。今日も無茶な戦い方したって聞きましたけど』
トワが聞いてきます。
『無茶って、かすり傷だよ』
まつりは笑って答えました。
『結果的にかすり傷なだけじゃないですか。「血の涙」のスキルを使って』
まつりの反対隣にいるわためが同意するようにこくこくと頷きます。
『今後戦闘は全部トワに任せてくださいよ。まつり先輩強いのに、その相打ちの戦い方に慣れすぎてて、なんていうか見ていられないです』
『危なっかしい?』
『いえ、負けるはずないっていうのはわかってるんです。でも』
トワは顔を俯かせます。
『傷ついてほしくないんです。まつり先輩が傷つくくらいなら、トワが傷ついたほうが全然マシ』
『トワ……』
『まつり先輩。こう見えてわためも剣士だから、一人で全部背負い込もうとしないでみんなで力を合わせて戦いましょうよ。わため弱っちいけど、窮地に立った羊その気になれば狼も噛めます!』
『わため……』
『まつり先輩、無理しないでよ。トワたちまつり先輩が思ってるほどガキじゃないから!』
『まつり先輩は色んなことを我慢しすぎです、もっともっと自分のしたいことしてほしいです』
『あんたたち……』
まつりは二人の首元に両腕を回して、彼女らの頭を胸元に引き寄せてからギュッと抱きしめます。
『大丈夫。大丈夫だよ二人とも。心配しないで。まつりは痛くない。全然痛くなんてないし、全然辛くなんてないから』
◇ ◇ ◇
「入った! 致命傷!」
はあちゃまがクリスタルサビロイでまつりの腹部を抉り取ります。
その直後です。
「……ッ」
彼女は致命傷の一撃を入れた喜びに浸る間もなく、その胴体にブラッディー・ブルートヴルストを叩き込まれて真横に飛ばされました。
それははあちゃまにとってまさに不意打ちの攻撃だったのでしょう、どうにか受け身は取るものの二転三転と転がされながら遠くへやられます。
ようやく勢いが収まってきたところで、彼女は地面にソーセージを突き立てて無理矢理に飛ばされている身体を停止させました。
そして俯かせていた顔を上げてまつりの方を睨みつけます。
まさかこんなにも早く「スキルを使わない」という約束を反故にされるとは思わなかったと、憎々しい思いで歯を噛み締めます。
ですがその目に映るまつりの姿を認めた瞬間、はあちゃまは噛み締めるのを止めて息をのみました。
まつりは『血の涙』のスキルを使っていませんでした。
現に彼女の左腹部にはクリスタルサビロイで抉り取られた痕があり、そこからジュクジュクと血があふれ出ています。
まつりは致命傷を受けたにも関わらず、まるで『血の涙』を使っていた時と同じようにそのことを一切顧みずにはあちゃまに斬りかかったのです。
まつりの目は据わっていました。
その目を無言ではあちゃまに向けていました。
彼女は立っているのも辛いような傷を負ったばかりなのに、まるで無傷であるかのような悠々とした足取りでゆっくりはあちゃまに近づいて行きます。
「ふん。やるじゃない」
はあちゃまは起き上がりました。
「でも顰めっ面で瘦せ我慢してても無駄よ。バレバレだわ。あなたの負った傷は致命傷、もうろくに剣を振るう体力も残ってないのでしょう?」
「……」
「なにも返してこないのがその証拠、喋る余力もないのよね。まあでも致命傷を負いながらも平然を装う根気と、星街すいせい並におっそろしいその気迫は大したものよ。もしも相手が私じゃなかったら腰を抜かして降参しているかもしれないわね」
笑いながらはあちゃまもまつりに向かって歩いていきます。
そうして二人は徐々に近づいていき、とうとうクリスタルサビロイの攻撃範囲である二メートルに入ります。
その距離に踏み込むや否や、はあちゃまは地面を蹴ってまつりに飛びかかりました。
まつりは剣を構えます。相変わらずの例の構えです。
スキルを使ってこないならこの一撃で終わらせてやると、はあちゃまは袈裟斬りにクリスタルサビロイを振り下ろします。
まつりは避けようとも、剣で受け止めようともしません。
ただ真っ直ぐはあちゃまの方を見据えながら、先程と同じように相打ち覚悟でブラッディー・ブルートヴルストを振るってきます。
はあちゃまのクリスタルサビロイがまつりの身体を斬ります。
まつりの胸元から右脇に至るまで一筋の線が入り、そこから血が吹き出ます。
しかし致命傷ではありません。
はあちゃまが狙っていたのはトドメを刺す致命傷でした。にもかかわらず、攻撃を避けようとも防ごうともしない相手に対してそれを仕損じてしまったのです。
彼女は自分のしくじりが信じられないように目を見開きました。
それからふと、クリスタルサビロイを持つ手がおかしいことに気づきます。
その手は恥ずかしいほどにガクガクと震えていました。