勇者スバルの大冒険 ~剣(ソーセージ)に愛されしアヒルよ、伝説となれ~   作:はばたくアヒル

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 夏色まつりを倒してから、はあちゃまは塔の中へ入ります。

 ちなみにハートンたちは塔の外で待たせています。

 大勢で押し寄せてはいけない神聖な場所だという意識が彼女のどこかにあったのでした。

 塔に入ってすぐは広い空間の大部屋になっています。

 そこの中央に女性が一人立っていました。

 

「驚いた」

 

 その女性、ロボ子ははあちゃまを認めて呟きます。

 

「何十年ぶりかな、この塔に招かざる客が足を踏み込むなんていう異例事態」

 

「大空スバルはどこ?」

 

 はあちゃまはロボ子に尋ねます。

 

「教えないよ。招かざる客をあの方の元へ導くわけにはいかないからね」

 

「ああそう。なら力ずくで教えてもらうわ、と言いたいところだけどあの奥に見えるのは階段よね。『塔の最上階にソーセージの神様が住まう』、どこかでそんな文言を聞いたような気がするわ」

 

 言いながらはあちゃまは奥へ進もうとします。

 ロボ子がそんな彼女の前に無言で立ち塞がりました。

 

「どきなさい」

 

「だから無理だよ。ボクにはあの方を守る使命がある、その使命を果たすためにあの方からこの命を授かったんだから」

 

「屑鉄が。スクラップにされなくちゃわからないのかしらね」

 

 はあちゃまがレッグバッグからクリスタルサビロイのフォークを取り出します。

 ロボ子はそれをちらりと見ました。

 

「おまえがこうして塔内にやってきたということは、外を守るまつりはやられてしまったんだね」

 

「当たり前じゃない。彼女の所有していたブラッディー・ブルートヴルストのスキル『血の涙』もいただいてきたわ」

 

「やっぱりそうか」

 

 ロボ子は意味ありげに頷きます。

 

「おまえはまつりを倒すほどの実力を持つ剣士、そうであればボクなんかが敵う相手ではない」

 

 言いながら、ロボ子はレッグバッグに手を伸ばし金色のフォークを引き抜きます。

 

「かわいそうに。あなた、言っていることとしていることが嚙み合ってないわよ。どうやら脳に相当する部位に重大な欠陥を患っているようね」

 

「ボクはあの方から教えていただいた。敵わないことと戦わないことは同義ではない、敵わなくても戦わなければならない時があると」

 

 ロボ子がフォークを振るいます。

 フォークの先に上級剣のハムが出現します。

 

「本当、面倒くさいヤツが多いわねここの連中は」

 

 はあちゃまもフォークを振るい、その先にクリスタルサビロイを取り付けます。

 

「悪いけど、手早く片付けさせてもらうわ」

 

 そう口にするはあちゃまの目が、闇色に染まります。

 クリスタルサビロイから黒の霞が立ち上り右腕を覆います。

 スキル「悪意」の発動です。

 体力完全状態を条件に発動できる「悪意」によって、はあちゃまの攻撃力が50%向上されます。

 はあちゃまはロボ子にクリスタルサビロイを振るいました。

 ロボ子はハムを構えて受け止めますが、実力差があるうえに50%のバフがかかった一振りです。衝撃を殺しきれず一歩後ろに下がります。

 それに合わせてはあちゃまが一歩踏み込みます。

 そうして数合打ち合ってから、はあちゃまは勢いつけて剣を逆袈裟に斬り上げました。

 ハムで受け止めたロボ子はその強打に握力が耐えられず、フォークを手放してしまいます。フォークからソーセージが消滅します。

 

「くッ!」

 

 彼女は中空に投げ出されたフォークを掴み直そうと手を伸ばします。

 その手を、しなりを利かせたクリスタルサビロイが叩き落とします。

 さらにはあちゃまは注意を上方に向けたロボ子の懐に飛び込み、がら空きなっている彼女の鳩尾へ膝蹴りを食らわせました。

 

「……ッ」

 

 ロボ子は思わず屈み込み、一歩二歩と大股に後退してしまいます。

 しかしそこでどうにか堪え、自分の目前に降ってくるフォークに手を伸ばし掴み取ります。

 ですが、はあちゃまはそんなロボ子にクリスタルサビロイを容赦なく叩き込みます。

 ロボ子は真正面に飛ばされて背後の壁に激突しました。

 

「弱いわ。実験経験が少なすぎるんじゃないのあなた」

 

 クリスタルサビロイを片手に持って下げながら、はあちゃまが近づいていきます。

 

「ああそうか、夏色まつりが塔外で敵を排除していれば塔内のあなたは戦わなくて済むものね。温室でぬくぬく守り手を気取ってきたツケがこんな形で表れるなんて因果応報惨めなことね」

 

 ロボ子は無言です。

 彼女はクリスタルサビロイに叩き落とされた右手を押さえながら立ち上がろうとしますが、膝を伸ばそうとしたところでガクンと倒れそうになり、思わず地面に左手をつけて身体を支えます。

 

「大人しくしてなさい屑鉄が」

 

はあちゃまがロボ子の目の前までやってきて、冷たく彼女を見下ろします。

 

「あなたみたいな廃棄寸前ロボット、現代に生きる人間様は誰も必要としてないのよ。せいぜいスクラップされた後にトイレのドアノブか何かに再利用されときなさい」

 

 言ってから、はあちゃまはロボ子に剣を振り下ろします。

 その時です。

 

「トワ様がせっかく見逃してやったら、随分と好き勝手してくれたじゃねえか」

 

 ロボ子に迫るクリスタルサビロイを、急に現れたソーセージが横から割り込んで受け止めます。

 金色の串剣にソーセージが取り付けられた上級剣、キリタンポです。

 しかしその所有者は見当たりません。

 はあちゃまは中空で漂うように浮かんでいるキリタンポを凝視します。

 そのソーセージは確かに無人でした。しかし人ではないものがそれを持っていました。

 一匹のコウモリです。

 信じがたいことに、串の持ち手部分を咥えたコウモリがソーセージを出現させているのです。

 

「本当に何十年ぶりだよ、こんな好き勝手してくれたバカはよ」

 

 串を咥えるコウモリの元に、無数のコウモリたちが集まってきます。

 それらは覆い重なるようにして串を咥えているコウモリに張り付いていき、フォークを掴む人間の手首、腕、胴体と徐々に人の身体を形作っていきます。

 そして気づけばトワがキリタンポを手にして立っているのでした。

 

「ふん!」

 

 トワははあちゃまにキリタンポを振るいます。

 はあちゃまは後方へ跳んでそれをかわしました。

 

「すいませんロボ子先輩。まつり先輩をわためのところに運ぶのに手間取っちゃって、駆け付けるのが遅れました」

 

「いや、助かったよトワ。ありがとう」

 

「お怪我は大丈夫ですか」

 

 気遣うトワに、ロボ子は利き手の握力を確かめたり脚を曲げ伸ばしたりします。

 

「うん、大丈夫。問題ない」

 

 答えてから、今度はロボ子がトワに「まつりは?」と聞きます。

 

「そっちも問題ないです。わためが『命にかけても絶対治す』と言ってました」

 

「そうか。なら安心だ」

 

「はい」

 

「なにが安心ですって?」

 

 はあちゃまが二人の会話に割り込みます。

 

「絶体絶命の間違いじゃないかしら、夏色まつりの様態ではなくあなたたちの身の上の話よ」

 

 はあちゃまは、今なお発動している「悪意」によって黒い霞で覆われているクリスタルサビロイの剣先をトワの方に向けながら、嘲るように鼻で笑います。

 

「ザコが。大人しく洞窟の隅っこでびくびく震えながら蹲ってればいいものをしゃしゃり出て来て。すぐに後悔させてやるわ」

 

 するとトワも無言ではあちゃまの方へ片腕を伸ばしました。

 ただしキリタンポを持っている利き手とは別の手です。

 はあちゃまは訝しむようにその手を見ます。

 

「……ッ」

 

 直後、はあちゃまは首筋にちくりとした痛みを覚えました。

 彼女は反射的に蚊を叩くようにして首筋を手で押さえます。

 するとその手を避けるようにして、黒い何かがバサリと羽を広げてはあちゃまの肩から飛び立ちます。

 それは一匹のコウモリでした。

 コウモリは真っ直ぐトワの方へ向かってきて、彼女の伸ばした腕を止まり木に逆さの状態で足をつけます。

 コウモリがはあちゃまの方へ向き直ります。

 かと思えば、コウモリは彼女を小バカにするようにしてキキキキキと声を立てました。

 そのコウモリの小さな牙にはわずかに血が付着しています。

 はあちゃまは首を押さえていた手をゆっくり離して、その掌を見てみました。

 掌の中央に薄く血の跡が付いていました。

 その直後、はあちゃまの目が黒から元の碧色へ戻ります。

 彼女の右腕の黒の霞も霧が晴れるように霧散しました。

 体力完全状態という条件を満たせなくなったために「悪意」が解除されたのです。

 

「これで『悪意』は使えないっと」

 

 トワが鼻で笑うように言いました。

 そんなトワの腕に止まっていたコウモリは、まるで溶け込むようにして彼女の腕と一体化しました。

 

「面白いことしてくれるじゃないのコウモリ女が」

 

 苛立ちからでしょう、はあちゃまは引きつったような笑みを浮かべながら続けます。

 

「だけどそのセンスはライン越えよ。残念だったわね、もうあなたを見逃してあげるという選択肢は消えてしまったわ」

 

「んな選択肢いらねえよバーカ」

 

 トワは吐き捨てるように言ってからロボ子の方に振り向きます。

 

「ロボ子先輩、まだ戦えそうですか」

 

「さっき言ったとおりさ。問題ない」

 

 答えるロボ子に「そうですか」とトワは頷きます。

 それから「今からぶっちゃけたこと言いますね」と続けました。

 

「あのクソむかつく女ですが、本当に腹立たしくて腸が煮えくり返るほどむかつくのですが、まつり先輩を倒すほどの実力者であることは確かです。トワやロボ子先輩が一対一で臨んでもおそらく勝ち目はありません」

 

「同感だね。ボクもそう思う」

 

「ならばトワたちは今ここで、最も優先すべきものは何であるかという選択の決断を迫られていると思います。剣士としてのプライドなのか、あの方に仕える者としての使命なのか」

 

「トワ。その答えはすでに決断されていなければならないものだよ」

 

 ロボ子は迷うことなく続けます。

 

「あの方以上に優先されるものなど存在しない。ボクたちは剣士であるうえで守り手なんじゃない、守り手であるうえで剣士なんだ」

 

「では決まりですね」

 

 トワはロボ子と視線を合わせます。

 

「ロボ子先輩、二対一で行きますよ。二人の力を合わせてあのクソ女をボコボコにぶちのめして、まつり先輩の仇を取りましょう」

 

「それしかないね」

 

 ロボ子は頷いてからフォークを振るい、ハムをその先端に取り付けます。

 そしてロボ子とトワ、二人でもってはあちゃまに剣先を向けて対峙しました。

 

「二対一で来るつもりかしら」

 

 はあちゃまは二人を嘲るようにして笑います。

 

「いいわよ二人まとめてかかってきなさい。剣士の風上にも置けないクソ共に、私がソーセージ道とは何なのかということをたっぷり教えてあげるわ」

 

「けっ」

 

 トワが吐き捨てるように顔を顰めました。

 

「てめえに言われちゃお終いだよ」

 

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