勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 致命傷を狙ったはずなのに仕損じてしまったはあちゃまは、自分のしくじりが信じられないとばかりに目を見開きます。

 彼女はクリスタルサビロイを持つ自分の手が震えていることに気づきました。

 

「な、なによこれ……ッ」

 

 思わず口にするはあちゃまの右肩に凄まじい痛みが走ります。

 その直後、彼女は地面に叩きつけられて俯せに倒れていました。

 まつりの振り下ろしたブラッディー・ブルートヴルストをまともに受けてしまったのです。

 まつりは続けざまにソーセージを叩き込もうと剣を振りかざします。

 はあちゃまは慌てて起き上がり跳ね退きました。

 ほんの刹那の差で、はあちゃまが先に倒れていたところにブラッディー・ブルートヴルストが振り下ろされ、辺り一面に轟音が響き渡ります。

 

「この!」

 

 はあちゃまは反撃に移ります。

 まつりは剣を振り下ろした直後ですので、避けるにも防ぐにも一呼吸遅れざるをえないと踏んだからです。

 しかしまつりは、そもそも避けようとも防ごうともしませんでした。

 ただ凄まじい目で静かにはあちゃまを睨みつけます。

 

「……ッ」

 

 すると、まっすぐ突き出しただけのはずのクリスタルサビロイになぜかしなりが加わって、せっかくまつりの身体を貫くはずだった先端が脇にそれてしまいます。

 はあちゃまはとにかく後方へ跳ねてまつりとの距離を取りました。

 

「あなた、何を考えているの!」

 

 自分が出そうと思っていたよりも数段大きな声で、はあちゃまが怒鳴ります。

 

「なぜ避けようとしないの! 防ごうとしないの! 死んでしまうわよ夏色まつり! あなた本当に死んでしまうわよ!」

 

 しかしまつりは無言です。

 ただ静かにはあちゃまを見据えながら、先と変わらない足取りで向かってきます。

 はあちゃまは思わずたじろいで一歩足を引きました。

 

「……ッ」

 

 現在はあちゃまはそれほどダメージを負っていません。対してまつりはどう見ても瀕死の状態です。しかも隙だらけの構えしか取ることができず、スキル『血の涙』も使わないと誓っています。

 客観的に考えて、はあちゃまが負ける理由などないに等しいはずです。

 にもかかわらず、直感的に、はあちゃまは目の前にいる夏色まつりに勝てる気がまるでしませんでした。

 まつりが向けてくるその静かな眼差しが、自分の勝機をことごとく握り潰していると思えてならないのです。

 それはたとえ体力を調整的に減らして『断末魔』や『鉄の意思』を発動させたとしても変わらないように思えました。

 サイコパスすいせいの異名を持つ星街すいせいにさえ恐れを感じなかった彼女が、夏色まつりの恐怖に完全に呑まれてしまったのです。

 かくなる上はと、はあちゃまは大きく息を吸い込みます。

 

「ハートン!」

 

 後方で控えているハートンたちに呼びかけました。

 

「命令よ! さっきみたいに私たちを包囲――」

 

「約束を破るの?」

 

 ずっと黙っていたまつりが、呟くように言います。

 

「もしそうならまつりも構わずスキルを使うし、もう彼らもあんたも関係なく全員ぶっ殺すつもりで戦うけど、それでいいの?」

 

「……ッ」

 

 まつりの静かな問いかけに、なぜかはあちゃまはハートンたちに出すつもりだった指示を取り消してしまいます。

 完全に戦いのペースを握っているのはまつりでした。

 まつりがはあちゃまに近づいていきます。

 はあちゃまは平然を装いながら焦ります。

 焦って焦って、そしてふと思いつきました。

 

「ハートン!」

 

 はあちゃまはたまたま目に留まった一人のハートンに呼びかけます。

 

「あなたは赤井はあとが生き永らえるために私の命令に二度と背かないと誓った! そうよね!」

 

「ブブー!」

 

「ならば剣を手に取り、私にかかってきなさい!」

 

「ブ、ブブ?」

 

 さすがのハートンも躊躇います。

 

「何しているの! 早くなさい!」

 

 はあちゃまが怒鳴ります。

 

「ブブ!」

 

 ええいままよ、という勢いでハートンがソーセージを出してはあちゃまに飛びかかります。

 はあちゃまは彼にクリスタルサビロイを振るいます。

 はあちゃまの一振りによって袈裟斬りに斬られたハートンは地面に落ちて、仰向けに倒れたまま動かなくなりました。

 その直後、スキル『不死の魂』が発動します。

 戦闘勝利時に発動可能なスキル『不死の魂』により、ハートンを仕留めたはあちゃまの体力が回復します。

 

「ねえ……ッ」

 

 一方それを目の当たりにしたまつりは怒りで目を見開きました。

 

「あんた何してんのよ……ッ」

 

「あなたとの約束は破っていないわよ」

 

 はあちゃまはしらっと答えます。

 

「ハートンをワープに使ってあなたに不意打ちする戦法は取ってないもの。ただ私の体力を回復させるために一人斬り伏せただけ」

 

 詫びれもなく口にするはあちゃまに、まつりは長いため息をつきました。

 それから彼女はまたはあちゃまに向かい歩きだしますが、その歩調が早足になり、さらには疾駆するまでに変わっていきます。

 そうして瞬時にしてはあちゃまの目前までやってきてブラッディー・ブルートヴルストを振りかざすまつりでしたが、はあちゃまに向かい大きく踏み込んだ瞬間、まるで今まで忘れていたあらゆる痛みが突然ぶり返してきたかのように全身を激痛が襲い、続いて脳内でそれらの痛覚を無理やり遮断したかのようにプツンと頭の中が真っ白になって、一瞬動きが止まります。

 

「怒りって怖いわね。己の限界を忘れさせてしまうのだから」

 

 はあちゃまの声がして、まつりはハッと意識を取り戻します。

 はあちゃまはまつりの目と鼻の先で彼女の目の中を覗き込むようにして見ていました。

 そんなはあちゃまの目が、闇色に染まります。

 クリスタルサビロイから煙のように黒の霞が立ち上り、彼女の右腕を黒く覆います。

 スキル「悪意」の発動です。

「不死の魂」により体力を完全状態にしたはあちゃまは、続いて体力完全状態で発動可能である「悪意」を発動し50%の攻撃力バフをかけたのでした。

 

「!」

 

 懐に潜り込むほどの超近距離で発動する「悪意」、まつりの視界左下が黒の霞で死角になります。

 そうでなくとも彼女は意識を覚醒させたばかり、はあちゃまの動きを捉えることができません。

 はあちゃまは初めからクリスタルサビロイをしならせておきカギ爪のような形状にさせてから、それをまつりの頭部めがけて振るいました。

 絶妙に曲がった剣身が、そのままの形状であれば側頭部に当たるだろうところを後頭部に直撃します。

 

「……ッ」

 

 はあちゃまに向かって振り下ろされていたまつりのブラッディー・ブルートヴルストが、まさに接する寸前でぴたりと止まります。

 

「……ッ、……ッ」

 

 まつりの目は焦点を失い、彼女の身体がふらつきます。

 ブラッディー・ブルートヴルストのソーセージが消滅します。

 やった、とはあちゃまは胸を撫で下ろしました。

 その時です。

 いきなりまつりが焦点を整えて、はあちゃまの方を睨みつけました。

 

「!」

 

 はあちゃまは思わず息をのみます。

 しかしその後なにかが起きるということはなく、まつりは白目を剥いて倒れてしまいました。

 まつりのブラッディー・ブルートヴルストのフォークが黒ずみ、はあちゃまにスキル『血の涙』を獲得した手ごたえが伝わります。

 

「……ッ、ざまあみなさい!」

 

 はあちゃまは動かなくなったまつりに怒鳴りつけます。

 

「ざまあみなさいよ!」

 

 それから彼女はその場に尻もちついて、しばらく呼吸を整えました。

 

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